東方十能力   作:nite

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四百十一話 とある風祝の幸福

神の存在を信じるか信じないかは人それぞれ…それが、外の世界での信仰というものだ。時には他者に信仰を強要し、時には戦争すらも起こしてしまうそれは、幻想郷だと少し形が変わってくる。

なぜなら、神様は意外と簡単に会えるところにいるからだ。

 

「早苗、今日も人里へ?」

「はい!うちの信仰はやはり人里はまだ薄いですから」

「帰りにミカン買ってきて~」

「もう、分かりました諏訪子様。じゃあ、行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」

 

この神社で過ごしてもう何年になるだろうか。幻想郷に来て何年になるだろうか。

外の世界での信仰集めに限界を感じ幻想郷に移り住んだのがもう何十年も昔に感じる。それくらい、幻想郷に来てからの日々はそれくらい濃密だったのだ。

幻想郷に来てすぐに博麗神社と争い、その後もいくつもの異変を経て私は外の世界にいたころと比べて何十もの皮が剥けた。最近の早苗は幻想郷に染まったねぇとは諏訪子様の言だ。

 

「幻想郷には幻想郷の常識がありますもん」

 

小声でそんなことを言う。それが幻想郷に来てから学んだことである。

 

「はぁ…寒いですねぇ」

 

いつもの風祝の服を着て、首にマフラーを巻いて山を下りる。最初のころは警戒されていた私たちも、今では妖怪の山の一員として受け入れられ、哨戒天狗の皆さんとは朝の挨拶をするような仲になった。

私から仲のいい友達だと宣言するのは何か違うけれど…それでも、私たちがここに受け入れられているなと実感することができるような関係となっている。

 

「早苗さん、おはようございます!」

「文さん。おはようございます。朝から取材ですか?」

「そうです!早苗さんは朝から人里ですか」

「はい。こういう辛い季節ほど、信仰は集めやすいですからね」

 

人の精神が弱っているときこそ、神頼みの時である。正直なところ、神奈子様と諏訪子様を祀っても家が温かくなるわけじゃないけれど…きっと救われることがある。少なくとも、天候は回復する。

そんなわけで、こういった辛い季節にこそ人里に行って信者を増やすのだ。現金と言われてしまうかもしれないけれど、信仰ってそういうものだと割り切るしかない。誰も信仰しなくなった神様が静かに消えていくのを、風祝の私は何度か見てきた。

 

「熱心な巫女さんですね」

「よく言われます」

 

文さんが風を吹き荒らして飛んでいく。幻想郷最速の名は、朝の情報を得るために使われる。情報は鮮度だと、文さんは事あるごとに言っている。

山を下り、人里までの道は少しだけ長い。勿論飛べばすぐの距離ではあるけれど、この寒い季節に何もないところを飛ぶのは少々辛いところがある。一応護符で体を温めているけれど、この季節の風はそんな私を嘲笑うかのように私の体温を奪っていく。

そうして人里に到着すれば、明らかに声の少ない閑散とした通りが私のことを出迎えてくれる。秋の収穫の時期には屋台が並び、子供たちが走りまわり、人妖が混じる活気溢れる人里が、この時期になると途端にその声を静める。

勿論屋台などはあいているけれど、外の世界と違って季節外れのものを手に入れることはできないので、この時期に並ぶものなどそう多くはない。

 

「おはよう早苗さん」

「おはようございます」

「おはよう巫女さん」

「おはようございます」

 

人々と挨拶をしながら通りを進む。私が信仰を集める場所は決まっているのだ。というより、適当なところでやっていたら慧音さんに怒られたのでちゃんと決まった場所ですることになっている。

 

「守矢神社はご利益いっぱい!祈れば冬も乗り越えて…」

 

守矢神社は基本的には妖怪からの信仰をメインにしている。ロープウェイのようなものが設置され、守矢神社に来ることができる人間は増えたものの、その妖怪に囲まれている環境のせいか未だに信者はそう多くはない。

特に、人里には命蓮寺があるからか、そちらに最近の信仰は奪われがちだ。やはり日本に生まれ、長くお二人を信仰してきた身からすると、神道が仏教に負けてなどいられない。

 

「ありがたや…ありがたや…」

「神奈子様…」

「へへ、早苗さんの姿が…」

 

私の周りには話を聞いてくれている人と、元々の信者の方が集まっている。一部私に下世話な視線を向けている人がいるものの、それくらいでは私の話は途切れない。風祝の服は少し風通しのいいように作られているので、男性からするとそういう目を向けたくなってしまうのだろう。

でも、私には想い人がいるのでそういうのは結構です。

 

「よければ茶屋に…」

「いえ、用事がありますので」

 

一通りの話をし終え、一部の誘いを断ったあとに私は商業通りに向かった。諏訪子様から頼まれているミカンを買わないといけないし…あとは、普通に買い物をしなくちゃ。妖怪の山で手に入る山菜は多いけれど、人里じゃないと手に入らないものはあるから。

道中赤蛮奇さんが路地裏で首を落としていることにドキリとしつつ、私は商業通りへと到着。私は決して力持ちじゃないから、買う量と順番は気を付けないといけない。

 

「早苗ちゃん。今日は何を」

「ひとまずミカンを一袋…あと、白菜とエノキと…」

 

とはいえ、大抵のものは一つの店で揃う。必要なものはすべて買ったしあとは帰るだけ…

 

「おはよう、早苗」

 

背後から聞こえたその声に素早く反応し、その姿を捉えて顔がふやけそうになるのを堪えて、礼儀正しく挨拶した。

 

「おはようございます、定晴さん」

 

定晴さんも買い物をしていたようで、朝早くだというのに買い物袋を持っている。ただ、明らかに数が少ないのは、ほとんどを幻空という不思議空間に片づけているからだろう。いいなぁ…その能力があればどれだけ楽なことか。

 

「今から帰るのか」

「あ、えっと」

 

まるでもう話を終わらせるような素振りを見せた定晴さんを呼び止める。確かにもう帰るところではあったけれど、折角会えたのに別れるなんてそんなもったいないことできない!

今が冬でよかった。顔が赤くてもわからない。

 

「定晴さんは買い物終わりですか?」

「ああ、必要なものは買い終わったからな。そんでもって、今は慧音に頼まれたことをやってる」

「慧音さんが?」

「ああ。赤蛮奇が最近路地裏で人を驚かせることに味を占めて過激になってるからってんで、少し懲らしめることになったらしい。だから俺が探して懲らしめるってわけ」

 

定晴さんは何でも屋をしているらしい。今は霊夢さんなどの同業他者がいるからあまり積極的に宣伝することこそしないけれど、頼まれたのなら何でもするらしい。私も何か依頼してみようかなぁ…デートを依頼とか…って、それは何か違うお店みたいになっちゃう。やっぱりデートは誘い誘われてこそだ。

赤蛮奇さんといえば、さっき路地裏にいたのを見たからそこに連れて行けばいいんだろうけど…わざわざ一緒にいられる時間を減らす理由はない。ルーミアさんやユズさんが一緒にいないなら、それだけでチャンスだ。

 

「私も手伝いましょうか?」

「帰る途中じゃなかったのか?」

「それはそうですけど…あなたの手伝いができるなら、私は喜んで手伝いますよ」

 

大和撫子のような雰囲気を出せているだろうか。定晴さんがどういうタイプが好きなのかはわからないけれど、少なくとも式神を使役しているくらいだし、一途なタイプは嫌いじゃないはず。

 

「ほら、行きましょ!」

「あ、おい」

 

定晴さんの手をつないで、赤蛮奇さんを見た方向とは別の方向に歩きだす。最終的には向かうつもりだけど、それまでは定晴さんと…

 

「早苗、荷物重いだろ。この間は幻空に片づけておこうか」

「お願いします!」

 

定晴さんの優しい提案に胸をドキドキさせながら、でも遠慮はせずに返事をする。霊夢さんもそうですけど、使えるものは使う主義なので例え想い人の能力だって惜しみはしない。

それに、幻空に入れてもらえればそれだけで会話する糸口にもなる。定晴さんともっと会話することができる。

 

「俺はまあ前々から依頼があったからこの時間に来たけど、早苗もいつもこの時間に来てるのか?」

「私は信仰集めに来てるんです。朝の買い物はついでですね」

 

定晴さんと話していると耳が熱くなる。正直、あまり話の内容なんて掴めていない。定晴さんの言葉を一言一句覚えようと思っちゃうくせに、頭は全然動かなくて変なことばかり考えてしまう。

信仰の話、買い物の話、最近の守矢神社…色々話したような気がするけれど、振り返ると何を話したのかは覚えていない。なんとなく、そういうことを話したような気がするとしか…

 

「えっと、次はあっちを見てみましょう」

 

赤蛮奇さんを見た路地裏の前を通らないように、できる限り遠回りをするルートで人里を歩く。まさか定晴さんも私が赤蛮奇さんの位置を知っているだなんて思わないだろうから、今はこの幸せな時間を過ごす。

心がふわふわして、耳が熱くて、でもずっと続けばいいと思う。

幻想郷に来てから、一番だか二番に変わったことは、こういうところだろう。定晴さんに出会ったときはまだ過去の憧れを見て、そして神様たちに冷やかされて、でもいざ振り返ってみれば私の初恋はこの人なんじゃないかと思うようになって、そして結局今の定晴さんに恋をした。

勇気を振り絞って定晴さんに告白をしたのは、そう前のことじゃない。定晴さんにはあまり意識してもらえないとは、ルーミアさんや紫さんの言葉。私も、定晴さんに意識してもらってるとは思えない。

 

「こんなに歩き回っていないなんて、赤蛮奇は人里にいないんじゃないか?」

「逃げたり…とかですか?」

「一応あいつも妖怪なんだしない話じゃないだろ。まあいなくなったかどうかを俺が勝手に決めるわけにはいかないけどな」

 

人里のほとんどを歩き、定晴さんが諦め始めた頃。私たちはとうとう例の路地裏の前を通る。もしかしたら移動したかと思ったけれど、赤蛮奇さんは普通にいた。まるで疲れて休憩している町娘のような雰囲気だ。

実際は、心配して近づいた人…特に男性に対して、声をかけられた瞬間に頭を落として驚かせる…つまりまあ、飛頭蛮の典型的な驚かせ方ともいえる。

 

「おう、赤蛮奇」

「……ああ、あなたですか。これじゃ驚かせ甲斐がありませんね」

「そうだな」

 

それから定晴さんは赤蛮奇さんをいい感じに懲らしめてた。具体的に言うことはできないけれど…最終的に赤蛮奇さんが完全に白旗をあげていたのは珍しいことだと言えば、なんとなくわかるだろうか。

そして見た目では分からないけれど、幾分か妖力を失ってしまった赤蛮奇さんに対して定晴さんは言った。

 

「まったく、こんな端っこにいて…探すのに時間がかかったぞ」

 

後から思ってみれば、この時にさっさと帰ればよかったのだと思う。

 

「おや、早苗さんと探していたんじゃないんですか?」

「探していたが、一緒に歩いていたが人里のほとんどを歩いたぞ」

「それはおかしいですねぇ…」

 

ボロボロになっているはずなのに、ニヤリと赤蛮奇さんは笑いこちらを見て言った。

 

「早苗さんは路地裏にいる私を見ているはずですよ。きちんと驚いていただきまして、少し美味しかったんです」

「早苗?」

 

急速に顔が熱くなっていく。赤くなっているのが、見えていないというのにわかる。

その反応を見せてしまったのが悪かったのか、赤蛮奇さんはさらに追撃をしてくる。

 

「覚えていないなんてことはないはずです。先ほど見たばかりですし、それに私は移動していません」

「あ、あぁ、うぅぅ…」

 

顔が火照り手に力が入る。何か言い訳しないといけないけれど、何も思いつかない。赤蛮奇さんがとどめとばかりに一言。

 

「そういえば先日大声で告白をしていた巫女がいたと一時期妖怪の山で話題になっていましたね。そして相手は…」

「好きな人と一緒にいたかっただけじゃないですかばかあああ!!」

 

弾幕を赤蛮奇さんにばら撒き、私は神社に向かって飛び立った。もう恥ずかしくてあそこにはいられない。

だって、だって、冬の間はあまり定晴さんに会えないから…うああああ!!

 

 

買ったものを全部定晴さんに預けたままなのに気が付いたのは、神社に戻ってからだった。

定晴さんの家に行き、苦笑いされながら買い物袋を受け取った私の顔は今までで一番赤くなっていたことだろう。ルーミアさんにニヤニヤされたのも私の心を傷つけた。




早苗が飛び去ったあと

赤蛮奇「今まで一番美味しいです。これはもっとやるべきか…」
定晴「お前、やっぱり妖怪らしいよ」
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