東方十能力   作:nite

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四百十三話 幻想郷宗教戦争

秋の気温が戻って来たかのように、少しだけいつもより暖かい日のこと。博麗神社はいつもより騒がしくなっていた。言っておくが、俺が騒がしくしたわけではなく、俺が来た時点で既に騒がしかった。

 

「これだから参拝客が多くてお金がある神社は!うちでそんなことできるわけないでしょ!」

「それは霊夢さんの努力不足じゃないですか!前に提案したことも実行しないで放置するじゃないですか!」

「落ち着いてくださいお二人とも。話し合いが過熱しすぎると冷静な判断が…」

「あんたも金ある側でしょ!黙ってなさい!」

 

そこで言い合い…霊夢が一方的に怒鳴りつけているだけだが…をしているのは、霊夢と早苗と聖。それに加えてヘッドホンをしている見慣れない姿の少女が離れた位置で傍観していた。

俺はただ暖かいから雑談をしに来ただけだったのだが、どうしてこんなことになっているのだろう…と思っていたら、境内の方から水那が小さく手を振りながらやってきた。

 

「こんにちは、定晴さん」

「ああ…何があったんだ?」

「簡単に言えば宗教絡みです。幻想郷はそれなりに宗派がありますから」

 

幻想郷は昔は博麗神社しか宗教施設はなかったという。それに、博麗神社は何を祀ってるのかも分からないような有様であり、宗教的なものはなかったとも言えるかもしれない。

そんな中、守矢神社が幻想入り。守矢神社と博麗神社の間で色々と揉めて霊夢が守矢神社まで乗り込むという事態にまで起きたらしいが、今の状況を見るにそれなりに落ち着いているのだろう。とはいえ、守矢神社はしっかりと神がいるわけでご利益もしっかりしているということで、信仰という意味では守矢神社の方が圧倒的に勝っているのだろう。

そうして二つの神社が争っている中、命蓮寺も現れる。こっちは仏教ということもあって、今までとは違う宗教にあり、また人里にあるという関係で人里で最も信仰されているのは仏教と言えるだろう。元々人里のか細い賽銭により生活していた博麗神社は窮地に。

まあ今でも妖怪退治と言えば博麗神社という流れは変わっていないようだし、妖怪退治に関しては霊夢はエキスパートだ。水那も最近随分と力をつけているみたいだし、そっち方面での収入が減ることはないだろう。

 

「それで、あそこのヘッドホン少女は?」

「あの方は…」

「今私のことを呼びましたね?」

 

それなりに離れていて、言い合いを聞いていたはずだというのに、その少女は俺の声に反応してこちらに近寄ってきた。ヘッドホンをつけているというのに、すごい聴力である。

 

「私は豊聡耳神子。聖人だ」

「俺は堀内定晴だ。初めて会うな」

「そうだね。私はあまり外を出歩かないから、そういうこともあるのだろう」

 

ヘッドホンをつけて、動物の耳のようにも見える髪型をしている少女。古き日本の命名式が使われている名前には、その所属を表す「の」が入っていた。幻想郷は古い日本の文化であるが、苗字と名前の間に「の」が入っている人は初めて出会ったな。

 

「日頃はちょっと特殊なところにいるのだ。君は…普通の人間のようだね」

 

神子が俺と話していると、そのことに気づいた霊夢たちもこちらに近寄ってきた。特に、霊夢はまるで鬼気迫る感じでちょっと恐ろしい。

 

「定晴さん、聞いてよ!」

「こんにちは、定晴さん」

「ごきげんよう、定晴さん」

 

霊夢は挨拶をすっ飛ばして本題に入る。やはり何かに対して怒っているようで、話を聞いてくれるような状態ではない。俺はおとなしく霊夢の話を聞いてあげることにした。

 

「こいつらがこっそり人里の分社を増やしてたのよ!許せないわ!」

「こっそりでもありませんし、勝手でもありませんよ!慧音さんからも許可を頂いてますし…」

「私に言わなければそれはもうこっそりよ!ちゃっかり命蓮寺も規模拡張してるし!」

「信者が増えれば建物の拡張をするのは当然です。私たちも慧音さんから許可をもらってます」

 

ふむ…つまり、例の如く霊夢のいちゃもんの被害を早苗と聖が受けているということだな。多分霊夢に呼び出されたのだと思うが、そういう時に正直に来てくれるというのが早苗や聖が人里の人々から信用され信仰を獲得できている所以なのだろう。

霊夢のこのいちゃもんは時に厄介なこともあるし、信仰を獲得できていない理由の一端を見れた気がする。

 

「なら博麗神社も分社を増やせば…」

「お金持ちには分からないでしょうね!分社っていうのはちゃちゃっと作って終わりみたいなもんじゃないのよ!祈祷だとかなんだとかしないといけないし、お金もかかるわ!」

 

要約すると、早苗や聖に対して「抜け駆けをするな」と言いたいのだろう。博麗神社が規模拡大できないのだから、他のところも合わせろと…なんともな言いがかりである。それに、水那曰く霊夢は信仰獲得に対してとてもめんどくさがりで、最近水那は人里で頑張っているらしいのだが、霊夢は何もしない。

 

「なあ早苗、これっていつから言い合ってるんだ?」

「私たちが来たのは一時間前です。それからずっとこの調子で…」

 

早苗と聖も、笑顔こそ崩さないものの疲れたような表情をしていた。一時間も霊夢のいちゃもんに付き合っていればそうもなるだろう。

さて、ならば神子は何でここにいるのか不明なのだが…

 

「そいつも同罪よ!結局、信仰集めのために皆規模拡張して、私たちのことは気にしないんだわ!」

「神子は何をしたんだ?」

「私も同じさ。人里に施設を建てていたのを霊夢に見つかって…ある意味、この事件の発端は私にあるともいえるかもしれない」

 

どうやら、霊夢は神子が施設を作っているところを発見し、なし崩し的に守矢神社と命蓮寺のものも見つかったのだろう。気付かなかった霊夢も悪いといえば悪いし、ていうか、早苗と聖は何も悪いことはしていない。

 

「弾幕勝負よ!私が勝ったら分社は取り壊してもらうわ!」

「だからその戦いは私たちに何のメリットもないんですよ!こっちは正規の手順で分社を建立してるんですから!」

 

どうやら守矢神社の分社に至っては、人里まで神奈子がやってきて直々にその威光を知らしめたらしい。分社とはいえきちんと神がいると分かれば、そりゃ信仰も拡大することだろう。

霊夢のいちゃもんに応える義理はないと早苗が主張する。そりゃそうだ。

 

「水那、こういうときって霊夢をどうやって宥めるんだ?」

「紫さんがいれば紫さんが止めてくれるんですけど…そうですね、多分高価なものとか美味しいもので落ち着くと思いますよ」

「クレーマーだな、こりゃ」

「接客業における天敵ですね。定晴さんが用意しても満足しないでしょうから、早苗さんたちに用意してもらわないと…」

 

誠意を見せるのはあくまで早苗たちであり、俺が何か手助けをしたところで霊夢は満足しないという。

うーん…まあ、霊夢はまだ若い少女だし、これでも責任を色々と背負っているからイライラすることもあるのだろう。その発散を今みたいにしていると考えれば…いやまあ迷惑ではあるのだろうけど。

 

「定晴さん、定晴さん」

「ん?」

 

早苗に呼ばれて耳を貸す。霊夢に聞こえない大きさで早苗は俺に耳打ちをした。

 

「ひとまず霊夢さんを宥めるのを手伝ってくれませんか?」

「それはいいが…俺は何をすればいいんだ」

「落としどころを見つけたいと思うので…取り敢えず今日は私たちが離れられるようにしてほしくて」

 

早苗たちが行動できるように、俺は霊夢の気を引けばいいのか。まあ、それならいい方法がある。

俺は早苗から離れて、聖と神子が見ている前で霊夢に提案をした。

 

「そろそろ昼時だし、今日の料理を作ってやる。霊夢も手伝ってくれるよな?」

「まだ話は終わってないわよ!」

「そりゃ残念。なら料理は作れないな……手伝って、くれるよな?」

「……わかったわよ」

 

水那に宥められつつ、料理という餌を前に霊夢を引きはがすことに成功した。食材は俺が用意するとなれば霊夢の機嫌も幾分かましになるだろう。

台所に移動する霊夢のあとを追おうとすると、早苗が後ろから小さな声で声をかけてきた。

 

「すぐに言うことを聞いてくれる貴方が大好きですよ」

 

俺がびくっとしながら振り返ると、早苗たちはもう人里に向けて飛んでいくところだった。全く、早苗は告白以降アプローチが激しくてちょっと心臓に悪い。なんというか、俺の中の恋愛に対する恐怖心を若干刺激されてびっくりしてしまうのだ。

 

「なんだ、君は彼に恋慕を抱いているのか」

「ちょ、ああ、いや、まあそうなんですけど…」

「ふふ、初々しいですね」

 

俺は霊夢のあとを追いつつ、どう落としどころをつけるのだろうと思うのであった。

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