東方十能力   作:nite

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四百十四話 宗教的落としどころ

霊夢が他の宗教にいちゃもんをつけた翌日、俺は聖に呼ばれて命蓮寺まで来ていた。中ではいつも通りに信者の人々が座禅を組んだりしているが、俺たちは命蓮寺の裏で集まっている。聖に加えて神子もおり、その手には何やら一枚の紙が掴まれていた。

 

「来ていただいてありがとうございます。実は少々込み入った事情がありまして、定晴さんのご助力をいただきたいのです」

「それは構わないが、何をすればいいんだ?」

「これを見てくれればわかる」

 

そう言って神子が取り出したのは、慧音の印鑑が押されている建築許可証と書かれた書類であった。かしこまった口調と堅苦しい内容で書かれたそれは、人里のある区画に建築をしてもよいという書類であった。許可されている建物は…神社?

 

「神社と書かれていますが、実際のところは分社です。要は、博麗神社の分社を立ててもよいという許可証をもらったんです」

「聖たちが?」

「事情を説明したら、えっと、ため息をつきながら許可をしていただきました…」

 

慧音としても思うところはあるのだろう。しかし、博麗神社はこれでも長年の歴史を持つ神社で妖怪退治という形で人里に貢献しているため無碍にするわけにもいかないのだろう。

許可証には、きちんと霊夢の名義が書かれているが同時に代筆人として聖の名前も書かれている。なんというか、これでいいのか、霊夢よ。

 

「そこで、定晴さんには分社を立ててもらいたいんです」

「…はい?」

 

俺が聞き返すと、聖の代わりに神子が説明をしてくれた。

 

「分社を立ててくれと言ったのさ。許可取り自体は手間こそかかるが簡単だからね。だが分社建立となると話は変わってくる。お金だとか資材だとかが必要になってくるんだ。本来であればお金をかけて正規の建築業に頼むべきなのだろうが、霊夢のためにそこまでお金を出すのも違うだろう?」

「私たちがあまり甘やかしすぎても霊夢さんのためになりませんから。まずこの許可証を持って霊夢さんのところに行って、霊夢さんから定晴さんに依頼を出してもらうという形をとってもらいたいんです」

 

簡単な流れはこうだ。

許可証を持って霊夢のところに行くが、その時点では許可だけの状態。霊夢は色々言うかもしれないが、霊夢からの直接な指示がないと建築はできないと言う。霊夢はお金を出し渋るだろうが、そこで俺が安い値段で分社を建てることを提案する。霊夢の性格上そこまでされて拒否できないだろうから、それで霊夢の不平を収めようという。

ここまでお膳立てされているのであれば、霊夢もじゃあやっぱりなしとは言いづらいのだろう。俺がどれくらいの値段で、どれほどいい提案ができるかによってこの作戦はうまくいくかどうかが決まる。

 

「まあ分社は流石に建てたことないし、それでもいいなら安くなるのは当然だが…」

「霊夢さんもまどろっこしいことは嫌いでしょうし、多分大丈夫だと思いますよ」

「あれは怠惰の欲が非常に大きい。楽できるなら飛びつくだろう」

 

二人はこの作戦に太鼓判を押す。俺も最近依頼が少なかったので、こういうところで依頼を獲得できるのは構わないんだが…

 

「まあ。物は試しか」

 

そもそもこれは霊夢のわがままによるものだ。ここまで準備したうえで霊夢が拒否したのであれば、それはもう不平を言う資格はなくなるだろう。霊夢が拒否しようと了承しようと、俺たちの目標は解決するのだ。

博麗神社に移動する途中で、気になっていたことを訊いてみる。

 

「早苗はどうしたんだ?一番言い争ってたのはあいつだろ?」

「早苗さんには建築用の木材の祈祷をしてもらっています。簡易的なものとはいえ、神聖なものを使わなければいけませんから」

 

早苗は真面目だから、きっと今頃神様の力も直々に貰って祈祷をささげていることだろう。博麗神社の分社のものなのだから霊夢がするべきではと思うのだが、霊夢が祈祷するよりも早苗が祈祷した方が神聖さがあるような気がするのはなぜだろう。やはり、神の存在をしっかり確認できる方が信頼できるということなのだろうか。

 

「霊夢さん、いますかー?」

 

博麗神社について霊夢を呼び出す。境内には誰もおらず、あうんの姿もない。

しばらくすると奥の方から小走りの音が聞こえてきて、裏手から水那が顔を出した。

 

「あ、皆さん」

「こんにちは、水那さん。霊夢さんはいますか?」

「霊夢さんは現在妖怪退治のお仕事中です。人里から少し離れたところのものなので、もうしばらくかかると思います」

 

どうやら今朝がたに人里からの依頼で、妖怪退治に向かってしまったらしい。人里から少し離れた道の木々の中から突然少女の頭が降ってくるという事案が発生し、それで怪我人も出たとのこと。妖怪の特徴は赤い服と赤い髪で、時には同じ顔が何度も降ってくるとか……赤蛮奇あいつ反省してないな。

 

「お茶でも出しますよ」

「いただこう。ここまでやったのだから、お茶を飲むくらいいいだろう」

 

神子が率先して中に入り、その後ろを聖と俺がついていく。水那曰くあと三十分もすれば戻ってくるだろうから待っていれば戻ってくるとのこと。

水那がお茶を用意している間に、神子が俺に話しかけてきた。

 

「こうして時間もできたことだし、君と少し話がしたい」

「ん?いいぞ」

 

俺がそう言うと、神子の目は鋭くなり、まるで俺の中を覗き込んでいるような錯覚を起こす。俺ではなく、魂自体を見られているかのような…

しばらくすると、その鋭い目のままに神子は俺に一つ質問をした。

 

「どうやら君は随分と偏った欲を持っているみたいだ。少なくとも、並みの人間では耐えられるような偏り方ではない。どういうことだ?」

「欲?」

「ああ。三大欲求と呼ばれるもの…それ以外も含めて。人も妖怪も、誰もが生きている以上抱くはずの欲を君は持っていない。欲は人を堕落させることもあるが、個として確立されるには少なからず必要なものだ。君は…特に性的な欲求に対してゼロのようだ」

 

ここにきて初めて、神子のことを宗教人であると感じた。少しの間一緒にいただけで、俺の中の問題点を明かしてきたのだ。聖はそれを知らなかったのか、驚いた表情をしている。普通は知らないはずなのに、なぜか俺に告白してくる少女たちは俺が教えるよりも先にそれを知ってるんだよな…

 

「性欲は三大欲求にも数えられる、人間であれば誰もが少なからず持っているものだ。だというのに君は…」

「なぜか、は俺もよく知らない。一人が好きだったし、今もそう思ってる。なんというか、女性と一緒にいる姿を全然想像できないんだよな」

 

今では家にルーミアとユズがいるし、日頃から接する女性も増えた。俺のことを好きだと言ってくれる女性も多く、それに疲れてたまに霖之助やミキと男だけの飲み会をすることもある。

魂にいる【愛】は日頃から騒いでいるものの、それが俺の判断を変えたことはないし感じ方が変わったこともない。

 

「まあ私も心を読めるわけじゃないし、なんとなく雰囲気でわかるだけだが…欲が欠けた人間というのはどこか壊れてしまうものだ。覚えておくといい」

「それくらいわかってるよ」

 

俺の魂にいるやつらは、俺の中の構成要素だ。彼らが俺の感情の一部を担っているからこそ、俺は正気でいることができている。狂気なんて今までどれだけ守られたことか。

 

「一度心の中をすっきりさせるのもいいかもしれない。覚妖怪が手を貸してくれるかもしれないぞ?」

「さとりかぁ…久しぶりに会いに行ってみるかな…」

 

最近は地底にも行けていないし(こいしはたまに地上に遊びに来てその都度お燐が迎えに来る)、さとりにも会えていない。俺が分からない何かを、さとりならわかるかもしれない。

俺がそんなことを考えていると、すぐそばに足音がした。

 

「あれ、霊夢さん、早かったですね」

「あんな妖怪さくっと対峙よ。それで、あなたたちは何の用かしら?」

 

不機嫌な霊夢は最初こそ難儀だったものの、最終的に分社を作ることを了承した。その後俺の手で作られた分社は人里の端っこのほうで少しのお賽銭を投げ入れられているという。

 

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