東方十能力   作:nite

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四百十六話 かわいい妹には旅をさせよ

数日後、こいしは荷造りをしていた。お燐にも手伝ってもらいながら、こいしはできる限りの荷物をバッグに詰めた。と言っても、こいしの私物は実のところあまり多くはないみたいで、服とかそういったものしか入れるものはないみたいだったけど。

 

「お姉ちゃん、お燐連れてくね!」

「だめに決まってるでしょ!」

 

と、バッグにお燐を入れようとするこいしを止めつつ、荷造りはすぐに終わってしまった。こいしの部屋に入ることはあまりなかったけれど、家具以外の小物がほとんど置かれていない部屋を見るとついつい寂しくなってしまう。

私が自分から地上に行くことはないし、しばらくはこいしが地底に来ることはできない。まあ能力を使ってこっそり来ることはあるかもしれないけれど…今までよりも顔を合わせる回数は極端に減るのは当然だ。こいしとこんなに離れることは今までなかったから、なんだか子を見送る親のような気分にもなってしまう。

 

「こいし、地上で住む場所は決めてるの?」

「うーん、定晴のところにしようと思ったんだけど…」

 

こいしならそうだろうと思ったけれど、何か思うところがあるようで。

 

「同じ家に住むとか…緊張しすぎちゃうから無理!」

 

顔を赤くしながら首をぶんぶん振るこいし。全く、私よりも乙女らしくなってしまって。

 

「でもどうするの?」

「それがさ、どこから聞きつけたのか萃香さんがやってきてさ。人里に家を用意しといてあげるって言われてさー」

 

萃香さんは特殊な鬼だ。地上で唯一生活している鬼とも言われており、地底にやってくることはほとんどない。それでも、鬼という種族の性質上、閻魔様のような上の立場でもない限り、萃香さんが地底にやってくることを止めることができる人はほとんどいない。

萃香さんはこいしに話しかけると、事情を説明する前に家についての相談を持ち掛けてきたらしい。萃香さんからも定晴さんの家をオススメされたらしいけど…私としても、いくら定晴さんとはいえ異性の家に送るのは複雑な気分になるので、ちょっと安心。

 

「人里に慧音さんっていう人がいるんだけど、その人がいたずらとかしないなら空き家を貸してくれるって」

「人里って人間の集落でしょ?大丈夫かしら」

「妖怪も普通に住んでるから大丈夫だよ!」

 

私は地上の情報に疎い。こいしやお燐が地上に行った経験を色々話してくれるので、知識としてはあるのだけど…私はそれなりに仕事が忙しいし、地底の主とも呼ばれてる私がおいそれと地上に出ることができないのは道理である。

だからまあ、少しはこいしのことを羨ましく…うーん、人がいっぱいいるところは過ごしにくいし、私はやっぱりパスね。

 

「人里の中で能力を使わないって制限をかけられちゃった…でも、地上で過ごすなら仕方ないね」

 

どうやら先に慧音さんと萃香さんの間で、ある程度の決まり事を作っておいたらしい。そのうちの一つが能力の禁止。こいしの能力は少し使うだけでも、急にいなくなったり現れたりみたいに錯覚してしまうから、人里の中で使うのは危ないとのこと。

最近はこいしもばっちり能力を扱えるようになったし、特に問題はないだろう。こいしも、問題を起こさないように努力をしているみたい。

 

「場所は地上に行ったら教えてくれるっていうから、行ってみないとどんな場所か分からないんだよね」

「こことは違うんだから、しっかりルールは守るのよ」

 

人里には人里のルールがあるだろうから、それはしっかり守らないといけない。でも、それ以上に私が心配しているのは…

 

「お燐たちはいないんだから、きちんと食事とか洗濯とか自分でするのよ」

「うえー、やっぱり?」

「勿論。それができなきゃ一人暮らしなんてできないわよ」

 

基本的に家事全般はペットたちにお任せな私たちだ。

地霊殿は大きいし、私たちだけじゃ管理できないので仕方ないけれど、こいし一人で住むのなら自分一人で全部しないといけない。一人暮らしの、一番大変なところだ。でも、私は知っている…

 

「こいし、最近ちょっと料理とか練習してるじゃない」

「うわああっ!?見てたの!?」

「うふふ…」

 

わあああと叫びながら頭を抱えるこいし。それが誰のための料理なのかは今更言うまい…ただ、その技術はきっと一人暮らしの中でも使えるはずだ。

それにまあ、私たちは曲りなりにも妖怪なので、意外とどうにかなったりする。野生の中でも普通に人並みのような生活をしている妖怪も幻想郷にはいるので、最悪そういう生活もできなくはない。とはいえ、こいしは結構箱入りな部分があるから、サバイバルみたいな生活は不可能だろうけど。

 

「折角だから一人暮らしのやり方を定晴さんに訊けばいいわ。一緒に色々教えてもらいなさい」

「うぅ…」

 

あうあう言いながら真面目に考えているこいし。

こいしの心の声は聞こえないけれど、なんというか、前よりも喜怒哀楽が前面に出てて、私もいじり甲斐がある。楽しい…

 

「もうっ、お姉ちゃんはそんないじり方をするから友達が増えないんだよ!」

「あ、ちょっと!」

 

こいしはそれだけ言い残すと、荷物を持ってエントランスの方へと走っていく。

流石にこれでお別れなんてことはしたくないので、私も急いでエントランスの方へ走る。でも、こいしと違って私はそこまで運動してないから、こいしの背は遠ざかるばかり…

息も絶え絶えにエントランスに着くと、鼻歌を歌っているこいしが私のことを待っていた。こういうところはいい子なのよね。

 

「はぁ、はぁ…」

「大丈夫ですかさとり様?」

「だ、大丈夫…」

 

お燐から水をもらいすぐに飲む。館の中で走るだけでこうなってしまうなんて…もっと弾幕ごっこをするべきかしら。

 

「それじゃあ皆、行ってくるねー!」

「お気をつけて」

「楽しんできてくださいねー」

 

お燐やお空を始め、ペットたちがこいしのことを見送る。ずっと一緒に過ごしてきた家族の旅立ちだけど、涙とかそんなものとは無縁だ。

こいしは楽しそうだし、私たちも期待してる。閻魔様は言ってたのだ。これは地上と地底を繋ぐための架け橋にもなるだろう試みだって。だから…

 

「行ってらっしゃい」

「行ってきます!」

 

元気に地霊殿を出ていくこいしを、私も笑顔で見送るのだ。いつかまた、ただいまって言ってもらえるその時に、地上での出来事をいっぱい聞けるように、期待するのである。

 

「さ、仕事に戻るわよ」

 

それに…数匹の、喋ることもできない猫のペットを地上に配置するようにした。状況報告はそれで十分なのだ。

 

―――

 

「さとり様って結構過保護だよね」

「しっ、お空言っちゃダメ」

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