東方十能力   作:nite

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四百十八話 お引越し一日目

荷物を詰めたバッグを背負って穴を登る。結構荷物が膨らんじゃったけど、妖怪の意地で全部を一纏めにして背負うことにした。重いけど、移動できないほどじゃない。

穴を上に向かって移動していると、キスメちゃんが横穴から出てきて話しかけてきた。

 

「あれ、どこ行くの?」

「地上ー」

「そんな荷物持って?」

「引っ越すんだー」

「へー…ヴェエ!?」

 

と、聞いたことのない声で驚かれたけれど、最終的には楽しんできてねと見送ってくれた。やっぱり、地底に生きる妖怪が地上に引っ越すっていうのは前代未聞だし、普通は驚かれるよね。

でもでも、私は定晴と近くにいたい…それに、定晴のおかげで地上で生活するのも悪くないって思えるようになった。地上にはお姉ちゃんに嫌がらせをする人も多く、そもそも覚妖怪ってだけで嫌悪してくるような場所だけど、今の幻想郷はそんなことしない人がいっぱいだって、私は知ってるから。

いつかお姉ちゃんも連れて行きたいな。

 

「っ…眩しい…」

 

地底特有の薄暗さが、太陽の光によってなくなっていく。洞窟の入り口から差し込む日光は、いつもよりも私の網膜を焼いた。

 

「ふぅ、いい天気」

 

寒い季節だけど、今日は雲がないからか暖かい。風が吹けば少し肌寒くなるけれど、私の歩みを止めることなどできないのだ!

そうして私がひとまず荷物を置くために人里に向かおうとすると、一際強い風と共に誰かが私の目の前に舞い降りてきた。

 

「こいしさん、地上へいらっしゃい」

「あなたは…烏天狗の文屋!」

「射命丸文と言います。地上で過ごすのなら私の名前もぜひ憶えてください」

 

文は私の荷物を支えるように持ち上げると、そのまま私の背中から奪い取ってしまった。

 

「麓まで案内します」

「この場所なら慣れてるよ?」

「今日は姿を見せたまま移動するんでしょう?私がいないと不審者扱いされますよ」

 

私が地上に来るときは、必ず能力を使った状態で移動する。でないと、色んな人から警戒されたり警告されたりするからだ。

でも、今日は一日能力を使わないということに決めた。人里で生活するときに能力を使っちゃいけないので、能力を使わない生活というのにも慣れないといけないからだ。ここまで移動する途中も、いつもは感じない沢山の視線を感じたけれど、この視線にも慣れないといけないだろう。

 

「そこまで荷物を持ちます。それにしても随分と重いですね」

「色々入れたから…」

「乙女は荷物が増えますからね。私が引っ越しをするときは取材道具や編集道具でいっぱいになりそうです」

 

どうやら文は私がここに来るのを待っていたようで、慣れた様子で山を下りていく。その後ろを私も小走りでついていく。

私は知らなかったけれど、なんとなく私が地上に来るにあたって色々と根回しされたんだなと思った。それが誰のしたことかは分からないけど、私が地上で排斥されるようなことがないように、気遣われているという実感がある。

今更少々嫌なことがあっても地底に逃げ帰ることはしないけど、気分が楽だから嬉しい。

どれくらい根回しされているのか知りたくて、途中で文に話しかけた。

 

「私が来ることはどれくらいの人が知ってるの?」

「人里の慧音さんとその他人里の上位陣、妖怪の山に全域の妖怪…あとは定晴さんたちです」

「定晴にも教えたの?」

「はい、その方が気楽だし喜ぶだろうって…閻魔様が」

 

私に引っ越しを提案してきたのは閻魔様だった。そこに関わる色んなことを、先に終わらせておいたのだろうと結論づけた。できることを可能な限りやっておくのは、仕事をきっちりやる閻魔様らしい。

そうして山を下りると、文からバッグを返してもらって、ついでにと無料で一部新聞を貰った。最近の地上のことを書いてあるからと、お試しとして半ば強引に渡されたのだ。

人里への移動中にちらっと読んでみれば、人里に分社が色々建てられたことや幽香が太陽の花畑で新しい花を生み出したことなどが書かれていた。

 

「あ…あはは!定晴のことも載ってる」

 

記事によると、消費しきれなくなった油揚げを使って人里で炊き出しをしたと書かれている。連日の油揚げ料理に耐えられなくなったルーミアちゃんが提案し、人里の人々に無料で振舞われたのだとか。

地底だとニュースって呼べるようなニュースってそんなにないし、新聞なんて誰も書いてない。記事にできるようなことだって、どこかで誰かが喧嘩したことくらいしかない。

それに比べて地上の話題は凄い。私がたまに地上に遊びに来てたのは、こうして地底よりも暇がなく忙しなく、楽しいからだから。

 

意識したことなかったけれど、妖怪の山から人里までは意外にも近い。新聞を読みにくいから歩いて移動したけれど、それでも一時間もかからなかったような気がする。

 

「…えっと…」

 

そうして人里に入ろうとして気づく。人里の出入り口に門番みたいな人が立ってる。

多分妖怪が入り込まないように、そして人間が勝手に森とかに行かないようにするための人だと思うんだけど…流石に、あの人たちには私のことも通達されてるよね?

私はアクセサリというには奇抜すぎる、妖怪らしい特徴がある。今も私の胸元あたりで目を閉じている第三の目だ。お姉ちゃんと揃って、この目があるせいで私たちは嫌煙されてきた。

 

「行くしかない!」

 

自分を奮い立たせて門番のところに行った。大丈夫、文が知ってたんだもん。この人たちだって知ってるはず…

 

「…待て、妖怪だな貴様」

 

凄まじい速度で振るわれた槍が、私の眼前に突きつけられる。圧倒的な威圧感が、私を数歩後ずさりさせた。

 

「ここは人里、即刻立ち去れ」

「ちがっ、私は、引っ越して…」

「…」

 

無言で突きつけられ続ける槍が、まるで私と人里を隔てる壁のように立ちふさがる。

怖い。

槍が、怖い。

この人間が、怖い。

こうなる可能性も考えてたけれど、恐怖で私は体を震わせる。やっぱり私、歓迎されてないんだ…

能力を使って姿を消しそうになるその瞬間、目の前の槍が大きく上に吹っ飛んだ。

 

「小さい子に何してるんだい」

 

横を見ると、いつの間にか萃香が立っていた。華奢に見える足を大きく蹴り上げ、見るからに重そうな槍を見るも容易く吹き飛ばしたのだった。

 

「大丈夫?」

「う、うん…」

 

突然のことすぎて呆然としてしまう私と門番。しかし、蹴り上げたのが萃香であることが分かると、門番は強い口調で萃香に話し始めた。

 

「どういうつもりだ」

「今日一人引っ越してくるって聞いてない?」

「いや」

「どっちでもいいや。今日この子が引っ越してきたから、これからよろしくね」

「待て、そう簡単に妖怪を入れるわけには」

「慧音にも話を通してる。寝てたんじゃないの?」

 

二人が口喧嘩をし始めてしまった。ど、どうしよう…と思ったら、人里の中から誰かが全力疾走しているのが見えた。

 

「まてええええええ!」

 

言わずと知れた慧音先生が奥から走ってきて、門番の横くらいでズザザーと止まった。流石半妖、凄い脚力だ。

怒涛すぎて私が反応できない間に、慧音先生は二人を仲裁した。

 

「引っ越して来るのは本当だ。すまない、門番に伝え忘れていたな」

「いえ。慧音さんが言うなら問題ありません」

 

門番はそれだけ言うと、吹き飛ばされた槍を拾い上げて、さっきと同じところで目を光らせて直立している。業務に熱心な人なんだとそれだけで分かる。地底では雑な仕事をする人が多くて、門番なんてさせたら一時間後には酒を飲んでるくらいなので、こういう人は珍しく映る。

 

「大丈夫か、こいし。怪我はないか?」

「うん、大丈夫だよ」

「この子震えてたよ。慧音、連絡はちゃんとしないと」

「す、すまない…悪意を持った妖怪が入り込まないように、連絡を後回しにしていたんだ」

 

申し訳なさそうにする慧音先生は、私を人里の中に招き入れる。萃香は私の荷物を持ってくれた。

周囲からの好奇な視線を受けながら、人里の端っこの方に行く。路地裏のようなところを進んだ先の、道の端っこにこじんまりといた家が建っていた。人里に建っているにしては、しっかりとした素材で家が作られていて、屋根も瓦で雨漏りとかもなさそう。

 

「ここがこいしの家だ。対価は既に萃香から受け取っているから気にしなくていい」

「ちょっと力仕事しただけだよ。ほら、これが鍵」

 

扉には錠前がついていて、小さい鍵で開けることができた。

中は掃除されていて、家具のようなものは置かれていない。でも、キッチンはしっかり完備されてるし、トイレもお風呂もついている。それに、下がフローリングになってて、私の慣れた建築様式だ。

 

「ここって元々あった建物なの?」

「いんや?ちゃちゃっと私を含めた何人かで建てたとこさ」

「ええ!?」

「まあ、地底から来たこいしのためのお祝いみたいなもんさ。私は地底の妖怪たちが地上に来ようとするのは嬉しく思ってるんだ」

 

じゃあここは、私のための新築…あわわわ。返せるものなんて何もないよぉ。

萃香は部屋の端っこの方にどかりとバッグを置くと、そのまま外に出ていく。

 

「じゃあ私はこれから飲みに行くから。じゃね~」

「鬼はいつも自由だな…さて、私も仕事に戻る。早いうちに荷解きをしておきなさい」

 

そうして慧音先生も家を出ていく…前に、振り返って一言。

 

「あと午後には定晴を呼んであるから。何か困ったことがあれば彼に聞きなさい」

「定晴が!?」

 

私の素っ頓狂な声に笑いながら、今度こそ慧音先生は出て行った。

えっと、えっと、まずは定晴に見せても恥ずかしくないように準備をしなくちゃ!

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