東方十能力   作:nite

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四百十九話 引っ越しサポート

映姫に頼まれたこいしのサポートは、今日行う予定になっている。

事前に聞いた話だと、既に午前中の間にこいしは地上に移動し家の鍵を貰っているらしい。何かあったら連絡すると慧音から言われたが、今のところ何もないので順調に進んでいるのだろう。

俺とルーミアの二人、それに加えて対妖怪対処として水那が派遣された。一応、人里の中に妖怪が住んだとしても、博麗神社が直々に許可を出しているということを見せるためらしい。こいしは暴れるような妖怪ではないが…人里の人間からすると妖怪というだけで恐怖の対象なので仕方ない。

 

「水那、それは?」

「家に貼り付ける用のお札です。効力はそんなにないですけど、妖怪の家だと一目で分かるようにしておこうと思って」

 

俺の家の前で水那と合流したとき、水那はお手製のお札を持っていた。建物が破壊されにくくなる加護を込めたらしいけど、精々少し耐震性が上がる程度だと嘆いていた。霊夢なら火事から護るくらいのことはできるとのこと。

三人で人里に移動し、事前に貰っておいた地図をもとにこいしの家に移動する。こいしの家は人里という生活環境には似合わないような、洋風な家だったが、こいしにとっては過ごしやすい家となるだろう。流石にチャイムのようなものはなかったので、扉をコンコンと叩き声をかける。

 

「こいしー、来たぞー」

『うわああああ!!!』

 

扉の向こうから絶叫にも近い返事が聞こえて、ドタバタと家の中から響いたあとに、妙に疲れた様子のこいしが出てきた。

 

「い、いらっしゃい、定晴」

「大丈夫か?」

「大丈夫だよ!ほら、入って!」

 

家の中も洋風に作られていて、地霊殿で生活をしていたこいしのための家といった感じ。萃香が建てたと聞いていたが、なるほど、こいしが地上で十全に生活できるように色々と全力のサポートが為されたのだと感じる。

 

「ちょっとまだ片づけてる途中だから、あまり見ないで!」

「おっと、悪い」

 

俺がキョロキョロしていたら、顔を赤くしたこいしに怒られた。そういえば、これって言うなれば女性の部屋なんだもんな。あまりジロジロ見るのはよくないか。

取り敢えず、引っ越し祝いということで幻空の中に入れておいた物物を取り出す。家具もそんなにないみたいなので、倉庫の中で眠っていた箪笥なども取り出して端っこに置いておく。

 

「わぁ、こんなに貰っていいの?」

「余りものだけどな。お金が溜まったら新しいのに買い換えてくれ」

「ううん!大切に使うね!」

 

こいしの希望通りに家具を置いている間、水那はペタペタとお札を貼り付けていた。今貼っているのは、人里の他の家にも多く貼り付けているお札で、無病息災だとかそういった所謂お願い事のような内容が書かれている。

こいしは神様に祈る習慣がないのでこの家には神棚は用意されていないものの、部屋の一角を少しだけ神聖な場所にするということで水那が簡易的な神棚を作っていた。人里の家に神棚がないところはないらしく、馴染むという意味も込めて神棚を作った方がいいという水那の提案だ。

 

「こいしあなた一人で生活できるの?」

「できるよ!この日のために色々頑張ったもん」

「準備をしてくれるペットたちはいないのよ。温室育ちのあなたがどこまで出来るかしら」

 

水那と一緒に神棚を作っていると、ルーミアはこいしと話していた。どうやら、地上で暮らす心構えがしっかりできているのかを確認しているようだ。能力で神棚を補強している間、静かに二人の会話に耳を傾けた。

 

「料理も掃除も練習したもん!私は、今までの私じゃないよ!」

「……それ、一人暮らしのために練習してたやつじゃないでしょ」

「ギクウゥッ!?そ、ソンナコトナイヨ」

「まあ結果として役に立つならいいとは思うけど。人との付き合いとかできるの?」

「なんかルーミアちゃん、お姉ちゃんみたい。私は十分大人だよ!」

「私とさとりの懸念は同じでしょうね」

 

懸念点は、なんとなく俺も理解できる。即ち、今まであまり人との関わりを持ってこなかったこいしが人里に馴染むことができるのかだ。

こいしはその能力のおかげで、誰にも気づかれずに色々なことができる。そのため、例え地底であっても交友関係が広いとは言えるような生活はしていなかったのだ。勇儀のように誰とでも友人になれるような快活さはこいしにはない。

ここは人里。妖怪というだけで排斥されるような場所。妖怪だと知られていても、藍やミスティアのように自由に人里を行き来できる妖怪もいるものの、あれは今ままでの積み重ねが功を奏した形である。新顔でもあるこいしが馴染むには相応の時間が必要となるだろう。もしその間にこいしの心が折れてしまうようなことがあれば…

 

「定晴、私は大丈夫だよ」

 

いつの間にかこいしが近くにいた。神棚の作成を終えて考え事をしていたから、こいしが近づいたのに気づけなかったのかもしれない。

 

「定晴が難しい顔してたから」

「そんなに分かりやすかったか、俺」

「定晴さん、結構感情分かりやすいですよね」

「水那まで…」

 

そうなのか…俺は俺の顔が見れないからな…

 

「私、すごい覚悟で地上に来たもん。人間たちや地上の妖怪に嫌な目で見られるのも承知の上。それでも、私は地上に来たかった」

「そこまで…何がそんなにこいしを地上に?」

 

こいしが地上に来るという話を聞いたときから思っていたことだ。

さとりもこいしも、覚妖怪という能力の関係で地上で嫌煙されたと聞いている。それでこいしは第三の目を閉ざしてしまったし、第三の目が健在のさとりも地底の旧都から離れた位置で生活し外に出ることはほとんどない。そこまでされた場所だから、こいしは地上のことをそれなりに嫌っていると思っていたのだが…しかし、最近のこいしは地上によく遊びに来るし、その間いつも楽しそうにしている。

俺の質問に、こいしは動きを止めた。そうしてわたわたきょろきょろ、挙動不審になったあとに覚悟を決めたような表情をしたあと顔を赤くして小さく呟いた。

 

「あなたが……いるから……」

 

こいしは、俺がいるから地上に来たかったのだと言った。そういえば、映姫もこいしが地上に来る理由は俺にあるというようなことを言っていたのを思い出す。

 

「こいし、ついでだから言っておきなさい」

「……うん」

 

何かを知っているかのように、ルーミアはこいしの背中を押した。そしてこいしは、耳まで赤くしたあとに、今までで一番の、とびきりの笑顔で俺に言う。

 

「定晴。私は、あなたが好きだから、地上に来たんだよ」

 

……ああ、またか。

こいしの告白に、ルーミアはニコニコしているし、水那は顔を赤くしあがら顔を覆った。水那の口元からひゃあというような漏れた言葉が聞こえてくる。

だが俺は、驚くだけでこいしを見る目が変わることはない。何度目かの自己のどうしようもなさを痛感し、一人自らを責める。

 

「あ、えっと、定晴の話はルーミアちゃんたちから聞いてるから大丈夫。あまり深く考えないでほしいな」

「…そうか」

「…ごめん。定晴も本意じゃないの分かってるんだけど、ちょっと怖くなっちゃうね」

 

俺の反応に、こいしが少しだけ怖がる表情を見せる。

俺も拒絶したいわけじゃない。だが、どうしても心は動かないし何もない。魂の中で騒いでいるやつが一名いるが、それだけだ。

 

「…えいっ!」

 

怖がるような表情をしていたこいしだったが、突如として俺に飛びついてきて、お腹あたりに抱き着いてきた。衝撃は強くなく、優しいハグだ。

 

「大丈夫、定晴がどんな結論を出しても私はあなたのことが好きでいつづけるから」

「あら、情熱的な告白ね」

「もう、茶化さないでよルーミアちゃん」

 

ルーミアは平然としているが、水那はキャパを超えたのか、あうあう言いながら耳まで赤くして座りこんでいた。流石に水那のような年齢には刺激が強すぎるのかもしれない。大人でも、こいしのような衝撃のある告白はそうできないだろう。

 

「あ、だから、これまでと同じように接してほしいな。私、定晴と一緒にいたくて来たんだから」

「…分かった。まったく、女の子たちはどうして皆強いんだ」

「恋する乙女は強いのよ。定晴が意気地なしなだけ」

 

式神に諭され、俺は気持ちを切り替えた。毎回毎回、告白されるたびにこんな暗い気持ちになっていたら、告白してくれた人たちに申し訳ない。

 

「さて、折角だから人里を歩きましょ。今後こいしが生きていくのに必要なことよ」

「そうだねー。定晴、行こ!」

「あ、ああ」

 

俺はこいしに連れられ外に出る。ひとまず俺は、こいしが地上で幸せに生きられるように注視するとしよう。今の俺にできるのはそれくらいだから。

 

 

 

「水那、あんたいつまでそうしてるつもりよ。二人が外で出てくるの待ってるわよ」

「だってぇ、だってぇ…」

「全くおこちゃまね」

「まだ子供ですよ!」

 

 

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