東方十能力   作:nite

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四百二十二話 アビリティカード集め厨

外も随分と寒くなって、あと一ヵ月も経たずに雪が降り始めるだろうある日。雪にはなりたくないと主張する雨が降る朝に、傘を差した水那が家にやってきていた。

 

「こんな朝早くにどうした」

「少し急ぎの要件がありまして……」

 

前に霊夢を叱ったあと、一応霊夢も色々と考えてくれたのか精力的に働いてくれるようになった。厳密に言うと、見返りが大きい仕事を優先的にするようになった。

とはいえ、博麗神社が今までよりも豊かなのは間違いないようで、水那もそれなりに満足な生活をしていると聞いた。さて、とうとう霊夢が嫌になってまた貧乏生活に戻ったのだろうか。

 

「霊夢さんのことなんですけど」

「やっぱり仕事が嫌になったか。よし、俺がもう一回叱ってこよう」

「違うんです!そうじゃなくて!」

 

俺が立ち上がろうとしたら、水那が慌てて止めてきた。どうやら、霊夢が仕事をしなくなったというわけではないらしい。ではどうしたのだろうか。

 

「最近霊夢さん、アビリティカードというものを集めているようで」

「アビリティカード?」

 

幻想郷には似つかわしくない横文字のカード……いや、スペルカードも横文字か。

どうやらそのアビリティカードというのは高値で取引されているカードらしく、特殊な力が宿っているのだとか。水那が見たものには、ナイフを飛ばしたり弾幕の威力をあげたりと様々な効果のものがあったらしい。

 

「その、どうやらアビリティカードは異変に関するもののようで、ちょっと危ない代物なんですけど……霊夢さん、お金稼ぎができるって集め出しちゃって」

「つまりなんだ。霊夢自身が異変に加担してる形になってるってことか?」

「はいぃ……」

 

博麗の巫女もとうとう闇落ちか。

アビリティカードというのは出所不明のアイテムで、過去にも似たような出所不明のアイテムが幻想郷で異変になって、危うく幻想郷自体が崩壊しかけたらしい。今回も同じように不可思議物体が幻想郷に散らばっているとのことだが、肝心の博麗の巫女がアビリティカードを集めているということで……

 

「じゃあ俺が霊夢を最初にやっつけちゃえばいいのか」

「……お願いします」

 

水那が申し訳なさそうな表情で、俺の言葉を肯定した。俺は冗談のつもりだったのだけど、本当に水那は霊夢を倒してほしいらしい。

だがまあ、異変が起きたら解決すべき立場の霊夢が異変に便乗してるともなれば不安にもなる。今の時期は紫が眠っている関係で抑止力が減っているわけだし、ここはひとつ霊夢に喝をいれなければな。

 

「じゃあ今すぐやろう。長引かせるのもよくない」

「ありがとうございます」

 

式神二人に留守番を頼み、俺はすぐに博麗神社に向かった。まだ雨が降っているが、これくらいなら結界を張ればどうにでもなる。水那はまだ雨を凌げるほど長期間結界を展開することができないようだ。

水那の分も合わせて結界で移動していると、同じく魔法的な力で雨を防いぎながら飛んでいる人影を見つけた。箒に跨り神社へと向かうその姿は、紛れもなく魔理沙である。

 

「魔理沙も今から神社に行くのか?」

「おぉう、定晴。急に話しかけられてびっくりしたぜ。そうだ、霊夢にこれを見せないとと思ってな」

 

魔理沙がそう言ってポケットから取り出したのは、水那も言っていたアビリティカード。どうやら僅かに冷気を含んでいるそれは、チルノの能力が封じ込められているようだ。

 

「実は最近家にこもり切りでさー、私が知らない間にこんな面白いものが流通してたなんて知らなかったぜ」

「ふむ、だとすれば一足遅かったな。霊夢はもうそれを知ってるぞ」

「なに!?」

 

そんなやり取りをしていれば、すぐに博麗神社に到着する。俺の家から神社まではそんな距離もないので、時間はかからないのだ。

縁側の扉は閉められているが、中から物音がするから霊夢が中にいるのだろう。

 

「邪魔するぜー」

 

一番最初に魔理沙が堂々と入り、その後ろに俺と水那が続く。

中にあったのは、机の上に小さい山となっているアビリティカードと、その横でやけに元気のない霊夢の姿だった。確かに、随分とアビリティカードを集めているようだ。

 

「おいおい霊夢、どうしたんだ」

「あら魔理沙。それに定晴さんも」

 

霊夢はこちらに気が付くと挨拶をするが、その目の下には隈があるのが丸わかり。どうやら、まともに休憩もしていないようだ。

 

「本当にどうしたんだ。お前がそんなになるなんて」

「ふふ、魔理沙。これはお金の山なのよ。これだけ集めれば私たちはお金持ち……」

 

若干狂気じみたように笑う霊夢。これは重症だな。

流石の魔理沙も、霊夢の様子に若干引き気味だ。霊夢がここまで執着するようなことってないから、珍しいのも相まって怖いのだろう。俺も正直ちょっと怖いし。

 

「……私はこの異変の調査をするぜ。霊夢のことは任せた!」

 

魔理沙は逃げ出すように神社を飛び出した。雨が降る中、魔理沙は遠くへと飛んでいく。

さて、この廃人をどうしたものだろうか。無理にアビリティカードを取り上げても怒り狂いそうだし、穏便に対応せねば。

 

「霊夢、もしかして俺が水那のことを言ったからこんなに執着してるのか?」

「いいえ、定晴さん、違うわ。最初は水那のためにちょっとのお金を貯めるつもりだったけど、これの値段を見てわかったのよ!これは私が求めていた一攫千金のチャンスだって!出所不明の宝船を調べるよりも、よっぽど分かりやすく稼げる手段よ!」

 

うーん、なんだか見覚えが……ああ、マルチ商法に洗脳された人の発言だこれ。外の世界でも何人も見てきた。

こういう人はその理想が壊れると、一度精神が壊れたあとに復活する。特に霊夢のような人は。なので、アビリティカードでは稼げないという事実を突きつけてあげることで元に戻ると思うんだが……

 

「これ一枚で百銭!こっちは百五十銭!こんなにあればいくらでも!」

「霊夢、それ異変産のものだろ?博麗の巫女がそんなことしていいのか?」

「異変から生まれたものでも今でも残ってるものがいっぱいあるわ!それに、これが売買されることで誰の役になるってのよ」

 

売買はそれなりに利益循環ができて得するやつはいると思うが……ひとまず、博麗の巫女としての良識には訴えかけられそうにない。となればやはり……

 

「霊夢それ、在庫抱えて失敗するやつだぞ」

「ふふん、売れればいいのよ売れれば」

「こんだけの量、買ってくれるやつがいるとは思えないけどなぁ」

 

見るだけでも百枚以上はある。俺は売人を見たことがないので、実際にどれくらいの価格で販売されていたのか分からないが……というか、そもそも。

 

「霊夢、これらって買ったやつか」

「ええそうよ。だから買った時より高く売らなきゃ」

「でもこれだけ流通してるってことは……少しでも高い値段で売りつけたら、もっと安いところから買うんじゃないのか?」

 

高くできたとしてもそれぞれ数銭程度だろう。となれば百枚全部を売ったとしても、全部合わせて数百銭。全部売れる確証がないので、これらを揃えるためのお金を取り戻せるとは思えない。

 

「……よし、異変の首謀者をぶっとばすわ」

「霊夢さん!」

「私に大損をさせた首謀者を、私は絶対に許さないわ!博麗の巫女として!」

 

まあ、目的は達成したしいいか。

霊夢は言うが早いか雨の中飛んで行った。水那がその後ろを急いで追いかける。

俺も異変に関して動いてもいいのだが……今回は霊夢も魔理沙も動いているし、俺に依頼が来てないので動く必要はないだろう。多分任せているだけでも異変は解決するだろうし、今回は任せてしまおう。第一、俺はまだアビリティカード売ってるところ見たことないし。

 

「お、やんだか」

 

俺が家に帰る途中で、雨はあがって空に虹がかかる。今回の異変は何日続くだろうか。

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