東方十能力   作:nite

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四百二十五話 山童の売人

早苗の案内で崖に行けば、それは確かに崖と言い切れるように素晴らしく断崖絶壁であった。空を飛ぶ能力がなければ、この崖はまともに登れないだろう。

妖怪の山で禁域とされているらしい崖は、その話とは裏腹に特に何の変哲もないような様子であった。もっと登ればもしかしたら何かあるのかもしれないが、少なくとも麓側には怪しいものは何もない。

 

「すごい崖ですねぇ、こんなのがあるなんて知らなかったです」

「洞窟があるって感じもないな。崖にすごい妖怪が住んでるとか?」

「だとすれば私も知ってるはずです。怪しいものはないですねぇ」

 

妙に興奮している野良妖精や野良妖怪を弾幕で吹き飛ばしつつ、崖に近づいてみる。ほぼ垂直とも言える崖は、断崖絶壁の四字熟語を体現しているかのように聳え立ち、俺たちの視線を上へと導いた。ひとまず、ある程度登ってみるしかないだろう。

と、崖を触っていた咲夜が小さく呟いた。

 

「クライミングにいいわね……」

「クライミングをしてるのか?」

「ひゃいっ!?え、ええ。趣味ですけど」

 

メイド服で崖を素早く登っていく咲夜を想像し……いやいや、流石に咲夜でもクライミングのときくらいは着替えるだろうとクライム装備を重ねてみる。しかし、咲夜がメイド服以外を着ているところをまともに見たことがないので全くイメージが固まらない。

 

「なんだか意外な趣味です」

「あら、あなたがロボットとかを好きなのも意外な趣味って言えるわよ?」

「あはは、誰もが見かけによらないってことですね」

 

ひとまず三人揃って崖に沿って飛ぶ。

咲夜はクライミングにちょうどいいと言っていたが、それにしたって切り立っている崖は人が掴む隙間を与えない。ロッククライミング用の装備をつけていたとしても、この崖を登るのは中々に大変そうだし疲れそうだ。

そんな崖をちょうどいいなんて言う咲夜は……思ったよりも、プロのクライマーなのかもしれない。

 

「にしても、なんで立ち入り禁止になってるんだろうな」

「来てみたけれど分からないですよね。てっきりマグマでも噴き出しているのかと」

「マグマが流れてる程度じゃ幻想郷だと立ち入り禁止にならないだろうな」

 

なんせ地底とはいえ灼熱地獄のようなものがすぐ近くにある世界だし。地上側にしたって、核融合の発電センターなんてものがあるので、マグマ程度で恐れるような住人ではないだろう。

そういえば純粋なマグマを見たことがないなと思い出す。そもそも幻想郷の山と言えば妖怪の山を指すが、妖怪の山は活火山ではない。動物霊の異変のときに山の一部が吹き飛んだわけだが、それだって地下で異様に大きな力を加えられたからである。噴火というよりは爆発だったわけだ。

 

「幻想郷に火山ってあるのか?」

「火山って言っていいのか分からないですけど、一応ありますよ。妖怪の山よりは小さいですが、幻想郷の端っこの方に噴煙が立ち上る山が」

 

それなりに向こうなので日頃は見かけませんが、と早苗は言う。噴火をするわけでもなく、なんなら活火山というわけでもないらしいのだが……じゃあなぜ噴煙があがるのか。

苦笑いをする早苗が口を開こうとするが、ふと行く先に気配を覚えて顔を上げた。

 

「誰かいますね」

「禁止区域の住人ねぇ」

 

雛の話だと、ここらへんで最近騒がしいということであった。つまり、この禁止区域で何かをやっている誰かがいるということだ。

相手は俺たちとは逆に、崖を降りてきているようだ。俺たちが少し距離を取って上を見てみると、そこには緑色の服を着ている妖怪が見える。

 

「見覚えがある顔かと思えば、守矢神社の巫女さんか」

 

彼女は平然と話しかけてきた。どうやら早苗のことを知っているようだと早苗を見るが、早苗は首を横に振る。

 

「えっと、誰でしょう。会ったことありましたっけ?」

「私は山童の山城たかね。妖怪の山に住んでて守矢の巫女を知らない人はいないさ。そんでもってそっちの二人は……」

 

見た目はとても河童のような見た目をしている妖怪少女たかね。俺と咲夜の方を見ると、名乗るのを促してくる。

 

「俺は堀内定晴」

「私は紅魔館のメイド、十六夜咲夜ですわ」

 

俺たちの挨拶を聞くと、たかねは俺たちの姿を全身眺めるように見ると、その目つきが少し険しくなる。

 

「あんたら、人間だよね。ここは妖怪の山、守矢の巫女はともかく、そこの人間二人はどうなんだい」

「調査中だ。そのアビリティカードのな」

 

たかねはその手にアビリティカードが握られている。何枚も持っているところを見ると、集めているというよりも……と、俺が疑問を解決する前に、たかねは殺意を向けてくる。明らかな殺意が俺たちを少し後退らせる。

 

「人間の手にはこのアビリティカードは手に余るのさ。さっさと山から出ていきな!」

「おいおい、戦うのか」

「暴力じゃあこれは扱えないのさ。帰りな!」

 

たかねは宣言そのままにスペルカードを続けようとして、早苗が急いで口を挟んだ。

 

「待ってください!暴力で扱えないってどういうことですか?」

「そのまんまさ。これは取引によって扱えるようになる。誰かから奪ったとしてもその能力は発動しない……」

「でしたら買います!買いますから、ちょっと待ってください!」

 

早苗がごそごそとポケットを探り、財布を取り出した。

何があったのか不明だが、たかねは気が立っていたようだ。だが、早苗が財布を取り出して売買することの意思を示すと、たかねは今にも始まりそうになっていた弾幕を抑え、照れたような表情をして怒気を鎮めた。

 

「なんだ、買い物してくれるなら先にそう言ってよ」

 

たかねは商売人の顔をして、その手に何枚かアビリティカードを広げた。

 

「普通のお金で買えるのか?」

「いいよ。ただ一人につき一枚だよ。一回の取引で買える最大枚数は一枚まで」

「なんでだ?」

「そういう決まりなのさ」

 

理由は分からないが、どうやら購入できるカードは一枚までで、それ以上は売ってくれないようだ。それと同時に、山の上の方が上位の商人がいるようだ。

折角ならとそれぞれ一枚ずつアビリティカードを買うと、別れ際にたかねはついでの情報をくれた。

 

「売人同士連絡をしてるわけじゃないから他の人がどこにいるかは分からないけど……この先には賭場もあって売買が盛んだから、くれぐれも気をつけなー」

 

そうしてたかねはそのまま崖を降りて森の中へと消えていった。山童という種族のことはよく知らないけれど、名前からしても森の中に住んでいるのかもしれないな。

 

「ひとまず、もっと山を登ればいいってことですね!」

「そうみたいね。定晴様、行きましょう」

「登るだけで終わればいいけどな」

 

そこはかとなく不安を覚えつつ、先ほど買ったアビリティカードを握りしめて行く先を見つめた。

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