東方十能力   作:nite

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四百二十八話 斜面道中

洞窟から出ると、外はだいぶ暗くなっていた。遠くの山に沈みゆく太陽が、もう少しで星々が現れることを示している。

そんな夕日で影を作るように、洞窟の外には一人の姿があった。

 

「こんなかにいたのか。何もなかっただろう」

「あんたは?」

「駒草山如。ここで見張りをしてたんだが……ちょっと目を離したらあんたらが入ってた。中は危険だから見張りをしてたんだが」

 

山如はふぅっとタバコの煙を吐き出した。どうやら、幻想郷では珍しくヘビースモーカーの類らしい。今まで幻想郷に住んでいてタバコを見るのは、何気に初めてかもしれない。山如が吸っているのはタバコというよりもキセルと言えるもので、そこから煙がプカプカと浮かんでいる。

見張りをしていたという言葉に反応をしたのは早苗。なんとも気まずそうな顔をしたあとに、呟くように言った。

 

「えっと……戦います?」

 

山如はそれに煙を一つ。

 

「戦う意味はないだろう。その様子だと、このまま山を登るんだろう?」

 

早苗の気遣うような言葉を、山如は否定した。

なんとも言えない空気が俺たちの間に流れ、山如の煙がふわふわと夕焼けに消えていく。

 

「自分はここにいるから、さっさと行きな」

「えっと、じゃあ、失礼しまーす……」

 

そそくさと山を登っている。振り返れば、山如は夕焼けを見ながら静かにキセルを吹いており、なんだかロマンのようなものを感じる妖怪だと思った。俺はタバコは吸わないけど。

山如のことを警戒したままの咲夜を横目に、早苗にふと浮かんだ疑問をぶつける。

 

「知ってる妖怪か?」

「いいえ。定晴さん、私って意外と妖怪の山の妖怪を知らないんですよ?妖怪もいっぱいいますし、守矢神社に来てくれないと話す機会もそうありません」

 

なので妖怪の山は皆友達とかありませんから、と早苗は言う。

妖怪の山というのは幻想郷で一番大きい山であり、それでいて代表的な山である。そこに住む妖怪は数だけでなく種類も豊富で、天狗をはじめとした有名な妖怪から、山童のようにあまり知られていない妖怪だって住んでいる。

確かに俺も家の周囲にいる妖怪を全部把握してるわけじゃないしな、と思っていると、ガサガサと大きな音を立てながら何かが森の中から近づいてきていることに気が付いた。

 

「なんだ?」

「あ!ここはもう天狗の領域です!もしかしたら哨戒天狗かも……」

 

俺も妖怪の山に立ち入ることを許可されている身だが、それでも天狗の総本山的なエリアには入れない。いわゆる、大天狗だとか天魔とかが住んでいるエリアのことだ。そこに、いつの間にやら侵入してしまっていたのだと早苗が言う。

そんな情報を受け取っている間に、音の主はすぐそこまで来ていて、バサァ!という大きな音と共に茂みの中から飛び出してきたそれは、確かに天狗の象徴たる黒い羽が生えていたが……

 

「あや?皆さん、お揃いでどうしたんですか?」

「文さん!」

 

緊張していた早苗の表情が一瞬で和らぎ、笑顔を浮かべて文に抱きつく。文は突然ハグをされたことに目を白黒とさせつつも、冷静を装った。

 

「ええっと、本当にどうしたんでしょう。迷子になりました?」

「いやー、てっきり強い天狗が出てくるかと思って怖かったんですよー」

「ちょっと待ってください、私も強い天狗ですって!」

 

早苗が安堵しながら文を強く抱きしめるが、文は早苗の発言に抗議をしたいらしい。文は幻想郷の至るところで見るような妖怪ではあるものの、確かに烏天狗として幻想郷最速の名を欲しいままにし、その妖力も大妖怪に匹敵するほどのものだ。

それを強い妖怪じゃないと言われれば、確かに文としては納得できないのだろう。早苗の心情を思えば、安心できる天狗が出てきたという意味なのだろうが。

早苗を文から引きはがしつつ文に事情を説明してみれば、文は不思議そうな顔をした。

 

「この先に異変の犯人が……?」

「ああ、そういう情報を掴んだ」

 

文は山の上の方を見る。もう少しで山の頂上というところで、この位置は大体七合目、八合目くらいだろうか。

 

「この先は、えっと、上司の仕事場だとか家だとかしかありませんよ?」

「それは私も知ってるんですけど、天狗が犯人ってことはありませんか?」

「うーん、そういう話は聞かないんですけど」

 

文はジャーナリストとして、異変の情報も素早く集めることを信条としている。そのため、秘匿されたことでもない限りは文も知っていることが多いのだが、残念ながら文は首を横に振った。

あの人が嘘をついていたんでしょうか、と早苗が呟くと同時に咲夜がナイフを突き出した。

 

「隠し事をしてないでしょうね」

「ひいい!私がなぜ今更隠し事を!?危ないのでそのナイフを片付けてください!」

「咲夜、落ち着け」

 

先ほど洞窟で魅須丸と出会ってからというもの、咲夜の機嫌がちょっと悪い。なんだかイライラしているという様子で、俺が声をかけると恥ずかしそうにしながらナイフをしまう。

そんな咲夜の姿を見て早苗がニヤニヤしているが、それよりも先に文から情報を引き出そう。

 

「天狗が最近怪しいことをしているって話は聞かないか?」

「いえ、あまり……勿論、私たちのところまで降りてこない情報っていうのも多いので、大天狗とか天魔様が何か秘密裏に物事を動かしているなら私は知る由もないんですけど」

 

文曰く、この先は天狗以外は自然発生する妖精くらいしかおらず、実質的に完全なる天狗領域と化しているらしい。そのため近づけば哨戒天狗に攻撃され、侵入すれば妖怪の山全域から攻撃が飛んでくるという。

妖怪の山に住む妖怪たちも、頂上には近づかないようにしているらしく、まともな理性があるものであれば近くに住むこともしないのだとか。

 

「その情報ってどこで手に入れたんですか?」

「洞窟の中にいたやつだ。ここをまっすぐ降りたところの」

「禁域に?うーん、気になる……けど予定が……」

 

どうやら文は予定があって、こんな時間だというのに今から迷いの竹林まで行くらしい。洞窟のことを気にしてはいるが、時間も迫っているという。

 

「折角永琳さんにアポがとれたので、これを逃すわけにはいかないんですよね。あーもうっ、体が二つ欲しい!」

「あはは、頑張ってこい」

「はーい、面白いことが見つかったらあとで取材させてくださいねー!」

 

そう叫ぶように言った文は、風を巻き起こしながら迷いの竹林の方まですっ飛んで行った。やはり幻想郷最速の名は伊達じゃない。

困った顔を浮かべたままの早苗に代わり、咲夜が口を開いた。

 

「天魔に直接聞けばよろしいのです。ナイフで脅せば口も開くでしょう」

「そんなことをしたら紅魔館が妖怪の山から敵対されますよ!」

「ふふ、私たちにかかれば妖怪の山なんて敵ではありません」

 

ナイフを夕日で光らせながらそう言う咲夜。うーん、やはり幻想郷の住人は血気盛ん。

慌てるように咲夜のナイフを下げさせた早苗は、空を見て口を開く。

 

「どのみち、そろそろ夜になります。夜だと妖怪相手じゃ分が悪いですし、また明日にしませんか?」

「……それもそうね。そろそろ帰ってお嬢様たちのご夕食をお作りしなければ」

「俺も夕食を作らなきゃだ」

「私も、諏訪子様と神奈子様にここまで遅くなると伝えていませんのでそろそろ帰らないとです」

 

俺たちは皆食事を作らないといけない相手がいる。まあ俺の場合は式神通信で伝えれば勝手に作って食べるだろうけど、できるなら揃って食事はしたい。

夜になれば妖怪たちは昼間よりも強い力を持ち、攻撃性も上がるため、分が悪いという意見も賛成だ。わざわざ夜に妖怪と戦おうとする人なんてそういない。

 

「じゃあまた明日行くということで……」

 

そうして俺たちが踵を返そうとしたら、新たなる強い風が俺たちを打ち付けた。そのまま通り過ぎるかと思われた風の発生源は、俺たちに気が付いたようで戻ってくる。

 

「おお、お前らじゃないか!もしかして異変解決か?」

「魔理沙さん!」

 

服の一部をほつれさせつつも、怪我一つない姿で箒に跨る魔理沙は、にやりとしつつ山の頂上を見る。

 

「この先に怪しいやつがいるって聞いたんだぜ。その様子だと帰るみたいだが……そんなんじゃ私が先に解決しちゃうぞ?」

「夜に妖怪と戦いたくありませんし、私たちも用事があるんですよ」

「ははーん、それだから家に同居人がいる奴らはだめなんだぜ。身軽さが足りないってんだ!」

 

そう言って魔理沙は妖怪の山の頂上に向かって飛んで行った。どうやら、夜の妖怪に戦おうとする人もいるらしい。

 

「追うか?」

「うーん、競争じゃないですし、異変解決も大事ですけど、諏訪子様たちのことも大切なので」

「私は元々異変解決はそこまでメインじゃありませんので。定晴様が行くと言うのなら、お付き合いさせていただきますが」

「いや、俺も追う気はないよ。帰れるなら、帰れるうちに行っちゃおう」

 

そうして俺たちは妖怪の山を下りた。もしかしたら、明日の文々。新聞の一面は魔理沙の異変解決記事かもしれないな。

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