東方十能力   作:nite

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四百三十二話 寒い日はドリアと共に

早苗と咲夜の二人がかりによる尋問により、たかねは自白をさせられた。曰く、特別な貨幣が必要だったことは知っていたが、先に早苗が普通のお金を取り出したため、それでもいいだろうとその場で判断したらしく、騙したつもりはなかったらしい。

涙目で鼻水すらも出ていたたかねは、特別な貨幣で取引しないと効果が出ないことを把握していなかったという。咲夜のナイフを何度もその身に掠りながら白状している姿は、随分とみすぼらしく見えた。

 

「えぐっ、えぐっ……」

「返金対応、ありがとうございました」

 

大粒の涙を流すたかねを前に、飄々と感謝の一言を述べナイフを片付ける咲夜。泣いているたかねに財布を取り出させ、脅しながら返金対応を受ける姿は……どちらが悪者か分かったものじゃなかった。たかねも、騙すつもりがあって騙したわけじゃないみたいだし、そこまで責めなくても。

満足げな咲夜を前にすると、脳裏にナイフがちらつき何も言えなくなるのであった。

 

「さて、随分と遠回りをしてしまいましたね。既にお昼になってしまいましたし……」

「妖怪の山を上から下まで往復しましたからねー」

 

慰謝料などは取らず、あくまで返金分だけのお金をそれぞれの財布にしまいながら、まるで何事もなかったかのようにたかねの家を出る二人。俺はこっそり再生の力をたかねに使ったあと二人のあとを追った。

咲夜は懐中時計を見た後、こちらの方を見てもごもごと呟いた。

 

「それで、その、よければ紅魔館で昼食はいかがですか?勿論、早苗も」

「咲夜さんの料理ですか!食べます!」

「貰おうかな」

 

妖怪の山とはいえ、この場所は随分と麓に寄っている。紅魔館も、ここからそう遠い場所ではない。

今日のスケジュールは分からないからと、昼食も夕食も外で食べるということを式神の二人には事前に伝えておいた。紅魔館で食べることになっても何も問題はない。

 

「それでは行きましょうか」

 

惨状には目もくれず、咲夜と早苗は飛び上がった。ふと山童の里の中央の方を見ると、気絶した山童たちが並べられ、救護班っぽい人たちに介抱されているのが見えた。河童の何人か増えており、にとりと同じように色々とやることをやっている。

あとで詫びを入れに来た方がいいかなぁと思いつつ、俺は紅魔館の方へと移動した。

 

紅魔館では美鈴が寒そうに門番の仕事を全うしていた。マフラーを巻いて手袋をつけているものの、やはり寒いものは寒いらしく、眠ることもできずに立ちっぱなしのようだ。

 

「おかえりなさい。それに、お二人ともいらっしゃいです」

「ご飯貰いに来ましたー」

「お疲れ。失礼するぞ」

 

あったかグッズの類を持っていないので、美鈴には労いの言葉だけかけて中に入る。

まだ雪は積もっていないものの、だいぶ冷え込み植物に悪いからか、外に置いてあった植木鉢の類はすべてなくなっていた。きっと新しく作られた温室の方に移動したのだろう。

そうして扉を開けると、誰よりも早く大声をかけられた。

 

「お兄様!」

「定晴!」

「うわ、二人とも」

 

エントランスには、フランとこいしの二人が並んで待ち構えていたかのように立っていた。咲夜が仕込んだのかと視線を向けると、咲夜はこんなことは知らないとばかりに首を振る。

なんだと思っていると、フランが宣言するかのように語りだした。

 

「お兄様が来たかどうかは部屋から分かる!」

「そうだそうだ!定晴の気配なら分かるもん!」

「何そのレーダー」

 

どうやら、こいしが紅魔館に遊び来ていて、フランの部屋で遊んでいたらしい。そこに俺が来たのを、どういうわけか第六感で知覚し、俺が入ってくるのを待つべくエントランスで立っていたという。

咲夜も若干困惑気味だし、本当に連絡もなしにフランの部屋から知覚したらしい。気配探知とはいえ、相当な距離があるのでだいぶ高精度だ。

 

「咲夜が異変調査って言ってたけど、遊びに来たの?」

「ちょうど昼時ですので食事に。妹様とこいし様も食べますか?」

「「食べるー!」」

 

二人して、わー!と食堂のほうへと走っていく。二人とも俺や早苗よりも長く生きているはずだけど、あの姿を見ればまだまだ少女らしい。

咲夜がキッチンの方へ移動したので、俺と早苗も食堂のほうへと移動する。咲夜から希望を言われたので、温かいものと伝えておいた。寒い外にずっといたから、体が随分と冷えてしまっている。

 

「定晴さん、紅魔館の地図に詳しいんですね」

「何度も来てるからな」

 

俺が迷いなく歩くものだから、早苗から感心するような反応を貰った。

一週間に一度くらいのペースでここに来るので、随分と広い紅魔館だというのに地図も覚えてしまった。とはいえ、俺が行くのは食堂やキッチン、フランの部屋や応接室、図書館などの主要なところばかりで、俺が一回も行ったことのない場所も存在している。聞いたところだと、そっちにはメイド妖精だとか咲夜の部屋があるのだという。

食堂、というと大衆的なものを思い浮かべてしまうが、その実、大講堂くらいの広さはある。真ん中に広くて横長い机があり、そこに明らかに住人よりも数の多い座席が並べられている。

端っこの、いわゆる誕生日席的な場所はレミリアの場所なので、俺たちは既に座っているフランとこいしの横に座ろうとした。

しかし。

 

「お兄様、横に座ろ」

「定晴、こっち」

 

横に並んでいたフランとこいしが、間に一個開けるようにして移動した。そして、二人の間に座るように促してくる。

まあじゃあそこに座るか、と思いきや、横から腕を引っ張られる。

 

「定晴さん、こっちに座りましょ」

 

早苗が腕を引いて、二人とちょっと離れたところに誘導してくる。それを見て頬を膨らませるフランとこいし。

喧嘩しないでほしいなぁ、と思っているのだけど、俺の右腕を引っ張る早苗を無理に引きはがすのも思うところがあり、そのまま流されるように早苗の隣に座った。早苗は非常にニコニコしてご満悦な感じだが、フランとこいしが睨んできている。

と、二人が立ち上がり、こっちまで走ってきた。

 

「じゃあ私ここ!」

 

こいしが俺の隣、早苗の反対側に座った。すると、行き場を失ったフランはキョロキョロ。

正直どこでもいいのだけど……と、思っていたらフランはそのまま俺の座席に近づいた。

 

「じゃあ私はここ!」

 

そうしてフランは俺の膝の上に座る。キラキラした羽が俺の腕に当たるが、フランはそれを気にせず羽をパタパタさせている。

 

「ずるーい!」

「へへーん」

 

どうしてそこまで俺に近づこうとしてくるのか。あと、俺の上は食べにくかろう。

 

「いいよね、お兄様?」

 

真上を向き、俺の顔を見てくるフラン。その目の中がとてもきらきらしていて、満面の笑みだった。

 

「はぁ、分かった」

「えへへぇ」

 

諦めることにした。のだが。

 

「あーでも、ちょっとどいてくれ。トイレに行ってくる」

「はーい」

 

フランは大人しく俺の膝から下りる。聞き分けはいいんだけどなぁ……

 

………

 

定晴さんがトイレに行って、フランちゃんは定晴さんが座っていた椅子に座る……と同時に体育座りの姿勢になって顔を埋めた。

 

「うああああああ~」

 

そして呻き声を出し始めた。耳元まで真っ赤になってる。

 

「フランちゃん、恥ずかしいならやめればいいのに」

「こいしちゃんが先に座っちゃうからでしょ!お兄様の近くに座りたかったもん」

「じゃあ正面に座ればよかったのでは?」

「なら早苗が移動して」

「嫌ですよ!」

 

顔を真っ赤にしているフランちゃんは、どうやら定晴さんの膝の上に乗るのが恥ずかしかったらしい。妹キャラを貫くのにはだいぶ無理のあるような反応だなぁ。こんなのただの女の子と変わらないよ。

 

「そんなので、普通に食事できるの?」

「できる!……と、思う、多分」

「無理そぉ……」

 

こいしちゃんが呆れるけど、私も同感。

それにしても、定晴さんの膝の上かぁ。流石に座るのは難しいかもしれないけど、定晴さんに膝枕とか……わぁ、されるのもいいし、するのもいいなぁ。どちらにせよ定晴さんの顔が近くなって……えへへ。

 

「ちょっと、妹様に悪影響な顔をしないでよ」

「わぁ!咲夜さん」

 

いつの間にやら、手に料理を乗せた咲夜さんが立っていた。温かな湯気が出ているそれは、スープみたいに見えたけど、立ち上がって見てみれば、それはグラタンのようだった。

 

「定晴様は?」

「トイレです」

「そう」

 

そうして私の前とフランちゃん、こいしちゃんの前にそれぞれ料理を置いていく。そうして一個、どこが定晴さんの席なのか聞くと、フランちゃんが手を挙げる。

 

「私のとこ!私はお兄様の膝の上で食べるんだぁ」

「……分かりました」

 

そうして咲夜さんが料理を置いたところで、定晴さんが戻ってきた。フランちゃんが椅子を降り、定晴さんが座ると流れるように膝の上に座った。顔を真っ赤にしながらも、とっても幸せそう。

 

「ドリアをお作りしました」

「おお、美味そうだな」

 

定晴さんがスプーンを手に取り、そのままドリアを掬う。私もドリアをスプーンに乗せて一口で……とっっても美味しいいい!

 

「咲夜さん、すごい美味しいですよこれ!」

「ああ、本当に。流石咲夜だな」

「メイドとして当然のことです」

 

咲夜さんは澄ましたようにそう言うけれど、口元がもにもに動いているから多分嬉しいんだと思う。咲夜さん、昨日やっと自覚したわけですし、もっと嬉しそうにしてもいいんですよ。

そうしてしばらく私たちはドリアに舌鼓を打った。恥ずかしそうに、定晴さんから「あーん」してもらうフランちゃんが特に印象的だった。

 

勿論、私も一口「あーん」してもらいましたとも!

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