東方十能力   作:nite

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四百三十五話 魅須丸の提案

「魅須丸!何か知ってるのなら話してもらおうか」

「一度で名前を憶えてくれるのはいいですね。博麗の巫女は名前を憶えてくれなかったので」

 

そのまま境内に降り立った魅須丸は、霊夢への愚痴を言いながらため息をついた。霊夢は興味のないことに対して覚えようとする努力が一切ないので、名前を憶えていないのも致し方ない。

魅須丸は早苗の方をちらりと見た後、まだ諏訪子と何かを言い合っているのを確認してから俺たちに向き直った。

 

「あの子にはあなたたちから説明してください」

「それはいいが……」

「なので、そっちのメイドは殺意を向けないで……向けさせないでくれませんか?」

 

見れば、咲夜がナイフに手をかけて鋭い視線で魅須丸のことを睨んでいた。戦ったわけでもないというのに、随分とはっきりとした殺意である。

俺は咲夜を手で制止しながら、魅須丸に話の続きを促した。

 

「ありがとうございます……結論から言いますと、あれは虹龍洞という洞窟です」

「虹龍洞?」

「色々と言われはありますが、簡単に言えば龍珠を掘ることができる洞窟です」

 

虹龍洞とは、幻想郷でも珍しい鉱石に似た物質である、龍珠を掘ることができる場所なのだと魅須丸は言いだした。龍珠は今までも様々なものの材料として使われており、霊夢の陰陽玉もその龍珠を加工して作られたものだと言う。つまり、幻想郷においてとても大切な場所であるということらしい。

だが、その奥が無酸素空間になっているというのは嘘ではないらしく、人間にとっては危険な場所だという。それを説明するときに咲夜の殺意がまた膨れ上がって、魅須丸が冷や汗をかきながら話していたので、嘘をついていることはないと思われる。

 

「つまり、虹龍洞は本当に今回の異変とは何も関係がないと?」

「はい……と、言いたいのですけど」

 

魅須丸は悩むような顔を浮かべる。

 

「実は、はっきりと無関係とも言えない状態になってしまって」

「と言うと?」

「あの流通元が虹龍洞と言えるような……」

「はっきり言いなさい」

 

魅須丸が濁すような言葉を選ぶものだから、咲夜の殺意がさらに高まり、ナイフをとうとう抜いて魅須丸へと向けた。魅須丸が手を挙げて降参のポーズをするものだから、俺は咲夜の手を無理やり下げさせて宥めるように動くしかなかった。

なぜかは知らないが、咲夜の魅須丸に対する敵意がマックスになっているようで、一言一言に敏感になり、すぐに殺意を出してしまうらしい。

 

「あー……咲夜、早苗のフォローにいってくれないか?」

「……かしこまりました」

 

最終的に、咲夜を早苗の方に行かせて、魅須丸を守るしかなくなった。早苗はいまだに何かを諏訪子と言い合っているし、ちょうどいいだろう。会話はスムーズに進むし、早苗の助けにもなるので一石二鳥……ということにしておこう。

ずっと殺意を向けていては咲夜も休まらないだろうし、仕方のない判断だったのだ。

 

「さて、本題に入りましょう」

「そうしてくれ」

 

咲夜が渋々と早苗の方に行ったので、魅須丸から事情聴取を再開する。守矢神社で話し合いをするはずだったのだが、いつの間にやら俺は一人になっていた。

 

「その龍珠という物質、アビリティカードの原材料になっているみたいです」

 

製造過程や加工工程は不明なものの、魅須丸の調べでは、アビリティカードに加工されて流通しているらしい。そして、その龍珠を掘っているのが、俺たちが先の虹龍洞で出会った妖怪とのこと。名を姫虫百々世、大蜈蚣の妖怪らしい。

あれが黒幕というわけではなく、あくまで龍珠を掘っているだけの存在とのことだが、アビリティカードの流通を止めるという意味ではあれを止めるのも手段の一つとのことらしい。

だが、魅須丸が言いたいのはそういうことではないらしく。

 

「あれが龍珠を食べているようです」

「……食べれるようなものなのか?」

「いえ、そんなわけありません。特殊な鉱石のようなものなので、普通なら口に入れようとさえ思えません」

 

百々世はだいぶ特殊な妖怪らしく、魅須丸も全容は把握できていないらしい。だが、龍珠を食べるという行為は魅須丸としてはあまり許容できることではないとのこと。

 

「少なくとも、あれを止めればこれ以上アビリティカードが流通することを止めることができます」

「ふむ……」

 

なるほど、確かにアビリティカードがなくなれば異変は終わるとみていいだろう。現在既に流通しているアビリティカードは別途対策しないとはいけないが。

なのだが……

 

「それで、俺たちにあれを止めろと?」

「ええ。あなたたちにも利があることでしょう」

「……断る」

 

利、ないし。

 

「はい?異変解決が目的ではないのですか」

「解決、解決かぁ」

 

ではここで、俺たち三人の目的を振り返ってみよう。

俺は言わずもがな、ただの付き添いだ。咲夜と早苗の二人に誘われたから一緒に行動しているわけで、積極的に解決しようというわけではない。それに、正直そこまでアビリティカードが脅威だと思っているわけではない。

咲夜はパチュリーの研究資料集めのために、アビリティカードを集めるために調査をしている。一応紅魔館関係者のアビリティカードは積極的に止めようとしているみたいだが……

早苗は俺たちの中だと比較的異変解決に前向きのようだが……

 

「正直、俺たちって何がなんでも解決してやろうってわけじゃないんだよな。どちらかと言えば好奇心に近い」

「えぇ……」

「都合があるなら魔理沙か、それこそ霊夢にでも頼んだ方がいい」

 

と、俺がそう言い切ったところで、やっと諏訪子と早苗の言い合いが終わったようで、顔を真っ赤にした早苗とニコニコした諏訪子、そして珍しく疲れたような顔をしている咲夜が戻ってきた。

 

「あれ、なんでこの人ここにいるんですか」

「俺たちに虹龍洞……さっきの洞窟の奥にいたあれを倒してほしいんだとよ」

「なぜ自分でやらないんですか?」

 

早苗が直球で質問を投げかける。魅須丸は悩むような顔をしたまま口を開かない。

ついでに俺が事情を聞いていなかった部分を三人に説明する。その間も魅須丸は何も言おうとはしなかった。

 

「うちとしては別にどっちでもいいんだよねぇ。ただ、早苗が定晴と一緒に異変解決したって言うからさー」

「紫さんやルーミアさんだけずるいですもん。私だって定晴さんと解決したいです」

「そういうわけであまり気にしてないんだよ。まあ、神様としてうちの子がボロボロになるのはあまり見たくないから、そこまで危険なところには行かせたくないけどね」

 

諏訪子があっけらかんと言うと、魅須丸はため息をついて、ふわりと飛び立った。

 

「ならいいのです。異変調査、頑張ってくださいね」

 

そうして魅須丸は飛んで行った。最後の言葉は、多分皮肉だろう。

 

「なんだったんでしょう、あれ」

「あっちはあっちで何か知ってるみたいだったけどな。とはいえ、今の俺たちにはあまり関係ないか。諏訪子と早苗は一体何を話してたんだ?」

「あ、それ聞いちゃうー?」

 

諏訪子がニヤニヤとしだし、早苗の顔が少しずつ赤くなっていく。そして諏訪子が何かを言おうとした瞬間、早苗が俺と早苗の手を掴み、

 

「さあ、調査の続きですよー!」

 

と大声で宣言して飛び立った。俺と咲夜は顔を見合わせたあと、くすりと笑って空に浮かぶ。

後ろから諏訪子のあーあという声を聴きつつ、俺たちは妖怪の山上空へと飛び立った。

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