東方十能力   作:nite

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四百三十七話 野菜スープ

商人というのは連携がされているわけでもないようで、他の商人のことを訊いても特に答えてくれなかった。換金の妖怪にも訊いてみたけれど、首を横に振るだけで口を開いてはくれない。

仕方なく歩いて探すかといったところで、早苗が屋台の前で立ち止まる。

 

「温かいものも、飲みませんか?」

 

早苗が指さした屋台は、野菜スープを売っている屋台。屋台の周囲では子供たちが集まって、あまり騒がず静かにスープを飲んでいる。寺子屋には現代社会ほど優れた暖房器具はないので、体が冷えてしまったのだろう。子供は風の子と言うが、だからといって皆が皆寒い中遊べるわけではない。

 

「三杯頼む」

「私も飲むー!」

「じゃあ四杯……うん?」

 

店主がはいよと言いながらスープを注ぎ始めるが、俺は声が気になり声が聞こえてきた下を向く。

そこには、目をキラキラさせたこいしが、いつの間にか立っていた。

 

「こいし!」

「わあ、こいしちゃん!?」

 

びっくりして後ずさる俺と早苗。咲夜は飄々としているが、こいしが来ていたことに気が付いていたのだろうか。こいしは人里で能力を使うことを禁じられているはずなので、単純に俺たちが気が付かなかっただけなのだろうが……

 

「えへー、定晴!」

 

こいしがキラキラした目のままに俺を見る。いやまあ、人里に馴染んでいるのはいいと思うのだが。

 

「それに、早苗さんと咲夜さん、こんにちはー」

「あ、はい、こんにちは」

「ごきげんよう、こいし様」

 

店主が野菜スープを注ぎ終わり、順次受け取る。流れでこいしの分も頼んだので、こいしにも渡してあげる。他にも並んでいる人がいるので、横によけて子供たちの集まっているところを邪魔しない位置でスープを飲み始めた。

 

「「「ふぅ……」」」

 

スープを飲んだことで大きく息を吐く俺と早苗、こいし。咲夜は息を吐くことはしないものの、リラックスしているようだ。やはり、寒い日に温かいスープを飲むと心が落ち着くな。

 

「ありがとね、定晴」

「スープ一杯くらい気にするな。それで、どうしてここに?」

「んー、定晴の気配がしたから!」

 

なんだかこいしもフランみたいなことを言い出した。前に紅魔館でフランが入る前に待っていて、その時にフランも俺の気配を感じたとかなんとか……魔力とか霊力じゃなく、気配を掴まれるとなると奇妙な気分だ。俺も人の気配は分かるけど、それが誰の気配かなんてわからないし。

どうやら先ほど紅魔館でフランと遊んであと、そのまま人里に帰ってきたようだ。こいしもだいぶ忙しい。

 

「それで、三人は調査中?」

「なんですけど、もう終わりそうって感じですかねー。こいしちゃんは何かアビリティカードについて知りませんか?」

 

早苗がそう訊くと、こいしはスカートのポケットをごそごそして、一枚のアビリティカードを取り出した。そこには、こいしの被っている帽子と同じものが絵柄として描かれていた。

 

「私はこの私のアビリティカード買ったくらいかなぁ」

「これも、人里の商人から?」

「うん。アビリティカードには興味ないんだけど、自分のものがあったから」

 

自分の絵柄があるということは、他の地霊殿メンバーのものもあるだろうということで、見かけるたびに並んでいないかチェックだけしているらしい。さとりのアビリティカードとか、だいぶすごい性能をしていそうだ。お空のものだって火力が凄そうだし、お燐は……使いやすそう。

咲夜もそうだが、基本的には家族や仲間のアビリティカードを集めている人が多いようだ。人里の人たちは単純に強いアビリティカードを目当てにしていると思われるが、そんなものがなくとも戦える人たちにとっては、ただのコレクションアイテムでしかないのだろう。

 

「それと、定晴のアビリティカードもあったら欲しい!」

「あ、それ私も欲しいです」

「確かに、定晴様のものは持っておくといいことがありそうです」

 

うーむ、俺のアビリティカードか。今のところアビリティカード一枚につき出来ることは一つなので、俺の能力で何が選ばれるのかが問題だな。無効化のアビリティカードがあれば強そうだが、果たしてあれをアビリティカード程度のものに再現できるか……

 

「こいしちゃん、他に人里でカードを売っている場所は知りませんか?」

「うーん、日によって場所は違うみたいだし、私はまだそこしか知らないなぁ」

 

こいしは先ほど俺たちも買った人混みを指さす。こいしは今日も人里の中を適当に歩いていたらしいが、それでも一か所でしか見ていないということは、人里には同時に一つまでしか店は出ないのだろうか。

換金役の妖怪も必要のようだし、そこまでの人員を割くのは難しいのかもしれない。

 

「あ、でも、なんか怪しい人は見たよ」

「怪しい人?」

「うん。藍さんじゃない、すっごい怪しい雰囲気の狐の人ー」

 

こいし曰く、見た瞬間信用できないタイプの人だとなったらしい。狐の妖怪が人里にいるのは藍のおかげで変じゃないせいで、人里の人たちからはあまり気にされていなかったということだが……

こいしは他人の善し悪しを判断する能力が高い。それは勘のようなものではあるものの、今までの経験則から培われた勘は高い精度を誇る。霊夢の勘を、善し悪しに全振りしたような性能だ。

 

「定晴、気を付けてね」

「ああ。こいしこそ、危ないことはしないようにな」

「お姉ちゃんと約束したから。人里の中じゃ変なことはしないよ」

 

真面目な顔をして言うこいしの頭を優しく撫でる。家族との約束をしっかり守れるこいしは偉い子だ。

こいしは俺に抱き着いたあと、手を振って別れた。このあとは夜ご飯用に買い物をしないといけないらしい。

 

「じゃあ、折角だからその怪しい狐とやらを探すか」

「……いいなー」

「早苗?」

「ひゃい!?なんでもないです!」

 

軍人のようにビシリと敬礼をする早苗。

俺たちはスープ容器を返却し、狐探しに出るのであった。

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