東方十能力   作:nite

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四百三十八話 怪しい狐

こいしが遠目で見た姿を教えてくれていた。狐の比較対象は藍だ。

藍とは違い白い狐で、藍のようにたくさんの尻尾は持っておらず、藍のような柔和な雰囲気はない、とのこと。どうやらこしいの中で藍はだいぶいい妖怪として位置づけられているらしい。実際、藍はいい妖怪だが。

 

「でも、それならすぐに見つかりそうですね。幻想郷で狐の妖怪っていうのはそんなに多くありませんし」

「だな。なんならそこらへんの奴らに聞き込みすれば、情報もすぐに見つかりそうだ」

 

狐というのは森の中にいっぱいいたりするのだが、その妖怪となれば途端に数が少なくなる。

妖狐は他の妖怪のように、人々の恐怖から具現化した存在とは少し違う。ただの狐が何かしらの要因で長く生き、そして妖狐となり、さらに長い年月を経て人の姿を得る。そのため、幻想郷といえど、人の姿をしている狐の妖怪というのは少ないのだ。

 

「すみませーん!」

「はいよ。どうした守矢の巫女さん」

「白い狐さんを見ませんでしたかー?」

 

洋々と待ちゆく人に話しかける早苗。早苗は人里での布教活動の甲斐あってか、人里での知名度はそこそこ高いので、相手もフレンドリーに対応してくれる。そのコミュニケーション能力は、流石巫女さんといったところ。

だが、その人は首を横に振る。仕事をしていたので見ていないそうだ。

すると、早苗はその後ろの人にすぐに話しかけていく。さらに次、次、次……首が縦に振られるまでずっと続けるつもりなのだろう。布教活動における根気は、こういったところにも活かされる。

 

「あの積極性が、私は少し羨ましいです」

「咲夜もできるんじゃないのか?」

「いえ、その、知らない人が相手だと怖がらせてしまって……」

 

そういえば咲夜は基本的には無表情がデフォルトだった。親しい人の前では年相応の少女らしい表情もするが、初対面相手だと瀟洒でクールなメイドさんになるのであった。

吸血鬼のメイドということもあって、半端に咲夜のことを知っている相手や全く知らない相手だと怖がらせてしまうのだろう。それに、今回の異変解決に付き合って分かったけど、咲夜も大概好戦的であるということも分かった。雰囲気的に近寄りづらいところがあるのは納得である。

 

「定晴さーん、聞いてきましたよ」

 

しばらくすると早苗が戻ってきた。だいぶ向こうから走ってきたので、結構な人数相手に聞き込みをしたことが分かる。

 

「どうやら既に人里を出て行ってしまったようです。門番さんが言っていました」

「門番まで聞きに行ったのか……」

「出入りした人物のことを一番把握してますから」

 

俺が人里に初めて来たとき、知らない人物だからと警戒されたことを思い出す。彼は今も職務に忠実に、出入りしている人物をすべて記憶しているらしい。

逆に、そんな彼がすんなりと通しているということは、その白い狐は人里の常連ということになる。こいしは怪しい雰囲気だと言っていたけれど、少なくとも危ない妖怪ではないのだろうか。

 

「飛んで行った方向は妖怪の山とのことで……」

「……あれ、じゃあまた妖怪の山に戻るのか」

「ですねー。夜になる前に決着をつけないと」

 

ふんす、と意気込む早苗。今日も今日とて、夜までには帰ろうという門限付き異変解決である。

冬の夜は早いので、できる限りさっさと移動しよう。俺たちは人里から出て、妖怪の山へと向かった。すると道中、見知った顔に出会う。

 

「おやおやおや、昨日の三人組じゃないですか」

「文じゃないか。今日も取材か?」

「取材終わりですねー。印刷の頼み事を終わらせたので、散歩中です」

 

びゅんびゅんと風を靡かせながら飛んでいる天狗は、取材終わりの射命丸文。俺たちが一緒にいることに気が付くと同時に、その手にはメモが握られていた。

 

「異変進捗、どうですか?」

「それが全然……文さんこそ、何か追加情報ありませんか?」

「私ですか?昨日の取材終わりから、基本ずっと編集をしていたのであまり出歩いていないんですよね。山童の集落で騒動が起きたことは知ってますが」

「それは私たちです」

「ええ、犯人も知ってますとも」

 

今朝の出来事だったのだが、きちんと情報を掴んでいるあたり、流石はプロである。一体どこから情報を集めているんだか。

 

「そうだ、文さん、白い狐は見てませんか?」

「白い狐ですか?妖怪の山では狐は目立つので見てたら覚えてると思いますけど、生憎何も」

「じゃあ、虹龍洞という場所は知ってますか?」

「最近駒草大夫さんがいる場所ですね。賭場代わりに入り口が使われていますが、中は危険なので入らないようにしています」

 

文が平然と、俺たちがつい最近知った情報を口にする。口ぶり的に、文は最近知ったというわけでもないらしく、鮮度の高い情報というわけでもなさそうだ。

早苗も同じことを思ったようで、疑問を口にした。

 

「あれ、意外と有名な情報ですか?」

「皆が皆知っているというわけではないと思いますけど、博打が好きな妖怪や私のようなジャーナリストには有名だとは思います。虹龍洞が、というよりは駒草大夫さんの動向が気になっているだけですけど」

「あの人、そんなに人気な人なんですか?私、初めて会ったんですけど」

「博打は大人の遊びですから。それに、喫煙者も多いので早苗さんには縁遠い話でしょう」

 

どうやら、山如は駒草大夫の呼び名で博打好きな人々から親しまれているらしい。時には親、時には子として博打を開き、妖怪たちを一喜一憂させているのだとか。

最近はアビリティカードを用いた博打を主にやっているらしく、そのためあってか虹龍洞の入り口で門番的な役割をしているようだ。奥に何があるかは文も気になっているようだけど、流石の文も呼吸できなくては活動できないので自粛しているとのこと。

 

「それを知りたがるってことは、彼女と何かありました?」

「少々……虹龍洞の奥にいた妖怪と、駒草さんに襲われまして」

「掟破りでもしたんじゃないですか?彼女は賭場で暴れる人がいる場合は、容赦なく折檻するらしいですよ」

 

怖いですねー、なんて言いながら筆を走らせる文。もしかして、明日の朝刊に「守矢の巫女、賭場で暴走」なんて記事が載るのだろうか。

 

「妖怪の山の頂上でも今朝騒動があったとか。早苗さん、そんなに暴れると妖怪の山からの信仰がなくなっちゃいますよ」

「大丈夫です。信徒の皆さんには危害を加えてませんから」

 

つまりそれは、信徒じゃなければ攻撃することも躊躇わないという……ほとんど、入信しなければ殴るという脅しなのではなかろうか。残念ながら、幻想郷では刑法は適応外である。

 

「ああでも、今朝の騒動を聞きつけて大天狗様が戻ってきたようです」

「戻ってきた?今朝も大天狗がいたと椛さんが言っていましたが」

「大天狗様は一人じゃないようで。特に最近力をつけている飯綱丸様が隣の山から戻ってきたそうで」

 

いわゆる、大天狗の中での責任者のような妖怪が戻ってきたらしい。隣の山で何をしていたのかは文も把握していないようだけど、公務ということになっているらしい。

 

「ならその人に突撃しましょう!」

 

そうして早苗が加速した。俺の制止も、文の助言も聞くことなくすっとんでいく早苗。既に白い狐のことは忘れていそうだ。

 

「えっと、定晴さん、早苗さんには伝えておいて欲しいんですけど」

「なんだ?」

「飯綱丸様は他の大天狗様に比べて強いのでお気をつけてっていうことと、鴉天狗の直属の上司なので、できるなら私が教えたってことは秘密にしていただけると……」

「了解了解、そう怯えるな」

 

どうやらいつもは風のような文であっても、上司には頭が上がらないらしい。天狗社会は縦社会らしいし、あまり不用意なことをすると立場がなくなるのだろう。

ひとまず、早苗を止めるために俺は飛び出した。飯綱丸か、事件に関係あるのだろうか。

 

 

因みに、早苗は咲夜が止めておいてくれていた。例えすっ飛んでいこうが、咲夜の時間停止能力の前では無力なのである。

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