東方十能力   作:nite

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四百四十話 メイドの威圧

咲夜の時間停止能力というのは、正直弾幕勝負において最強なのではないだろうかと思うことがある。敵に対してゼロ距離に弾を置くことができるうえ、自分が当たりそうになった場合は都度時間を止めて移動すれば当たるはずもない。

勿論、幻想郷ではそういう不公平な遊びは反感を買うので咲夜はそんなことはしないものの、それでも咲夜はその能力を使うことで弾幕勝負を有利に進めることが多い。

 

「やるなぁ!紅魔館のメイド!」

「さっさと落ちなさい鴉!」

 

咲夜が時間停止を行う場合、明らかに位置が変わるので相手にも使われたことが分かる。そして、今俺たちが見る限りだとこの戦いにおいて咲夜は一度も時間停止を使っていない。

不機嫌な態度とは裏腹に、咲夜は今までで最高潮の動きのキレを見せていた。遊びとしてフランの相手をしているのは見たことがあるが、その戦いでも咲夜は本気という感じではなかった。

しかし、今の咲夜は軽やかに弾幕を回避し、ナイフを投擲、正確に飯綱丸に攻撃を与えていく。少しずつ翼や服などにダメージが蓄積されていくのがここからでも目視できる。

 

「早苗、どれだけ咲夜の地雷を踏んだんだ?」

「まさか私もここまで不機嫌になるとは思いませんでした。咲夜さんがこんなに深く思い悩むなんて」

 

飯綱丸も、流石は大将と呼ばれるだけはあるようで、今までの大天狗に比べると幾分か対等に戦えているものの、現在絶好調中の咲夜の前には悉く躱されるのみ。

結局、咲夜は一度の被弾もないままに、全スペルカードを攻略。飯綱丸は翼をナイフだらけにしたまま、森の中へと落ちていった。ある程度事情をつもりだったのだけど、あの様子では会話はできなさそうだ。

ボスのように登場したにも関わらず、あっけない幕引きであった。

 

「ふぅ、怪我はありませんか定晴様」

「それは俺のセリフだ。見たところ被弾はしてなさそうだったけど」

「定晴様の前で無様な戦いはできませんわ。見ての通り無傷ですので、お気遣いなく」

 

メイド服に解れ一つもなく、大天狗との勝負に一対一で勝利した咲夜。瀟洒なメイドは、戦いだって完璧にこなすのである。

 

「それで、飯綱丸に話を聞くはずだったが」

「……あっ」

 

咲夜が声をあげ、姿が消える。一秒後、咲夜が気絶した飯綱丸を背負ったまま戻ってきた。どうやら、森の中に落ちた飯綱丸を探していたらしい。ボロボロな姿のままなのが、非常にみすぼらしさを演出している。

 

「起きなさい鴉。定晴様が用事があるって聞いてるのよ」

 

バシバシと頭を叩く咲夜。客人には基本丁寧な咲夜だが、霊夢たちのような仲の良い友人や敵を相手にすると、幻想郷少女らしいガサツらしさが出てくる。

因みに、幻想郷少女という括りを使うと、揃いも揃って皆「あれと一緒にしないで」と言うが、外の世界じゃ珍しい部類のはずなので、幻想郷の少女たちという括りは間違っていないと思っている。

閑話休題。

 

「ぐっ、怪我人に対して気遣いとかはないのか」

「勝負に負けたんですもの。敗者が対応を選べるとお思いで?」

「わかったわかった。わかったからそのナイフを突きつけるのはやめてくれ」

 

首元にナイフを突きつける咲夜は、しかし、ナイフを片付けようとはしなかった。

 

「アビリティカードについて、何か知っていることはあります?」

 

そしてそのまま平然と質問を始める咲夜。飯綱丸も、咲夜がナイフをどかすつもりはないことを悟り、諦めの表情で答える。

 

「あれはいいものだろう。市場は拡大し、皆が潤っている」

「つまり自分が作ったものだと認めるということですね」

「いやいや、作ったのは私じゃない……関与していないとは言わないが、アビリティカードのシステムはもっと上にいるさ」

 

そうして飯綱丸は山の頂上の方を指さした。既に空は赤く染まりだしている中、ひと際輝いて見える、妖怪の山の頂。そこに、アビリティカードを生み出した神がいるという。

 

「名前は天弓千亦。市場の神で、アビリティカードの売買でのみ使用可能になるという性質を作った張本人だ」

「私たち、以前にも山頂に行き、そして誰にも会わなかったんですけど。それが嘘ではないという保証は?」

「奴とは別のところで行動してたんだ。そんで、妖怪の山に戻ってきたから市場の神も元の場所に戻ってるはず」

 

咲夜はそれを聞くと、飯綱丸を放り捨てた。ふらふらと飛びながら、飯綱丸は捨て台詞を吐く。

 

「アビリティカードは害のないカードさ。なんでもかんでも排斥するのはどうなのかって話だよ」

 

そうして飯綱丸は森の中へと飛んで行った。これから、大天狗としての仕事が待っているのだろう。

 

「私たち、別にアビリティカードを排斥しようとしているわけじゃないんですけどね」

「特に困ってないしな」

「あくまで調査ですのに。鳥頭には分からなかったようです」

 

どういうわけか、鴉だとか鳥だとかに当たりが強い咲夜。文に何かされたことがあるのだろうか。そういえば、俺が文と初対面したときに、周囲から文は無視した方がいいとか言われていたような気がする。

 

「まあいいです。行きましょう」

「ええ。でも早苗、あなたとは少し話したいことがあるの。定晴様、先に向かってくれますか?私は少々お時間が必要ですので」

「え、咲夜さん、なんで肩に手を……つよっ、咲夜さん握力が強いですって!定晴さーん!へるぷみー!」

 

早苗が涙目になりながら助けを求めてくる。

俺に告白をしてくれたし、咲夜の気迫的にろくなことにならないので助けてあげたいところではあるものの……女性同士の争い、それに触れるなというのはルーミアの教え。

 

「悪いな。俺は先に行く」

「定晴さーん!」

 

そうして俺は山頂に向かった。後方で早苗の悲鳴がむなしく響いた。

 

 

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