東方十能力   作:nite

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四百四十三話 宴会【アビリティカード異変】

異変解決をした次の日、俺の家に怒鳴っている霊夢と申し訳なさそうな水那が突撃してきた。曰く、勝手に異変を解決されたら怒りの発散も損を取り戻すこともできないと。

 

「元はと言えば定晴さんが妙なことを言うからでしょ!博麗神社には博麗神社の育成方針があるのよ!」

 

そういえば、最初は俺が霊夢に対して水那を貧相な生活で苦しめていないか説教したところから始まったんだったな。

その結果、霊夢は大量のアビリティカードを抱えることになり、それが借金のようになって更にお金がなくなった……俺そんな悪くないだろこれ。

 

「定晴さん、悪く思わないでください。霊夢さん、いつも節制してるのに突然金使いが荒くなることがあるので」

「聞こえてるわよ!私は必要と思ったものしか買わないわ!」

 

そんな二人がただ文句を言いに来ただけかと思いきや、一枚の新聞紙のようなものを持っていた。

水那が広げると、そこにはでかでかと宴会の文字。

 

「異変解決には変わりないもの。今回も宴会よ!」

「場所は同じく博麗神社か?」

「そう思ったんだけど……早苗が、今回はこっちでって言うから……」

 

そっぽを向きながらそう言う霊夢。水那がちょんちょんと新聞紙のとある場所を指で叩く。そこには、妖怪の山山頂で開催とある。

 

「妖怪のテリトリーに入るのは癪だけど、今回私ほとんど何もしてないもの」

「全然手がかりらしいものも手に入らず、調査の段階で解決しちゃったんです」

 

博麗の巫女二人がかりで調査したものの、アビリティカードの元凶は終ぞ見つからず。一日目で妖怪の山から離れたのは失敗だったと語る霊夢。

あの日、黒幕ともいえる飯綱丸と千亦はどちらも山にいなかったのだ。そのせいで俺たちも人里だとかをぐるりと回って妖怪の山に戻ったのだから、難航するのも仕方ない。俺たちが見つけられたのは、たいぶ偶然と偶然の重なりだ。

 

「そういうわけだから、定晴さんはいつものように料理担当。いいわね?」

「はいはい分かってるよ。リクエストは何かあるか?」

「温かいものがいいわね。台所は守矢のとこ使っていいらしいから、材料持っていきなさい」

 

霊夢は霊夢で、食器などを一部持っていかないといけないらしく、足早に二人は帰っていった。守矢神社で宴会をすることは少ないので、食器が足りないらしい。

それに、今回は天狗たちによる被害者の会の参加者が多いとのことだった。早苗と咲夜に理不尽に撃墜されたのだから、宴会くらい参加させろと上司に言った誰かがいたらしい。

 

「じゃあ私たちも移動する?今夜らしいわよ」

「ここの宴会っていつも急だよな。買い物に行ってそのまま直行かな。ユズはどうする?参加するか?」

 

最近、少しずつ他人への接し方が変わってきたユズに、宴会についてくるかを訊く。宴会は特に、知らない人が多いうえ、今回は妖怪の山が開催地であるため、ユズにとってはぜんぜん慣れていない環境であることは疑いようがない。

 

「あう、今回は、その……」

「分かった。無理はしなくていい。冷蔵庫に食事を作っておいておく」

「ありがとうございます……」

 

ユズが少し青ざめた顔で言うので、俺は落ち着かせるようにユズの頭を撫で、さくっとユズの分の夕食を作っておいておく。

ルーミアは宴会に参加するようなので、一緒に人里へと移動。何が守矢神社に用意されているのかは分からないが、俺が作るものの材料さえあれば最低大丈夫だろう。

 

「定晴、何を作るの?」

「温かいものがいいって言ってたし、おでんでも作ろうかと」

 

やはり、寒いこの季節に温かいものと言えば、おでんや鍋だろう。それでいて、酒と一緒にとなれば、やはり鍋よりもおでんのイメージがある。具材のすべてを串に刺してしまえば、小皿など必要なしに食べられるおつまみ的な料理になるはずだ。

練り物や大根、こんにゃくなどを購入。足りなくても困るので、串が百本くらい入っているものも購入する。余ったら持ち帰るなり、守矢神社に置いとくなりできるだろう。

 

「定晴、ちょうどいいところに」

 

必要なものを買い終え移動しようとしたら、背後から声をかけられた。人里の守護者、慧音の声だ。

 

「どうした慧音。今から宴会の準備だから仕事はできないぞ」

「そうじゃないんだ。ただ、今回は人里から遠いせいで子供たちの引率ができなくてな」

 

慧音は、いつも宴会に参加するときは子供たちの引率をしてやってくる。子供たちと言っても、ただの人間の子供ではなく、チルノやリグルのような妖怪の子供だけだ。特に、異変解決の宴会では酒が多く振舞われるため、酒が飲めない子は連れていけないのである。

さて、そんな慧音だが、今回はいつもと違い妖怪の山の山頂が会場だ。引率で連れていくのは、少々面倒が過ぎる。特に、引率がチルノたちなのも面倒さを増やしている原因だろう。

 

「だから、定晴に代わりにつれて行ってくれないかと」

「俺が?」

「ああ。寺子屋が休みの間は、歴史編纂の仕事や教師の仕事が溜まっていてな。あまり長い時間抜けられないんだ」

 

今夜は満月ではないが、満月ではないときは満月ではないときでちゃんとした仕事が別途あるようなので、どのみち出られないという。

今回引率しないといけないのはチルノ、大妖精、リグル、光の三妖精、それとクラウンピースだ。妖精率が高い……

 

「寺子屋に集合させてるから、頼んだぞ」

「慧音にはよくしてもらってるからな」

 

買ったものをすべて幻空から取り出し、ルーミアに全部渡す。幻空が使えるからと両手で持てないくらいの量を買ったのだが、ルーミアは闇を操って全部まとめて持っていった。

そういうわけで、俺は寺子屋に移動。中に入ると、クラウンピースが松明を振り、光の三妖精が遊んでいたが、リグルと大妖精、それにチルノはおとなしくしていた。

 

「落ち着け妖精ども。移動するぞー」

 

浄化つき結界で暴れている四人をペシッと叩いて落ち着かせる。妖精は妖怪に比べると善寄りの力で構成されているからか、あまり浄化の力は効果がなさそうだ。

反抗のためかまた暴れだそうとした四人を止めようと輝剣を取り出そうとすると、それよりも先に大妖精が立ち上がって四人に注意をする。

 

「定晴さんが引率してくれないと行っちゃダメって言われてるんだから、落ち着いて!」

「勝手に行ってよくなーい?」

「透明になって近づくのと一緒!」

「無音になって参加するのと一緒!」

 

大妖精の注意にも反抗する三人。そこに、最後の一人のスターがさらに油を注ぐ。

 

「定晴さんはあまり見てられないでしょう?なら、私たちは定晴さんに迷惑をかけないようにそれぞれで行っていいと思うの」

 

そうだそうだと騒ぎだす三人。スターめ、大妖精のように少し落ち着いた性格ながら、大妖精よりも混沌寄りな考え方をしている。

さて、どうしたものかと思っていたら、おろおろしている大妖精の後ろに座っていたチルノが立ち上がる。

 

「定晴の手間をかけさせないで!凍らせるわよ!」

「チルノ、そいつの肩を持つのー?」

 

いじわるそうな表情でクラウンピースがチルノを揶揄うが、チルノはいつものように騒ぐことなく、ただ行動で返答した。

 

「定晴に迷惑かけたばっかりなんだから反省なさい!」

 

チルノから強い冷気が吹き荒れ、クラウンピース、それに近くにいた三妖精が全員かちこちの氷漬けになってしまった。その光景を見て、チルノは満足そうな表情だ。

 

「定晴、どう?あたし、役に立った?」

 

チルノがくるりとこちらを向き、キラキラとした目で俺のことを見ている。どうやら褒めて欲しいようだが……ふむ、まあ叱るようなことではないか。それに、こういうことは妖精たちの中ではよくあることだろうし……

 

「まあいいか。チルノ、ありがとな」

「えへへ」

 

チルノの頭を撫でてあげると、嬉しそうに身を捩る。凍ってしまった四人は……まあ適当に持っていくか。そこまで大きくないし、結界でまとめて運んでしまえばいいだろう。

俺は大きな結界を出し、四人を運ぶ。隣で寒さに震えているリグルに魔術で熱を与えつつ、妖怪の山の山頂を目指す。きっと山頂には既に何人かいるだろうから、そいつらにこの子たちの世話を任せるつもりだ。

 

「定晴さん、忙しいのにありがとうございます」

「本当に連れていくだけだけどな」

「いえいえ。こうして定晴さんが引率してくれると、チルノちゃんも……」

「大ちゃんっ!」

「私も、嬉しいですから」

 

そうして山頂まで移動すると、案の定鬼たちが既に酒盛りを始めていた。何人か集まっている天狗たちは、鬼の盛り上がりに少したじろいでいる。

氷を四つ地面に降ろし、三人の方に向き直る。

 

「俺は料理しないといけないから、守矢神社に行かないといけないんだが……」

「安心してください!少なくとも、この四人が溶けるまでは静かのはずですから」

 

夕方の時間帯であるうえ、今は冬なので今のところ溶ける様子は見られない。炎系の妖術を使えるような人が来ないと溶けなさそうだ。一応、クラウンピースの松明が頑張ろうとしているようなので、最初に溶けるのは彼女になるだろうが……それにしてもあと一時間は氷漬けだろう。

 

「チルノとリグルは大丈夫か」

「はい、ありがとうございます」

 

リグルは寒さが和らいだか元気になっている。その代わり、チルノは悩むような表情をしている。

 

「チルノ?」

「定晴がやるのって料理だよね」

「ああ、守矢神社で」

 

むむむと唸るチルノ、まさかとは思うが……

 

「あたしも手伝う!」

 

元気な宣言。リグルは驚いているが、大妖精はうんうんと頷いている。

最近のチルノはこうして手伝いを積極的にしてくれる。それはあらがたいことなんだが……

 

「今日の料理はチルノが苦手なことだから、また今度な」

「それはっ……わかった。あたしの力が必要になったらいつでも呼びなさいよ!」

 

チルノから激励のような言葉を貰いつつ、守矢神社へと移動した。

守矢神社にも何人も天狗がおり、その中心で早苗が慌てながら指示を出していた。人混みの隙間から俺の姿を見つけると、手を挙げてまるで溺れてるかのように助けを求めてきた。

 

「さ、定晴さん!助けて!」

「主催の仕事だろ。頑張れ〜」

「さだはるさ〜ん」

 

日頃霊夢がやってることだし、あと俺は特に助けられない。何をするか知らないし。

ということで、わぷわぷしている早苗を横目に、当初の目的通りに守矢神社の台所を使い宴会料理を準備することにした。

 

「定晴様、御機嫌よう」

「咲夜も料理か」

「ええ。妖夢が遅れるそうで料理に参加できないと伝えられています」

 

幻想郷の料理担当といえば、咲夜と妖夢。状況によって鈴仙やミスティアが参加することもあるが、宴会料理の主力はやはりこの二人。

だが、冥界での用事があり妖夢は宴会が始まったあとに到着するらしい。妖夢の対幽々子で培われた大量調理技は宴会には欠かせないものなんだが……仕方ない。

 

「咲夜、材料は十分にあるな」

「ええ、つつがなく」

「よし。ちょっと本気を出そう」

 

現時点でここにいるのは咲夜と俺と仕込みをしてくれているルーミアだけ。早苗は宴会場の準備のために動けなさそうだし、そもそもあまり広くないので人数は入れない。

三人で大量の客の腹を満足させてみようじゃないか。大衆食堂での経験がここで活きてくる。

 

「よし、かかるぞ」

 

本当はおでんの準備をしようと思っていたのだが、そこまで複雑な工程ではないためルーミアに一任。俺は咲夜と同じく宴会料理の他のものを調理することにした。おでんの具は、ルーミアにおまかせだ。

大皿料理を何個も作り、山頂は寒いということでスープも作成。やはり幻想郷の人々の口に合う温かい飲み物といえば、味噌汁ということで具が少なめの味噌汁を作る。

そうして天狗たちにより何度か往復されたとき、台所に新たな人物が現れた。

 

「おお、三人だけであれだけ作ってるのか」

「私はおでんの串刺して、あとは手伝ってるだけよ。基本はこの二人」

「それにしたってだ。咲夜、定晴殿、私も手伝おう」

 

金の尻尾を九本、ふわりと携えてやってきたのは藍だ。冬の間は紫が眠っているため、管理の仕事を藍がしているわけだが、紫がいなくても回るように簡略化された仕事をしているらしく、時間があればこうして宴会にだって顔を出す。

台所が狭いので、ここでルーミアはある程度煮込んだおでんを持って宴会場に撤退。三人がかりで、最終の仕上げを行う。

 

「今日は客が多いらしいな」

「天狗のほとんどが参加するらしいですわ」

「やっぱりあれか、咲夜と早苗が落としまくったから……」

「落とされる方が悪いでしょうに」

 

雑談をしつつも、手が高速で動き続ける俺たち。時止めの力がなくとも、咲夜の料理スキルは一流なので爆速で調理が進む。藍も持ち前の手際の良さで料理を捌くので、俺が一番足を引っ張っているような感覚だ。

そうして宴会開始予定時間の十分前に、最後の大皿料理が完成し藍が運んで行った。俺と咲夜はある程度の後片付けだ。どうせ大量の洗い物が出るが、今のうちに終わらせられるものは終わらせておいた方がいい。

 

「定晴様、お疲れさまでした。皿洗いは私が終わらせますので」

「え?俺も手伝うぞ」

「いえ。皿洗い程度でしたら時間を止めて行いますので、定晴様の手を煩わせることはありません」

 

料理では火を使ったりする関係ですべてを停止中に終わらせることはできないが、皿洗いであればまとめて水で流す方式にしてしまえば皿に洗剤をつける工程や拭き取る工程をスキップできると言う咲夜。だが、それでは咲夜の負担が大きすぎる。

 

「今までの宴会でもそうでしたから」

「猶更悪い。今回は咲夜の異変解決で動き回ったんだから休めって」

「定晴様は黒幕二人を倒してるんですから、より休んでください」

 

どちらも休めと言い合い、どちらも引くつもりがない。

時間停止中だって、咲夜は通常の時間の流れの中で作業をしているのだ。毎回毎回咲夜ばかり負担をかけるわけにはいかないし、たまには休憩するのも問題ないはずだ。しかし、咲夜が時間ギリギリになっても引こうとしなかったので。

 

「分かった。じゃあ俺もやる。咲夜もやる。それでいいな」

「いえいえ、時間を使う必要は」

「二人でやれば時間は半分だ。どうせ水を流す間は時間を動かしてるなら、総作業時間は変わらないと思う」

 

むむむと唸る咲夜、しかし、咲夜がさらに言葉を繋げる前に時間はやってきた。

 

「まだここにいたんですか。二人とも、もう始まりますよ」

 

早苗が呼びに来てくれたので、渋々といった表情の咲夜と共に山頂へと移動した。

山頂には人妖が集まっていたが、いつもよりも明らかに妖怪の比率が高い。流石、幻想郷妖怪のお膝元と言わんばかりの数に驚嘆してしまう。

 

「それでは、定晴さん、音頭をどうぞ」

 

そう言って早苗が渡してきたのは一杯の酒。

 

「俺なのか」

「ええ。それはもうばっちりと決めてください」

 

どうやら咲夜も早苗も、俺のことを主賓か何かと勘違いしているらしい。確かに千亦と百々世を倒したのは俺だったが、それだって咲夜と早苗が何やら話していたからこそ俺が戦うことになっただけで、本当なら咲夜や早苗が戦うことになっていたはずだ。二人いれば、千亦と百々世が同時に現れてもそれぞれで相手できたはずだ。

そもそも俺が二人を倒した方法は……リアルチートみたいなものだ。無効化の連発のような、確実に勝負に勝てる必殺技である。

とはいえ……

 

「乾杯の音頭なんて誰がやっても同じだ」

 

壇上に上がれば、たくさんの天狗たちに交じり見知った顔を見つけることができた。文や椛、にとりのようないつもの妖怪の山メンツに加え、未だに翼に包帯を巻いている飯綱丸や、キセルを吹かしている山如、百々世の隣でニコニコしている魅須丸の姿もある。

幻想郷の宴会の凄いところは、こうして異変の解決をしたあとは皆合わせて大団円。大皿に並々に注がれた日本酒を持って今か今かと待っている霊夢が、博麗の巫女が今の幻想郷を作り上げたのだ。

 

「そんじゃ、今回はいつもと違う場所だけど、まあやることは同じだろ?そんじゃ、気が済むまで騒げばいいさ……乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

大きな声と共に宴会が始まる。乾杯の音頭で飲んだ日本酒はやたら強かったが、宴会の始まりとしてちょうどいいだろう。

俺が……というよりもルーミアが作ったおでんは好評だ。やはり、すべての具材を串に刺しているのが、酒を片手に飲むのにちょうどいい。この様子だと、食事の化身たる幽々子がやってくる前におでんはなくなってしまうだろうな。

 

「定晴さん、こっちに来て飲みましょう」

 

全体を眺めていたら、早苗が酒を片手に手を招いている。早苗の近くには諏訪子と神奈子がいて、この数分で既に一本飲んでしまったらしい。早苗も少し顔を赤くしている。

と、同時に

 

「定晴ー!あたしと一緒にのもー!」

 

チルノが酒瓶を持って飛んできた。幻想郷には飲酒に関する法律が存在しないうえ、チルノやリグルのような一見子供のように見えるものの俺よりも何年も長く生きている存在というのは多い。チルノが酒を飲んだって特に問題はない。

そうしてチルノが飛んでくるが、早苗が俺を呼んでいることに気が付くと、チルノは途中で軌道を変えて早苗の方に飛んでいく。

 

「ちょっと!定晴はあたいと一緒に飲むのよ!」

「……チルノちゃんも一緒に呑みます?いっぱいで飲んだ方が楽しいですよ」

「分かったわ!」

 

実にチョロ妖精、早苗の一言で喧嘩腰がころりと変わって早苗の横に座って俺のことを呼び始めた。

ということで、俺は守矢神社組+チルノの四人のところに行き一緒に座る。

 

「さあ、あたしの酒を飲みなさい!」

「なんだか悪い上司みたいだな」

「どういうこと?」

 

俺の例えが伝わらなかったチルノは、疑問顔を浮かべながら俺のジョッキに酒をついだ。

因みに、さっき子供が酒を飲んでも大丈夫なんて言ったが、チルノは味の問題でただのジュースの方が好きだ。そのため、今も酒ではなくリンゴジュースを飲んでいる。

 

「早苗が乾杯の音頭してもよかったのに。今回の主催は守矢だろ?」

「だめだよ定晴。早苗ってば恥ずかしがりだから壇上での挨拶向かないんだから」

 

俺の言葉に否定の言葉を出したのは諏訪子。早苗は少人数相手だとテンション高めだが、大人数を前にすると恥ずかしくなって大きい声が出せなくなると、早苗が顔を赤くしているにも関わらずそう言う諏訪子。

 

「事実ですけど、なんか恥ずかしいので喋らないでくださいー!」

 

顔を赤くしていく早苗。酒を飲んでいるのもあって、早くアルコールが回りそうだ。

 

「はっはっは、早苗、顔が真っ赤だよ」

「諏訪子様のせいです!」

「なんだ、定晴が隣にいるからじゃないのか」

 

神奈子がいじるように早苗を指さすが、早苗は優しく笑い朗らかに言う。

 

「毎回恥ずかしがってちゃダメですから、流石に慣れましたよー」

「じゃあもっとくっつこ!」

 

早苗の隣にいた諏訪子が横から激突、早苗がその勢いで俺にぶつかる。

 

「ひゃわっ!」

 

変な声を出し、早苗の顔が一気に赤くなり、それを見て笑う神様二柱。守矢神社は今日も平和である。

 

「あうあう……えっと、定晴さん、大丈夫ですか?」

「気にするな。諏訪子、酒を持ってるんだから気をつけろ」

「ごめんね~」

 

あっけらかんとした様子で笑う諏訪子に反省の色は見られない。酒を零してはいないが、早苗の巫女服にかかると大変だ。

勿論、早苗がぶつかってきたこと自体に思うところがないわけではないものの、あまりドキドキとかはしないので、諏訪子の行為はあまり喜ばしいことではない。

 

「定晴さんはあまり顔色が変わりませんね」

 

むっとした表情で俺を見つめる早苗。すまないが、そういう性分だ。

 

「早苗はダメね!あたしが見本を見せてあげる!」

 

そういってチルノは、ジュースを置いて腕を大きく広げた。そうして俺の方に近づこうとして、途中で傍と止まる。どうしようかと悩む動きをして、顔を赤くして、それでも引き返すわけにもいかず俺に抱き着いた。

 

「こ、こうよ!どう!?」

「チルノちゃん、すっごい顔が赤いよ」

「うるさいわね!恥ずかしいのよ!」

 

チルノが顔を赤くしながら、早苗に向かって吠える。チルノは何を見せたかったのかは謎だが、妙にドヤっとした顔で俺を見た。

だが、何かを言うわけでもなく、口をパクパクさせたかと思うとどっかへとすっ飛んで行った。本当に、一体何がしたかったのだろう。

 

「そこで疑問顔になっちゃうのが定晴さんの悪いところですよ」

「何だが?」

「ほんとっ、もうっ」

 

早苗も不満そうにこちらを見ている。さてさて、俺は何か判断をミスったかと考えていると、背後から声をかけられた。

 

「定晴、ちょっと話があるのだけど」

「レミリア?」

 

夜になったことで平然と外を歩くことができる吸血鬼、レミリア・スカーレットが俺の方を睨むようにして見ていた。口を開こうとした早苗も、レミリアの気迫に押されて何を言うことができない。

 

「咲夜のことで」

「咲夜?」

「いいから来なさい」

 

早苗の方をちらっと見るが、早苗は何かを察した様子で苦笑いしながら促してくれた。

レミリアに連れられ、宴会場の端っこの方へと移動する。何人かの天狗が座り込んでいた場所に、レミリアが気迫だけで退かしてその場所を奪い取った。吸血鬼の見せる威圧を前にしては、ただの天狗では相手にならない。

レミリアに促されるままに横に座る。重要な話であるためか、酒はまだ飲んでいないようだった。

 

「定晴は今回の異変中咲夜のこと、どう思った?」

「どうって……そうだなぁ、思ったよりも血気盛んだなと」

「あなた正直ね。まあ咲夜も咲夜だけど」

 

少しのため息、そして俺の目を見て、またもやため息。

 

「咲夜が変な動きをしてたりしなかった?」

「変な?いや、特には……」

 

異変中の咲夜のことを思い出す。いつも通りあまり感情を表情には出さないまま、しかし行動だけは雄弁に、瀟洒に仕事を達成していく姿はやはり紅魔館のメイド。変な動きというのがよくわからないが、いつもと変わらないように見えたが……と、ここでふと思い出す。

 

「そういえばちょくちょく早苗と話していたな。話し合いをしたあとは、いつもよりも咲夜の感情が表情に出ていたように思える」

「……そう。まあ前もって聞いていたけど、あなたって唐変木ね」

 

突然俺を罵ってくるレミリア。俺が何をしたというのか。

 

「まあいいわ。じゃあ、フランのことはどう思う?」

「フラン?元気で健気な妹かな」

「……どっちも望み薄かしら」

 

ぼそりと呟くレミリア。俺の返答に満足してくれなかったようで、ジト目で俺のことを見てくる。

と、

 

「お兄様!ごきげんよう」

「フラン。咲夜も」

「ご機嫌麗しゅう、定晴様」

 

パタパタと駆けてきたのはフランと咲夜、そして二人分の傘を持っているのは美鈴。それに、小悪魔とパチュリーまでいるようだ。紅魔館の住人が全員集合という、紅魔館の外ではそれなりに珍しい光景だ。

 

「パチュリーまで、珍しいな」

「アビリティカードの製作者がいると聞いて。興味に勝る原動力はないのよ」

「博麗神社よりもこっちの方が近いですから。パチュリー様も少し動きやすかったんです」

 

小悪魔の指摘に、パチュリーが持っていた本で小悪魔の頭を軽く叩いた。どうやら余計な指摘だったらしい。

他の皆が来たことで、レミリアは話を切り上げることにしたらしい。立ち上がり、俺の目を見て言う。

 

「こうなった以上、私はどうにもできないけど、期待外れなことをしたら、ただじゃおかないわよ」

 

レミリアの、吸血鬼の赤い瞳に俺ですら気圧され、何を言えずに頷いた。レミリアは満足そうに笑顔を浮かべるが、それを見て今度はフランが不満そうだ。

 

「ちょっと、お姉様お兄様と近すぎ!」

「あらあら、ごめんなさい」

 

そうして手を振り振りしながらレミリアは去っていった。これからは酒を飲むのだろう。

俺も移動しようと思ったら、フランに手を掴まれた。

 

「お兄様、一緒にのも!」

「あー……」

 

早苗の方をちらりと見る。早苗も、こちらのことを気にかけていたようで、心配そうに見つめている。流石に、あれを放置したままフランと一緒に呑むのは気が引ける……と思っていたら。

 

「あ、早苗と一緒に呑んでたんだ。じゃあ一緒に行こう!」

 

フランが全力で早苗の方向に向かってすっ飛ぶ。勿論、手をつながれたままの俺も同じくすっ飛ぶ。

早苗が驚愕した顔でこちらを見ているが、そんなことも構わずフランは俺を早苗の横に座らせ、俺の膝の上に乗ってきた。

 

「えっと、色々ひっくるめて大丈夫でしたか?」

「問題はない。レミリアが何を話したかったのかは分からなかったけどな」

 

頷きはしたが、何に対して言っていたのかはついぞ分からなかった。

とはいえ、あそこまでレミリアが本気になるようなことだ。いつか俺にもわかるだろう。

 

「じゃあ私たちで飲もう!いえーい!」

 

後から追いかけてきた咲夜、そして美鈴。さらに、悠々と去ったのに誰もついてこなかったため渋々合流してきたレミリアも加えて宴会の輪は広がる。

今回の異変は、異変調査というよりは咲夜と早苗の二人の内面をもっと知る機会になったかもしれないと、俺は少し振り返るのだった。

 

 

因みに、おでんに関しては、やはり幽々子がやってくる前に全部なくなっていた。のだが、幽々子があまりにもごねるので、妖夢と一緒になってもう一度おでんを作ることになった。

まだあまり味が染みていないだろう大根を一口で食べたのには流石に驚いた。

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