東方十能力   作:nite

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四百四十五話 静かな店の一日

今日も今日とて閑古鳥の鳴く店内で、僕は鈴奈庵で見つけた面白い本を読んでいた。人里の者が書いた小説なのだが、外来人の書いた小説らしく僕の知らない情報が次々に出てくる。

客が来なくて食事すらままならないこともあれど、僕はこうして静かに一人の時間を過ごすのも大好きだ。そもそも、客が欲しければこんなところで店なんてやっていない。

 

「こーりーん!きーたーぞー!」

「静かな時間、終了」

 

僕は本をぱたりと閉じて、レジの横に置く。扉を吹き飛ばす勢いで店内に入ってきた魔理沙は、当然のような表情でどかりと店内の椅子に座る。

 

「ちょっと寒くないか?暖房はないのか」

「まだそこまでじゃない。火を使うと面倒なことの方が多いから、雪が降り始めるまではこのままだよ」

「何ー?でも任せろ香霖、今なら私が部屋を暖かくする魔法陣を格安で用意してやろう」

「間に合ってるよ」

 

ぶーぶーと文句を言う魔理沙を後目に、僕はお茶を用意する。お茶を入れる動きをしていない場合、魔理沙がお茶を入れろと命令してくるので、魔理沙が来たら僕も自ずと準備をするようになった。あまり予備はないのだが……まあそれだけ、僕は魔理沙に甘いということだ。

 

「そうだ香霖、次の宴会にはちゃんと来いよな!」

「僕はうるさいところが好きじゃないのは知ってるだろ?」

「私は香霖と一緒に酒が飲みたいぞー!」

 

うがーと叫ぶ魔理沙の口に、強引にクッキーを押し込み静かにさせる。

僕は幻想郷住人では珍しく、宴会がそこまで好きではない。珍しい部類であるのを自覚しているので、わざわざ公言こそしないものの、誘われてもこうして断るようにしている。宴会に参加するくらいなら、部屋で本を読んでいた方が有意義だと思うタイプだ。僕と同じ人種で言うなら、紅魔館の魔法使いも同じである。

しかし、最近はその趣が変わっているようで。

 

「パチュリーだって、妖怪の山の山頂まで来てたんぞ?」

「おや珍しい」

「最近のあいつは宴会にちょくちょく顔を出すようになったんだ。それに比べて香霖はいつまで経っても……」

「よそはよそ、うちはうちだよ」

 

どういう風の吹きまわしかは知らないが、あの動かない大図書館さんは動くようになったという。とはいえ、毎回ではなく気が向いたら程度らしいが、それでも以前までの彼女を知る者からすればアグレッシブである。

魔理沙は苦言を呈してくるが、僕はそれを言われても行くつもりはない。結局のところ、宴会に行くか行かないかは気分であるならば、僕は常に「行く気分じゃない」というだけだ。

 

「つまらんぞ。ほら、定晴と一緒に飲もうとか思わないのか」

「彼とは二人っきりでたまに飲んでいる。わざわざ宴会に行く理由にはならないよ」

 

それに、宴会での彼は沢山の女の子に囲まれて大変らしいので、僕が一緒に飲む暇はないだろう。飲み相手が常に女性なのは気疲れすると、彼も言っていた。性的に見ることはないらしいが、女性は扱いが難しいので当然の疲れだろう。

僕は目の前の幼馴染一人扱うことができないのだから、色んな女性に迫られている彼は僕の比ではないだろう。

 

「なんだそれ。そんなこと言ってたか?」

「言ってないね。言ったら突撃してくるだろう?」

「当たり前だぜ。今度は私も混ぜろよな!」

「場所も日時も教えないよ」

 

こんなことを言うと、逆に魔理沙は何がなんでも参加しようとするだろう。なので、次に行くときは僕も少しばかり妖術を使って身を隠すとしよう。半妖なので、少しだけなら妖術だって使える。

既にどうやって男飲み会に参加しようと思案している様子で、魔理沙はお茶を飲み終えるとそのまま店を出て行った。

 

「また来るぜ!もしくは、行くぜ!」

「店で待ってるよ」

 

最悪見つかっても、魔理沙を煙に巻く手段はいくつかある。定晴もそれなりに魔理沙のことをあしらえるようだが、彼女の扱いなら僕の方が一日の長がある。魔理沙の気を引けそうな道具を今度から持ち出すようにしよう。

魔理沙がいなくなり、僕は本を開く……

 

「霖之助さん!いらっしゃったわよ!」

「し、失礼します……」

「はぁ」

 

これまた扉を吹き飛ばす勢いで店内に入ってきたのは、当代の博麗の巫女の霊夢。さらに、次代の博麗の巫女である水那も申し訳なさそうに店に入ってきた。

 

「さて、どういうご用件かな」

「身構えないでちょうだい。今は仕事中よ」

 

霊夢も魔理沙と同じく、この店を喫茶店か何かと勘違いしている部類だ。椅子に座り、堂々とお茶と菓子を要求する姿はまさに大胆不敵。二人同時に来た時には、香霖堂の最後の日じゃないかと思ってしまうほどだ。

 

「ここらへんで白くてふわふわしている妖怪を見てない?」

「ふむ、祓うのかい」

「そうよ。人里から離れた人の手荷物を盗んでこっちに逃げたらしいの。襲うとかじゃくて盗んで逃げる程度なら、水那の修行にもちょうどいいと思って連れてきてるわ」

 

水那がぺこりと頭を下げる。霊夢に比べて、彼女はとてもいい子だ。

彼女は定晴が外の世界から連れてきた少女らしく、素質として霊力への適正が高く、また外の世界では姉以外の血縁が誰もいない孤独な身だったという。その実姉にはきちんと挨拶をしてから、こうして幻想郷に移住してきたらしい。

博麗の巫女というのは突然代替わりすることも珍しくはない。日頃妖怪退治を生業としているのだ。ふとしたときに強い妖怪に殺されるなんてことは、今までの博麗の巫女にも起こってきたことだ。

 

「というわけで、何か情報はない?」

「残念ながら。さっき魔理沙も来たけど、彼女も特に何も言っていなかったし、ここらへんじゃないんじゃないか」

「うーん、聞いた話だとこっちの方面だったみたいなんだけど……途中に住処でもあるのかしら」

 

霊夢はうんうんと悩みながら店を出て行った。水那が慌てて追いかける。

どうせ、しばらく調査していたら突然持ち前の勘で場所を特定するだろう。何の前触れもなく、ただの天命を受けたかのように目的地を見つけ出す。霊夢とは、そういう奇跡的な生き方をしていることを僕は知っている。

さて、今度こそ僕は本を開き……

 

「失礼致します」

「ああ、いらっしゃい」

 

客が来たので僕は身なりを正す。やってきたのは、紅魔館のメイド。

彼女はきちんと、備品とかの購入のためにここにやってくる。つまり、れっきとした客ということだ。

 

「食器はありますか?洋風のものがいいのですが……」

「一応あるよ。ただ、外の世界で人気が再燃でもしてるのかあまり流れつかなくなっていてね」

 

そう言って僕は棚の一角を指さす。そこには、きれいに磨かれた洋風食器がいくつか並べられていた。きっと彼女が欲しがるだろうと思って、わざわざ準備をしておいた場所だ。ちゃんとお金を払って購入してくれるようなお得意様のためなら、少しの労力ならば惜しまない。

咲夜は裏面までしっかりと見て、割れがないものを購入。しれっと小さい罅の小皿を混ぜておいたのだが、それは回避されてしまった。彼女に購入されないなら、あとで捨てておこう。

 

「ああそれと、えっと」

「どうしたんだい。オーダーメイドも、少しなら受け付けるよ」

「いえ……男性への、贈り物に向いているものなど、ありますか?」

 

僕の顔がスンとなる……前に、気を取り直して営業スマイル。商売で私情を出してもいいが、そこに貴賤はいれられない。

 

「その男性はどのようなものが好みですかね」

「家事などをよく……ですが、一般的なものは大抵揃っていそうで」

 

珍しく、本当に珍しく顔を赤らめながら説明する咲夜。僕は詳しい事情を知らないけれど、多分相手は定晴だな。

今までそういった素振りは一切なかったのに、突然こうして定晴への贈り物をしようとするなんて、どういう気持ちの変化があったのだろうか。こうしてまた彼に言い寄る女性が増えることへと同情心と、流石に多すぎじゃないかという嫉妬心が湧き上がってくる。例え僕にその気が全くなくとも、目の前でこうもハーレムを見せられると、若干の殺意が湧いてくる。

 

「そうだなぁ、この店にはあまりプレゼント向きのものは置いてないですからねぇ。それに、彼はここに置いてあるような前時代的なものは見慣れてると思いますよ」

 

ここに置かれているものは、大抵無縁塚で拾ってきた外の世界で忘れ去られたものである。定晴のような外来人にはあまり向かないだろう。

 

「どちらかと言えば料理を振舞う方が喜ぶと思いますよ」

「そうですか……」

 

そりゃ勿論、ここで買い物をしてくれる方が断然嬉しい。プレゼントに適したものが少しでもあれば、それを全力で押し出していただろう。

しかし、咲夜も定晴もうちのお得意様だ。それに個人的な付き合いも多い。ならば、やはりそこらへんはしっかりと向き合うべきだろうと思う。

 

「……分かりました。ありがとうございます」

 

そうして、買ったものを持って彼女は店を出ていった。出ていく時もしっかりお辞儀をする丁寧さもまた、僕が彼女のことを好意的に思う理由の一つだ。まあ、客であるというだけで僕の中では最上位対応をするけれど。

そうして、やっとの思いで僕は本を開いた。店内には、静かな時間が流れる。

あとで、プレゼントに使えるようなものを用意しておくとするか。

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