東方十能力   作:nite

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四百四十八話 時空知覚

迷いの竹林の奥にひっそりと建ち、薬を作りながら時によっては手術までする診療所である、ここ永遠亭では時に月からの使者がやってくる。

月から降りてくるためには、地上側に穢れのない土地を作らないといけないので、人工的に穢れのない場所を作ることができる永遠亭か、聖域として穢れがない妖怪の山のとある場所以外には基本的に降りてこない。どこまで行っても穢れを気にしているのは面倒なことこの上ないが……私のことを先生と慕ってくれているこの子たちの立場をなくさないために、ちゃんと準備は怠らない。

 

「助かったわ慧音先生」

「ここじゃ先生はあなただろう。私がわざわざこれを用意する必要性も……」

「歴史に関しては貴女ほど信頼できる情報源はないでしょう?」

「当時を生きてた人に言われてもなぁ」

 

慧音に持ってきてもらったこれは、幻想郷に関する歴史書。どんなことがいつ書かれたのかが時系列順にしっかりと記されたもの。

どんな異変がいつに起きたのか、しっかりと記されたもの。異変の首謀者や仲間、場所、それに解決者も書かれている。稗田家が書いている書物とは別の、時代を記した貴重な本。慧音には、その写本を持ってきてもらった。

 

「それで、わざわざ私に持ってこさせるほど重要なのか?貴重とはいえ、基本信頼できる人になら言われれば見せるようなものだぞ?」

「本当は前もって用意しておくつもりだったんだけど、今日に至るまで時間が作れなかったのよ」

 

こんな立地にあるけれど、なんだかんだ毎日何かしらの仕事が舞い込んでくるのが、この永遠亭だ。怪我人の治療、薬の研究・販売、因幡兎たちの世話など……最後のは輝夜が基本やってくれているけれど、それにしたって忙しいのには変わりない。

優曇華に行かせることができればよかったんだけど、それすらもできないままに今日になってしまった。仕方なく、言伝を妹紅に頼んで、ここまで慧音に持ってきてもらうことになってしまった。

 

「地上のこと、ちゃんと授業をしてあげなきゃいけないのよ」

「もしや、月人か?」

「流石、頭の回転が早いわね。ちょっと月関連の仕事がちょっと入っちゃって」

 

私は既に月での立場を捨てている。あの時、地上に残ると決めた輝夜に付き添うと月に反逆をした時から、私と月は完全に縁が切れた……はずだった。

幻想郷に来て、異変なんてものも起こしたりして、結局月からの介入は結界により不可能だと納得したはずなのに、いつの間にやら月の姫が降りてくるようになっている。しかも、片方は妙にそわそわした状態で。

 

「全く、難儀なものだわ……そうそう、慧音にも効く疲労薬を作ってみたから、優曇華から受け取って頂戴。お礼だと思って」

「それ、私を実験台にしようしているわけじゃないよな?」

「お礼なのにそんなことするわけないじゃない。きちんと兎たちに先に飲ませて実証済みよ」

「おおう……申し訳ない、兎たち」

 

とはいえ、半人半妖に対する実証実験はできていないから、よければあとで経過観察をさせてほしい……とは言わなかった。しれっと、人里に優曇華を派遣したときに聞いてこさせましょう。

さて、慧音から受け取った歴史書はあとで使うとして、そろそろ時間のはずだ。と思っていたら、向こうの部屋から「えーりーん」と私を呼ぶ声が聞こえる。さて、今日の大仕事を始めるとしましょう。

 

………

 

永琳が依姫と豊姫の二人に対して授業みたいなのをしてる。もう先生はやめたんだから、わざわざやらなくてもいいのに、とは思うけれど、これはこれで永琳も楽しそうにしているから、今のところそれを直接永琳に伝えたことはない。

 

「姫様、代わりましょうか?」

「いいのいいの。これはこれで癒しなのよ」

 

私は、そんな永琳の様子を横目で眺めつつ、膝の上で寝ている因幡を櫛で撫でていた。こうやって日頃から世話をしておけば、ちゃんと言うことを聞いてくれるいい子たちだからね。

てゐみたいな特別な兎は少ないけれど、竹林にはやたらと因幡がいるので、こうして毎日少しずつ世話をするのだ。暇な時間も多い人生だから、ちょっとした仕事程度でもなんとなく気が紛れたりする。

 

「そうそう、さっき永琳が慧音から何か受け取ってたみたいだけど」

「歴史書らしいですよ?どうやらあちらの姫様たちが興味を示したようで」

「今更月人が幻想郷の歴史を知ってどうするのかしらねぇ。地上に色々とやらかした罪滅ぼしのつもりかしら」

 

聞き耳を立ててみると、どうやらちょうど歴史を話をしているらしい。ただ、私の思うような歴史の授業ではなく、どうして起こったのか、どうして解決したのかということが主に議論されている。

そういう異変の原因を発生させないためにはどうするか、なんてことを永琳が問えば、豊姫がゆるりと答えを口にする。

 

「歴史の授業ってよりも、政治の授業ね」

「まあただの歴史を学んでもあまり意味のないことなんでしょう」

 

それもそうか。彼女たちが地上に罪の意識があるとも思えないものね。

 

「姫様は勉強は……」

「これでも私、昔はお姫様として教養を身につけられたのよ。人生の暇ができたら、ね」

 

月にいたときは言わずもがな、地上に落とされてしばらくは翁のところでしばらく、その後は永琳にたまに。

勉強をする機会は何度もあったのだ。私が全然勉強ができない劣等生だとイナバが言うなら、私だって反撃してやる。

 

「ならイナバ、問題よ。現在の月と地上はどんな方法で行き来しているでしょう?」

「えっと、確か転移装置が都にあったはずです。地上などから転移してくるときに自動で穢れを払ってくれる優れものだと」

「そうね。でも残念ながら不正解。現在は、基本的にあの豊姫が行き来を担当しているわ」

 

数年前までは機械が主流だったけれど、幻想郷の場所が知られ、永遠亭の座標を把握された今は、豊姫が転移を担うことの方が多い。移動という点だけを見れば、あのスキマ妖怪よりも素早く転移させることができるというのだから、その実力も頷ける。

 

「はへー」

「まあイナバが月にいたのは随分と前だものね。月に異変解決に向かったときも、まともに都の観光はできなかったでしょう?」

「あの時は忙しかったですから。無制限でもなかったですし」

 

穢れを嫌う月の民だけど、最近の月は技術発展が凄いらしく、今やただちょっと動かすだけで穢れを払うことができる機械なんてのも発明されたと教えてもらった。

ここの河童たちも頑張ってるけれど、月の民に追いつくことはないでしょうね。それもそのはず、あっちには何億年という積み重ねた歴が違うのだもの。人類が生まれてから生まれた妖怪じゃ、積み上げられた年月が違うのよ。

 

「イナバこそ勉強するべきなんじゃないの」

「お師匠様の元頑張っていますとも!最近は波長を使って患者を見れるようになってきたんですから」

「あら、間違えて患者を発狂させたのは誰だったかしら」

 

私がくすりと笑うと、イナバは顔を赤くして恥じる。

最近は精神的にも成長してきたらしいイナバだけど、こうして弄るのはやはり楽しい。妹紅と殺し合いするのと同じくらい、私の心を癒してくれる。

 

「それで……っ!」

「姫様、どうしました?」

「……なんでもないわ」

 

何の前触れもなく、私の能力が反応した。一瞬のうちに永遠にも等しい時間を持つ時空列が生まれ、そして消滅。

そういえば最近あったらしい異変の終わりあたりに何度も何度も能力が発生して落ち着かなかったのよね。私が別の時空軸に移動できるとかそういうわけじゃないし、何かしら干渉できるわけでもないから、まるで頭の周りを虫が飛んでるようにイライラする時間だった。

現状幻想郷で私の能力が知覚できるようなことができる人はそう多くはない。それに、一人は冬眠中だし、一人はどこにいるか不明。ついでに言うと、こんなに瞬間的に永遠の時間が経過し消えるなんて挙動、正常とは思えない。

 

「はぁ、前はあまり聞くつもりなかったけど、注意した方がいいかしら」

「何がですか?」

「……しょうがない。永琳、私ちょっと出かけるからー」

 

私がそう声をかけると、永琳のみならず、横にいたイナバや授業を聞いていた姫姉妹もこちらを驚いた顔で見ている。

 

「な、なによ」

「貴女が出かけるなんて珍しいと思って」

「あ、つ、付き添いは必要ですか?」

「不要よ。目的地は決まってるし、着替えたらすぐに出るわ」

 

こんな高頻度で時空軸をぐちゃぐちゃにされると、こちらとしても非常に迷惑。ここはひとつ文句でも言わないと気が済まない。

私は来ていた長い和服を脱ぎ、動きやすい服装に着替えると、永遠亭を出たのだった。

 

博麗神社の方向が分からず迷ったので、途中で見つけたイナバが案内してくれた。もう少し竹林に慣れておいた方がいいかしら。

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