東方十能力   作:nite

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幻想郷住人かつ外の世界の知識少なめの人たちの主観描写をするときは和製英語を使わないように意識してるんですけど、難しいですね
ただ紅魔館組は色んな言語喋れそうだなと少し緩くしてます。少なくともスカーレット姉妹は英語喋れるはず……


四百四十九話 秘めた想いとちょっとのおせっかい

今日はお兄様の家で一日を過ごすことになった。なぜか急にお姉様が、お兄様の家に行ったらどうかって強く勧めてきて、多分何か隠してることがあるんだろうなと思いつつ、拒否する理由は何ひとつないので、嬉々としてやってきた。

一緒に、咲夜もお姉様から勧められたらしく、今日は私と咲夜の二人でお兄様の家に押し掛ける。咲夜は妙に恥ずかしがってたけど……うーん、私はあまり認めたくないなぁ。

 

「いらっしゃい、フラン」

「お兄様!おはよ!」

 

早く行ってこいみたいな雰囲気をお姉様から感じ取ったので、私は朝早くからお兄様の家に来た。ちゃんと、朝早くに行くよって連絡しておいたから失礼じゃないよ!

 

「おはよう、フラン」

「お、おはよう……ございます……」

「おはようルーミアちゃん、ユズちゃん!」

 

朝ごはんだけ食べ終わるくらいの時間だから、今日はすっごいいっぱい時間がある。いつも遊びに来るときは基本的におやつの時間だから、こんな一日中っていうのは珍しいし嬉しい。いつもは、あまり朝早く行くのは迷惑だってお姉様から言われてて、それは私もそう思うから遠慮してたけど、いいよって言われたなら私は突撃するのだ!

 

「フランは朝から元気だな」

「でしょ!」

 

お兄様の家に来るときは、前もって気分を高めて子供心を強くしてからやってくる。じゃないと、変に意識しちゃって……だめだめ、こんなこと考えると思考が停止しちゃう!

遊ぶ時は遊び、恋をするときは恋をする、ちゃんと切り替えができることこそが大人の吸血鬼なのだ!

 

「咲夜も、おはよう」

「ええ、おはようございます」

 

さっきまでそわそわしてた咲夜だけど、家に到着すると、いつものスンって感じの表情になった。でも私には分かる。あれは内心焦っているときの表情だ。

私が初めてなんだから、咲夜だって初めてのはずだ。こうして一日中家に一緒にいるというのは。

先日咲夜はお兄様と一緒に異変解決してたらしいけど、それとこれとはわけが違う。異変解決はどこまでいっても仕事だから、家でリラックスするのとは気の持ち方が違うのだ。ただ、それはそれとして私もお兄様と一緒に異変解決してみたいなぁ。聞いた話だと、チルノちゃんも前に異変解決の手伝いしたみたいだし、魔理沙や紫も一緒にしたことがあるみたい。

最近の私はよく外出するようになったし、ちゃんと日傘を持って活動するなら昼間だって大丈夫。それに、お兄様が一緒ならお姉様も単独行動を許してくれるはず。お姉様は、ちゃんとお兄様のことを信じてるから。前に試合をしたときに、強さへの信用もしてるみたい。

 

「それでフラン、何する?どっか出かけるか?」

「うーん」

 

私は外をチラリと見る。

家の中ならいつもの服で大丈夫だけど、外ではもこもこのやつを着ないとすごい寒い。一部の妖精はこんな気温でも元気だけど、大体の妖怪たちはここまで寒いとあまり外に出たがらない。私も、積極的に外に出る気は起きなかった。

 

「家の中でゆっくりしよ。寒いもん」

「はは、そりゃそうだ」

 

温かいのを用意するって言ってお兄様はキッチンに移動した。リビングに併設するようにキッチンがあるから、ここからでもお兄様の様子は見える。多分、ココアかな?

私はソファで本を読んでるルーミアちゃんの隣に飛び込んだ。ボムっとソファが跳ねて、私もルーミアちゃんも少しだけ飛び上がる。

 

「ちょっと、危ないでしょ」

「何の本読んでるのー?」

「これ?これは定晴の持ってる外の世界の本よ」

 

ルーミアちゃんが読んでる本は、ライトノベルっていうやつで、創作小説らしい。妖怪が人になって学校生活を送るっていう内容らしいけど……幻想郷じゃ普通の光景すぎてあまり珍しくもない。寺子屋に行けば、妖精や妖怪がいっぱいいる。

 

「幻想郷と外じゃ、学校の様式も違うものよ。外じゃ、十八歳くらいまでは大きい校舎で授業があるんだから」

 

それくらい私も知ってるよ!高校生の本なら、パチュリーが何冊か持ってるもんね!

 

「あれ、もしかして恋愛小説?」

「なんでそう思うの?」

「内容がそうっぽいなって」

 

学生の男の子が一人、隣のクラスのかわいい女の子とお喋りをして、周囲の男の子から睨まれる、なんていう描写が書かれてる。多分、そういうことって現実じゃあまり起こらない。ってことをルーミアちゃんに説明する。

 

「あなたって意外にリアリストね。これを夢見る人だっているのよ」

「起こらないことを願っても起こらないよ?」

「刺すわねぇ」

 

刺すってなんだろう。私は刃物は使わないよ。

そこで、お兄様がココアを持ってきてくれた。湯気が漂って美味しそう。コクッ……うん、甘くておいしい!ココアかと思ったけど、ホットチョコレートみたい。

 

「いえ、定晴様、私は」

「作っちまったから飲んでくれ」

 

お兄様が咲夜にもカップを渡してる。咲夜は遠慮してるけど、お兄様は咲夜が断りにくいことを言ってちょっと無理やり飲ませてる。お兄様、咲夜の性格をよくわかってる。

 

「咲夜ー、今日は私たちが来てるんだから、そんな風にかしこまらなくていいんじゃない?」

「妹様、私はあなたの付き添いですので。私は客じゃないのです」

「ううん。咲夜も客だよー。ここまで来て、なんでもありませんっていうのは難しいんじゃないの?」

 

多分、私の懸念が正しいなら、咲夜はお兄様を意識し始めてる。理由はよく分からないけど、私もきっかけらしいきっかけはなくて、いつの間にかこんなに好きになってたから、毎日の積み重ねだと思う。お兄様、紅魔館の来てくれる回数多いもんね。

ただ、咲夜に譲るつもりはない。つもりはないけど、咲夜とお兄様がもっと仲良くなればそれはそれで嬉しい。

 

「いいじゃない。貴女、霊夢や魔理沙と話すときはもっと砕けた口調してるでしょ」

「私の矜持なので、それは」

「あら、定晴は霊夢たちほど親しくないってこと?薄情ねぇ」

「そ、そんなことは!」

 

ルーミアちゃんが咲夜のことを揶揄う。いや、揶揄ってるように見えるけど、ルーミアちゃんなりに咲夜とお兄様の間を取り持ってる。

前に聞いたけど、ルーミアちゃんはお兄様を独占するつもりはないらしい。独占欲はあるけど、お兄様がもっと幸せになるならもっと色んな女性がいた方がいいって、乙女な顔で話してくれた。私はまだ、そこまでの境地には至ってない。なんというか、ルーミアちゃんの愛の深さを感じた気がする。

 

「定晴様、お二人を止めてください」

「別に呼び方はなんでもいいぞ?藍も最近は砕けて喋ってくれるようになったしな」

 

昔の宴会だと、確か藍はお兄様のことを定晴様って呼んでた気がする。それに言葉遣いも凄い丁寧。多分それは主の紫のことを考えてだと思うんだけど、直近の藍は定晴殿って呼んでた。

何で知ってるのかっていうと、宴会は最近ずっとお兄様のこと見てるから。もうなんか、自分でも恥ずかしくなっちゃうくらい、ずっとお兄様のことを目で追ってる。私、お兄様のこと、好きすぎ!

 

「フラン、大丈夫?顔真っ赤よ」

「な、なんでもないよ!」

 

まずいまずい、思い耽っちゃった。もっとはしゃがなきゃ!

それはそれとして、お兄様の意見もあって咲夜は頭を抱えていた。そんなに、お兄様のことを呼ぶの難しいのかなぁ。あ、でも私もお兄様のこと名前で呼ぶの恥ずかしいかも。

 

「えっと、では、その、定晴さん……で、よろしいでしょうか」

「うん、まあいいけど、別に無理に呼ぶ必要はないからな?」

「もっと積極的になりなさーい」

「そこ、ルーミア煽らない」

 

ルーミアちゃんはニヤニヤしていて、揶揄ってるのは丸わかり。でも、咲夜はあんなに慌ててるってことは、やっぱり咲夜も何かしら自覚してることはあるのかな。

 

「じゃあ咲夜ももっと仲良くなったから、おもちゃ持ってくる!」

 

いい頃合いだから、お兄様の倉庫にあるボードゲームの中から良さそうなのを持ってくることにした。全員で五人だから、五人いても遊べるゲーム……人生ゲームか、モノポリーか。すごろく系じゃなければ、カードゲーム?お兄様、意外と多人数のゲーム持ってるからびっくり。

お兄様、外の世界の友達多かったのかなぁ。

 

………

 

妹様の提案で何種類かのカードゲームを遊び、昼食を定晴さんと共に準備して、現在時刻は二時ごろ。

いつもより長い時間遊んでいるからか、妹様は疲れてしまいソファでお眠りになりました。それにつられるようにルーミアが眠り、ユズさんが自室へと戻りました。

とはいえ、私はこの時間はいつもであれば紅魔館の仕事をしているので、皆さんのように眠れるわけでもなく。現在、キッチンで何かを作っている定晴さんを眺めることしかすることがありません。

 

「咲夜、そんなじっと見られるとやりづらいんだが……」

「すみません」

「気になるか?ついでに一緒に作るか」

 

定晴さんが手を招いて私のことをキッチンに誘導。断る理由もなく、断れるわけもなく、私は定晴さんの隣に並ぶ。

 

「今日作るのはぜんざい饅頭だ」

「ぜんざい……饅頭ですか?」

「あまり外の世界でも見かけないが、まるっきりないわけじゃない。ちょっと手作業で作るのは大変だが、霊力を使う反則技で完成させようと思う」

 

定晴さんは、既に色々と材料の準備を完了させていた。私にできることはなんだろうか。ひとまず、定晴さんの作業を見ながら合わせてみよう。

饅頭にぜんざいを包むらしいけれど、手作業だと結構大変。ぜんざいは餡子などより質量があって、包もうとするとすぐにはみ出してしまう。とはいえ、中をスカスカにすると、それはそれで見栄えが悪い。絶妙な量を包まないといけないのだが……

 

「久しぶりに作るからあまりうまくいかないな」

「定晴さんもですか」

「まあ、こういうのは練習しないとな」

 

はははと笑う定晴さん、その横顔に見惚れそうになって、急いで視線を手元の饅頭に落とす。

定晴さんとお呼びすることは、午前中でだいぶ慣れた。私が詰まったりすると、その都度妹様やルーミアから揶揄いが飛んでくる。もう二年ほど呼び続けているのを変える苦労もあるのに……でも、そのおかげで、少なくとも呼ぶことに気恥ずかしさはなくなった。

ただ、それと同時に、私と定晴さんの間で保たせていた距離感が近くなってしまい、心は落ち着かない。ずっとただの客として意識していたものを、友人くらいの距離まで引っ張られたせいで、特に今日は定晴さんのことを意識してしまっているような気がする。

 

「うーん、まあ今日のところはこのへんでいいだろう。使ってるものはどっちも人里の美味しいやつだから、食べれば一緒さ」

 

定晴さんはおやつを完成とし、二人を起こそうとする、その前に。

 

「今朝も言ったけど、無理はしなくていいんだぞ」

 

定晴さんは私の方を向いてそう言った。

無理は……正直している。私の中で唯一の境界線だった客としての扱いが崩壊し、私の心がずっと荒ぶっている。それなのに頭の中はクリアなのだから、変な気分である。

でも、

 

「無理はしてますが、嫌なわけじゃないんです」

「そうか?フランから言われたときもだいぶ困ってたようだったけど」

 

定晴さんは私のことを慮ってくれる。それは、妹様のメイドだから。

私は妹様を立てると決めた。妖怪の山で早苗から色々と言われたけれど、それが私のメイドとしての矜持だから。

 

『いいですか咲夜さん!そんな風に気持ちを殺したらだめです!健全じゃないですし、咲夜さんが一番つらいはずです』

『いいのよ。私はメイドなんだから』

『メイドの前に女の子です!叶わぬ恋を抱き続けるのは、思うよりもずっと苦しいんですよ……』

 

早苗は、実体験のこもった言葉で私を説得しようとした。曰く、もっと定晴さんと仲良くなれと。

早苗の初恋は、幼い頃、外の世界で過ごしていたときに定晴さんと出会ったことだという。その後、幻想郷に来てからもずっと心には残っていて、でも再会する方法もなくて、それでもあれ以上の気持ちはないと想いを抱き続けた。いや、忘れることができなかったというのが正しいのかもしれない。

私は大丈夫、私は瀟洒なメイドだから。私はスカーレット姉妹に仕え、どんなときでも彼女たちを支えると決めたから。私にとってお二人はすべてであり、私の欲が優先されることなんてないから。

 

「大丈夫です」

「咲夜……」

 

定晴さんが悪いものを見たかのような表情でこちらを見ている。そこまで、私は苦しんでいるように見えるのだろうか。表情には出ていないはずなのだけど……

 

ツー

 

ふと、頬に水滴が垂れるのを感じる。定晴さんの家、水漏れでもしているのかしら。

私は指で水滴を拭う。しかし、さらにその上から水滴が小さく垂れる。水量は少ないけど、止まることのないそれは、水漏れなんかではなかった。

 

「咲夜、もっと自分を優先していいんだぞ」

 

定晴さんがハンカチを渡してくれた。ハンカチくらいなら自分のものを持っているが、私はされるがままに受け取ってしまう。

これは、私の涙だ。悲しくなんてないはずなのに、苦しくなんてないはずなのに、私は瀟洒でないといけないのに、それでも私の涙は止まらない。

私よりも背の高い定晴さんが、私の頭を撫でる。それだけで、私の胸の奥の想いはあっけなく溢れて、私の涙は溢れてくる。

 

「ご、ごめん」

「違う、違うんです!むしろ、もっと撫でてください」

 

自分のことが分からない。どうして涙しているのか。どうして、それでも撫でてほしいなんて宣っているのか。

 

「だめなんです、私はメイドだから!常にメイドとして考えないと……!」

 

定晴さんが困った顔をする。ごめんなさい、こんなことを言われても困るだけですよね。でも、言葉はどんどん出てくる。

 

「妹様がいるのに!私が勝手に想って、先に行ってしまうなんてのは絶対に許されないから!そんなことをしたら、私は私を許せない!」

 

どんな想いかは、言わなかった。それを認めてしまっては、私は立ち直れないから。

私は足の力が抜け、地面に座り込む。まるで小さな子供のように泣く。こんなふうに泣いたのはいつぶりだろう。頭はこうしてずっと考え続けているのに、頭と口が全然連動しない。

 

「咲夜が何で悩んでいるかは聞かないけど……咲夜」

「っ……はい、なんでしょうか」

「咲夜はメイドという顔だけじゃない。霊夢たちと喋るときの咲夜、敵と相対したときの咲夜、色んな咲夜がいる。なら、その中にメイドじゃない咲夜がいたっていいはずだ。幻想郷じゃ、メイドはこうあるべき、なんて常識に囚われちゃいけないんだぜ?」

 

最後は軽く笑い、私に手を差し出す。

いいのだろうか、この手を取っても。この手を取るということは、私の中に【メイド・十六夜咲夜】じゃない、ただの少女がいると認めることになる。そして、その少女は、ずっと目の前のこの人を見ている。

私が少女を肯定すれば、私はもう止まれない。きっとメイドだけじゃいられない。ただ、それでも。

 

「いいんでしょうか。私がメイドじゃなくても」

「きっとレミリアも許してくれる。だって、彼女は咲夜が敬愛するお嬢様だろ?」

 

この人は、いつもこうして私の琴線に触れるような言葉をくれる。どうしたって信じてしまう。

そもそも、紅魔館は全面的にこの人を信頼しているのだ。妹様を狂気から助け、そして私たちが敵に回っても妹様を信じ続けてくれた彼を。

だから、この人の言葉を信じてみよう。そして、この人が信じてくれる私のことも。

 

「分かりました……私、ちょっと頑張ってみようと思います」

「ああ、頑張ってくれ」

「ええ……覚悟してくださいね」

 

多分目は赤いけど、私はもう覚悟を決めることにした。定晴さんは私の言葉をいまいち理解できていないみたいだけど、今はまだ分からなくてもいい。帰ったらお嬢様に相談することにしなければ。

 

「ん……あれ、咲夜どうしたのー?」

「妹様、いえ、何も」

「おはようフラン。おやつできてるぞ」

 

少々大きな声を出してしまったせいか、妹様が起きてしまった。私の目は赤くなってるだろうけど、ここは何も知らないという形を取らせてもらいたい。必ず後でお話をしますから。

 

「ルーミアちゃん、おやつだって!」

「んー、分かったわ」

 

そうして二人が起き、ユズさんを呼びに行くと、三人はぜんざい饅頭を食べ始めた。私と定晴さんは、形があまりよくないものを食べる。

今日のことはとても大切な思い出にしよう。今日の遊びも、ぜんざい饅頭も、すべて。今日は私の大きな一日だから。

 

「定晴さん、これからもよろしくお願いいたします」

「ん?ああ、もちろん」

 

やっぱり、よくわかっていないような表情をする定晴さんを見て笑みを零す。もう、この人の前で感情を隠すのはやめよう。

そうして私は静かに目を閉じて心に刻み……

 

「定晴!いるかしら!」

 

騒音で目を開ける。扉をどんどんと叩くこの声、これは……永遠亭の姫?

どうやら、今日はまだ何かありそうだ。ひとまず、私は瀟洒なメイドの仮面をかぶり、扉を開けに行くのだった。

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