東方十能力   作:nite

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四百五十三話 雪の訪れ

寒い日の妖怪退治は、妖怪を探す労力以上に、探している間の寒さによる消耗の方が激しい。温かくなるように色々と準備はしているけれど、幻想郷の寒さは外の世界よりも強い気がする。

 

「水那、多分あれよ」

「そうですね。特徴と一致します」

 

本日、私が霊夢さんに連れられてこなすことになった依頼は、人里の近隣にて住人に怪我をさえた動物妖怪の退治。

人里の少し離れた位置で、狐のような姿をした妖怪が通行人を襲い、腕から流血するほどの怪我を負わせたとされて、人里から退治依頼がきていた。人を殺す前に、そういう危ない妖怪は退治することになっている。

 

「あいつ、逃げ足が速いみたい」

「私が束縛をかけましょうか」

「ええ、そうしましょ」

 

今は疲れて寝ているようで、こんもりとした毛が上下に緩く動いているだけ。まだ私たちには気が付いていないみたい。

私は起こさないように、妖怪から数メートル離れた位置を、印を書きながら歩く。ぐるりと妖怪を囲むように、五点の位置に印を結べば、それは大きく五芒星を描き、妖怪を封じ込めることのできる結界ができあがる。

 

「霊夢さん、いきますよ」

「いいわ」

 

霊夢さんが飛び出して妖怪に近付く。その瞬間、妖怪は目を覚ましその場から飛びのく……しかし、霊夢さんが飛び出して結界範囲内に入った瞬間に、既に封印結界は発動している。妖怪は、その結界の壁に体をぶつけて霊夢さんを回避することができない。

 

「一日中かかったじゃない!」

 

霊夢さんの夢想封印が、狐の妖怪を飲み込み吹き飛ばす。妖怪が倒れ伏す間に、調伏して退治する。

一日かかってしまったものの、やっと対象の妖怪を退治することに成功した。この妖怪は死んだわけではないものの、人を襲う力すらも残っていない状態で放逐されることになる。そのあとに他の妖怪に殺されてしまうなんてことは……私たちが考えることではない。

普通に浄化してしまってもいいのだけど、霊夢さん曰くこっちの方が楽ということでこんな退治方法を使っている。

 

「はぁ、こりゃいっぱいお礼を貰わなきゃやってられないわね!」

「皆さんもこんなに大変だとは思わなかったんじゃないですか?」

「いーや、狐の妖怪だってわかってたなら、逃げ足が速いことは分かっていたはずよ」

 

ぶつぶつと文句を言いつつ人里を目指す霊夢さん。私はその後ろを、今日使った術の振り返りをしつつついていく。

と、霊夢さんがこちらを振り返った。

 

「いい、水那。こういうときは私たちは仕事をしたんだから、多少がめつくいっても大丈夫なの」

「それは……私たちもこれが仕事なんですから」

「はぁ。あんた本当に外で盗みを働いてたの?なんでそんなに根がいい子なのよ」

 

私は外の世界で、生きるために商品を盗んだりしたこともあった。でも、誰かに迷惑をかけずに生きていけるのなら、ちゃんと交渉をした方がいい。外の世界じゃ、言葉だけで済むようなものは何もなかったから仕方なかったけれど、この世界なら実力と言葉でいくらでも交渉できるのでいい。

こっちの世界に来て本当によかった。

 

………

 

人里で報酬を貰い(霊夢さんが強く言ったためちょっとだけ多めに貰った)博麗神社へと戻ってくる。もう夕方、いや夜になりかけている。

幻想郷も既に冬、日が落ちるのは非常に早く、五時を過ぎればだいぶ暗くなっている。僅かに太陽は頑張っているようだけど、冬の暗さには勝てそうにない。

 

「水那、今日は鍋にするわよ」

「じゃあ食材切りますねー」

「ん、こっちは出汁用意しておくわ」

 

最近は、こうして二人で料理をすることも多くなった。とはいえ、私も霊夢さんもそこまで料理が得意というわけではないので、基本的に宴会料理のような大皿系になるのだけど。

なんだかんだ、あうんちゃんとか針妙丸ちゃんとか萃香さんとか、日によって夕食の食卓を囲むメンバーが変動するので、そっちの方が調整しやすくていいのだ。

 

「あ、霊夢さんおかえりなさーい」

「あらあうん、鳥居のとこいなかったけどどこいたの?」

「ちょっと温泉の方を見てました!」

 

博麗神社には、温泉が存在している。なんでも、過去に間欠泉が吹きあがった時に整備して作り上げたとか。

そこまで綺麗ではないけれど、一応ちゃんと掃除はしているのでお湯自体は綺麗な状態を保っている。外の世界にいた時はお風呂に入ることもできなかったので、こうして毎日お風呂に入れるだけで私は十分だ。

 

「こいしさんが来て、温泉の整備をしたいって言ってましたよ」

「なんでまた」

「地底の温泉が少し恋しくなったと」

 

私たちが仕事をしている間に、こいしちゃんが来ていたらしい。最近地上に引っ越してきて、ここに顔を出すことも多くなっていたけど、それでも私たち二人ともいなかったのは少し申し訳なく思う。基本的に、仕事は私か霊夢さんのどっちかで対応して、片方は神社にいることが多いので猶更だ。

 

「あと、定晴さんと一緒に入りたがってましたよ」

「ふーん、あの子がそこまで言うなんて」

「ああいえ、なんとなく察したと言いますか。混浴なのか気にしていたので……」

 

うーん、定晴さんと一緒にかぁ。まあタオルとか巻くならいいかなぁ。定晴さんはお兄さんって感じだから、裸じゃないなら一緒にお風呂に入ることにはそこまで抵抗感はない。

幻想郷の実力者って大抵は女の子で、博麗神社に来るのも定晴さん以外は女性なので、お風呂を性別で分ける理由がないのだ。紅魔館とかは男女で分かれていたと思うけど、わざわざここで男女別に作る労力を霊夢さんは使いたくなかったのだろう。

 

「あうん、あんた人の色恋を察するようになったの?」

「最近は定晴さんの周囲はそういうの多いですから!それに、たまに話を聞いたりするんですよ。アドバイスとかできないので、愚痴みたいなのを聞くだけですが」

 

あうんちゃんは、どんな話でもちゃんと聞いてくれるし、そこに何か私情とかを挟んだりしてこない。そのため、石像に話しかけるが如く話し相手になることが多いのだ。よく萃香さんとか美味しくなかった酒の愚痴とかを零している。

その延長線上で、恋愛相談を受けることもあるのだろう。定晴さんを慕っている人は結構多いですからね……

 

「まあ、他の人たちが掃除して入る分には勝手にして構わないわ。別にそんなお金取ってないし」

「お気持ちですか」

「ええ、お気持ちよ」

 

その温泉の更衣室には、霊夢さんのお気持ちボックスが置かれている。強制ではないけれど、霊夢さんのことを考えると入れないとあとで面倒になるから何かしらお気持ちを入れるくらいの箱だ。まあ、タダ温泉は幻想郷でも何か所かあるらしいので、わざわざお金を取るほどでもないと判断したのだろう。

とはいえ、何も払わずに温泉に浸かっているのを見つかれば、霊夢さんが不機嫌になって態度が悪くなるので、何かしらお気持ち分のお金は払っておいた方がいい。

 

「そら、あうんも手伝いなさい」

「はーい。食器出しますねー」

 

今日はあうんちゃんだけかな。萃香さんがいるときは既にいるし、針妙丸さんは最近姿を見ない。たまに妖精たちが襲来することもあるけど、今日は静かなものだ。

私は白菜だとか豆腐だとかを切って鍋に入れる。正直、そこまで豪勢な食材は使えないので、時間がかかるような食材はあまり入らない。嵩増し用のじゃがいものとか、それくらい?

 

「いい感じで、あとは向こうで煮ちゃいましょ」

 

鍋を持って行って、小さなちゃぶ台で鍋を煮詰めていく。今日はとっても寒いので、一日中外にいた私たちにとっては至福のご飯だ。

 

「あ!」

 

外を眺めていたあうんちゃんが声をあげる。私と霊夢さんもその声につられて外を見る。てっきり誰か来たのかと思ったのだけど……

 

「雪ですよ!今年の初雪です!」

 

空からは白く冷たい雪が降る。初雪の日に鍋……うん、絶好の鍋日和。

 

………

 

湖で遊ぶ妖精が、人里で過ごす妖怪が、閑古鳥の店主が、小さな家の式神が、吸血鬼とメイドが、妖怪の山の風祝が、買い物に出ていた庭師が、空から降る白に気が付いた。

幻想郷の、冬が来る。




ここまでたったの12時間。たまにはこうして一日を詳細に描写するのもいいかと思いまして。次回からはまたいつものように日が過ぎ去ります
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