東方十能力   作:nite

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四百五十六話 独白

幻想郷の冬は寒く、十二月手前のこの時期でも、朝や夜にはうっすらと雪が積もることがある。最近の冬はやたらと寒くていかんな。

俺は、自分の部屋で窓の外を見ながら黄昏ていた。家の近くの森にいた妖怪たちは、大抵退治してしまったので、夜の窓を見ても獣の姿は全く見えない。もしかしたら、冬眠する妖怪というのもいるのかも……いや、確実にいる。紫ですら冬眠するのだから、獣が冬眠しないはずもないか。

 

『なんだかヤケになっちゃってない?そんなに昼間のが効いた?』

『やめろ。お前は神経を逆なでするだけだ』

 

魂の中の声が反響する。周囲に音がないから、その声はいつもよりも聞き取りやすい。

今日の昼、俺は強制的とも言える中複数人の女性と共に温泉へと入浴させられた。掃除が始まるまで俺に事情を何も説明しない時点で怪しかったのだが、まさか強制混浴をさせられるとは思わなかった。

発案者が誰か問い詰めたら、まさかのこいし。そこに早苗やルーミアが便乗したということだ。慎みというものはないのだろうか。

 

『いいじゃん、恋の予感だよ!女の子の素肌を見てドキドキしないなんてありえな~い』

『黙ってろ!』

 

狂気が愛を殴る。いたーいと愛が泣き始めるが、慈悲や慈愛の感情を持たない狂気は徹底的に無視をする。やはり、魂の問題は魂同士で解決してもらえるとスムーズだ。

恋の言う通り、ドキドキしないなんてありえない。一般的な男性であれば、女性の素肌に何かしら興味を示し、混浴となれば喜ばしい状況なのだと分かる。こうして複数人の女性に言い寄られる状況は、世の男性にとってはハーレム最高くらいの気持ちだろう。

 

だが、俺が今日感じた感情は……恐怖、不安、それに不快感。

分かっているとも。こいしや早苗が俺のことを本気で好いていてくれていることは。それで、今日のような状況を作って俺にアピールをしていることは。

幽香が今日いたのは偶然だったようだが、それにしたって彼女も乗り気で混浴をしていた。彼女だって俺に告白をしてくれた一人なのだから、その意図は分かる。

俺が混浴を断る言葉を考えていた時、幽香が囁いてきた言葉が思い起こされる。

 

『最近あなたに会えなくて寂しかったから、一緒に入れたら、嬉しい』

 

いつもの気高な声ではなく、少女らしく、幼さすらも感じるような、甘える言葉。最近幽香に会っていなかったのは事実だし、どのみち幽香にも囲まれた時点で俺に逃げ道なんてなかった。

だから俺は諦めて風呂に入ったわけだが……

 

『うぅ……ねえ定晴!狂気が私のことを殴るの!』

『お前が鬱陶しいからだろう。おい定晴、こいつどっかに閉じ込めようぜ』

『こんなかわいい女の子に対して酷くない!?狂気ったらいじわるー』

 

ああ、魂のやつらがうるさい。

俺が狂気に陥らない理由は、魂に狂気がいるから。俺が感じている狂気感情は、すべてこいつが吸収してくれており、そうでもなければ俺は既に廃人になっていただろう。

俺が女性に心が揺れない原因は、魂に愛がいるから。俺の本来持つだろう異性に対する感情のほとんどを吸収され、他の人々の好意を素直に受け取ることができない。

尚、魔女の魂は俺の性格には影響を与えていないので割愛。今も、我関せずの意思で二人の会話に参加するつもりはないようだし。

 

『定晴、落ち着け。うるさいやつの口は封じた』

『もがもが』

『まったくもう』

 

と思ったら、魔女が愛の口を塞いでくれた。これでやっと静かに考え事ができる。

 

俺は彼女たちの好意をどうすればいいのだろうか。愛が消えれば普通に接することができるのだろうか。魂が消えるという事象は体験したことがないからどうなるか不安でしかないが。

 

「問題と言えば、例の力のことも……」

 

輝夜に怒られた一件だ。

この世界に、平行時空に対して認知できる存在がいることを失念していた。やめるつもりはないが、申し訳ないとは思うので、今後そういうことが予想できる場合は先に話をしておくという結論になった。

輝夜が言っていたのは、俺が千亦と百々代を相手にしたときに使った荒業のことである。

 

簡単に言えば、絶対に被弾せずに殴り続けるという脳筋戦法と言っても過言ではない。

俺の未来予知的なあの能力は、俺が死ぬ未来に対してしか発生しない。最終的に四肢が全部吹っ飛んだとしても、死ななければ俺の未来予知は発生しないのだ。

ではどうすればよいか。答えは簡単、自分の防御力を限りなく下げどんな攻撃を受けたとしても死ぬようにしてからゼロ距離戦に持ち込む、である。

そうすれば、例え相手がどんなものであっても被弾ゼロで戦い続けられるというわけだ。相手がどれだけ増えても、被弾はしない。

魔女の魂のおかげで、俺の防御力を下げることが容易になった。外の世界では敢えて呪いを自分に付与するなどしていたわけだが、浄化が使えない影響で毒を食らう可能性があった。今の方法なら、浄化を解除することなく防御力ゼロになれるので、今までよりも安全である。

 

尚、この戦闘方式をミキや紫のような規格外相手に使うと、常に未来予知が発生する状態になり、回避不能攻撃が飛んできて死ぬので無理だ。

 

『あの戦闘でまた狂気が増えたぞ』

「だろうな」

 

俺の未来予知は、死ぬ瞬間までを体感することにより成り立つ。つまり、何度も死ぬイメージを覚えるのだ。

そして、そんなに死ぬイメージを持ったままで正気でいられるはずもなく、こうして狂気が溜まっていく。ゲーム的に言うなら、SAN値がゴリゴリと削られていくイメージだ。

だから、こうして一人思い耽り黄昏れることで頭の中を整理しないと正気を失いかねない。毎日少しずつやっている日課だが、未だに俺の頭には死が纏わりついている。

 

「んじゃそろそろ寝るか……」

 

時間もちょうどいいからと、俺はベッドに移動しようとした瞬間。窓の外に気配が

 

パリィン!

 

俺の部屋の窓は無惨に割れ、外から誰かが飛び込んできた。

 

「よう定晴。元気だったか」

「てめえ、おい、なんで窓壊したし。なあ?」

「ふん。この家の中に直接転移できないようにしたお前が悪い」

 

飛び込んできたのは、平然な顔をしたミキであった。外は雪が降っているはずだが、その頭も服も濡れた様子はない。

 

「直せ」

「はいはい。レパロ!はい、元通り」

 

一瞬で再生される窓。何事もなかったかのように、汚れの場所も変わらず元通りである。

さて、こいつは常識外れではあるものの、こんな頭のおかしいことを突然するようなやつではない。一体何の用というのだろうか。

 

「辛気臭い顔してる親友がいたから会いに来た」

「しれっと心読むな」

「長ったらしい独り言は終わったかい、坊や?」

「ああ?」

 

非常にうざったい声色と、鬱陶しいその言葉遣いに、俺はキレ気味に言葉を返す。だが、その程度でこいつが揺れるはずもなく、飄々とした雰囲気のまま話を続ける。

 

「魂のことを考えてただけだ」

「それで独り言と」

「お前なぁ。煽りたいだけなら帰れよ」

「おおう、いつにもまして不機嫌。何かあったか」

 

どうせ誤魔化しても帰らないだろうし、正直に今日の昼間に何があったのかを話す。そして、俺がどう感じたかについても。

すると、ミキは一瞬だけ悩んだ表情を見せ、口を開く。

 

「なーんだ、かわいい女の子たちと混浴するのが恥ずかしかっただけじゃーん!」

「はぁ!?どう聞いたらそうなる!」

「はっはっは、恥ずかしがらなくてもいいぞ坊や。お前の年齢じゃ、まだまだ美少女に目移りしちゃう時期だからな」

 

そうして煽るだけ煽って、ミキは窓から飛び出していった。あの野郎、俺をイラつかせるだけイラつかせて、何がしたかったんだ。

気持ちが落ち着かず、俺はベッドに潜り込んだ。ひとまず、今日のことは忘れよう。そう心に決めた。

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