また、第二部最後の章です
四百五十七話 迷いの森
混浴事件から一週間。俺は、またもや博麗神社に呼び出されていた。今回は、なんとユズも一緒である。
昼間であっても、地面には軽く雪が積もり、今でこそ晴れているが、明日にはまた雪が降り始めるだろうこの頃。一週間で、季節はこうも見た目を変える。
強く警戒しながら博麗神社に向かうと、そこには何やら境内で陣を描いている霊夢と、お札を何枚も持った水那がいた。どうやら、ただ事ではなさそうだ。
「水那、来たぞ」
「定晴さん。お待ちしておりました」
そういうと、水那は俺たちに一枚ずつ、お札を渡してきた。お札には何も書かれていないが、霊力が籠っていることは分かる。察するに、霊夢が用意したお札であろう。
「何をしてるんだ?」
「そうですね……ひとまず、定晴さん。先日の温泉以降、魔理沙さんに会いましたか?」
「魔理沙?いや、見てないが……」
神妙な顔をして問うてきた水那に、笑いごとではないと俺も真剣に答える。
魔理沙はそもそも俺の家によく来るような間柄ではないし、来るとしても神社に行くついでちとかそういう時だ。水那たちが見ていないというのであれば、当然俺たちも見ていない。
一応ルーミアたちにも尋ねてみたが、やはり見ていないという。
「家にも行ってみたんですが不在で、アリスさんやパチュリーさんも見ていないと」
つまり、魔理沙が行方不明ということだ。温泉の準備のときにいたのは確認しているが、確かに温泉には入っていなかったし、食事の時もいなかった。
てっきり何か用事で先に帰ったのかと思っていたのだが、まさか行方不明になっていたとは。
「霊夢さんも最初はひょっこり戻ってくると思っていたんですが、一週間もいないとなると少し心配になったようで。今描いているのは、人を探す術なんです」
霊夢は、陣を描きながら、まるで舞を踊るように体を動かしている。きっと、あれも奉納の一種なのだろう。
「それで、俺たちは何をすればいいんだ?正直あの術は手伝えないが……」
「定晴さんたちは、いわゆる人手です。実は、既にあの術とは別に色々と試していまして」
何も人探しの術は一つではない。むしろ、こうして特別な方式の術を扱うことは例外の方だろう。
色んなところで聞き込みをしたり、魔理沙がいそうなところを片っ端から探したり……そういうのは既にやっているようだが、魔理沙だって動き回っていると考えれば、新しく目撃情報があるかもしれない。
「じゃあ人里にでも」
「いえ、調査をしてほしい場所があるんです」
水那はポケットから小さな地図を取り出す。それは、博麗神社周囲の地図のようで、分かりやすく点が打たれた博麗神社以外は、そのほとんどが森である。この地図必要か?
だが、その地図の中に赤く丸がつけられている部分があった。博麗神社の北側、広い森の中の何もないはずの場所に印がある。
「霊夢さんが、勘で丸をつけたんですけど」
「おおう、まさかの勘。だが霊夢の勘だと無下にはできない」
「そうなんです。私は霊夢さんの手伝いをしないといけないので、定晴さんにここの調査をしてほしくて」
博麗神社の周囲は、霊夢が対策を行っているため野良妖怪はほぼおらず、変な術などが仕込まれることもない。霊夢がすぐに気が付いて、解除ないし犯人の討伐を行うからだ。
だというのに、神社のすぐ近くに怪しい場所があるというのはおかしい。博麗の巫女の勘はこういうときの的中率が異様に高い。
話を聞いたあとに、一応大切なことを聞いておく。
「因みに、報酬は?」
「ことが終わったあとに魔理沙さんに請求します」
「よしきた」
尚、報酬の話がなくても魔理沙がいないのは心配なのでやる気ではあった。とはいえ、報酬があるのとないのとでは、仕事に対する重要性が変わってくるので、多少話しておいた方が後々スムーズになりがちだ。
「このお札は?」
「安全策です。そのお札を持っていれば、こちらから居場所がわかります。魔理沙さん以外もいなくなると大変なので」
木乃伊取りが木乃伊に……なんてことになれば、捜索対象が増えるだけだ。
このお札は幻空の中にいれず、落とさないようなポケットにでも入れておこうかな。
「では、お願いします」
ぺこりと頭を下げる水那。俺たちは、地図の丸がつけられた場所に向かう。
上空から見ても、森に変な部分は見られない。妖力が籠っているとか、魔力が溢れているとか、霊力が集まっているとか、そういう見ただけで分かるような異変は発生していないようだ。
「二人とも、あまり離れるなよ」
「ええ」
「はいっ」
本当はユズは家においておいたほうがいいのかもしれない。特に、今回のような行方不明事件だと何が起きるか分かったものではない。
しかし、一人だけ別のところにおいておくというのも、ある意味心配だ。家の中は安全だろうが、俺たちが無事に戻れなかった場合にユズが不安定になる可能性がある。今のユズの精神的な支えは、確実に俺たちなのだ。
何より、
「ユズ、大丈夫か?」
「はい!いけます!」
ユズがやる気に溢れているのだ。折角ユズが頑張ろうとしているのに、そこに水を差そうという気にはなれない。
俺たちは丸がつけられていた場所付近の地上に降り立った。森の中には明確な目印がないので、だいたい地図の縮尺を元に距離でなんとなくで来た場所だ。正確な場所は、霊夢じゃないと分からないだろう。
「とりあえず歩いてみるか」
「見た感じは普通の森ね」
地面が変になっていることもなく、木々が枯れているということもなく、妖怪がいるわけでもない。いつも通りの、博麗神社付近に広がっている森である。
冬になり、生い茂っていた葉は多くが落ち、地面は草が広がっている。誰の手も加えられていないというのは火を見るよりも明らかであり、ここに何かがあるとは到底思えない。
「あくまで勘でしょ?霊夢の勘は外れることもあるから、適当に歩いて戻りましょ」
「そうだな。馬鹿にはできないが、説得力はないからなぁ」
科学的根拠どころか、魔術的根拠すらもなく、ただ博麗の巫女の勘だけで調査をしている状態。説得力なんてものは当然の如くなく、外の世界なら調査すらされずに見向きもされない情報源だ。
だが、霊夢があそこまで本気になったときに勘が囁くというのならば、やはりここには何かあるように思える。俺たちでは気づけないような何かを、霊夢は第六感によって察知しているのではなかろうか。
「だが感知できないものは仕方ないか」
そう俺は頭上を仰ぎ……違和感を覚えた。
博麗神社を出発したときは晴れ、雲はあれど一応快晴とも呼べるような天気。葉は落ちて日差しを遮るものはなく、先ほどまで確かに俺たちは淡い日差しによって照らされていたはずだ。
それが、ない。頭上を仰いでも空は見えるが太陽の光を感じず、明るいのに光源の位置が分からない。まるで空間そのものが明るくなっているかのようで……
「ルーミア、ユズ!」
俺は後ろを振り向いた。
しかし、そこに二人の姿はなかった。