東方十能力   作:nite

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四百五十八話 知らぬ場所、知らぬ……

俺は焦らず、式神の繋がりを確認する。式神の繋がりは距離によりある程度衰退してしまうという弱点があるが、それによってどれくらい式神と距離が離れているかを確認することができる。

繋がりで見ると……式神は俺の横にいると認識される。

 

「どういうことだ」

 

俺は浄化を強め、誤認識に対して無効化すらも発動する。先日の極暑異変により、浄化も万能ではないと知り、違和感があれば無効化を使うことを躊躇わないことにしたのだ。

しかし、無効化を使っても二人の姿は現れず、しかし繋がりだけが、二人はそこに変わらずいると知らせてくる。

 

いつからだ。いつからこうなっていた。

ルーミアと会話をしていたのは森に入った直後。しかし、ルーミアとユズの妖力を確かに背後に感じながら歩いていたはずなのだ。突然いなくなる可能性もあると知っていたからこそ、妖力の所在には常に注視していたのである。

だが、ふと頭を動かし、視線を外し、だが妖力だけは気にしていたのに、いつの間にか二人の妖力は消え、俺は一人で森に立っていた。

 

『ご主人様、聞こえる?』

『ルーミア』

 

ルーミアからの式神通信。ルーミアとの付き合いも長くなり、今までよりも声が明瞭で分かりやすい。

 

『ユズ、いる?』

『……は、はい』

 

どうやらユズとルーミアもはぐれてしまったようだ。つまり、俺たちは現在それぞれ孤立しているということ。

そこまで広くもない森で孤立とは……いや、そもそもここは博麗神社の裏の森なのだろうか。いつの間にか転移していたとしても、そこまで不思議ではないというのが幻想郷である。

とはいえ、再三言うが、博麗神社の周辺は霊夢や水那が見回りをしており、異変があればすぐに気が付くはずなのである。転移ともなれば相当な術式によって成り立っているはずであり、それが今の今まで放置されているとは考えづらい。

 

『ご主人様、私たちのことを呼び出せる?』

『やってみよう』

 

ひとまず、俺たちは冷静だ。ユズが取り乱してしまうかと思ったが、通信の声色を聞く限り慌てた様子はない。やはり、式神通信により傍に存在を感じられるというのは大きいだろうか。

俺はまず式神召喚でユズを呼び出した。一人だと危ないのは、ルーミアよりもユズだから。

いつものように光と共に術が行使され、目のまえにユズが現れた。やはり、ユズに慌てた様子はなく、ただ俺の姿を見つけてほっとしているようだった。

 

「定晴さん、ありがとうございます」

「ユズは大丈夫だったか?」

「はい。姿は見えませんでしたけど、お二人の気配はすぐ近くに感じていましたから」

 

やはり、ユズもすぐ近くに感じていたらしい。そこにいるはずなのに見えないというのは中々の恐怖のはずだが、むしろユズにとっては好都合だったか。

俺はその後ルーミアを呼び出し、ちゃんと見える状態のルーミアが現れたのを確認したのち、水那から受け取ったお札を取り出した。

 

「水那、緊急事態だ」

 

使い方はトランシーバーと同じ、ただ持った状態で声を発すれば向こうへと届く……はずなのだが、いつまで経っても水那からの返答はない。まるで壊れてしまったかのように沈黙を続けるお札に霊力を込めたり、大声を出してみたりしたが、やはり古びたお札はただの紙切れ以上の価値を示さなかった。

 

「……飛ぶか?」

 

俺は空を見上げて呟く。

先ほどの場所から移動していなければ、ここは博麗神社からすぐ近くだ。飛行すれば、すぐに水那のところに戻れるだろう。

だが、俺たちの目の前に広がるのは、青空なのにどこか不気味さを感じる空。まるで青空を貼り付けただけのような気持ちの悪いわけのわからない空に飛び出して、無事に帰り着くことができるのか定かではない。

 

「みんなで手を繋ぎましょ。変なことがあればすぐ気が付けるはずだわ」

「……そうだな」

 

ルーミアの提案で、俺たちはそれぞれ手を繋いだ。俺はルーミアと手を繋ぎ、ルーミアがユズと手を繋ぐ。

ルーミアの両手が使えなくなってしまうが、ルーミアは闇を自分の腕のように自在に操ることができるため、こういうときはルーミアが適任なのだ。俺の場合結界とかで援護するとかしかできないからな。

 

全員で同時に空に浮かび上がろうとして……バランスを崩しかける。

体が浮かび上がらない。いつものように霊力を纏って浮かぼうとしても、体がちっとも持ち上がらない。霊力が纏われているのは認識できるというのに、どういうわけだろうか。

 

「飛べないってことかしら」

「なんだかさっきから認識がおかしくなっている気がする」

 

場所が指し示しても相手が見えない。霊力を纏っても空を飛べない。

こういう、本来の認識からずらされているような感覚は、何かしらに化かされているときに発生する現象だ。俺には浄化があるので効くはずがないのだが……また、俺自身の正常が変わっているのだろうか。

 

「ならご主人様の風はどう?」

「どういうことだ?」

「ちょっと、風で飛んでたの忘れたの?あっちは物理現象で飛んでたんだから、こういうところでも飛べるんじゃないってこと」

 

ああ、そういえばそうだった。

俺は幻想郷に来てしばらくは、霊力などを用いて空を飛ぶ手段を手に入れていなかったのだった。それまでは、俺の能力により発生した風を用いて疑似的に飛行をしていたのだった。そのため、俺の周囲には常に暴風が発生するせいで、魔理沙から飛びにくいと苦言を呈されたこともある。

あれは確かに、物理現象で飛んでいた。三人飛ばすとなると相当な風が必要になるが……あれなら飛べるか?

俺は、中心であるルーミアを中央にして風を発生させていく。しばらく使っていなかったとはいえ、飛行の補助としては風を使ってきているので、今でもちゃんと同じように飛べるはずだ。他人を飛ばすということはしたことがないが、感覚は同じはず。

ルーミアから俺とユズに風が広がり、周囲の木々がざわざわと靡きだす。渦巻くように発生した風は、いつしか大きな竜巻のようになっていた。

 

「バランス注意な」

「ええ」

「は、はい!」

 

竜巻の中心で、俺は一気に風を巻き上げた。

俺たちの足が地面から離れ、ゆっくりと巻き上げられていく。本来の風はもっと素早く上昇するが、それだと慣れていない二人のバランスが崩れてしまうかもしれないので、ゆっくりと高度を上げる。あまりしない操作なので、集中が必要だ。

そうして一分程度かけて、俺たちは木よりも高いところへと浮かび上がった。

 

「うわぁ……」

 

ルーミアから声が漏れる。俺も、心情としては同じだ。

遠い木に至るまで、まるで貼り付けられたような空が続き、山のようなものは一切見えない。この世界には森しかなくなってしまったかのように、全方向に木が続き、建物の類は全くない。本来の場所なら博麗神社がここからでも見えるはずなのだが、赤い鳥居はどこを見ても見えそうになかった。

仕方なく、風を弱めて地上に降りる。三人で自由に飛び回るには、もう少しなれる必要があるだろう。練習しておくべきだったか。

 

「取り敢えずこれで分かったわね。ここは幻想郷じゃないわ」

「というか、地球なのかも定かじゃないぞ。空がこんなの」

「なんというか、写真みたい?」

 

現状理解。ひとまず、俺たちで慌てている人は誰もいない。うちの式神は優秀だ。

やはり、いつの間にか転移してしまっているというのが一番考え得る現象だな。そして、転移先の世界は霊力で浮かぶことができない世界、ということだろうか。物理現象は発生するが、あまり思うがままに動くことはできないと言える。

 

「魔理沙もこの森のどこかにいるのかしら」

「暴れてくれれば見つけやすいんだが、そうじゃないなら果てしないな」

 

先ほど見た森は、少なくとも観測できる範囲内に森以外のものはなかった。開けた場所もなく、闇雲に歩いても一生森の中を彷徨うことになるだろう。

 

「このお札が使えたらいいんだが……」

「そうね」

 

俺もルーミア、ユズも持っている水那から貰ったお札。一応それぞれで確認したが、使えるお札は一枚もなかった。

やはり別の場所に移動してしまったのが問題だろうか。幻想郷にこんな場所はないはずだし、もしかしたら外の世界に出てしまったのかもしれない。そうであれば、幻想郷の結界に阻まれて届かないというのは当然のことだ。

 

「とはいえ、ここで待ってても仕方ないし移動を……うん?」

 

ふと、ルーミアたちの背後、森の奥に何かが動いたように見えた。動物か、人か、それは分からないが木以外の何かがいるようだ。

ルーミアたちに目配せして、そちらに移動する。手を繋いだままなので走ることはできないが、動いた影はそこまで早いわけでもないようで、歩いても十分追いつけそうだ。

そうして木々の間を抜けながら歩き、やっとそれの背中が見える。赤いの服、緑の髪、華やかな傘、あれはもしかして……

 

「幽香!」

 

俺は声をかける。すると、目の前を歩いていた幽香は立ち止まり、こちらを振り返る。

そして俺の姿を捉えると……

 

「定晴ー!」

 

幽香はまるでフランのように、俺の方に飛びついて抱き着いてきた。まさか幽香がそんなことをするとは思わず、俺は吹き飛ばされ、

 

「ちょっと、私の前で何しようとしてるのよ」

 

そうになったところを、ルーミアが闇で幽香を捕まえた。

だが、幽香はそんなことを意に介さず、俺の方をじっと見つめている。若干目が潤んでおり、なんというか、少し幼い印象を受ける。幽香はどうしちまったんだ。

 

「えへへ、会いたかったわ!」

 

やはり幼く笑う幽香。

この森で一体何があったのだろうか。

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