東方十能力   作:nite

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四百六十話 大人な彼女らは説かぬ

幽々子は、その場で座り込むと、地面を叩いて俺たちも座ることを促してきた。

 

「今本物って自分で言ったよな」

「ふふ、あなたたちはそれが一番重要なんじゃないかって思って」

 

幽々子は俺たちの知る幽々子と変わらないように見えた。先ほどの幽香と違って、精神的に異常あると言うようにも見えない。

幽々子はいつもの扇子を取り出し、俺たちの方に差し出した。

 

「先にこれを渡しておくわね~」

「くれるのか?」

「ん~、預かっててほしいって感じかしら。きっと貴方に必要になるから」

 

幽々子から貰った扇子を、俺はポケットに差し込んだ。これも、幻空に入れない方がいいだろうと判断したからだ。

 

「それは幽香の日傘よねぇ~」

「そうだな。さっき会ったんだが、置いてっちゃって」

「それもしっかり持っておくのよ~」

 

まるで念押しをするように、幽々子は俺の目を見て言う。その声はいつものふんわりしたものだったが、その目には強い意志が宿っているように見えた。

 

「なあ幽々子、ここはどこなんだ?」

「うーん、それは教えられないの。ごめんなさいね~」

「……ここはなんなんだ?」

「うふふ、そんなに警戒しないでいいわよ~。むしろ、もっと気を抜いたほうがいいわね~」

 

のほほんとした雰囲気の幽々子は、いつの間にか持っていた饅頭を食べていた。先ほどまで持っていなかったはずなのに、どこから取り出したのだろう。

 

「ああ、そうだ。俺たちは魔理沙を探してたんだ。何か知ってるか?」

「魔理沙?そうねぇ、あの子ならもうちょっと深いところにいそうねぇ」

「深いところ?」

「きっとどこかで会えるわよ~。いえ、もしかしたら会えないかもしれないけど」

「どっちだよ」

 

幽香の時と同様、問答に関してはあまり要領を得ないやり取りが続く。やはり、この幽々子も実際は本物の幽々子ではないということなのだろうか。幽香の時と違って見た目では何も変わっているようには見えないので、判断がしづらい。

 

「あなたが困っているのは分かるんだけど……私もあなたとここで出会うとは思わなくて」

「なあ、幽々子がいるってことは妖夢もどこかにいるのか?」

 

妖夢は基本的に幽々子と一緒にいる。離れているのは、買い出しのときとか本当に一時的なものだ。幽々子が外出をするときに、妖夢が一緒ではないということはほとんどありえない。

だが、幽々子は緩く首を横に振る。

 

「あの子は今剣の修行中ねぇ。私は食後休憩中なの~」

 

休憩中だから、こうして一人でここにいると。やはり、いまいちわからない。

休憩中に来れるということは、ここは冥界ということになるが、しかし冥界にこんな花畑があるとは思えない。太陽の光がほぼ差し込まない白玉楼で向日葵を育てられるとも思えないからな。

と、そういえば先ほど生まれた疑問について尋ねておくか。

 

「幽々子ってここがどう見えてるんだ?俺たちには向日葵畑に見えるんだが」

「私にもしっかり向日葵畑に見えるわよ~あまり太陽の花畑には行かないから、こういうの新鮮だわ~」

 

となると、幽香にもちゃんと森に見えていただろうか。気が付いたら周囲の景色が変わっていた理由と原因が分からないな。

幽々子は饅頭を一つゆっくりと食べきると、ふわりと立ち上がった。亡霊の彼女は、色々な動作がふわふわとしている。

 

「そろそろ私は行くわね~」

「幽香も幽々子も勝手ね」

「仕方ないのよ~。幽香は自覚ないだろうし、私も思いがけなかったもの~」

 

そうして幽々子は向日葵畑の中へと入っていく。だが、先ほどの森の中とは違い、幽々子の体を完全に隠せる瞬間がないため、どうやって消えるというのだろうか。俺の中で、どこかに行くと言う時に消えるのは確定事項だ。

と、幽々子が途中で立ち止まり俺たちの方を向いた。

 

「そうねぇ、やっぱり折角ここにいるんだから会うべき人に会った方がいいわよねぇ」

「どういうことだ?」

「三人とも、目を閉じてちょうだい~」

 

幽々子の言葉に訝しむ俺たち。だが、幽々子はいいからいいから~と、俺たちが目を閉じるまでは何かする気はないらしい。

仕方なく、俺たちは目を閉じる。うっすらと見ようとしたら、幽々子からズルはだめよ~と言われて諦めてちゃんと目を閉じる。

だが、いつまで経っても幽々子からの返事がない。俺が目を開けると、またもや周囲の景色が変わっていた。やはり、幽々子の姿はどこにもない。

 

「ルーミア、ユズ、目を開けろ」

「……やっぱり、景色が変わってるわね」

「ふわぁ、ここは冥界ですか?」

 

そこは、多くの霊魂が浮かぶ冥界であった。だが、それらの霊魂に力が一切感じられず、まるで人形のようにも見える。霊魂たちはいつもふよふよと好き勝手飛んでいるので、判別をすることはできないが。

だが、それ以上に俺たちの目を引くのは、規格外と言うべき大きさの桜の木。俺たちから少し離れたところに聳え立つ西行妖が、満開になって咲き誇っているのだった。

 

「西行妖って開花しちゃまずいんじゃなかったか?」

「死の力云々……でも、ここなら大丈夫だと思うわよ」

 

何か理解したような表情で、ルーミアは開花している状況を軽く流している。

昔、幽々子と妖夢は西行妖を開花させると言う目的で異変を起こしたことがある。その時は霊夢や魔理沙、咲夜によって阻止され、その後何があったかは不明だが開花させようとすることもなくなったという。この木が開花し力を取り戻したとき、西行妖は死を振りまき周囲の者を問答無用で死に至らしめるという。

俺たちは西行妖に近付いていく。道中何度か霊魂が俺たちの方に近付いてきたが、やはり特に反応らしい反応は示さなかった。

そうして西行妖の根元に辿り着くと、誰かが根元で座り込んでいた。彼女は小さな手記のようなものを読んでいた。

 

「何やってるんだ、紫」

「……ふふ、ここであなたと会えるなんて私嬉しいわ」

 

手記を閉じ、立ち上がる。

この時期、本来冬眠をしているはずの八雲紫は、開花した西行妖の根元で本を読んでいたのだった。その髪に数枚の桜の花びらがついており、それなりに長い時間ここにいたことが分かる。

 

「ルーミアとユズも、ごきげんよう」

「ええ」

「は、はい……」

「まさか二人も一緒だなんて。やっぱり式神だからかしら」

 

俺たちが根元に座ると、紫が隣に座ってきた。俺の体に当たるくらいの距離で俺にくっつき、手記を開く。

 

「一応聞くんだが、ここはどこなんだ?」

「ふふ、幽々子にも言われたでしょうけど、それは私からは言えないわ。少なくとも、私は言いたくない」

 

幽香も幽々子も紫も、誰も答えてはくれない問い。

彼女たちは妖怪の中でも特殊な存在であり、特に幽々子は亡霊で紫は唯一の妖怪のため、誰かが化けているのであればすぐにわかる。だが、俺の目には二人とも本物であるという証拠しか見つからなかった。

 

「あら、二人からもう贈り物をもらったのね」

「一応な。何に使うのかは分からないが……」

「ちゃんと持っていてちょうだいな。きっと定晴には必要になるから」

 

そう言うと、紫は手に持っていた手記を俺に手渡してきた。手記の題名は、今日の日記。

 

「それは私が書いている日記帳よ。その中でもそれは特別なもので、私の中のあなたへの想いとかが書かれているやつ」

「そんなものを、いいのか?日記を読まれるのは嫌じゃないのか?」

「定晴ならいいのよ。どうせあなたに伝えるようなことしか書いてないわ」

 

いつもの不思議な雰囲気や怪しい雰囲気が全くなく、見た目相応な雰囲気で笑う紫。ふふふ、というよりもクスクスというような笑い方をしているのは珍しい。

俺は試しに一ページ適当に開いてみた。そこには紫の字で、短い文章が記されていた。

 

定晴に頭を優しく撫でてもらった。きっと貴方は深い意味なんてないだろうと思うけど、私にとっては一生の思い出。また撫でてほしい。

 

定晴の目を見ると、吸い込まれそうになる。目が合うだけで、私の心臓はドキドキと高鳴り、自分の想いを自覚させてくる。いつかもっと近くで見つめあえたらな。

 

読んでいる俺が恥ずかしくなるようなことをつらつらと記した手記を俺は閉じる。幻空に入れるわけにもいかず、俺は幽々子の扇子と同じポケットに突っ込む。

俺の反応を見て、紫がカラカラと笑う。どうやら俺がこういう反応をすることが分かっていたようだ。

 

「定晴って直接的に想いを告げられるの苦手よね」

「っ、ああ、何度か告白されたが慣れる気がしない」

「怖がらないで。あなたが受け入れてくれるまで、私たちはあなたを取って食ったりなんかしないわよ」

 

紫が優しく俺にハグをする。どうやら紫には、俺の心情なんて筒抜けらしい。

そして、背後からルーミアも優しく俺のことをハグしてきた。ルーミアと手を繋いだままのユズも、流れで俺に優しくくっついてくる。なんだこれ。

 

「そうだ。紫なら水那に連絡できるんじゃないか?」

「水那に?何か伝えることがあるのかしら」

「このお札を貰ってな」

 

俺たちがここに迷い込んだ経緯を説明した。すると、紫は手のひらサイズのスキマを開いて、一枚のお札を取り出した。それは、俺たちが今持っているものと同じもののようだった。

 

「このお札はここじゃ使えないわね。お札同士をつなげるお札みたいだけど、ここじゃ水那のお札とは繋がらないわ」

「そうか……じゃあやっぱり連絡はできないな」

「そうねぇ……じゃああとで私が伝えといてあげるわよ。伝言をこのお札に書いてちょうだい」

 

紫がスキマからペンを取り出して、俺に渡してきた。花柄の、あまり紫らしくないペンだった。

俺はお札に、「依頼区域は危険につき侵入禁止」と書いた。色々と伝えたいことはあるが、これだけ書けば霊夢や水那なら何かしら察してくれるだろう。

 

「うん、これならいいかな。ならあとで伝えておくわね」

 

俺が伝言を書いたお札をスキマに片づける紫。この世界でも、紫のスキマは十全に使われているみたいだ。

 

「はぁ、もっと定晴と話したかったんだけど、そろそろ行かないといけないわね」

「またそれか。今度も場所が変わるのか」

「そうね。私なら二人とは違って好きなところに場所を変えることができるわよ。どこがいいかしら」

 

俺は頭上の桜を眺めつつ、呟く。

 

「じゃあ家がいいかな」

「定晴の家?いいわねぇ、私も一緒に行きたいわ」

 

そう言うと、紫は人が入れるくらいの大きさのスキマを開いた。今度はスキマ方式で場所が変異するらしい。毎回変化の仕方が違うのはどういうことなのだろうか。

俺が歩き出そうとした瞬間、紫が呼び止めた。

 

「そうそう。その手は離しておいた方がいいわよ」

「なんでだ。はぐれるかもしれないだろ」

「それはそうなんだけど……ここだと、むしろ邪魔かもしれないわ。大丈夫、私を信じて」

 

紫の今までにないほどに本気の目を見て、俺たちは手を離す。

式神通信が使えるうえ、式神召喚もできるので、はぐれてしまっても大丈夫であるということは分かっている。手をつないでいたのは保険でしかないので、今は紫を信じてみよう。

 

「さ、いってらっしゃい」

 

紫に見送られ、俺たちはスキマの中に入った。

それにしても、彼女たちは一体何を知っているのだろうか。本物にしては、なんだか雰囲気だけが違うような気がするんだが……

 

………

 

少女はスキマを閉じ、頭上を見上げた。そこには、本来ならありえない満開の西行妖が存在する。現実でこんなことがあれば、幻想郷だけでは留まらない大災害が発生してしまうことを知っているため、少女はこの光景を見ることはないと思っていた。

 

「ここなら、なんでもできるわよね。信じるわよ」

 

少女は呟き、次の瞬間にはまるで元々何もいなかったかのように消えてしまっていた。

後には、ただ風に揺れる西行妖、そしてそれを切なげに眺める亡霊の少女しか残っていなかった。

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