東方十能力   作:nite

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四百六十一話 繋がりをおいて

いつもの見た目をしているスキマを通り抜けると、俺の要望通り家にたどり着いていた。

だが、窓の外には何も見えず、玄関の扉は開きそうにない。やはり、ここも家によく似ている家ではない場所なのだろう。

 

「落ち着く気持ちと、落ち着かない気持ちが入り混じるわね」

「だな」

 

試しに冷蔵庫を開いてみる。中身は、俺の記憶通りの食材が入っていた。調味料の位置も、すべて俺の記憶にある通りである。

他の部分も見てみるが、実際の俺の家と一致率百パーセントといったところ。少なくとも、家の外が幻想郷ではないという点以外は完全に同じものとみていいだろう。

 

「なあ、ここについて何かわかったか?」

「少しずつ推測は……うーん、もう少し時間をちょうだい」

 

ソファに座り込んだルーミアは、悩んだ表情でそう言った。

現状、幻想郷ではないどこかであるということ、そして記憶にある景色が再現されているということが分かっている。いや、満開の西行妖は誰も見たことがないはずだから、記憶通りというわけでもないのか?

 

「……これって食べることができるんでしょうか」

 

ユズが戸棚を開けながらそう言った。ユズが見ているところは、保存食としてのレトルト食品を保管している場所だ。

 

「お腹が空いたか?」

「いえ、むしろ全然減らないから不思議というか……」

 

ユズの言葉に、俺も腹の状態を気にする。確かに、家を出てからそれなりに時間が経過しているはずだが、全然空腹感を覚えない。

とはいえ、確かに食材を食べることができるかは疑問に思うところだ。ここが幻想郷でも外の世界でもないのは間違いないので、黄泉戸喫と同じように危険性を孕んでいると言えるので、試そうとは思わないが。

 

「それに、時計の時間も変ですね」

 

ユズが指さした壁掛けの時計。それは一見おかしなところは何もないように思えるが、時間を気にすると確かに変だ。

現在時計が指している時間は、俺たちが家を出るときに確認した時間と同じ時間。それに、そこから針が動く気配はない。少なくとも、この時計がまともな機能を有していないというのは明らかである。

 

「やっぱり……そうよね」

 

ルーミアが軽く頷いた。そして、俺の方を向いて、ソファに座るように手をポンポンと叩いて促してくる。

 

「何かわかったか」

「ええ。ユズも、こっち来て」

 

何かを確信したような表情で、ルーミアが口を開いた。

 

「ご主人様、ユズ、この空間に対して浄化や真実を見ることはできる?」

「いや、浄化には何の反応もないな」

「うーん、特に何も映らないです」

 

俺が浄化を確認し、ユズの目が淡く光る。だが、この空間に異質なものを見つけることはできなかった。俺は現在、あまり浄化の能力を信用していないので、あまり証拠にはならないと考えているが。

 

「……あ、そっか。うーん、そうかぁ」

「どうした?」

「いや、えっと……確かに、これ私は何も言えないわね」

 

ルーミアが何かにふと気が付いた表情を浮かべると、途端に言葉を濁し始めた。それは、先ほどまでの紫や幽々子、幽香たちの反応と似たようなものだ。

即ち、ここがどこであるのか、何であるのかを説明することができない。

 

「ただご主人様、信じてほしいのだけど、ご主人様はこのまま進んでほしい」

「どういうことだ?」

「その、私はここまでしかついていけないみたいだから」

 

そう言うと、ルーミアはポケットから、一つのリボンを取り出した。それは、俺が作ってあげたルーミアの式神用リボンの予備のリボンであった。

いくつかのカラーバリエーションがあるのだが、ルーミアの手にあるのは最初に作った元のリボンのデザインに限りなく近づけたものだ。それなりに時間が経っているからか、所々が解れているのが分かる。

 

「これを、持っておいて」

「また贈り物か?どうして皆渡して来るんだ」

「そうね……これが、ご主人様を後で助けるのに繋がるからよ。どうしてかはちょっと言いづらくて」

 

そうして、ルーミアは立ち上がり、玄関の方へと向かう。その玄関は、俺が押しても開く気配がなく、また開いたとしてもその周囲には闇だけが広がっているはずの扉だ。

 

「……信じるぞ、ルーミア」

「ええ。それと、ユズもちゃんとご主人様についていってね」

「私だけですか?」

「もしかしたら、ユズも途中で戻ってくるかもしれないけど……ユズはこの場所を知らないはずだし、ご主人様と一緒にこの場所について考えるといいわ」

 

そこまで言って、ルーミアはいとも容易く扉を開けた。その先には、やはり窓の外と同じように何も見えない空間だけが広がっており、外に出てもどこかに行けるとは思えない。

ルーミアは外に出て扉を閉める最後、一言だけ付け加えた。

 

「次の場所は人里よ。それなりに思い出深いの」

 

………

 

霊夢さんが儀式を終えても、魔理沙さんの場所は分からなかった。まるで、幻想郷からいなくなってしまったかのように思える反応に、私の中の焦燥感が募る。

それでも、霊夢さんは非常に冷静だった。何が原因なのか、儀式がちゃんと成功しているのか、今までにない真剣な表情で考えているみたいだった。こんな時、見習いである私は無事を願うことしかできない。

定晴さんたちから連絡はないし、魔理沙さんが見つかった情報も一つも入ってこない。一体この幻想郷で何が起きているんだろう。

 

「そう悩まなくていいわよ」

「ルーミアさん?」

 

いつの間にか、階段の下にルーミアさんが立っていた。なぜか封印が解けている状態で、大人な見た目をしているから自然と大妖怪を相手にしている気持ちになる。

 

「定晴さんはどうしたんですか?」

「あの人は無事よ。ただ、もう少し旅をしないといけないから私は先に戻ってきたけど」

「何があったんですか?」

「あれ、紫から何も聞いてない?」

「いえ、来てませんけど……」

 

おかしいなぁと呟くルーミアさん。もしかして、紫さんに会ったんだろうか。

少なくとも、定晴さんたちが出てからのニ十分の間に、紫さんとは出会っていない。冬に入ってからは紫さんがここに来る頻度も凄い落ちており、まだ一度しか出会っていない。

紫さんは冬眠をしていると言う話だったけど、そんな紫さんが定晴さんに会いに行ったんだろうか。彼女ならあり得るか。

 

「ふふ、水那ったら今までにないくらい真剣な顔をしてるわね」

「当たり前ですよ!魔理沙さんがいなくなったんです!」

「あー、そっか。最初はそういう話で……うーん、魔理沙がまだ戻ってきてないのはなんでなんだろう」

 

どうやらルーミアさんの方でも色々と発見があった様子。でも、あまり詳しくを語ってくれるような気配ではない。

 

「ああ睨まないで。私が今この状態なのも関係があるから」

「そうですよ。なんで開放状態になってるんですか?それ疲れるって言ってましたよね」

「日頃こうじゃないから疲れるってだけで、妖怪としては自然な状態だからいいのよ。今は妖力が必要なの」

 

そうしてルーミアさんは霊夢さんへと話に行った。霊夢さんは、ルーミアさんの話の中の数少ない情報から真実に辿り着いたみたいで、特にルーミアさんを問い詰めることもなく安堵した表情へと変わった。

 

「水那ー、儀式は終わりよー」

「はい。でも、いいんですか?まだ見つかってないんですよね」

「今は見つからないわ。まったく、一週間も彷徨うなんてらしくないわねぇ」

 

霊夢さんはいつもの気だるげな表情のまま、生活空間へと歩いて行った。今更寒さを思い出したようで、さむさむと言いながらこたつへと逃げ込む。ルーミアさんも、同じく炬燵の方へと歩いて行った。

 

「あら、もしかして遅かったかしら」

「うわぁ!紫さん!」

 

それを眺めていると、目の前に突然スキマが出現。中からにゅっと紫さんの上半身が出てきてびっくりしてしまう。紫さんはいつもの服じゃなくて、パジャマみたいな服を着ている。

 

「水那、落ち着きなさい。あと、本当に大丈夫だから安心なさい。魔理沙はすぐに戻ってくるわ」

「なんでわかるんですか?」

「魔理沙がどこにいるかは分からないんだけど……魔理沙よりも軸になり得る人が入ったから、魔理沙は出てくるわ」

 

いまいちよくわからない説明をされて、私は……安心することにしました。ひとまず、紫さんがなんとかしてくれたと思うことにしましょう。

紫さんの表情は、心配するようなものでは全くなく、完全に信頼している人のそれだったから。

 

「定晴さんと会ったんですか?」

「会ったと言えば会ったんだけど……難しいのよね。私たちが答えを世界に与えちゃうと、それは崩壊しちゃうから。ささ、あなたも風邪をひかないうちに炬燵に潜りなさい」

 

紫はふわあと欠伸をし、風に一度身震いしてからスキマへと戻っていった。あとには、冬の木枯らしのような風だけが残っている。

多分、定晴さんが何かしてくれるのでしょう。紫さんが完全に信頼するような相手なんて、あの人くらいのものだから。

私も定晴さんのことは信頼していますし、あとは任せることにします。

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