東方十能力   作:nite

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四百六十二話 魔物

ふと、気が付いたら俺たちは人里にいた。ソファに座っていたはずなのに、いつの間にか俺たちは立ち上がっていたようだ。

ルーミアはいなくなり、俺の手にはリボンだけが残されている。ユズは呆然としていて、何が起きているのかまだ理解できていないようだ。

 

「なんというか、周囲が謎解きをして脱出するのを眺めている気分だ」

「ルーミアさん、行っちゃいましたね」

「ルーミアも考えあってのことだろう。俺たちも、ルーミアと同じ結論に至ったらここから出られると考えていいだろう」

 

ルーミアの宣言通り人里にいるわけだが、人の気配はまるでない。並んでいる建物も、まるでコピーペストをしたような建物ばかりで、やはり道は永遠に続いているように見える。

こういう、見慣れているのに奇妙な空間をリミナルスペースと言うのだったか。永遠の向日葵や満開の西行妖に比べても、この場所は得も言われぬ恐怖を覚える。

 

「ここには誰がいるんでしょうか」

「やっぱりそうだよなぁ。一か所につき一人ってことか?」

 

となると、家でルーミアが離脱するのは既定路線だったとでも言うのだろうか。家の中に他に誰かがいる気配はなかったし、俺を次の場所に案内する誰かとなると、やはりルーミアかユズのどちらかだったのだと考えることができる。

だが、この考え方は、俺を導こうとしている誰かがいるという前提。そして、それをルーミアがあのタイミングで理解したという偶然が考慮されている必要がある。そこまでいくと、未来視のようなもののはずだが……

 

「ユズ、気を付けて進もう」

 

紫や幽々子は、心配しなくていいと言った。ルーミアは信じてと言った。

だからこれが俺を陥れようとしているものではないということが分かっている。だが、それは必ずしも……

 

「【五芒星結界】!」

 

俺を傷つけないとは限らない!

家の裏から、突如現れたそれは、レーザーのようなものを俺たちめがけて射撃した。咄嗟に結界を展開して防ぐことに成功するが、それは未だに俺たちを見つめて、第二射の準備をしている。

 

「なんで月の兵器がここにあるんだよ!」

 

俺が月の裏側に行ったときのこと、特大レーザーがこれと同じ見た目をしていたのを覚えている。レーザーが通ったところは跡形もなく地形が消え去るような能力を有していた。

こんなふうに歩いたり、自動的に迎撃するようなものじゃなかったがな!

 

「ユズ!俺の後ろに!」

 

少なくとも……確実に、俺の後ろには攻撃を通さない。この世界がどういう場所なのかは分からず、空腹も感じないとなると、もしかしたら現実ですらないのかもしれない。だが、こんなものに襲われる記憶など、ないほうがいい。

 

「ぶっとべ!」

 

身体強化、輝剣召喚。接近する間に放たれた第二射を結界で逸らしつつ、俺は兵器の発射工を上方向に切り上げた。それだけで、兵器は全部が真っ二つになり、そのまま爆発を起こす。

身体強化と結界を併用すれば、至近距離の爆発でもノーダメージで過ごすことができる。

 

「大丈夫ですか、定晴さん」

「俺は大丈夫だ。ユズはどうともないな?」

「はい。ありがとうございます」

 

ユズは妖怪とはいえ、大妖怪と言えるほどのものではなく、妖力量からしてもミスティアとかお燐とか、それくらいの妖怪なのだ。能力こそ強いが、身体はそこまで。俺が守らなければすぐに怪我をしてしまう。

ユズの無事を確認したのち、砂埃が晴れる。大爆発したはずの兵器はどこにも姿がなく、代わりに誰かが立っていた。

 

「ああ、間に合った!」

「依姫?」

 

いつもの服、それよりもさらにラフなワンピースのような服を着て、いつもの刀だけを佩いている依姫が、砂埃の中から現れた。まさかあの兵器の中にいたというわけではあるまい。

 

「そうです。依姫です。八意様に、こうすればあなたと会えるからと特別に」

「……一応聞くけど、詳細は教えてくれないんだな?」

「すみません。あなたのために、詳細は言えないのです」

 

やはり、依姫も詳しいことは教えてくれなさそうだ。誰も彼もが「俺のため」と言うものだから、問い詰めるのも心情的に難しい。

 

「何のために来たんだ?何か目的があってきたんだろ?」

「はい。あなたとの繋がりを持つことが大切だと言われましたので……こちらを」

 

そう言うと、依姫はその腰に佩いていた刀を差しだした。鞘から抜いてみると、やはり真剣である。

 

「これを持って行けと」

「うっ、邪魔になるかもとは思ったのですが……あなたなら使いこなせると思いまして。この武器は、本来であれば認められた者以外は扱うことが許されない太刀なのですが、ここならあなたに使ってもらえると」

 

太刀は、その見た目相応に重かった。これくらいなら身体強化を使って振るうこともできるが、太刀はあまり使い慣れていないから難しいかもしれない。とはいえ、断ることはできないので、ありがたく受け取っておく。

一緒に鞘も貰ったので、依姫と同じように腰に帯刀してみる。結構体の重心がずれて歩きづらいが、これくらいならすぐに慣れるだろう。

 

「まあ頑張ってみるよ」

「はい!」

 

ちゃんと太刀が安定したのを確認して顔を上げると、依姫がもじもじと何かを言いたそうに悶え始めた。

 

「戻ったら、また手合わせお願いできますか?」

「それくらいお安い御用だ」

「っ!ありがとうございます!」

「つっても、正直なところ俺と打ち合うくらいなら、ミキとか妖夢の方が適任だと思うんだが……」

 

そこまで俺が言うと、依姫は顔を上げて大きな声を出す。それは、何かを言い聞かせるような口調で。

 

「あなたはあなたが思っているより、凄い人なんです!胸を張ってください!」

 

一拍

 

「私も、あなたの、ファンですから」

 

そう言い切って、依姫は路地裏へと走っていってしまった。言いたいことはすべて伝えたということなのだろうか。

依姫がどうしてそこまで俺のことを持ち上げているのかは不明だが、依姫にも応援されたことだしもう少し頑張ってみようと思う。いや、まあここから出る方法を直接教えてくれるのが一番いいのだけど。

 

「定晴さん、太刀も使えるんですか?」

「ミキが使ってるのを見たことがあるくらいだな。実際に持ったことはないが……これくらいの切れ味とリーチがあるならただ振り回すだけでも十分脅威になるだろう」

 

俺の輝剣もリーチ無限みたいな動きができるものの、やはり見た目の脅威度というもの大切だ。それに、生粋の武人から渡された武器を振るわずにいられるなど、どうしてできようか。

そうして話していると、いつの間にやら周囲の景色が変わっていた。ユズの方を見ていたせいで気が付かなかったが、足元の道もあぜ道へと変わっていた。なんというか、常に死角で景色が変貌していっているようだ。

 

「ここは……霧の湖ですか」

「ああ。霧が濃すぎて、何も分からないがな」

 

目の前には、まるで壁のように広がる霧と、足元の水面が広がっていた。今度の舞台は霧の湖ということらしい。

流石の霧の湖でも、ここまで真っ白になることはそうないので、少し珍しい。やはり、現実には起こりえないような景色が見えるというのが、この場所の不思議な特性のようである。

 

「てっきり、俺は出会った人の景色になるのだと思ってたんだけど」

 

幽香に出会い花畑になって、幽々子に出会い冥界になってと変化してきたので、依姫と出会った次は月の景色になるかと思っていたのだけど……予想が外れたな。

ひとまず、ここにも誰かがいるはずだ。本人と思われる、絶妙に本人ではないように感じる誰かが。

 

「……定晴さん、何かいます」

 

ふと、ユズを見ると、その目は淡く光っていた。その視線の先は、ペンキで塗ったように真っ白な霧の中。

俺には何も見えていないが、ユズの真実の目には何かが見えているのだろう。少なくとも、友好的な誰かではなさそうなので、輝剣を取り出して結界を前方に展開し、いつでも戦闘が行えるように構える。

少しずつ、波の音が聞こえるようになってくる。気配を捉えることはできずとも、その大きさと場所が霧の中でもよくわかるようになってくる。

 

「きます!」

 

ユズを抱えて跳躍。俺たちがいたところ通ったそれは、大きく開かれた口をもって結界を一撃で破壊、貫通し地面を抉りながら湖へと戻っていく。

一瞬見えたその正体は、とても大きな魚。ウツボのようにも、アンコウのようにも見えるそれは、きっと霧の湖の主と呼ばれるものである。確か、わかさぎ姫が霧の湖にはヌシがいると言っていたような気がする。

 

「ユズ、場所を教えてくれ!」

「まっすぐこちらに来ています。接敵五秒!」

 

どういうわけか、霧の中に入られると気配が全くつかめなくなる。水の音が大きいので、なんとなくの距離は分かるものの、わざわざそれを頼る理由はない。

ユズには見えているのだ。きっと、この霧は幻術的な効果も持つものなのだろう。さっきの攻撃でやつの攻撃射程は把握したので、離れた場所にユズを置く。そして俺は湖へと逆に近付いていく。

 

「来る方向が分かるなら苦はねえ!」

 

安全地帯ギリギリ、輝剣が届く範囲で回避を行った俺は、横スレスレを通るヌシに輝剣を突き刺す。

ヌシは体を地上に勢いよく乗り出したあと、ずるずると湖に戻るようなので、突っ込んでくるタイミングで輝剣を突き刺せば、支えているだけで勝手にその体を裂いてくれる。

 

「ぐうぅぅ!」

 

だが、その体は魚とは思えないほど硬く、全力で身体強化を行っていてもその腕が、身体が、輝剣ごと持っていかれそうになる。

腕に走る痛みに耐えつつ五秒。勢いが止まり湖へと戻ろうとするヌシは、直後体を横に大きく振り始めた。

ヌシの体スレスレの位置に立っていた俺は、回避などできるはずもなく大きく吹き飛ばされる。頭付近じゃなかったからこそ、この程度で済んでいるのかもしれない。

 

「がっ」

 

しかし、浮いてしまったその体を風だけで支えることはできず、近くの木へと背中を打ちつける。衝撃で、肺に入っていた空気が漏れる。

体を振っていたヌシは、いつの間にか湖へと戻っていた。またもや霧の中に入ったヌシの位置を、ユズが式神通信で伝えてくれる。場所は、俺の正面。

 

「くっそ」

 

回避は間に合わない。まだ体勢が整っていない状態で、背中の痛みも残っている。

結界を何重にも展開し、その勢いを減じているうちに回避することを試みる。俺が動きだすと同時にヌシが湖から大きな口を出現させ、俺が展開した結界をバリバリと割りながら突撃してくる。勢いを減ずるなど僅かにも叶っていない。

せめて相打ちにでも持ち込めば……俺は依姫から預かった太刀を持ち、これで口の中からヌシを引き裂いてやろうと構え……

 

「あたしの定晴に何やってるのよ!」

 

直後、ヌシは動きを止めた。否、止められた。否否、動けなくなった。

その体全体、さらには湖の一部をも巻き込み、全身が氷漬けになったからだ。

 

「大丈夫、定晴?」

「……はぁ、助かった。チルノ」

 

ふわりと、上空から降りてきたチルノは、えっへんという姿勢をしつつ、えへへと嬉しそうに微笑んだ。

 

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