東方十能力   作:nite

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変則的に木曜投稿します。不定期投稿ということになってますしおすし

クリスマスプレゼントってことで、どうぞ


四百六十三話 ゆ…の支配者

氷漬けになったヌシは、恨みを込めて全力で切り裂いた。依姫から預かった太刀は、俺の霊力を十全に伝えてくれて、その一断ちでヌシの体を二つに分けたのである。

 

「チルノ、助かった」

「定晴ったららしくないわね。あれくらいどうとでもできるでしょ?」

「突然だったからな。まさかヌシに食われる思いをするとは」

 

近くの木を切り倒し、簡易的なベンチへとして三人で座る。どうやらこの世界でも正常な物理法則も残っているようで、枝を集めて火を付ければぱちぱちと焚火が出来上がる。

 

「あいつ、突然水の中から出てくるから卑怯なのよ!あたしは、最近表面に氷を作る必殺技を覚えたからもう効かないけどね!あいつの口の中、くっさいから嫌ーい」

 

チルノは、ヌシに食われたことが何度もあるらしい。妖精たちと湖の上で遊んでいると、たまに突如口を大きく開けて出現し、チルノや周囲の妖精諸共食べ、チルノたちは一回休みをさせられるという。

どうやら、ヌシは捕食を目的としているわけではなく、単純に暇だからチルノたちを食べているらしい。妖精は食べても消滅するので、ヌシの腹には溜まらないだろう。

 

「それで、なんで定晴はここにいるの?」

「ふむ……チルノここはなんだ?」

 

チルノは、今まで出会った彼女たちとは違い、どうやら俺を導くという役目を持っていないようだ。もしかしたら返答が貰えるかもと、いつもの質問を投げかけてみると……

 

「ここはあたしの遊び場!」

「遊び場?」

「うん。先生も、課題もない……最近、ちょっと寂しい場所」

 

ふと暗い表情を浮かべるチルノ、だが顔を上げてこちらを見ると、

 

「でも今日は定晴に会えて幸せー」

 

と、頭をこちらに預けるように倒れこんできた。俺の腕に、まだまだ軽いその体重を感じる。

 

「いつも一人なんだよね」

「大妖精とかいないのか?」

「大ちゃんはここじゃ会えないよ。あ、でも一緒に一回休みしてるときはここに集まることもあるよ」

 

どうやら、チルノもここが具体的にどこなのかを把握しているわけではなさそうだ。少なくとも、実際の霧の湖とは違う場所であるということは理解しているみたいだが。

 

「あ、そうだ!」

「どうした?」

「えへへ、実は定晴にぷれぜんとがある」

 

言い慣れてなさそうな言葉と共に、チルノは氷で手のひらの上に何かを生み出した。

透き通るほどの傷も気泡もない氷が、小さなひし形を形成する。それは、チルノの羽のものとよく似ているものであった。

 

「おおー、やっぱりここだときれいにできるね」

「これを俺に?」

「うん。紫が、何かぷれぜんとしてって、ここに来る前に言ってたの」

 

理由はチルノに教えてくれなかったようだが、多分チルノは隠し事が下手なので、理由を教えず何をするべきかだけを教えたのだろう。チルノも、不思議そうな顔をしながら、俺にその氷像を手渡してきた。

 

「それはあたしの修行の成果!」

「修行?」

「そう!それは自然には溶けないわよ。あたしの羽と同じで、とっても熱いところでもないなら溶けないんだから!」

 

どうやら、本当に羽の仕組みを再現したらしい。

チルノは氷の妖精なので、熱い場所に行くと普通に溶けてしまう。だが、普通の幻想郷でチルノが溶けることはなく、それは妖精の力によるものだと考えていたのだが……もしかしたら、力の加え方によってどうにかなるのかもしれない。

俺は氷像を貰い、ポケットに入れた。不思議と、冷たさは感じなかった。

 

「えへえー」

 

チルノが腕にくっつくように体を寄せてきた。今日のチルノは甘えん坊だ。

いつものチルノは、強気で、悪戯好きで、それでいて妖精たちのリーダーの自覚を持っている。最近は少し見た目とか喋り方に気を付けるようになったようで、人里での評判が少し上がっている。

そんなチルノが、こうして甘える様子を見せるというのは初めてだ。妖精たちは、じゃれるように甘えることはあれど、ただ体を預けるように甘えるというのは見られないのだ。

 

「チルノ、今日は甘えたいのか?」

 

少し揶揄うように俺が言うと、チルノは顔を見るなとばかりに俺の頭を押したあと、ぼそりと呟くように言った。

 

「あたしは定晴にいつも甘えたい。定晴、温かくて、落ち着けて……すき……」

 

ふと、腕が軽くなる。見ると、そこにいたはずのチルノはいなくなっていた。

 

「ユズ、チルノは?」

「分かりません。私からだと定晴さんで隠れてるので」

 

ふむ、他の人たちと同じように、見えないところで消えたようだ。どうやら、例え触っていたとしても見えない位置にいるのであれば、いつの間にか消えてしまうらしい。

この世界の理というのがまだよくわからない。霊力で空を飛ぶことはできないが、風でなら空を飛べるし火も起きる。だが、人は突然消えるし、景色も突然変化する。魔法も能力も使えるようだけど、いつもと使用感が違うようにも思える。

未だにこの世界から脱出する方法が分からないうえ、どうにも奥へと進んでいっているような気すらしてくる。

 

「ああ、そうですとも、貴方は奥へと進んでいるのです」

 

突然、背後から聞き覚えのない声が聞こえた。立ち上がり、背後を見る。いつの間にか、霧の湖ではなく、宇宙のような場所に、浮いていた。

立ち上がるという動作をしたはずなのに、足に地面の感覚がない。本当に無重力になってしまったように、身動きが取れないままにふわふわと漂う。

そんな俺を嘲笑うように見ているのは、同じく空間に浮いている少女。クリスマスによく見るような帽子を被り、ボールみたいなものがいっぱいくっついている服を着用している。

 

「どうも、私はドレミー・スイート。ゆ……おっと、ふむ、この空間の支配者です」

「この空間の?じゃあお前が俺たちをここに」

「いえいえ。あくまで私は空間を支配しているというだけで、この空間にあなたたちをつれてきた犯人は別ですよ。私からしても、この空間に正しくない状態の人々が迷い込んでくるのは迷惑なのでやめてほしいのですが」

 

ドレミーと名乗った少女は、その手に日記のようなものを持っていた。それを開き、何かを確認した後パタンと閉じる。

 

「実はあなたたちは、いえ、堀内定晴、貴方はとても不安定な状態です」

「俺が?ユズはどうなんだ?」

「ユズさんは……ふむ、不安定とまではいきませんね。安定はしていませんが、出ようと思えば出られるはずです」

 

その言葉に、ユズは少しほっとした様子だ。だが、俺が不安定というのはどういうことなのだろう。そして今の口ぶり、不安定だとここから出られないというような……

 

「ええその通りです。自己というものを見失い、見るべきものを見ることができない貴方は、この世界で少しずつ消えてしまう可能性すらもある、とても不安定な状態です」

「ど、どうすればいいんだ」

「焦らずとも結構。そのために、私はここに来たのですから」

 

すると、ドレミーは帽子を脱ぐと、帽子の中から何かを取り出した。なんだその四次元ポケットシステム。

ドレミーの手にはピンク色の宝石のような、ボールのようなものがあった。触っていなくとも、常に変形するようにぐにょぐにょしており、まるでスライムのようだ。

 

「こちらはこの世界から脱出する鍵です。定晴さんには使えませんが、ユズさんには使えるはずです」

「ユズだけを脱出させると?」

「ええ。この先は定晴さんの大切な部分に触れなければいけませんから。それぞれのために、内の部分を見ない措置をするんです」

 

ドレミーも、やはり大切な部分を切り取りながら会話を進める。もはや慣れたものだが、やはりこの世界に関することだけは特に秘匿をしているらしい。

 

「勿論、ユズさんが彼の内面を知りたいというのであれば、定晴さんが見られてもいいというのであれば、私は止めませんが」

「内面を……」

「貴方の内面はとっても、とっても黒いですねぇ。その黒いものをどうにかしないと、この空間から安全には帰れません。もし何かしらの理由でこの空間から戻っても、記憶欠損、性格変貌、感情漂白、考え得る範囲でも人として生活できなくなることは間違いないでしょう」

 

一体何を根拠に、と俺は反論がしたいが言葉が出ない。それに、彼女の言葉はまるで真実を告げられているかのように納得感がある。なぜか、感情とか理論をすっ飛ばして本能的に信じてしまう。そう自覚しつつも、心当たりがないわけでもない。

もしかして、そのための……俺は、今までの女の子たちから貰ったものを今一度取り出して眺める。

 

「それは持っておいた方がいいですよ。最後の最後、本当に危ないときにそれが必要になるはずですから」

「紫にも言われた。俺にはよくわからないが」

 

この贈り物たちには、何か想いのようなものが込められているように思えた。直接手渡されたわけではない、幽香の日傘にすらも想いのようなものを感じることができる。

もしかして、この想いが鍵となるのだろうか……

 

「それで、どうするんですか。この空間って移り変わりやすいので、早いところ決めないと面倒なことになるんですが」

 

ドレミーからの催促は、空間の揺らぎという形で真実味を帯びる。果ての方に見える光が揺れ、少しずつその数を減らしていく。

 

「……ユズに任せる」

「いいんですか?」

「ああ。ルーミアはいないし、俺は式神の判断を信じてるからな」

 

ルーミアも、ユズも、式神になってから相当な時間が経過した。毎日一緒に家で過ごし、ユズも普通に少女らしい一面を見せてくれるようになった。

そこまで成長したのだから、俺がとやかく何かを決める必要はないだろう。

 

「でしたら……私もついていきます。定晴さん、ついていかせてください」

「分かった。じゃあ、そういうことだからそれはいらないよ」

「そのようですね。でしたら先に進んでください。本当に苦しいときは私か……もしくは貴方の親友が助けに来てくれることでしょう」

 

ドレミーの姿が掻き消える。まるで霧が晴れるように、ドレミーの姿が見えなくなる。今までの少女たちも、ドレミーのように消えていたのだろうか。

周囲の光が消え、宇宙空間に放り出されたように、何も見えない空間に俺たちは浮かぶ。こういうときは、この世界では、ゆっくりと目を閉じて……そして目を開ける。

 

「博麗神社、ですか」

「そのようだな。戻ってきた、ってわけじゃないだろう」

 

ドレミーの話から察するに、このまま進み続ければいいのだろう。そこに善悪はなく、ただまっすぐ道を歩くように進んでいっているはずだ。

この博麗神社は見た目はそのままで、遠くの景色も変わらない。だが、階段は崩落しており、歩いてここまで上がってくることはできないようになっていた。

 

「お、定晴じゃないか!どうしたんだ、こんなところで」

「魔理沙?」

 

賽銭箱の方から声が聞こえた。

それは、いつもの白黒服に帽子を被り、しかし箒を持っていない魔理沙であった。一週間ぶりの再会、というか元々は魔理沙を探すためのものであったために、色々と思うところはある。

 

「魔理沙、ここはどこか知ってるか?」

「ここか?うーん、思いついているが自覚したくないんだよなぁ」

「どういうことだ?」

「ここって、ここがどういう場所なのかってことを理解すると同時に終わっちまうんだ。ここにこんなにはっきりとした意識で来れることってあまりないから、もうちょっと楽しみたくて……」

 

どうやら魔理沙は紫やドレミーたちとは違い、自分自身のためにここがどこだか教えないようだ。言霊のようなもので、口に出すとそれが真実となってしまうのだろう。

頭の中で、もしかして……くらいの状態に留めておくのであれば、この状態を維持できるのかもしれない。

 

「だがなぁ、もう一週間も経ってるんだぞ」

「なに!?それはまずい。だとすると私の体が……いや、そういえば大丈夫だった。寒さ対策で長時間持続する結界を張っておいたから、まだまだ余裕のはずだぜ」

「ほんとかよ」

「ほんとほんと。だから、もうちょっとだけここで遊ばせてくれ!」

 

どうやら、魔理沙にとってはこの空間はとても好ましいものらしい。この空間の支配者がドレミーであることを考えると、百パーセント信じていいものなのか怪しいところではあるが。

 

「まあ俺が連絡する方法はないからいいけど」

「流石定晴、話が分かるぜ!」

「霊夢を心配させたんだから、あとでちゃんと謝罪しておけよ」

「分かってるって。魔理沙さんの宝箱からちょっと貴重なものを渡せばすぐに機嫌はなおるはずだ」

 

そこまで言うと、魔理沙は崩壊している階段を降りようとする。どうやら、この空間では魔理沙も空を飛ぶことはできないらしい。

 

「あっと、そうだ。定晴。ここはギリギリ悪に入らないが、この先は悪の空間だから気を付けろよ」

「悪?」

「そうだぜ。おっと、もしかしてここがどこか把握してない感じか?まあともかく、こっからはトラウマとか敵とか、そういうのが増えていくから気を付けろよってこと」

 

そうして魔理沙が階段を降りた瞬間、魔理沙の姿は掻き消えた。多分、俺たちのように別の場所へと移動したのだと思う。

そういえば魔理沙からは何も貰わなかったな。文句を言う暇もなかったし、魔理沙は焦っていたようだ。流石に一週間の行方不明は思うところがあったのかもしれない。大丈夫だと言っていたが、魔理沙は根が真面目なのでもしかしたらもう戻ったのかもしれない。

 

「じゃあ行きましょう」

 

ユズの言葉で目を閉じると、周囲の気配が変わり、俺たちは森の中に立っていた。その森は、一般的な森とは違い瘴気で溢れ、普通の人間であればすぐに倒れてしまうような魔の森。

 

「魔法の森か……」

 

やはり、直前で出会った人のイメージが反映されるという仮説は間違っていないのかもしれない。




狙ったわけじゃないですけど、クリスマスにドレミーさんが出てきましたね
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