東方十能力   作:nite

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四百六十七話 人生の岐路

重い瞼を開く。すると、目の前にはこちらを覗き込むフランの姿。

 

「うわぁ!?」

 

急いで起き上がると、心配そうにこちらを眺めているフランがいた。ユズの姿はなく、周囲の景色はいつの間にかどこかの平原になっていた。幻想郷にこんなところあっただろうか。

 

「フラン、ユズはどこに行った?」

 

フランは首を横に振った。ふむ、どうやらここにはいないみたいだが……このフラン相手に肯定と否定以外で答えなければいけないような質問はできなさそうだ。フランアキネイター……ふむ、精度はいかほどか。

 

「ユズはここらへんにいるのか?」

 

フラン、首を横に振る。

 

「ユズは無事か?」

 

フラン、首を縦に振る。

 

「ユズはもう戻ったのか?」

 

フラン、首を縦に振る。

 

ユズは先に現実世界へと戻ったらしい。フランの言うことが正しければ、だが。

気絶している間に、ユズが俺に何かをしてくれたようで、今の俺の精神状態は安定している。また、ユズとの式神としての繋がりが強くなっていることを感じる。俺が気絶している間に何があったのだろうか。

 

「だが、進むしかない」

 

過ぎたことを気にしても仕方のないことだ。ユズがいなくなってしまったのであれば、今の俺は一人である。

ニコニコしているだけで物言わぬが、それでもフランがいてくれることがなんと頼もしいことか。やはり、怪しい空間に一人でいるという事実には俺の精神は耐えられないので助かる。フラン本人はここまでのことは考えていないだろうが。

周囲を改めて確認する。木は一本もなく、ただひたすらに地平線の向こう側にまで草原が続いている。今まで何かしら遮蔽物がある場所だったばかりに、こうして何もない平原が見えるという現状はとても清々しい気持ちになる。

空は未だに貼り付けたような青空だが、流れる風がいい感じに俺の気持ちをリフレッシュさせてくれた。あのさとりに言われたことは可能な限り考えないようにしよう。

 

「フラン、もしもの時はちゃんと下がってくれよ。今のフランは戦えないからな」

 

俺がフランに確認すると、フランはこくりと頷いた。ちゃんとこうして意思疎通ができるうえ、本物のフランと違って聞き分けが非常に良い。無為に飛び出してくると言うことはないだろう。

ここまで、連続して敵のようなものは現れた。自覚している範囲で言うと、やはり俺が恐れているものであるように思える。

湖のヌシは月の兵器は、俺自身の恐ろしい敵の存在の具現化。フランやこいしは、その小さな身に潜んでいる恐ろしい力への恐怖。さとりは、言わずもがな俺自身のことを深堀されるかもしれないという嫌悪感だろう。

さとりの初めて出会ったあの時から、俺は心のどこかでさとりのことを恐れていたのだ。

 

そうして戦いが連続していたので、ここでも同じように敵が出てきてもおかしくはないのだが……今のところ、何かが出てくる様子はない。むしろ、案内人すらもおらず、全方向果ての果てまで草原が広がっている。

さてさて、今度は謎解きでもさせるというのだろうか。

 

「いや、ここは俺の空間だ」

 

背後から声。どうしてどいつもこいつも、死角から話しかけてくるのだ。

俺が振り返ると、そこにはシャボン玉を飛ばすミキの姿。魔法でいくらでもシャボン玉など出せるだろうに、わざわざ子供用の玩具のあれを使って、シャボン玉を飛ばしている。

 

「いつか出てくると思っていたが、遅かったな」

「まあな。ここに来れるのは一握りだから仕方ないんだ。お前が最後の場所まで行けるように案内するには、俺がやるしかなかったんだよ」

 

ミキは玩具を消し、俺に向き合う。いつも通りおどけるような雰囲気を纏うミキは、この世界の影響を受けているようには思えなかった。

まあ、こいつに影響を与えることができる何かがあるとは思えないが。

 

「で、戦うのか?」

「えなんで」

「いや、ここまでずっと戦ってきたから……」

「はっはっは、例えこの場所であろうともお前が俺に勝てるわけないだろぉ?」

 

存分に煽ってくるが、正直その言葉にほっとしている俺がいる。こいつと戦って勝てるわけがないのだから。

ある意味では、こいつもまた恐怖の象徴なのかもしれないと思いなおす。こいつは俺のすべてを一瞬で消し去ることができる力があるから。紫以上に、俺がどうすることもできないような相手で、理不尽と言う名の力の奔流は俺も俺の大切なものも全部を根こそぎ消滅させてしまうから。

 

「あ、因みに俺は他のやつらと違ってちゃんと本物だぞ。しょうもない姿を見せたら、幻想郷のやつらに吹聴してやるからな」

「だからお前が嫌いなんだよ……」

「この世界程度で俺の魂に影響を及ぼすことはできないのだ!」

 

堂々と胸を張るミキ。だが、それが羨ましい。

俺はこの世界に迷い込んでから、ずっと心が色んなところをふらふらとしているばかりだ。先ほど出会ったさとりに、トドメを刺されたような気もする。極めつけ、知り合いを斬ったという事実が俺の思考を冷えさせていく。ああ、また狂いそうだ。

 

「おーい、狂ってる暇はないぞー。しょうもない姿を見せたらお前の姿をAI生成で遊んで幻想郷にばらまいてやるからな」

「おぉい!やることが過激になってるぞ!」

 

俺のツッコみをよそに、ミキはてくてくと歩き、草原にいくつかのポータルを出現させた。その数、合計で三つ。それぞれが違う色をしており、別の場所に繋がっていることが分かる。

 

「さて、選択の時間だ。本来この世界にいるお前には与えられるはずのない、とっても大切な選択の時間だぞ?」

「どういうことだ?」

「ドレミーの言葉を忘れたのか?本来のお前は、現在とても不安定で、ちゃんとこの不安定状態を解消しなければ現実には戻れない……のだが、それはドレミーの見解だ。俺がいれば、そんな問題なぞ関係なくお前を現実に戻すことができる」

 

やはりこいつは理不尽だ。だが、その理不尽は今の俺にはありがたい。

ミキはポータル一つ一つに対して、看板を立て始めた。どこぞのブロック状のサンドボックスゲームに出てくるような見た目の看板だ。

 

「まず黒のポータル。これは言わずもがな、先に進むためのポータルだ。これを潜れば、お前は晴れて最終深度に辿り着くことができる」

「メリットデメリットの説明とかはあるのか?」

「そうだなぁ。メリットは、お前が人になれる。デメリットとして、お前は弱くなる」

 

そうしてテクテクと、次のポータルへと移動。

 

「青のポータル。これは、お前が何事もなく現実に帰ることができるポータルだ。メリットとして、お前は今のまま変わらない生活を送ることができる。デメリットは、紫やルーミアに失望される」

 

ミキがそこまで説明すると、眺めていただけのフランがパタパタと走って行って、青のポータルの前で立ちふさがるように大きく手を広げた。

 

「どうやら可愛いお前の妹からも失望されるらしい。きちんと考えな」

 

そうして三つ目のポータルへと移動するミキ。赤いポータルの前には、今までとは違い黒い看板に赤い文字のものを設置した。

 

「これは血のポータル。お前自身を終わらせることができるポータルだ。メリットは、今後お前の代わりを別の誰かがやってくれる。デメリットは、お前が死ぬ」

 

赤いポータルだと思ったそれは、血の色だったらしい。いかにも物騒なポータルに、いかにも物騒なデメリット。俺の代わりを誰かがやるっていうもの分からない。

 

「誰かって誰だよ」

「よく考えな。いや、今のお前には分からんだろうがな」

 

フランは、青のポータルと血のポータルの間を右往左往しながら、わたわたしている。どうやら、フランはこの二つのポータルを選んでほしくないらしい。

と、ミキは思い出したようにさらにもう一つ、白いポータルを設置した。追加で設置した看板には、タイムトラベルと書かれている。

 

「忘れていたが、今の俺にはこの選択肢も作ることができる。最近時の力が強くなったのでな。この白のポータルは、お前が子供時代に戻れるポータルだ。メリットは、記憶を保持したままやり直せる。デメリットは、多分お前は紫に会えず幻想郷にも来れなくなる」

 

ああ、それは……なんとも甘美な選択だろうか。やり直したいと何度考えたことか。すべてを消し去る力は今すらも消し去って、俺を過去に飛ばしてくれるらしい。

だがやはり、フランは三つのポータルの間をわたわたと移動しつつ、手を大きく振ってだめだと訴えかけている。その姿に笑いが零れ、結局俺には選択肢はないことを突きつけられる。

 

「要は、俺は進むしかないってことだろ?」

「よく分かってるじゃないか。だが、一応選択肢として提示はしておこうと思ってな。どのみち、お前がどれを選択しようと俺は実行してやるし……多分、フランも送り出してくれると思うぜ」

 

フランは涙目で、送り出してくれるような雰囲気ではないが……とはいえ、このフランは分身で、戦闘もすることができないような存在だ。無理やり押し通るくらいわけないだろう。

だが、それでも。

 

「はぁ、ここまで来たら最後まで行くよ。こんなに贈り物も貰ったしな」

 

今まで貰ってきた様々なものを見る。こんなに人から貰っておいて、何もできずに逃げましたなんて言えるはずもない。例え過去に戻って忘れられたとしても、俺自身が後悔し続けることになることが分かっている。

そんな未来が分かっているのに、ここで進む以外の選択肢など、取れるはずもない。

 

「じゃあ、進むといい。それともあれか、俺にもついてきてほしいかな?」

「んなわけあるか。さっさと帰れ」

「はいよ」

 

そうしてミキが黒以外の三つのポータルを消し、最後こちらを向いて言った。

 

「そういえばお前には神っぽいことをしたことがなかったな」

「なんだ急に。神出鬼没なところとか、いかにも神っぽいけど」

「ふっ、お告げをしてやろうと言うのだよ」

 

そうしてミキは、背負っていた二本の剣を地面に十字になるように突き刺して、大きく手を広げた。いかにも物語の最後の悪役のような立ち振る舞いだ。

 

「少年!これが、この選択こそが人生最大の岐路だ!この先の安全の平和を、このミキ・クレイルが保証しよう!みっともなく、薄汚れ、地べたを這ってでも、先に進むがいい!」

 

そう言って、ミキは消えた。掻き消えるのではなく、よく見慣れた時空転移によりいなくなった。言葉通り、今のは本物だったということだろう。

さてさて、俺が知る限り最強の神様に保証をしてもらったし、先に進むとしますかね。

そうして俺はポータルへと足を踏み出した。

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