東方十能力   作:nite

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四百六十九話 過干渉

「紫さん。どうしますか?」

「……大丈夫よ。定晴ならきっと」

 

ドレミーから話を聞けば、彼は一番深いところで眠ってしまったらしい。今はギリギリ私たちの贈り物が彼をつなぎとめているが、それも時間の問題。

定晴は現在、深い眠りについている。そして、その中で他人の夢と繋がりながら、自分自身の奥深くへと潜っていった。一番深いところから現実に戻ってくることは、夢を見る中で一番難しいこと。

 

「紫様、一日以上眠らずに大丈夫ですか?」

「ふふん。愛する人のためなら何日だって働いてあげるわ!」

 

私の手を離れて自分で進み始めた幻想郷とは違う。彼は、まだ大人になれていないから。私が何日も働いて、彼のことを守れるというのなら、私の冬眠なんて安いもの。

正直、ここまでは予想通り。定晴が夢の最深部で自分を見失ってしまうことは、何も問題はない。そのために、私たちは過剰なまでに贈り物をしたのだから。わざわざ定晴と関係のある人たちを呼び、眠ってもらい、そして贈り物をするように頼み込んだ。

彼女たちは夢の内容をあまり覚えていないけど、きちんと贈り物をしてくれたことは把握している。

それに加え、深層へとちゃんと送り出すために色々用意していたけれど、まさかちょうどいい時に地霊殿の人たちが地上に来るとは思わなかった。

私が眠っていると思っていたらしい彼女たちは顔を青くしていたけれど……定晴をちゃんと奥に進ませてくれたから、今回の件は不問としましょう。

 

「定晴殿がこのまま帰ってこれなかった場合どうなるんでしょうか」

「魂もない体は朽ち果てるに決まってるでしょ。でもね、定晴はそんなに弱くないわ」

 

あの人は私にも勝てる力がある。ううん、精神力でだって、私は定晴には勝てない。私があの人に勝てる要素なんて何もない。生きてる時間で比べたって、それは成長の度合いに何も関係しない。

 

「おっと、もしかしてやばい感じ?」

「ミキ!ちょうどいいところに来たわ!」

 

突然の転移の気配で、ミキが現れた。まことに不承なことではあるけれど、彼もまた私の親友。

そして、困ったときちゃんと手助けしてくれる親友。

 

「実は定晴が……」

「おっと。皆まで言うな。大丈夫、最終深度に向かう直前のあいつに会って来た」

「え、は、はぁ!?」

 

ミキの言葉に、声を荒げるのは私じゃなくてドレミー。夢の管理者なのに、その夢に知らずうちに干渉されていて、言いたいこともあるのだろう。

 

「勝手に入ってこないでくれますか!?時空神だかなんだか知りませんけどね!夢の世界への勝手な侵入は罰則を!」

「はっ、今更夢への侵入に腹を立ててるんじゃねえよ。やろうと思えば、俺がこの物語に介入することだってできちまうんだから」

 

ミキはどこかここではないどこかを見ながら言う。もしかしたら、ミキの目には私たちには見えない何かが別途見えているのかもしれない。

 

「でも、俺はしない。俺は作者じゃないし、そもそも定晴が今後どうなるかも俺は把握していない」

「どういうこと?」

「いや気にするな。こっちの話だ」

 

いつもこうして変な話をするのは、ミキの悪い癖だ。きっとミキの中では整合性のあるようになっているのだろうけど、聞いている私たちはちっとも。定晴の思考癖にも似た、他の人を置いて行ってしまう悪い癖である。

 

「というか、干渉って、彼に何をしたんですか?」

「ん?決断させただけだ。あのままだと、流れで最終深度に到達してしまいそうだったからな。ちゃんとあいつが戻ってこれるように、選択と決断のフェーズを挟ませてもらったってわけ」

 

覚悟のないまま進めば、現実に戻ってくることは難しい。それは理屈としてよくわかるが、あくまで夢であるあの空間に対して決断させることなど難しい。それは、彼の思考のうちにはないから。

それをまさか、干渉という形で無理やり選択の間を作らせるなんて。やはり恐ろしいほどの力を持った時空神だ。

 

「一応無理やり目覚めるルートと自分を殺すルート。それにすべてをやりなおすルートの選択肢も与えたんだが……」

「何やってるのよ!」

「どうどう。ちゃんとあいつは選んだうえで最終深度にいったよ。ちゃんと別の選択肢がないと、決断にはならないだろ?」

 

大きな扉を前に進む決意をするのと、複数の扉の中から一枚を選んで進む決意をするのでは、気の持ち方が違う。だが、もしそれで定晴が別の選択肢を取っていたら……勿論、ミキも信用したうえで選択肢を提示したのだろうけど、恐ろしい。

 

「だからまあ安心せい。月まで行って帰ってこれるやつが、今更夢の中から帰ってこれないわけないだろ」

「そ、そうよね。だって定晴だもの!」

 

でも、やっぱりちょっと心配だから。不安はないけれど、少し気になってしまうから。

だから私は祈る。わざわざ誰にも見せたことのないスキマの奥に隠している日記帳まで渡したのだから、帰ってきてくれないと困る。

私は目を閉じて、ただ彼の無事を祈った。

 

「にしても、魔理沙や定晴を夢の世界に連れ込んだやつは誰なんだ?」

「現在調査中です。夢の世界への道を無理やり開くなんてそう簡単にはできることではないのですが……」

 

………

 

主様とのつながりが、少しずつ消えていくのが分かります。わかってしまうからこそ、さらに力を込めてあの人が帰ってくることを願う。

 

「結局家で、私たちはご主人様の帰りを待つしかないわけね」

「その、すみません。途中で目が覚めてしまって」

「いいのいいの。疑念から確信に変わったのなら、むしろさっさと目覚めないと危ないから」

 

私は、フランさんとこいしさん、そしてさとりさんの様子から、あの場所が夢の世界であることに気が付きました。

夢の世界では私の能力は何の制限も代償もなく好きなだけ使うことができて、その目で見た出会った皆の姿は不定形と呼ぶような状態でした。

そして、最後に会った三人は不定形の中に、別の何かが見えた。それが何なのかは私には分かりませんでしたけれど、あの場所が夢であると直感的にわかってしまうようなものでした。

今思えば、あれは多分欲望だったんだと思います。自分の中に秘めている、現実じゃ発散できないような欲。それが、夢の世界の皆にくっついていた何かだったんじゃないかと。

 

「でもまさか、夢の世界で契約を更新してくるなんて思わなかったわ」

「そ、それは……うぅ、主様呼びも抜けませんし……」

「ご主人様も最初やらかしたけどね、一方からだけの強いつながりを作っちゃうと、式神契約は変な形で成立しちゃうのよ」

 

呼び方は、まあ特に忌避感なんかはありません。ずっと式神でしたし、主様の式神であるという自負はそれなりにありますし。

ですが、以前呼び方を変えることはないと直接言ったので、突然私が敬称で呼び出すのは少し恥ずかしいというかなんというか……ルーミアさんが私よりも仰々しい呼び方をしているので、まだなんとか落ち着いていられますが。

 

「まあいいじゃない。きっと、こっちとあっちを繋ぐ一番のつながりは私たちなの。なら、できる限り強い結びつきを維持しようとするっていうのは変な話じゃないわ」

「呼びかける、ですよね」

「ええ。少しずつ繋がりが弱くなっていくのを感じる今だからこそ、私たちだけは焦らず信じるしかないの。私たちの状態で、ご主人様の状態はいくらでも変わっちゃうんだから」

 

主様の夢は、常に動き続けていました。それは、夢らしいと言えばらしいのかもしれないけれど、主様の不安定な状態を表現していると言っても過言じゃありません。

そんな主様を安定させるための支柱は私たちであるのは間違いないけれど……私の真実を見抜く目が、それだけでは足りないと主張する。

きっと、主様にはとても強い繋がりがもう一つ必要なのだと思う。それこそ、今の主様の手を直接引いてあげられるような誰かが。

 

………

 

「ねえ、ミキ」

「なんじゃね」

 

スマホみたいなのを取り出して何かを閲覧しているミキに、私は堪えきれずに話しかける。

多分これはお節介なのだろうけど……

 

「やっぱり私、定晴を直接起こしてくるわ!」

「……じゃあいってらー」

 

こちらを見向きもせず、ただ軽く手を振るだけのミキ。深く考えているのか、適当に流しているのか分からないけれど、ミキは私の行動を止めるつもりはないようだった。

 

「止めないのね」

「止めてほしいのかね」

「いいえ。でも、ミキのことだから無駄な干渉は推奨しないかと」

「はっはっは、あいつのことを好いているやつの干渉が無駄になるわけないだろう?なんせ、干渉するのは幻想郷の賢者だ。なら適当にやったって問題ないさ」

 

カラカラと笑うミキに背を向け、私はスキマを開いた。

本当は、定晴のことを百パーセント信じたい。きっとあの人なら、すぐに戻ってきてくれるのだと。

でも、もし戻ってこれなかったら。もし、誰かの助けを必要としているのなら。

 

その手を引くのは、私でありたい。

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