東方十能力   作:nite

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四百七十一話 味方の証明

風の音で目が覚める。うっすらと目を開けると、そこには青い空が広がっていた。

 

「ふふ、おはよう、定晴」

 

声がして、横を見る。そこには、嬉しそうにほほ笑む紫の姿。

 

「さて、お話をしましょ」

 

………

 

座り込んだままの定晴と、同じく横座りでその目を見る私。

定晴は、意外にも素直に話してくれた。でも、もう一人の自分と話した後のこと、すなわちすべてを捨てて眠ろうとした後のことは覚えていないみたい。

 

「えっと、何があったんだ?」

「……」

「紫?」

「……はぁ、まあいいわ」

 

まさか、自分がすべてを捨てたことを覚えていないなんて。

仕方なく、何があったのか説明をする。話しているうちに思い出してきたのか、その表情は暗くなっていく。

 

「そうか。そうだな……悪かった」

「悪かったじゃないわよ!こんなに贈り物をしたうえで捨てようとするなんて……まあでも、贈り物してないと本当に取り返しのつかないことになっていただろうから、結局は意味があることになったわね」

 

本当は、これで私たちのことを思い出して戻ってきてくれたら、なんて思っていたけれど、まだ私たちはそこまでの存在になれていないみたい。

いえ、自分との対話をして内面が見えたとして、悩みが解消されたわけじゃないし仕方ないか。

 

「ひとまず、帰る気持ちは湧いた?」

「ああ……うん、まあ」

「煮え切らないわねぇ」

 

多分、定晴はまだ眠ろうとしてる。きっと私が許したら、また深いところで眠りにつこうとするはず。

ならやっぱり、ここは少しだけ強引に定晴のことを引っ張り上げるしかないみたいね。本当はこういうことしたくなかったんだけど……定晴ともっと一緒に過ごしたいから、私はちょっとだけ我儘になる。

 

「そんなに寝たいなら寝たらいいわ。でも、その場合私も一緒に寝る!」

「は、はぁ!?」

 

普通なら無理な提案。でも、私ならきっと能力を使えば定晴の夢の中でも眠ることができるはず。実験したことはないけれど、かつて昼と夜の境界をいじったこの能力なら、個人の夢くらいいくらでも改造できる。

そして、そのことを定晴も理解している。だから、私が完全に荒唐無稽な話をしているわけではないということも、定晴は考えてくれる。そして定晴は、自分以外には優しいから。

 

「それはだめだ。紫はまだやらないといけないことが」

「ふんだ。今更私にしかできないことなんてそんなにないのよ。藍に任せちゃえば幻想郷なんて安泰安泰」

 

藍の能力は、一介の式神に納まらないほどのものを有している。私がいなくたって問題ないだろうし、実際私が冬眠している間に藍だけの期間があったとしても、何の影響もなかった。

なら、私が向こうでやらないといけないことなんてない。それよりも、こっちでやらないといけないことの方が多い。

 

「好きな人と、好きなだけ眠る。それってとても幸せなことだと思わない?」

「よくない。紫、俺のことはいいから帰れ。元々俺のことを見送ってくれたんだろ?なら」

「ミステリアスな大人タイムは終了よ。私はもうちょっと少女らしく我儘にいくわ」

 

最初に定晴と出会ったときは、定晴がここが夢だと分からないように、ヒントをあげすぎないように、距離を詰めすぎないように注意していた。

でも、ここまで深いところに来てしまえば、多少夢だと自覚しても簡単には戻れないだろうし、私が目の前にいるなら覚めさせない。好きな人と一緒に眠りたいという欲望も、まったくの嘘というわけじゃなく、むしろとっても本心。

定晴のことをこれだけ想っている私が一緒に眠るなら、定晴だって安心して眠れるはず。

 

「定晴に与えられた選択肢は二つよ。私と一緒に帰るか、私と一緒に眠るか。どっちにしたって、私は一緒よ」

 

今の定晴に必要なのは、絶対に離れないという強い思い。一人で生きていく中で、いつの間にか忘れてしまっていたであろう誰かと一緒にいる温もり。それが必要なのだと私は踏んでいる。

式神なんて繋がりじゃない。本当の意味で、心から繋がっていると思わせること。定晴には、表裏なく接するのが一番効果的なはずだから。

 

「定晴は心のどこかで、まだ私たちのことを疑ってる。疑ってるから、私たちの思いを受け取らないし、心に響かない。敵の女性に心を開くタイプじゃないものね、貴方は」

「敵だなんて思ってない……」

「いいえ、思ってるはずよ。勿論自覚はないでしょうけどね、私がどれだけあなたのことを見てきたと思ってるの?」

 

私が恋をしたあの日から、私は事あるごとに定晴のことを見てきた。外の世界でだって、幻想郷でだって、時間があれば定晴のことを見て、なんだかストーカーみたいだとなんども自虐をした。

それでも、私は定晴のことを目で追うのをやめない。それだけの魅力が、貴方にはあるのだから。

 

「だから、私をまずは信じてほしいの。例えどれだけのことがあったって、私は貴方の味方であり、貴方を愛し続けるって。もし将来、定晴が私以外の女性を選ぶことがあったとしても。それはとても悲しいことではあるけれど、きっと私は定晴のことを一生忘れない。例え定晴が死んだあとであっても、私だけは絶対に定晴のことを思い続ける。妖怪としての長い一生をすべて、貴方に捧げると誓うわ」

 

定晴に出会うまでにも、多くの男性に出会ってきた。私は自分で言うのもなんだけど、顔やスタイルには自信があって、それで求婚してくるような人をたくさん見てきた。

その中で、私の心を掴んだのは貴方だけ。私のすべてを捧げていいと思ったのは貴方だけ。

 

「なんていうか、気持ちが重いなぁ」

「これだけ重い気持ちをぶつけられて、それでもまだ私のことを疑うかしら。貴方になら、私は何をされたっていいのだけど」

 

ちゃんとよくないことをすれば怒るし、他の人に目移りしたら不機嫌にもなる。でも、私のことを見てくれるのなら、私は、それで……

 

「お前それ、クズ男に引っかかるやつの思考だぞ」

「あら、じゃあ私が惚れている男はクズ男ってことかしら」

「ああそうだ。俺のことなんて忘れちまえよ」

「もうっ。いつまでもフラフラするわねぇ」

 

ああでも、こういうところにも私は浮足立つ。私は戻ってきてほしいのだけど、究極、定晴がそれでも眠ることを選ぶのなら、絶対についていって私も眠る気でいる。先ほど言ったあれは、本気の本気なのだ。

だから、定晴がこうやって迷っているのは、ある意味では定晴の中の優柔不断なところで、人間らしいところなのだと私は思う。妖怪は、なんだかんだ自分の在り方を変えることなどできないのだから。

 

「どうやって説得を……フラン?」

 

私が次の一手を考えていると、いつの間にか定晴の後ろにフランが立っていた。定晴のことを見つめていると、突然定晴に抱き着いた。

 

「フラン、どうし」

 

そして、その唇にキスをした。私が知る限り、まだ本体はしていないはずのキスを。

 

「フランどういうつもりだ」

 

そして、フランは口を動かす。定晴には声が聞こえているみたいだけど、私には口パクをしているようにしか見えない。このフランは定晴の持ち物だから、この世界では定晴にしか伝わらない。

 

「フラン、本当か?」

 

フランが頷く。定晴は、頭を強く掻き、そして項垂れた。

 

「分かった。帰るよ」

「え、ちょっと、私の愛の告白よりも響くフランの言葉って何なのよ!何を言われたの!?」

「聞こえてないのか?」

「聞こえないわ。この世界で、定晴の持ち物に干渉できるのは、定晴自身だけなの!」

 

定晴はその場で立ち上がると、フランの頭を優しく撫でた。

 

「フランのために秘密だ」

「私の告白が届かなかったみたいで凄いショックなんだけど……私本当に愛してるの!定晴がいないと生きていけないくらいに!」

「分かった、わかったから」

「定晴が死んだら私も死んでやる!」

「大げさだっての!」

 

フランがしてやったりみたいな顔をするので、私はやけになって口走る。そのまま強く抱きしめて強引にキスまでする。

最終的に、定晴もさすがに観念してくれたのか、私の頭を撫でてくれた。えへへ、わーい。

 

「じゃあ帰り道の案内を頼むよ」

「任せて頂戴!ちゃんと家まで帰るわよ!」

 

定晴の手を引いて私は歩き出す。夢から出るのにスキマなんていらない。

 

それにしても、私よりもフランの言葉の方が響いたみたいで、本当にショックだなぁ。私の方が長く一緒にいるののに……

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