東方十能力   作:nite

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四百七十二話 帰宅

紫に連れられ、俺はいつの間にか目を覚ましていた。最初に探索する予定だった森の中で、仰向けに倒れて眠っていたようだ。やっぱり、あの世界は夢だったか。

ずっと俺の近くを漂っていた贈り物たちは周囲には残っていない。フランの分身もおらず、ここには俺一人……

 

「なわけないでしょ。私がいるわ」

 

隣には紫が寝ていた。俺の手を握り、こちらを見つめている。

 

「夢の中で出会った彼女たちは、夢の出来事を覚えていないけれど、私は違うわ。私は全部はっきりと覚えてる」

「なんともまあ厄介なこと」

 

紫は、俺の手を胸に抱くようにして宣言する。

 

「ええ。あそこまで言ったんだから、もう絶対に離さないわ」

 

にこりと笑いながらそう言う紫に、俺は少しだけドキリとしてしまう。

 

「あら、もしかしてもうちょっと効果があるかしら」

「い、いや……」

「安心してちょうだい。今後もずっと、貴方への愛を主張し続けるから」

 

夢の世界だったというのに、俺の記憶にはあの世界でのことがしっかりと残っている。俺がずっと魂と会話していると思っていた、狂気と愛についても今は俺の中でいったん飲み込めている。

正直なところ狂いたいばかりだが、今の俺は狂うと本当に狂えてしまうので自重する。ひとまず、自分の状態を完璧に把握しなければ、今の俺は非常に危うい。

 

「じゃあ家に帰りましょ。私もついていってあげるわ」

「恥ずかしいんだが」

「ふふ、いいじゃない。なんなら腕を組みながらでもいいのよ?」

「勘弁してくれ」

 

紫はただまっすぐに想いを告げてくる。それが、今の俺には若干のストレスになりつつも安心感をくれている。今の俺がちゃんと受け答えができるのは、紫が俺に寄り添ってくれているからに変わりない。

紫も、多分それが分かっていて終わったからさっさと別れるなんて提案をするつもりはないようだ。このままだと、夜になるまで一緒にいることになりそうだ。

 

「それで、今回のことの顛末を少しだけ説明しておくわね」

 

ああそういえば、元々は俺たちは水那と霊夢の頼みで博麗神社の近くの森を探索しているんだった。いつの間にか夢の世界に囚われるなんていう不思議体験をすることになったのだが、本来であれば別の要件のためにここに来ていたのだった。

今やそのことも忘れ、ルーミアとユズは先に帰還し、魔理沙は……魔理沙、戻ってきてるだろうか。

 

「ひとまず、魔理沙は戻ってきてたわ。霊夢の勘通り、この森の中で眠っていたみたい」

「やっぱり温泉の時にか」

「魔理沙曰くそうみたい……定晴と一緒にお風呂に入れるイベントがあったなら、私を呼んでほしかったわ」

「寝てただろ」

 

例年通りであれば、紫はこの時期冬眠中のはずなのだ。たまに起床することはあれど、たいていの場合眠っているうえに連絡する手段も少ないため、冬の間のイベントに紫を呼ぼうという人はいない。

家までの帰り道、紫の提案で歩きながら帰る途中に、今回の事件について話を聞く。

 

「犯人は?」

「調査中よ。ドレミーの目を盗んで夢の世界に誰かを引き込むなんてできる妖怪はそういないと思うんだけど……」

 

ふむ、そういえばドレミーはあの世界の管理者と言っていた。あそこが夢の世界であるということを把握した今では、ドレミーが夢の世界の管理人であるということが分かるわけだが……夢の世界に管理人がいたとはな。現代科学だと、夢の世界は脳が作り出したものとされているのだが、それを管理している第三者は存在していたということだ。

 

「ひとまず、定晴は安心していいわ。定晴をこんな目に合わせたやつは私が許さないから」

「むしろ心配なんだが」

 

紫は手加減とかが苦手な節があるからなぁ。その妖怪が何者なのかは分からないが、紫に狙われて無事に済むとは思えない。

 

「まあでも、そのおかげで定晴の問題を一つ解決できたからギリギリ温情って感じね」

「俺の問題ねぇ……なあ紫、気づいてたのか?」

「私やミキ、それに心を覗けるさとりなんかは気づいていたわよ。貴方の中に別の魂なんていないってね」

 

そうか。俺自身自覚していないことだったとはいえ、分かるやつには分かるもんなんだな。今までの自分が恥ずかしくなってくる。

 

「結局、俺が狂気や他者からの愛から逃げようとした結果ってわけだろ?」

「うーん。そこまで深く考えなくてもいいと思うわ。他の人間だってやってることが、定晴場合は少し顕著に出たってだけよ。人間なら、誰も彼も少しは逃げようとしているはずだわ」

 

紫の慰めを受けつつ、自分もまた受け入れる。今は、ひとまず紫のアドバイスを素直に受け入れることにする。

 

「……ねえ定晴、これからはもっと家に遊びに行ってもいいかしら?」

「別にいいけど、変なことはするなよ?」

「しないわよ。会いに行きたいだけ」

 

紫のことは信頼することにした。それはそれとして、紫のトラブルメーカーという印象がなくなるわけではなく、何かやらかなさいかと思っている俺もいる。いや、ある意味では、紫なら何かやらかすだろうという信頼をしているのかもしれない。

その後は、紫となんだか今までよりも親密な会話をしつつ、俺の家まで帰ってきた。一応起きたことは式神の二人が把握しているはずだが……

 

「おかえりなさい、定晴」

「主様、おかえりなさい」

 

家の前で、二人が待っていた。一人はいつものように、一人は深々と頭を下げて。

 

「ただいま、二人とも。心配かけたな」

「いいのよ。もうちょっと式神として貴方の中に残りたいって強く思ったけどね」

「同じく、です」

 

すると、何気に俺の手をずっと握っていた紫の手が離れる。

 

「取り敢えず、今日はここまで。また明日会いに来るから、その時はよろしくね」

「こなくていいわよ。私たちがケアしておくから」

「ふふん、ルーミア、席をちゃんと開けておきなさい」

 

そうして、紫はスキマの中に戻っていった。夜まで一緒に、っていうのは俺の空想でしかなかったか。

そうして俺は、凄く久しぶりに感じる家に帰ってきた。

 

「正直言いたいことはあるんだけど……ご主人様が帰ってこれて、もうどうでもよくなっちゃったわ」

「すまなかったルーミア。ルーミアは随分と早い段階で気付いてたんだな」

 

ルーミアは結構早い段階で夢から覚めてしまった。それは俺のことをさらに奥へと案内するために必要なことだったが、早々にいなくなったことに少しさびしさを覚えてしまったのも事実。

まだ夕方にもなっていないくらいの時間だったけれど、俺は心の疲れを感じて自分の部屋へと戻った。そのまま、俺は何も口にすることなくベッドへと入る。

 

布団の感触がなくなるころ、俺の目の前には一人の男が立っていた。

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