「狂気だと思ったー?残念、ミキさんでしたー」
俺は輝剣で頭をぶん殴った。
「おい」
「それは俺のセリフだ」
と、ミキの横あたりが歪み、もう一人少女が出てきた。サンタクロースの帽子をかぶっている、夢の世界の管理者ドレミーだ。
どうやらここは夢の世界のようなのだが、こうもはっきりと夢と自覚しているのにも関わらず目が覚める気配はない。今日迷い込んだあの世界は、夢であると分かると目が覚めるシステムだったようだが、夢にも種類があるのだろうか。
「ここは明晰夢。一般的に夢と自覚し自由に動き回ることができる夢を指します」
「つまり、ここで起きたことは大方現実に戻っても記憶として残るし、夢と自覚した衝撃で目が覚めることもないわけだ」
「二人とも、ナチュラルに心を読むのをやめろ」
この二人は、つまり俺の夢に無断で侵入してきたやつらということだ。
ドレミーは管理者という立場があるので、まだ納得はできる。だが、ミキの方は完全に無断侵入であり、今すぐにでも追い出してしまってもいい存在というわけだ。
夢ということは考えた通りのことが起きるはずだが……ふむ、ミキの上にビルを出現させようと思ったが、残念ながら失敗。
「悪いが、今回はまじな話なので、そういう能力はカットさせてもらった。ドレミーが」
「脅されたんです。そもそも夢の世界に侵入するなんて本来許されないことで……」
ドレミーがぶつぶつ呟いているが、ミキを物理的に止める手段など存在しないのであきらめてほしい。どうしても止めたい場合はミキの嫁を呼ぶしかあるまい。
ひとまずドレミーは放置し、ミキに本題を尋ねる。
「それで、まじな話ってなんだ」
「ああ。お前の力についてだ」
ミキはそういうと、大きなスケッチブックのようなものを取り出した。どうやら書いたり消したりが簡単にできる魔法のスケッチブックのようで、ミキはそこに魔法でさらさらと文字と絵を描いていく。
そしてそこに記されたのは、俺の能力群。即ち、輝剣・結界・再生・幻空・浄化・無効化・風・魔術・模写・身体強化の十個。魂については、俺が特殊だと思い込んでいただけなので、そもそも能力の中に入っていない。
「現状、これらが定晴の能力としているな」
「ああ。十個の力を操るっていうことにしてる。自己申告らしいから、それでいいかと」
実際のところは十の力で数えられないものもあるので、まあ本当にただ言い張ってるだけの能力だな。
「ここらでちょいと、数えなおさないか?」
「どういうことだ?」
そういうと、ミキは風の絵に丸を書いて、魔術の方へと矢印を伸ばす。
「まず、これは被ってる。なら、これはもう一つの力ってことで、魔術で括っちゃおう」
「ふむ。まあ最近は他の属性の適正を高まって来たしちょうどいいか」
魔女の魂の影響で、俺の魔術適性が大きく上がった。あのパチュリーから、直接魔術に関して上級も使えると太鼓判を押されているほどだ。
ミキは風を消し、追加で未来予知と書き加えた。
「お前の今の生命線はこれだ。これがなかったら、お前は既に何十回も死んでる」
「それはそうだ。これに助けられなかったら、幻想郷に来てからも、不動に殺されたりしてる」
「だから、これをちゃんと数に数えよう」
風が消えた分、そこに未来予知を入れることによって力の数自体は変わらないということだ。つまり、俺がずっと言い張っている【十の力を操る程度の能力】には何も嘘をついていないことになる。
既に十個の力の種類を教えている人については……まあ、そもそも問われないと答えることもないだろうし、教えなおす理由もないだろう。それに、未来予知については操ると言えるかどうか怪しいラインだ。
「んで、ここが重要なんだが……」
ミキは、さらに追加で線を引く。それは、模写の文字を遮るように伸び、その後文字を記す。名を、継承。
「お前の模写という力を、継承という言葉に置き換える」
「どういうことだ?別に、俺は教わってできるようになったわけじゃないぞ?」
模写の力には三つまで技を保存しておくことができ、現在それはマスタースパーク・依姫の剣術の二つを登録している。一枠は、たまに使ったり消したりするための余白だ。ルーミアの闇による手とかを模写しておくと、日頃の生活でなんだかんだ役に立ったりする。
本来の模写では、人物固有の力によるものは模写できないが、ルーミアは式神なので俺にも再現できたようだ。
閑話休題
ミキは今までになく真剣なまなざしで、俺の瞳を見る。
「実は今回、夢の世界での出来事によってお前の能力構造に変化が起きた」
「どういうことだ?何があった」
「それを知るために、今回わざわざ夢の世界で話をしたんだ」
今までの話では、わざわざ夢に侵入してまで話す内容ではなかった。現実で同じようにスケッチブックに書いていけば済む話だったのだ。
ここにきて、ようやく俺の夢に侵入した理由が明らかになる。
「今日の昼間の夢で、皆から貰ったものを覚えているか?」
「ああ。傘とか、扇子とか、依姫の太刀とか」
俺を支えてくれた皆から、色々と所持品を貰った。フランからは、分身自体を受け取ったが、分身のフランはたくさん俺のために動いてくれたことを覚えている。
既にあの夢は終わってしまったので、それらは現在俺の手元には存在しないが……
「いや、あるんだ。あれは確かにあの時お前の物として世界に認識された。定晴が望めば、それらはお前の要求に応えてくれる」
「つまり?」
「ひとまず分かりやすい例として、フランを思い起こしてみてくれ。本人じゃなくて、分身の方のフランだ」
ミキに言われ、俺は目を閉じて考える。
本人とは違い、必要以上に動かず、喋る能力や戦闘する能力を持たない少女。だが、夢の深度で彼女は俺の手を引いて、本来出せるはずのない声も出して俺を止めようとしてくれた。
結局そのあと俺はその手を離してしまったわけだが……紫に助けられたとき、フランにも助けてもらったことを覚えている。
そうしてその時の記憶を想起していると、ふと右腕の袖を引っ張られた。
目を開けると、そこには確かにフランが立っていた。喋らず、ニコニコしたままの分身のフランが。
「フランなのか?」
フランはこくりと頷く。やはり、喋ることはできないようだ。深層で俺に話しかけてくれたのは、あの時だけの奇跡だったのだろう。
「あの時受け取ったものは、こうして夢の世界で取り出すことができる。あれらは既にお前の持ち物ってことだよ」
「それは分かったが、それがなんで継承って話になるんだ?夢の世界でしか出せないならあまり意味はないんじゃないのか」
一応確認してみたが、やはり現実で呼び出せるわけではないらしい。扇子や傘も、夢の世界でしか取り出すことはできないとのこと。
だが、とミキは言葉をつづけた。
「夢の世界限定のものを呼び出す方法がある」
「どうするんだ?」
「そこで模写の話になってくる。現在、お前が受け取ったそれらは、すべて模写に登録されている」
待て待て、模写には三つまでしか登録できないはずだ。だが、貰ったものは三つを優に超えるだけの数になっている。模写には元々二つ登録されていたし、数が全然合わない。
「模写には三つまで、それが真実ではないとしたら?」
「それはあり得ない。過去に実験して、三つ以上登録しようとしてもできなかった」
「それはそうだろう。なんせ、模写の力、それで再現されたものがお前の魂だったのだから」
ミキは言う。俺の魂だと思っていた狂気、愛、それに魔女までも、模写によって生み出されたものだと。
「お前はずっと魂という一つの力として見ていた。だからずっと魂は模写され続け、更新され続け、あまつさえ魂を増やすという事態になった。だが、お前から魂の呪縛がなくなった今、模写のスロットは爆発的に増加している」
「何個まで登録できるんだ?」
「さあ?それは分からん。それに、登録するのも今までみたいに一目見れば、なんて生易しいものじゃなくなってる。マスタースパークは神技も、もう一回ちゃんと見せてもらわないと今まで通りには使えないはずだ」
こいつは、こいつはどこまで俺のことを知っているのだろうか。この事件中、ほとんど話をしていないというのに、俺のことを知り尽くしているようにも思える。
「ともかく、模写、もとい継承の力を使うことでそれぞれの力を再現することができるようになるはずだ。どういうことができるのかは、実際に確かめてくれ」
「なんというか、パワーアップしたってことでいいのか?」
「どちらかと言えばもとに戻ったってだけだがな。元々、お前はそうやって誰かの物まねをすることこそあるべき姿だったはずだ」
そうして、ミキの姿は消えた。後には、例の書いたり消したりできるスケッチブックと、魂が抜けたような様子のドレミーだけが残っている。
スケッチブックは一旦放置し、ドレミーに声をかける。
「あー……話は終わったぞ」
「夢の負担がどれだけのことか……あら、そう?じゃあ今度こそゆっくりおやすみなさい」
そうしてドレミーの姿が消えた途端、俺の視界は暗くなっていく。
今までにないほどの能力の変化、それを受け入れることで俺は前に進めるのだろう。小さく手を振るフランの姿を遠くに見つつ、今度こそ俺は静かに眠りにつくのであった。
これにて第二部終了です
そして、次から第三部が始まります。第三部は今までよりも短く、定晴の人生を決める物語になります。こうご期待