東方十能力   作:nite

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四百七十七話 深夜

「ごちそうさまー」

 

夕食の鍋は、一足先にこいしがお腹いっぱいになってソファに寝っ転がった。食べ終わってすぐに眠るとなんとやら、幻想郷だと本当に変化してしまいそうで少し怖いな。

 

「行儀が悪いわよこいし」

「ごめんごめん」

 

ルーミアの注意で、そそくさと姿勢を整えるこいし。ちゃんと礼儀作法に関しても、最近は気にしているらしい。

こいしのすぐ後にユズがお腹いっぱいになり、こいしとたどたどしくおしゃべりをし始めた。ユズは自分から誰かに話しかけるということは少ないが、こうして周囲に俺たちがいて、かつ家のように安心できる場所なら少しずつ雑談もできるようになってきた。

そんな二人の姿を見て、ルーミアが豆腐を食べながら呟く。

 

「こいしもユズも、少しずつ変わってるのね」

「ルーミアだって変わってるだろ?」

「そうかしら」

「ああ。社交性と、親近感が増したように思える」

 

初めてルーミアに会った時は、そこらへんの少女系妖怪とそう変わらないような印象を受けた。何を考えているのか分からない点で、妖怪らしい恐怖感もあったが。

しかし、今では社交性を身に着け、喋り方もしっかりとしたものになっている。子供たちと遊ぶ機会は減ったようだが、その分人里で大人の情報網を活用しているようだ。むしろ、二人よりも大きく変わった妖怪と言えよう。

 

「最近はその喋り方も隠さないもんな」

「だって、チルノも大ちゃんも気にしないんだもの。ならもう、ありのままでいいのかなって」

 

一時期、ルーミアの正体を知らない相手に対しては、昔の子供の喋り方をしていたルーミアだったが、いつぞやのうちにこの喋り方をいつでもするようになっていた。チルノたち子供の前でも同じように喋っているので、今ではあの喋り方を耳にすることはもうない。

 

「あ、そだ、定晴!」

「どうした急に」

 

駄弁っていたはずのこいしが、急に立ち上がってこちらを向いた。話の脈絡があったわけでもないようで、ユズもびっくりした様子だ。こいしはたまに、ふと思いついたことを行動に移すことがある。

 

「明日は人里に来てね!絶対だよ!」

「え?まあいいが、何かあるのか?」

「秘密~」

 

ふむ、この時期に何か人里でイベントがあった記憶はないが……こいしは絶対に絶対だよと再三確認してきたので、大層重要なことなのだろうと考える。予定もないし、明日は人里だな。

 

「折角だから二人も来て!絶対だよ!」

「はいはい。分かったから落ち着きなさい」

 

ルーミアが食べ終わった皿を置いて、こいしを宥めに向かった。こいしが急にはしゃぎだしたせいで、ユズは目を白黒している。

その間に、俺は残った鍋の材料を小さな器に移す。雑炊にして明日の朝ごはんにでも食べるとしよう。

そうして皿洗いを始めようとしたら、ルーミアがこっちに戻ってきた。

 

「皿洗い任せてちょうだい。むしろ、こいし係交代よ」

 

どうやらルーミアではこいしを宥め切ることができなかったようだ。俺はルーミアと交代し、こいしのもとへと向かう。

テンションが上がり切ってしまったこいしは、ユズにまとわりつくようにはしゃいでいて、ユズがどう対応していいか分からずおろおろとしている。まだ、ユズにはその応答は難易度が高い。

 

「ほら、落ち着け」

 

俺はこいしを引きはがして、両脇を持ち上げてぶらーんと足が揺れる。地に足がつかなくなり、やっと落ち着いたようで、息を若干切らしながらこいしはこちらを振り向いた。

 

「えへへ、定晴は絶対だからね」

「はいはい。ほら、これでも飲んで落ち着け」

 

俺はこいしとユズにココアを差し出す。やはり、この時期は温めた飲み物が心と体を落ちつけてくれる。

俺はコーヒーを飲み、皿洗いを終えたルーミアにもココアを渡した。全員で、ふーっと一息つく。

 

「これ飲み終わったら帰るね」

「あら、今日は泊まるって言わないのね」

「今日はちょっと帰らないといけなくて……」

 

いつものこいしは、何かとここに泊まると言うことが多い。毎回泊めていてはキリがないので、だいたい数回に一度の頻度でしか泊めないのだが、今日は自ら帰ると主張した。

明日は絶対に人里と言っていたし、それ関連かね。こいしにとって、随分と重要な要件のようだ。

 

「それじゃ、また明日ー!」

 

こいしは元気に人里へと帰って行った。こういうとき、こいしは送迎されるのをあまり喜ばない。本人曰く、子供扱いされてるみたいだからあまり好きじゃないとのこと。

ここから人里までは数分しかかからないし、こいしは妖怪でここらへんの野良妖怪じゃ歯が立たない力を持っている。わざわざ俺たちが送迎するほどのことはないので、過剰に心配してほしくはないようだ。

 

「さて、なら今のうちにやっちゃいましょ。ユズ、やるわよ」

「はい、頑張ります!」

 

二人は食前と同じように、部屋へと戻っていった。裁縫がどれくらいの進捗かは気になるところではあるが、俺が口出しすることではないので我慢だ。

さて、一人になってしまったし、いまのうちに残りの家事でも……と、誰かがソファに座っていた。

 

「やあ。元気かな?」

「なんだそのキャラ、斬るぞ」

「お前まじで俺には優しくないよな。ほら、少女たちに見せるあの優しいお兄さん感をもっとみせt、あぶない!」

「斬るぞ」

「もう斬った!」

 

妙にニコニコしているミキがそこにいた。怪しかったので、ひとまず斬ってみたが、当然のごとく躱された。

 

「何の用だ」

「紫からの伝言と、俺からのアドバイスだ」

 

ちゃんとした要件のようなので、俺はソファに座る。いつの間にか、ミキの手にはコーヒーがあったが、カップは俺の知らないものだったので自前のようだ。いつでも取り出せように準備しているのだろうか。

 

「まず伝言。犯人は捕まえたから安心しろってさ」

「犯人……ああ、俺を眠らせたやつか」

「ああそうだ。ちょいと変わった奴だったが、無事紫にぼこぼこにされたようだ」

 

ふむ、特に危害を加えられたわけではないが、ドレミーやミキがいなければ無事に帰ってくれなかったことを考えると、危害が加わる一歩手前だったし、特に同情はしない。

俺が巻き込まれたせいで紫が本気で怒ってくれたみたいだし、俺はあまり気にしなくていいかな。紫からも、あまり気にしないでいいと言われてるし。

 

「紫のこと、これまで以上に信頼するようになってくれて俺は嬉しいよ」

「ナチュラル心読みやめろ。そんで、アドバイスは?」

「ああ。継承についてのアドバイス……なんだけど、あまりいらない感じですか?」

「あまりいらない感じです」

 

今日の昼間のうちに、いくつかの継承能力が使えるようになった。未だに安定はしていないし、使えない力の方が多いものの、このペースならしばらくしないうちにすべての力を使えるようになるだろう。

毎回ミキにアドバイスを貰っては情けないし、自分のペースで進めていきたい。

 

「んー、じゃあ俺からお前に継承させてやろう」

「お?」

 

ミキの力、ぶっこわれだから継承させてくれると言うのならありがたいが。

 

「ただし条件つき。俺が指定した力をそのままお前の継承に差し込む。そんで、一回きりの力で、使ったら継承から消える」

「なんだそれ。っていうか、平然と俺の力に介入するなよ」

「俺の力は時空のバランスが壊れるから仕方ないんだよ。時空転移が欲しいなら紫にでも頼み込め」

 

そうして、ミキは俺に手の平を向け、一瞬俺に神力が流れ込む。すると、確かに継承の枠が一つ埋まったことを実感する。

ふむ、空間転移、だろうか。

 

「それは、一度だけ何のデメリットもなしに好きな相手を呼び出すか、好きな相手のところに転移する能力だ。往復じゃないから、外の世界のやつを呼び出すのはおすすめしないがな」

「どっちの力を使うとしても、一度きりか」

「ああ。最初で最後の行使になるから気を付けろよ」

 

つまり、奥の手。回数制限がきっかり決まっているとはこれまた珍しい。

 

「何回も使わせろ」

「いつもは紫にでも助けてもらえよ。これは、お前が何かを為すための力なんだから忘れとけ」

 

幻想郷はそこまで広くないので、一日飛んでも辿り着かないという場所は存在していない。地獄や冥界、畜生界に行く場合でもそうなのだから、瞬時召喚の必要性は外の世界ほどではない。

しかし、既に式神召喚を何度も使用しているところを思えば、全くの無用というわけでもないだろう。いつか、この力を使う時は来るのだろうか。ラストエリクサー現象が発生しそうだ。

 

「んじゃ、伝えることは伝えたから帰るぜ。じゃあな!」

 

俺の返答も聞かず、ミキはその場から消滅した。時空転移は紫のスキマ移動と違い、予備動作が存在しない。

それにしても……

 

「あいつ、俺の無効化結界はどうしたんだ」

 

俺は家にかけている無効化結界を張りなおすことに決めた。家の中に転移してこないためのものなのに、無視されては形無しである。

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