東方十能力   作:nite

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四百七十九話 紅魔館訪問

囲炉裏の傍から離れたがらないお空を、こいしがマフラーでぐるぐる巻きにした。小さな鴉状態なので、傍から見ればボールのようにも見える。

お燐は猫状態でさとりに抱えられている。お空ほどではないが、やはり寒さは天敵なのだろう。地底に比べて、地上の寒さは数段冷え込んでしまう。

そんな彼女たちを連れて、本日やってきたのは紅魔館。どうやら、こいしは大切な友達を紹介したかったようだ。

 

「レミリアには言ったのか?」

「ううん。前に来たときはお姉ちゃんが来てるなんて知らなかったもん。フランちゃんにも言ってないよ」

「大丈夫かなぁ」

 

紅魔館に来ると知り、俺が心配したのは、レミリアが面倒なことになるのではないかということである。彼女は、随分と体面を気にする質であるがゆえに。

こいしの家族となれば迎え入れてくれるだろう。だが、心を読めると知っても尚レミリアがその態度を貫くことができるのかについては……少々不安である。

 

「大丈夫ですよ。そういう人に対する扱いも慣れてますから」

「そうか?まあさとりが言うなら」

 

さとりが自信ありげにそう言うので、さとりのことを信頼してみることにした。レミリアの心の内に関しては、俺も少し興味はあるけれど、どうにも藪蛇に思えて仕方がない。

こいしがるんるんと美鈴に挨拶をする。地上に引っ越してからこいしは大体紅魔館が俺の家にいるので、美鈴にとっては十分な顔なじみであろう。

 

「今日はいっぱいですね」

「そうなの!こっちがお姉ちゃん!それとお燐と、お空!」

 

こいしが笑顔で美鈴に家族を紹介する。地上の皆に家族を見せることができることが、とっても嬉しいようだ。基本的に誰かに紹介するという機会がないから、猶更であろう。

美鈴はそんなこいしの様子を微笑みながら眺めている。フランと同じく、守る対象と言うふうに見えているのだろう。

 

「あれ、そういえば今日は寝てないな」

「え、ちょっと!私がいっつも寝てるみたいな言い方は心外です!」

「いや悪い悪い。ぶっちゃけ九割は寝てるから」

 

ふと、疑問に思ったことを呟くと、美鈴が素早くツッコんできた。正直俺と同じような思いを抱いている人は幻想郷住人にも多いはずだ。

 

「実は先ほど別の客人がありまして、まだ中にいるんですよ」

「つまりその時起きたと」

「寝てません!」

 

腕をぶんぶんと振って講義をする美鈴。しかし残念かな、日頃の行いのせいで全くの信頼ができない。

ちらりとさとりの方を見ると、残念そうに首を横に振った。やはりそれより前は寝ていたようだ。この寒さの中でも眠ることができるなんて、妖怪とはいえ凄まじい睡眠欲である。

というか妖怪ってあまり眠らないはずなのだが。美鈴が何妖怪なのか知らなけど、もしかして睡眠系妖怪だったりするのだろうか。

 

「誰がいるんだ?」

「早苗さんと諏訪子さんです。何やら咲夜さんに用事があるとか」

 

妖怪の山への案内もまたすることになるだろうが、今の内に紹介してもいいかもしれないな。こいしも同じことを考えたらしく、目を輝かせた。

 

「よししゅっぱーつ」

 

美鈴に手を振られながら、俺たちは紅魔館の中へと入った。

それにしても、知らない人であろうと、知り合いの知り合いであればいいというのも雑な警備である。むしろ、俺が初めて来たときに戦闘になったのって相当なレアパターンだったのでは?

 

「え、定晴さんあの人と戦いになったんですか?」

「霊力が多くて怪しまれた。男性があまりいないのもあったんだろうけど」

「あの人相当なお人よしですよ。どうやったら戦いになれるんですか」

 

まさかのさとりに呆れられた。ふむ、どうやら美鈴はあまり門番としての仕事はしていないようだな。そう納得しておく。

紅魔館の中に入ると、いつものように咲夜が待機していた。どういうわけか、俺たちが中に入る前に察知していつもこうして待機をしている。

 

「やっほー咲夜さん!」

「こいし様、定晴様。本日はどのような、それと、後ろの方はもしかしてこいし様の……」

「うん、お姉ちゃん!」

 

こいしがそう言った途端、咲夜の姿が消えた。時間を消えて移動することはよくあることではあるけれど、こうして客人を迎えるという時に消えるというのは、メイドとして本来ありえないことである。

すると、階段の上の方から弱弱しい咲夜の声が響いてきた。

 

「そのぉ、心を読まないという選択はできないでしょうか?」

「すみませんが、私の意思で操ることができる能力じゃないんです。第三の目の視野の中に入らなければいいですよ」

 

すると、今度は真後ろから声が聞こえた。第三の目の範囲外、言われたとおりの安全圏ということだ。

 

「申し訳ありませんが、本日は後方よりご案内いたします」

「えー、咲夜さん、そんなに秘密にしたことがあるのー?」

「誰にも秘密にしたいことがありますよ。妹様は現在図書館にいらっしゃいます。お嬢様は支度をしないといけませんので、少々お時間をいただきたく」

「じゃあひとまず図書館にいこー」

 

こいしの先導で図書館へと向かう俺たち。普通は咲夜が前にいるので、なんとも不思議な光景だ。

 

「咲夜さん、いいのですか、瀟洒なメイドではいられなくなりますよ」

「さとり様、勘弁してくださいませ。私にも知られたくないことはあります」

「それは残念です」

 

嫌がる人の心を無理に暴こうとしないのが、さとりの良い子の部分だ。振り返ればすぐに見えるだろうが、さとりはずっと前を向いたまま咲夜と会話をしている。

 

「良い子だなんて、私はそんないい子ちゃんじゃありませんよ」

「こいしの指標だろ。なら良い子だ」

「もう、定晴さんってば」

 

図書館は入口からすぐ近くにある。外部から本を搬入するときに移動距離を縮めるためだと、パチュリーから聞いたことがある。

 

「フランちゃーん!」

 

扉を大きく開け放ちながら、こいしが大きい声でフランのことを呼びかけた。

奥の方から、はーい!とこれまで元気そうな返事がする。方向からして、中央あたりにいるのかな。

 

「よし、行こ」

「お待ちくださいこいし様」

「んー?」

「パチュリー様に事前に通告をしてから」

「大丈夫だよー。パチュリーさんは恥ずかしいことなんてないもん」

 

ずんずんと進んでいくこいし。その隙に、背後にいた咲夜の気配が消えたことを俺は感知していた。先回りで、パチュリーにさとりが来ていることを伝えたのだろう。

こいしが紅魔館の住人のことをどう思っているのか分からないが、どうやら誰も隠し事などないように思っているみたいだ。俺はどちらかと言えば、紅魔館の人たちは何かと隠し事が多いように思える。レミリアの時点で色々と考え事があるだろうから、心は読まれたくなかろう。

 

「こいしはどうにも心を読むということについて、認識が歪んでいることがあるんです」

「こいし自身が心を読まれないからか?それとも、能力を捨てたからか?」

「どうでしょう。こいしは心を読むという行為が嫌いだったようですが、最近は妙に楽しそうで」

 

さとりに心を読んでほしいという考え方は、こいしが能力を捨てたことと繋がらない。こいしは心を読むことにいいことはないとして能力を捨てているはずなので、進んで心を読ませるのは違う気がする。

何か考えがあるのか、それともただ何も考えずテンションが高いだけなのか。

 

「あまり考えない方がいいわよ。こういうときのこいしは何も考えてないわ」

「そうか?」

「あの子、興味があることとそうじゃないことの思考の割き方が全然違うから」

 

こいしもフランも、たまに聡明な部分を覗かせることがある。常に、というわけではないものの、長生きしているからこその成熟された考え方をすることがあるのだ。だがそれも興味のあることにだけであり、そうでない場合は無邪気に遊ぶように考えることが多い。

 

「どうしたの?いこうよー」

「はいはい」

 

こいしが腕を振りながら催促をするので、俺たちも図書館の中央の方へと移動する。

そこには、絵本を読んでいるフランと、机に突っ伏して寝ているパチュリー、そして、その机を片付けている小悪魔と咲夜の姿があった。

こいしがフランのことを指さして紹介を行う。

 

「あれがフランちゃん!私の親友!」

「こいしちゃん!それにお兄様!えへへー、ごきげんよう!」

 

絵本から顔を上げたフランはニコっと笑う。今日のフランも元気そうだ。

と同時に、背後から「さとり様!」という声が聞こえた。

 

「大丈夫よ、お燐。少し眩暈がしただけ。ええ、ええ、大丈夫」

「さとり、どうした」

「大丈夫ですから、少し油断をしてしまっただけです」

 

さとりの顔色が悪い。ただ眩暈がしただけではこうはなるまい。

さとりのことをよく見ると、その第三の目はフランの方を向いていた。そうか、フランの心を中を見てしまったんだな。

 

「うぅ、びっくりしてしまっただけですから、本当に」

「大丈夫?」

 

さとりが倒れて、フランがこちらに近寄ってきた。

 

「お姉ちゃん、フランちゃんの中、ぐちゃぐちゃしてた?ごめん、先に言っておけばよかった」

「大丈夫よ。元々そういう子だって聞いてたから、変に見ちゃった私が悪いの」

「私、悪いことしちゃった……?」

 

なんとなく自分が原因であることを察したのか、フランが顔を俯かせる。さとりのケアはお燐とこいしに任せて、俺はフランのケアをしないといけないな。

 

「フラン、狂気は安定してるか?」

「え?うん、お兄様のおかげで元気だよ!」

「でも確か、完全に消えてないって言ってたよな。そのせいで前に大変なことになったし」

「ちょっとだけ。少し結論を出すときにコワスような選択肢が浮かんじゃうってくらいだよ」

 

フランの狂気は、俺が浄化で消してあげた。それでも元来から持っているそれは完全に消え去ることはなく、ずっとフランの中に渦巻いている。

さとりはフランのその部分を見てしまったのだろう。発露する部分ではなく、狂気そのものを見てしまえば気分を悪くしてしまうのもやむなしである。

 

「さとりはちょっと見すぎちゃっただけだ。フランは悪くない」

「本当……?」

 

フランの狂気は、俺が元々持っていた狂気の面とは違う。フランのものは純粋な悪意と邪悪な部分なので、俺のただ狂ってしまうだけの狂気とは比べ物にならない。

フランのことを慰めていると、立ち上がったさとりがやってきてフランに挨拶をした。

 

「すみません、私が少し覗きすぎたみたいです。私はさとり、妹がいつもお世話になっているわ」

「いいの。さとりさん、私も狂気のことうまく扱えなくてごめんなさい」

 

フランが頭を下げるので、さとりが慌てて顔を上げさせる。どうにもフランは狂気に関しては自分が悪いという認識があるようだ。狂気なんてまともに飼いならせないのでフランに悪いことはないと思うんだが。

フランがにへらと笑い、さとりが優しく頭を撫でた。和解はできたようで、こいしが紅魔館の人たちの紹介を続ける。

 

「えっと、あっちがパチュリー。今は研究のせいで寝てるみたい。あっちが小悪魔でメイド!」

「メイドじゃありませんよー。私はここの司書です」

 

俺たちがやり取りをしている間に、パチュリーの机は綺麗に片付けられ、パチュリーの身なりもきれいになっていた。服が変わっているけれど、咲夜が時間を止めている間に着替えさせたのかな。

一通り紹介し、こいしがフランと同じ絵本を読み始めたので、咲夜にレミリアの状況について聞く。

 

「レミリアは朝弱いのか?」

「ええ、まあ。異変を経てから、特に最近は皆さんと同じ時間帯に行動しようとしているようですが、何分種族の問題ですのでやはり昼間に起きるのは苦手なようでして」

「その割にフランは朝から元気なんだな」

「お兄様やこいしちゃんが遊びに来るもん!寝てなんかいられないよ!」

 

俺と咲夜の会話を聞いていたフランが声高々にそう言った。フランはレミリアに比べて、しっかり朝に起きて夜に眠る生活をしているように思える。レミリアは、昼くらいに起きて夜遅くに寝るという、外の世界では不健康とされる生活だ。

スカーレット姉妹は吸血鬼なので、本来は太陽が出ていない間は寝ていることこそ正しい生活だと思うが、それじゃ幻想郷じゃ少し生きづらい。

 

「お嬢様は既に起床されておりますので、準備が整ったらお呼びします」

「咲夜はレミリアの手伝いをしなくていいのか?」

「お嬢様は最近ご自身で支度なされるのです。たまに髪がはねてしまいますが、それはそれで可愛らしいと思いませんか?」

 

それ多分俺とかが言ったらグングニルが飛んでくるやつだ。家族だからこそ許される感想である。

 

「咲夜、そういうのはだらしないって言うんだよ。お姉様はちょっとだらしないの」

「フランは随分としっかりしているな。聞いた話だとフランの方がレミリアよりしっかりしてるとか」

「えへへ、お兄様のためだよ」

 

と、そこで図書館の入り口から、「咲夜ー!」という声が聞こえた。いつもよりも覇気がないが、これは確実にレミリアの声である。

 

「支度が終わりましたので、さとり様たちはご挨拶を」

「ええ、勿論」

 

本来は最初に館の主に挨拶をするのが礼儀だとは思うけれど、こちらは特に約束もせずに来ているので仕方のないことだ。頑張って起きて準備をしてくれたレミリアに感謝をしておこう。

 

「あう」

「ユズはレミリアが苦手か?」

「い、いえ、その、迫力が、あるので」

 

少し腰が引けているユズを支えつつ、俺たちはレミリアの方へと向かった。

因みに、こいしはフランと絵本を読むのを続けるようだ。実に自由である。

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