東方十能力   作:nite

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四百八十話 酒精

レミリアはいつもの恰好で、きりっとした顔をしていた。

 

「おはようレミリア」

「ええ。よく来たわね定晴。そして、こいしの姉とその家族たち」

 

ただし、その髪は跳ねていた。

と、思ったら髪は整えられていた。咲夜のメイド服のポケットから櫛がいつの間にか飛び出ている。ここで何も言わないことが、レミリアと付き合う上で大切なことだ。

 

「こいしがよくお世話になっているようで、ありがとうございます。古明地さとりと言います」

「ええ、フランも楽しそうだし構わないわ。フランみたいに物を壊したりしない分断然いい子よ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

和やかな雰囲気の会話。

だが、二人の瞳が双方のことを見定めていることを語っていた。レミリアは、さとりの顔を見て、第三の目を見て、一瞬怪訝そうな顔をしてから毅然とした表情を浮かべる。さとりは対して、ただまっすぐレミリアの目を見ている。

険悪というわけではなく、あくまで初対面だからこそのやり取りをしているだけではあるものの、会話内容との雰囲気の乖離に何も言えなくなる。

 

「レミリアさん、そんなに私のことを怖がらなくても大丈夫ですよ。無暗に心の中を明かしたりしませんから」

「こ、怖がってなんか!」

「そうですね、では、そんなに私のことを警戒しなくてもいいですよ」

 

レミリアは図星を突かれたような顔をして、少し後退った。

さとりの心を読む能力は誰にでも発動し、大抵の場合防ぐことはできない。ミキや紫のような規格外の存在であれば片手間で無効にできるが、レミリアのような存在であっても完全にどうにかするのは難しかったりする。

俺の無効化の力を使うことで一時的になくすことはできるけど、さとり曰くそれはそれで落ち着かないらしいので微妙な対処法だ。俺に対する作用だけ無効化、なんて複雑な指定はちょいと難しいしなぁ。

後退ったことでプライドが刺激されたのか、レミリアはむしろきりっとした表情を浮かべ、微笑とも言うべき表情でさとりに言った。

 

「これからも、よろしくお願いするわ」

「ええ、同じく」

 

ふふふ……と声が共鳴する。ぶっちゃけ、なんか怖い。

険悪でもないのに妙にピリピリした雰囲気を感じ取ってか、絵本を読んでいたはずの二人がこちらへとやってきた。

 

「お姉ちゃん、どうしてそんな顔してるの」

「お姉様、何か変!」

 

こいしはともかく、フランは姉に辛辣だ。だが、レミリアはそれで怒ることもなく、くるりと踵を返して言った。

 

「応接間に来なさい。少し話をしましょう。咲夜、お菓子とお茶の用意を」

「しかし、現在あそこは客人の二人が使っておりますが……」

「ああそっか。なら大広間にしましょう。椅子と机の用意を」

「かしこまりました」

 

客人……ああ、早苗と諏訪子か。美鈴が何か言っていたな。何の用事できているかは知らないけれど、咲夜に用事があるとかなんとか。

だが、その咲夜は俺たちのところにいるし、これから大広間の準備をするみたいだ。既に早苗たちの方の要件は終わっていると言うことなのだろうか。まさかずっと放置しているというわけでもないだろうし。

 

「どうやら今は待ち時間のようですよ」

 

気付いたら、さとりが俺の方を向いていた。待ち時間、というのは咲夜かレミリアの心を読んだうえでの情報かな。

 

「はい。既にやることはやって、待機中とのことです。折角だし会いに行きますか?」

 

咲夜の時間停止による準備は確かに早いのだけど、お菓子やお茶の準備など、停止中にはできないことも含まれている以上一瞬で準備が終わるということはないだろう。

レミリアはもう行ってしまったし、ついでに会っておこうかな。ひとまずフランとこいしに声をかけておく必要があるな。

 

「二人とも、ちょっと早苗に挨拶してくる」

「じゃあ私も行くー」

「お兄様が行くなら行くー」

 

パタパタと俺の方へと寄ってきた二人。ニコニコしているのでとても和む。

 

「絵本はもういいのか?」

「読んだことあるやつだしいいの。お兄様、早苗たちはこっちだよ」

 

フランが早苗の居場所を知っているようなので、フランの後ろをついていく。紅魔館内であれば、どこにいても咲夜が見つけて連絡してくれるだろうからいいだろう。

咲夜に探させる手間が増えてしまうが、それくらいはなんともないのだと知っているし、信じているので大丈夫。

 

「早苗たちが何してるのか知ってるのか?」

「お酒作ってるんだってー。日本酒はあまり好きじゃないから分かんない」

 

紅魔館で、お酒?咲夜の手を借りて?確かめてみないといまいちわからないな。

フランは日本酒を含む、果物が使われていないお酒が苦手なようだ。特に、鬼たちが飲んでいるような酔うためだけの酒なんかは特に嫌いなのだとか。俺は日本酒も普通に飲めるが、気持ちは分かる。

 

「こいしちゃんはお酒好き?」

「ジュースの方が好き!」

「だよねー」

 

二人は酒の趣味でも意気投合していてとても仲よさそうだ。

後ろから、さとりがこそっと補足をしてくれた。

 

「地底では流通しているほとんどが日本酒なんです」

「あー、鬼が主要な住人だから」

「はい。ただ、私もこいしも、ペットたちもどちらかと言えばジュース派なので、中々手に入らないんですよ。私は、日本酒も嫌いではないんですけど」

 

日本酒とワインは作り方が全然違う。勿論、ワインとジュースも作り方は全然違う。

幻想郷のような環境であれば、米と米麴を用いた日本酒が一番作りやすいというのは理解できる。そもそも幻想郷じゃ育つ果物も偏っているため仕方のないことだろう。レミリアたちが飲んでいるワインのブドウってどこで育ててるのか疑問に思うくらいだ。

早苗と諏訪子は二人とも日本酒が好きだったはずなので、作っているとするなら日本酒だと思うのだけど……

 

「お兄様、ここだよ」

 

フランが立ち止まる。見た目はいつもの応接間。

だが、言われなくともわかるほどに、この部屋から酒の匂いが漂っている。こいしなんか、ふにゃーって言いながら地面を転がっているくらいだ。なんかお燐みたいだな、と思ったらお燐もふにゃーって言いながら地面を転がっていた。

鼻がいい種族はつらかろう。

 

「早苗ー、いるかー?」

 

一応扉をノック。声をかけてみる。

すぐに、中からドタドタと聞こえ、応接間の扉が開いた。

 

「定晴さん!どうしてここに」

「紅魔館に来たのはたまたまだ。むしろ、早苗たちは何をしてるんだ?」

 

中では、ソファに寝転んでいる諏訪子が、ぼーっと机の上に置かれた大きめの瓶を眺めていた。諏訪子のやつ、なんだか酔っていないか?

見れば、早苗も少し顔が赤いし、ちょっと目がトロンとしている。どうやら部屋に立ち込めた酒の香りと酒精により酔ってしまったみたいだ。

 

「うぅ、中には入らない……」

「定晴さん、私もちょっと」

 

古明地姉妹がダウン。俺は浄化の力で酔いを弾くことはできるが、この匂いはだいぶ強烈だ。

 

「早苗、ひとまず換気しろ」

「え~?」

 

ふにゃふにゃの返事で、酔っているのは火を見るよりも明らかであった。どうやら発酵させているみたいだが、流石にこれは環境が悪い。

俺は中に入り、窓を開け放った。温度管理が必要なのはわかるが、換気も大切だった気がするんだが?

 

「さだはるさ~ん」

「ちょ、早苗!」

「んんんー」

 

窓を全部開けてカーテンを動かしていると、早苗が背中から抱き着いてきた。酔っているからか行動が大胆だ。

引きはがそうにも、早苗ががっしり俺の体を掴んでいるため中々剥がれない。カーテンを動かしている途中だったから、姿勢が悪いのだ。身体強化だと怪我をさせてしまう可能性があるから下手に動けない。

 

「あ、定晴じゃん、はっほ~」

「諏訪子、早苗を引き取ってくれ!」

「えぇ~、いいじゃん、好きなようにさせたりなよ~」

 

今更になって諏訪子が起き上がるが、ソファから動く様子はない。諏訪子も酔っているが、素面でも似たようなことを言っていたのであまり信用はできない。

仕方ないから、引きはがすのを諦めて、無理やり早苗を抱き上げた。引きはがそうとしている間は力一杯抱きしめていたくせに、俺が抱き上げようとしたらすんなり腕を離したので、現金なものだ。

そのまま廊下へと連れ出して、窓を開けて外の空気を吸わせてあげる。早苗の口からうば~と変な声が漏れる。

 

「酒作りってこんな短時間でこうなるもんかね」

「それは私の能力が原因です、定晴様」

 

いつの間にか咲夜が横にいて、早苗のことを抱きかかえていた。俺が持っていたはずの早苗を持ってかれてしまったみたいだ。

 

「私が時間を操って一瞬で米の状態から発酵させ、酒の状態まで移行したんです」

「だからこんなに部屋中に酒の匂いが」

「ちゃんと換気しなさいと言ったんですけどね。まったく」

 

早苗の方を見てぷんすか腹を立てる咲夜。早苗はもう眠っており寝息が聞こえている。

 

「長ければ半年くらいかかるんだろ?それを短縮したのか」

「はい。それで私はいつもお酒を造っていますから。たまにこうして頼まれることもあるんですが、今日はこの人たちが失敗したみたいですね」

 

あーなるほど。レミリアたちのワインの出所も判明。

そうか、咲夜の能力は特定の物体に対しても働かせることができるのか。過去に戻ることはできないと聞いていたけれど、時間を加速させるのは手軽と言うことなのだろう。

 

「二人は寝かせておきます。さとり様は……」

 

と、さとりの方を見た。なぜか、廊下の床で眠っていた。お燐とお空と一緒に。

 

「フラン、何があった?」

「なんか急に眠っちゃった。もしかしたら、酔った早苗の心を見て酔っちゃったのかも。匂いもすごいし」

 

早苗が扉を開けたとき、さとりも横にいて早苗の方を向いていた。あの時の早苗は既に酔っていたはずで、頭の中はハッピーな感じになっていたと思われる。

さとりがそれで酔うことができるのかは分からないが、ひとまず酒にやられたっぽいことは確実だ。お燐もお空もさとりも顔が赤い。

それに比べて、こいしは顔色も変わらずけろっとしている。フランですら顔を少し赤くして酔っているようなのでに、こいしは酒に強いのか?

 

「どうしたの?」

「こいしは酒に強いのか?」

「んー、そんなことはないけど、定晴がすぐ近くにいるのに酔っちゃうのは勿体ないじゃん」

「確かに!」

 

平然とそう言うこいしに、フランがテンション高く同意する。うーむ、くすぐったいな。

 

「では、早苗と諏訪子様は寝室に運んでおきましょう。さとり様は大広間へ」

「寝たままでもいいのか?」

「微量のようですので、すぐに目が覚めるかと。私はこの部屋の後始末をしておきますね」

 

さとりたちは俺が運ぶっぽいな。お燐とお空が動物形態なので重くないのが幸いだ。お空とか、人間形態では翼が大きくて一人じゃ到底運べそうにない。

 

「フラン、大広間まで案内してくれ」

「はいはーい」

 

この状態でレミリアに会うのはなんだか申し訳なくなってくるな。

 

………

 

「何があったのよ」

「そりゃそうだ」

 

大広間で待っていたレミリアに、呆れ顔とため息を貰った。

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