東方十能力   作:nite

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四百八十一話 出発

「まったく、気を付けなさい」

「返す言葉もないです……」

 

ダウンから回復したさとりとレミリアが二人で話している。先ほどはそれぞれ警戒しているようだったけど、酔ってダウンをしていたからか、むしろ先ほどよりも空気は軽い。

やはり姉同士として色々共通していることもあるだろうから、二人には仲良くしてほしいものである。

 

「レミリア、ああいうことはよくあるのか?」

「私は直接現場を見てないからあれだけど、酒の匂いが強い部屋が出現するのはそう珍しいことではないわね。迷惑だから注意してほしいんだけど、ま、酒好きのここの住人たちには難しいでしょうね」

 

幻想郷じゃ未成年禁酒のルールはなく、見るからに未成年の霊夢や魔理沙はビールを飲むし、時によっては小鈴や阿求も飲むという。

見た目と実年齢が乖離していることが多い幻想郷だからこそ、ギリギリ許されている行為かもしれないが、それにしたって霊夢、早苗、魔理沙なんかは確実にニ十歳を超えていないのでどうだろうと思う。

外の世界における禁酒の理由は、若いうちに酒を飲むと脳が縮小しやすいとか、成長阻害が起こるとか、外の世界では色々と言われているのだが。

 

「永琳先生が動かなければ、何も変わらないのでは?」

「いや、動いたとして、今更未成年禁酒法が幻想郷に馴染むとは思えん」

 

幻想郷の性質上、外の世界で未成年でも飲めるようになったら、逆にこっちで飲めなくなるということはありそうだが。

 

「影響はありますけど、そんなすぐに切り替わるほど柔軟でもありませんよ」

「そうか。じゃあ酒とはもう離せない関係なんだな」

 

なにげにビール、日本酒、ワインなど様々な酒の種類が存在している幻想郷だ。酒にうるさい鬼たちもいることだし、今後も幻想郷では酒の文化が連綿と繋がれていくだろうと思えば……

 

「ちょっと!心を読むのは分かるけど、私を置いていかないでちょうだい!」

 

レミリアが突如怒った。話に入れなかったのが不満であったらしい。

さとりと会話をするときは、脳内のこともさとりが読み取ってくれるために必要以上の言葉を出す必要はない。なんなら、一言も話さずともさとりと会話することができるのだ。だが、それは第三者には分からない内容であり、置いてけぼりにいなるのもやむなしである。

 

「お姉様」

「な、なによフラン」

「どんまい☆」

「なによー!」

 

フランがとてもいい笑顔でレミリアのことを煽った。これは、誰がどう見ても煽り以外の何物でもない。

レミリアはこういった精神的な攻撃にめっぽう弱く、今のフランにつかみかかろうとして、フランはキャーキャー言いながら逃げ回っている。仲いいことはよきことだが、今度は俺たちが置いてけぼりである。

 

「落ち着きなさい、あなたたち」

 

それを、ルーミアが止めた。闇を伸ばし、レミリアとフランの二人をがっしり拘束し持ち上げる。

二人とも遊びであったとはいえ、吸血鬼を二人同時に拘束してしまうなんて、ルーミアの闇は素晴らしい腕力を持っている。腕力、でいいのかは分からないけど。

 

「おー、フランちゃんを捕まえちゃった」

「最近こういうこと多くて、なんだかコントロールが上手になってきた気がするわ」

 

二人を拘束した闇は、ゆっくりと静かに二人を床に下ろした。式神になる前の、闇の力を暴走させていたころのルーミアに比べて、随分と丁寧かつ正確な使い方ができるようになったものだ。

 

「フランが悪いのよ」

「はーい、ごめんなさいお姉様っ」

 

フランは弾むようにそのまま部屋から出て行った。レミリアの口からため息が漏れるが、これもまた紅魔館のいつもの風景なのだろう。レミリアはすぐに切り替えて、椅子に座りなおした。

 

「楽しそうですね、ここは」

「まあ、楽しいわよ。それで、あなたたちはいつまでここにいるのかしら」

「あと数日ほど。それ以上は難しいですね」

 

勇儀の出した期間は一週間。映姫相手に誤魔化すというのなら長いものだが、既に地上で数日過ごしているのだ。そう考えれば、一週間も短く思えてくる。

 

「そう……じゃあクリスマスは過ごせないのね」

「ええ。その時期は流石に戻らないと」

 

クリスマスはもうちょっと先に話だ。流石にそこまでさとりを引き留めては、映姫が長々と説教しに来て、そして強制送還をさせるだろうから難しい。

本当はこいしと一緒にクリスマスを過ごしてほしいものだが、今のこいしは地上在住なので、地底に戻るのも意外と難しかったりする。そういう行き来の難しさを踏まえたうえで、こいしは覚悟をしたし、映姫は許可を出したのだ。

 

「この後はどこか行くのかしら」

「えっと……こいし?」

「んー、折角早苗さんたちに会ったから守矢の方に行こうかなって思ったけど」

 

現在早苗と諏訪子は酒によりダウン中。とはいえ、酒にはある程度慣れているだろうし、今はしっかり寝かされているだろうからそろそろ立ち上がるくらいには回復している頃だろう。

最悪酒に関しては俺の浄化と再生を使うことでほぼほぼ素面の状態まで回復させることができるので、無理をさせることはない。

 

「なら私からお土産をあげるわ。咲夜!」

「はい、こちらに」

「彼女たちに食器を渡してちょうだい。私からの寛大な贈り物よ」

 

レミリアがそう言った次の瞬間には、咲夜は箱を持っていた。中にはレミリアの言う食器が入っているのだろう。

 

「そんな、いいですよ」

「持っていきなさい。わざわざ地底から来ている子たちに何も持たせないんじゃ、紅魔館の面子に関わるわ」

 

レミリアは基本的に幼いというか、フランと同年齢の印象を受けるのだが、こういったしっかりした場所では気品ある吸血鬼たらんとする雰囲気を纏うのだ。

こう言われると、さとりとしては受け取るしかない。ここで拒否するのは、紅魔館のことを大切にしていないと言っているのと同義だから。フランとこいしが仲良くしている以上、今後も地霊殿と紅魔館の交流は続くだろう。

 

「咲夜、こいしの家の場所は分かるわね?」

「はい。確認しております」

「だったら届けておいてちょうだい。妖怪の山に行くんじゃ割れちゃうかもしれないから」

 

うーむ、気遣いが完璧だ。咲夜が時間停止のできるスーパーメイドだからこそできる仕事量ではあるが、紅魔館が非常に気高い場所であると分かる。

 

「また、可能であればこちらに来ますね」

「ええ。最近はこいしも落ち着いて、フランも落ち着いて、前ほど物を壊さなくなったもの。その……姉仲間として、いつでも歓迎するわ」

「ふふ、はい。ありがとうございます」

 

どうやらレミリアとさとりの顔合わせは、非常にうまくいったようである。やり取りが難しい立地ではあるが、折角の数少ない姉妹繋がりがあるので、うまくやってほしい。

手紙とか、難しいのだろうか。

 

「それじゃ早苗たちを呼びに行こー!」

 

………

 

咲夜に案内されて行った寝室。ルーミアに止められ、俺は部屋の外で待機をしている。女性が寝ている部屋にずかずかと入るのはどうかと言われ、俺も納得した。

 

「主様、あまり気にしませんよね」

「気にしないけど、気にされることは分かってるからな」

 

俺がよくても、という状況は多い。自分がされて嫌なことは人にするなという言葉があるが、自分がされてもいいことは他の人には嫌なこともあるから気を付けろという言葉に化けるのである。

 

「特に早苗は、俺のことを好いてくれてるから」

「……私なら、気にしないのですが」

 

もじもじしながらユズが呟く。部屋の中では、早苗たちが何やらわちゃわちゃしている。

ユズはだいぶ俺たちに心を開いてくれている。とはいえ、俺はルーミアやユズの私室に勝手に入ることはしないけど。

 

『さとりさんんん!』

『あははっ!』

 

扉の向こうから、早苗の叫び声とこいしの笑い声が聞こえてくる。

部屋に着いた時、早苗たちがどうなっているのか軽く確認するとルーミアに言われたので待っているわけだが、いつの間にか中では女子会のような雰囲気になっており、わちゃわちゃ聞こえるようになっていた。

早苗の声と、諏訪子の笑い声も聞こえているため、少なくとも二人とも元気になっているようだけど、向こうから声をかけられないと中に入りづらい。

 

「ユズ、ちょっと中の確認をしてもらえるか?」

「……少し見ますね」

 

ユズが少しだけ扉を開いて、そしてすぐに閉じた。

 

「ひとまず、主様は入らない方がいいと思います。なんか、早苗さんが着替え途中に騒いでました」

「ああ、そう……」

 

一体何をしているんだか。

……うーむ、女性に対する見方が微妙に変化したせいで妙に着替えしていることに引っかかる。別に考え事をしないと頭につっかかえてしまう。

 

「お兄様、何してるの?」

「お、フラン。ちょうどいいところに」

 

都合よくフランが通った。いや、もしかしたら早苗のことを気にしてこっちに来たのかもしれないけれど。

 

「中の早苗たちを待ってるんだ」

「この後守矢神社?」

「ああ。妖怪の山案内を交えてな」

 

そこで、フランが部屋の中へと突撃していった。そして、中のわちゃわちゃ声が増える。

そうして数分。ユズと雑談しながら待っていたら、中からフランが出てきた。

 

「私も行くから準備してくるー!」

 

フランがその出てくる勢いのまま飛んで行った。中に入って、こいしたちと話をしたのだろうか。咲夜やレミリアに許可を取らなくてもいいのだろうか。

あとでフランを勝手に連れ出したとしてレミリアに怒られたくはないのだけど、最近のフランは自由に出かけることも多いみたいだし大丈夫だろうか。ふむ……

 

「咲夜ー」

「はい、定晴様」

 

試しに呼んでみた。一瞬で来た。

レミリアが、近くに咲夜がいなくても呼んですぐに来ているのを見ていたので、試しに呼んでみたら本当に来た。紅魔館中に魔術か何かで音が拾えるようにしているのだろうか。

 

「フランが出かけるみたいだが」

「ええ、構いません。妹様は最近落ち着いておりますので」

 

最近のフランは紅魔館の人たちから信頼されているようだな。元々大切にされている様子ではあったけれど、自主性のようなものを育てているように見える。

ついでとばかりに咲夜に提案をする。

 

「咲夜も来るか?」

「はい!あ、いえ、まだ仕事がありますので」

 

即答し、すぐに身だしなみを整えて訂正した咲夜。

 

「来たいならレミリアに話を通せば……」

「いえいえ、家事は一日にしてならずですから。それでは」

 

早口で言い終えさっさと消えてしまった咲夜。

どうやら一緒に来たいみたいだけど、仕事中は難しいか。屋敷は結構広いし、咲夜がいなくなると家事が回らなくなるのかもしれない。妖精メイドもいるのだけど、どこまで行っても妖精は妖精だからなぁ。

 

「定晴さん!」

 

ばんっ!という大きな音と共に早苗が出てきた。服装はいつもの巫女服なのだが、シワなしで綺麗なのでもしかしたら洗ったのかもしれない。

酒の匂いが強かったので、元々の服には酒の匂いが強く残っていたのかもしれない。

 

「行きましょう!」

「ああ、フランが準備してるみたいだからそれを」

「お兄様!準備できた!」

 

元気な早苗に対抗するように、元気に現れたのはフラン。もこもこの服を着て、しっかりと日傘を持っている。

 

「あはは、はぁ、面白かった」

「もう、さとりったらもう少し手加減してもよかったんじゃないの?」

「うふふ、ちょっとおもしろすぎちゃったので」

 

部屋から出たきたのは楽しそうな様子のこいしとルーミアとさとり。随分と雑談が盛り上がったようだ。

 

「はやく、はやく行きましょう!」

「どうした早苗」

「ちょっと、もう恥ずかしくて早く帰りたいです!」

 

よく見ると、早苗の顔が赤い。どうやらさとりに揶揄われたようだ。

何の話をしていたかは分からないが、こうして揶揄ったりしたりできるようになったということは、それなりに仲良くなれたということだろう。

 

「あはは、定晴、早苗がかわいそうだから早くいこ」

 

こいしが笑いすぎて涙が出ている。

そうして、早苗に急かされながら守矢神社へと出発した。

 

 

 

「諏訪子様、諏訪子様」

「んん、あれ……咲夜?あれ、早苗は?」

「えっと……その、先に守矢神社へと」

「うそぉ!?」

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