東方十能力   作:nite

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四百八十二話 総勢十一名

今日は雪が降っていない。だが、その気温はとても低く、場所によっては雪が残っていることもある。

特に、妖怪の山のように標高が高いところだと積雪していることも多いのである。

 

「境内、掃除が大変じゃないか?」

「雪はもう諦めてるんですよ。霊夢さんも炬燵で寝ているみたいですし」

 

所々地面が見えているところもあるが、晴れている日にこれでは、雪の日は歩くのも大変なくらい積もることだろう。幻想郷の場合、雪系の妖怪などが力を使うせいで普通よりも以上に積もってしまうことも多く、除雪作業は意味のないことになる。

かくいう俺も、家の周囲の除雪は扉が開けられる範囲には魔術で溶かすけれど、それ以外には何もしない。無理に除雪しようとしてもできないのである。

 

「さて、さとりさん。神奈子様に挨拶をしましょう」

「ええ、勿論。とはいえ、面識がないわけではないのですが」

「そうですねぇ、新エネルギーに手伝ってもらってますから」

 

ただの地獄鴉であったお空、その彼女を核融合を操る妖怪へと変えたのは、他でもない神奈子である。聞いたところだと諏訪子も協力していたようだけど、基本的には神奈子は矢面に立って活動していたとか。

早苗はさとりとあまり面識がないように見えたのだけど、地底には行っていなかったのだろうか。

 

「早苗はあまり核融合の事業には関わってなかったのか?」

「八咫烏なんて高尚な力、私じゃ扱えませんよ。ガチャガチャしたロボットとかは興味ないこともないんですけど、幻想郷流の核融合は私には触れられない領域です」

 

早苗に連れられ神社の裏手へ。博麗神社と同じく、生活スペースは表からは見えないところに建てられている。

そこでは、炬燵に寝転んだままモシャモシャとミカンを食べている神奈子の姿が。これでは、神の威厳などあったものではない。

 

「失礼しますよ、八坂神奈子さん」

「んひぃ!?」

 

さとりが声をかけると、素っ頓狂な声を出しながら炬燵から飛び出る神奈子。中々にコミカルな動きではあるが、素早く手に持っていたミカンを丸ごと口に入れ、姿勢を整える姿は素晴らしい技術である。

ただ、その前の姿を見ていたので、やはり威厳というものは何も感じられないが。

 

「な、なぜここに覚妖怪がいるの!」

「紅魔館でたまたまお会いしたんです。あ、あと頼まれてたお酒ですよ」

 

早苗はそんな神奈子の姿に特に動じていない。

信仰する気持ちは本物だろうが、日頃から一緒に生活していれば、神奈子や諏訪子のこういった面を見ることも少なくはないのだろう。早苗にとっては、今更なことなのかもしれない。

もしかしたら、妖怪の山全体で見ても通常通りの光景の可能性もあるな。守矢神社は現在信者の大部分がこの山の妖怪たちであるが故に。

 

「ありがとう早苗……あれ、諏訪子はどうしたの?」

「はい?諏訪子様は……」

 

神奈子に言われ、早苗は俺たちの方を見た。俺たちも、それぞれ背後を見た。

いない。あの、小さくとも主張のあるカエルの帽子はなく、誰もその姿を確認することができない。

 

「早苗、もしかして諏訪子……」

「いやー、まさかそんな。きっとかくれんぼをしているんでしょう。諏訪子様ー、諏訪子様ー」

 

尚、基本的に神様という種族はかくれんぼが苦手である。なんせ、そこにいるというだけで神としての力と存在が主張されてしまうが故に。姿を隠す程度では、ある程度の力を持つもの、特に同族から隠れることはできない。

そして、同じ神である神奈子、そして現人神である早苗が認識することができていないということは即ち。

 

「早く迎えに行きなさい!」

「ごめんなさーい!」

 

神奈子の叱責に早苗が勢いよく飛び出していく。神社で祀る神様を置いてきたとあれば仕方のない反応だ。

 

「ねえ、定晴たちも一緒にいたんだよね?誰も気が付かなかったの?」

 

俺たちは、全員目をそらした。こいしも、フランも目をそらした。

確かに紅魔館を出立したタイミングは、フランのこともありドタバタしていた。とはいえ、諏訪子がいるということは全員の頭の中にあったはずだし、早苗と諏訪子が二人とも酔いつぶれているときは同じ部屋のベッドで寝ていたはずなのだ。

だというのに、ここに至るまでで誰も気が付かないとなると……誰も責任でもない。皆の責任である。

 

「はぁ……まあいいや。寒いだろうし、入っちゃって」

 

神奈子に導かれ、俺たちも中に入る。炬燵に入ることができる人数は限られているので、神奈子とは別にフランとこいし、そして寒がっているお燐とお空は炬燵の奥へと入っていった。こいしの家を出てからというもの、動物の二人はずっと動物形態のままだけど大丈夫なのだろうか。

 

「いいんです。元よりあの子たちはこの姿が本来のものなので」

「冬の地上に連れ出したのはちょっとした失敗だったかもな」

「ふふ、そうですね」

 

俺とさとり、それとルーミアは別途暖房器具の近くに座った。ユズもこっちに来ようとしたが、まだ一つ炬燵の席が余っていたのでルーミアが押し込んだ。

 

「えっと、それで、珍しい客ね。わざわざ地上までエネルギーを届けに来てくれたの」

「こいしが地上でどんな生活をしているのかを見に来たんです。それで、幻想郷を案内するからと」

「といっても私あまり守矢神社の方来たことないけどね」

「そうだろうね。私もあなたの姿を見ないもの」

 

こいしとさとりが交えつつ神奈子と雑談をし、そこにフランや俺が適当に交じることしばらく、顔を真っ赤にした早苗と、不機嫌そうな諏訪子が戻ってきた。

すぐさまユズが炬燵を出てこちらに駆け寄り、そこに諏訪子が入りこむ。小さい子や神様相手に優先されることはないのか、早苗は炬燵を諦めてこちらに移動してきた。

 

「酷いんだよ神奈子!楽しそうに紅魔館出て行っちゃってさ!私のことは放置ですかーって!」

「分かった分かったから。道中でも早苗に色々言ったんでしょ。そんなに引きずると、神様の威厳なくなるよ」

「ふんだ。私を怒らせるとどうなるのか、ミシャグジさまの祟りをかけてやろうか!」

「ごめんなさいごめんなさい。私が悪かったんです!」

「どうどう。早苗に当たるのはやめなさい」

 

紅魔館に置いて行かれたことが大層ご立腹のようで、炬燵に入ったあともぶつぶつと文句を言っている。

神様は寛大だなんて言う人はいるけれど、この姿を見ると寛大だなんて到底思えない。少なくとも、不機嫌になった神様を宥めるのは賽銭程度ではどうにもならないだろう。

 

「大丈夫ですよ、定晴さん。しばらくすれば収まります」

「何か知ってるのかさとり」

「ええ、まあ。このやり取りも半ばいつも通りのようなものみたいです。三十分後には元気になってますよ」

 

神様の心を読めるのかは分からないが、少なくとも早苗の中ではいつも通りのことらしい。

つまりいつも早苗は諏訪子を置いて行っているということになるのでは、と俺が考えたらさとりが笑いを噴き出した。ルーミアに変な目で見られつつ、さとりは小さく肩を震わせる。

 

「もうっ、変なこと考えないでください」

 

ぽすっと優しいパンチがさとりから飛んでくる。

と、炬燵の中にいたお燐が伸びをしながら外に出てきた。丸まって寝ていたようで、毛並みが少し乱れている。

 

「どうしたのお燐。ああ、そうね。どうしましょうか」

「お燐は何て?」

「お腹が空いたと。お昼の時間には少し早いですが」

 

朝から活動をしていて、今はお昼前。少し早いと言えばそうかもしれないが、お昼時と言ってもいい時間帯であろう。

 

「食べていきますか?」

「待て待て早苗。この人数で食べれるほど食材の用意はないよ」

「むむ、それもそうですね」

 

現在ここにいるのは、守矢の三人と、地霊殿からの三人。それに俺のところの三人にこいしとフラン。

合計十一人ともなれば、流石に簡単頂きますとも言えない。

 

「うちに戻る?咲夜ならすぐに準備してくれるよ!」

「迷惑じゃないか?」

「うーん。どうだろ」

 

咲夜なら確かに、人数が増えてもすぐに対応してくれるだろう。とはいえ、やはりこの人数が突然押し掛けるというのは少々こちらが落ち着かない。

さとりも同意見のようで、紅魔館に行くという意見に対しては消極的だ。この人数だと動きづらいことも多く難しい。

やはり、こういうときは飲食店などがちょうどいいと思うのだが……

 

「早苗、妖怪の山に飲食店とかあるのか?」

「そうですねぇ、基本的に種族専用というか、一見さんお断りな店というか、簡単に入れる店っていうのはあまりないですね」

 

やはり人里に戻るか紅魔館に行くしかないか、と思ったら、文句を言い終わり床に寝そべっていた諏訪子が口を開いた。

 

「あれはどう、あの聖域の近くの、山姥の」

「え、諏訪子様あそこ行ったことあるんですか?というか店なんですか、あれ」

「ちょっと厳しい感じだったけど、あれくらいなら人里にもあるし、普通の飲食店だったよ。料亭って感じかな」

 

どうやら聖域という場所の近くに飲食店?があるらしい。早苗を含め、諏訪子以外はあまり詳しく知らないようだ。

 

「そこってこの人数で行っても大丈夫なところなのか?」

「どうだろ。でも、普通にメニューとかあったし店であるなら人数は気にしなくてもいいんじゃない?私が行ったときは釣った魚を持ってったら喜んでくれたよ。ま、釣りの帰りだっただけなんだけど」

 

ふーむ、気になる。

料理人というわけではないけれど、やはり料理が趣味となっている身からするとそういう不思議なお店とか、知る人ぞ知る店というのは気になるものなのだ。どんな料理が出てくるのか、興味は尽きない。

 

「私が行っても、大丈夫なんでしょうか」

「覚妖怪だってバレなきゃいいんじゃない?それに、バレたって山姥はそこらへん許してくれるよ」

 

山姥という種族がいるようだけど、脳裏に浮かぶのは三枚のお札という昔ばなし。出刃包丁を持つ老人が果てまで追い続けてくるという恐怖のお話。

全く持って寛容なイメージがわかない。

 

「大丈夫です、幻想郷の山姥は定晴さんの知るような狂暴な種族じゃありませんから」

「外の世界の山姥はどんなイメージなのよ」

「ルーミアは読んだことないのか。俺の家に置いてないんだっけ」

 

そういえば昔ばなしとか童話系は読む人がいないし置いていないかもしれない。妖怪の本も多いし試しに集めて……と、脱線してしまったな。

 

「その店はどこにあるんだ?」

「聖域の……って、あまり聖域は有名じゃないか」

「私が案内します!場所は知ってるので!」

「じゃあ早苗、任せたー」

 

知らない種族に知らない場所、知らない店。ワクワクしてきたな。

 

「ふふ、定晴さんもそんな風にワクワクすることがあるんですね」

「そりゃ勿論。ああでも、確かに前よりかはテンションが上がりやすいかもしれないな」

 

感情のストッパーがなくなった。だからこそ、感情は俺だけでコントロールしなければならない。

だが、こんな風に子供っぽく楽しむというのも、それはそれで悪くはない。

 

「じゃあお二人とも、私は定晴さんたちと食べてきますのでー!」

 

早苗がそう宣言し、二人はいってらっしゃーいと手を振る。

ダメであればそのまま人里か紅魔館に行けばいい。物は試しにと、俺たちは諏訪子に言われた聖域の店とやらに向かうことになった。

それにしても、聖域と山姥ってだいぶ正反対の存在じゃないか?

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