東方十能力   作:nite

487 / 503
バレンタインですね。作中はまだ十二月なので、全然関係のない話ですが


四百八十三話 聖域に

守矢神社を出ると、空が少しずつ曇りだしていた。もしかしたら、今日の夜にはまた雪が降り始めるかもしれない。

 

「こいしちゃん、地底にも雪って降るの?」

「一応降るよ。地獄があるから、あまり積もらないけどね」

「地底は吸血鬼にとっては過ごしやすいだろうなぁ」

「日光はないもんねー」

 

フランとこいしの雑談を聞きつつ、俺たちは早苗の案内で聖域とやらに向かっていた。妖怪の山というそれこそ雑多な空間の中に、聖域と呼ばれる空間があるのは驚きというか、不思議である。

 

「なんで妖怪の山に聖域があるんだ?」

 

疑問に思ったならば、知っていそうな人に聞く。早苗なら妖怪の山生活も長いだろうし、場所も知っているのだから理由もまた知っているだろう。

そう思ったのだが、早苗の表情は微妙そうだ。

 

「なぜか、というのはちょっと。山姥がそういう能力を持っているらしいですけど、わざわざこんなところに作らなくてもとは思います」

「まったくだ」

 

聖域というと、俺も似たようなことができる。浄化の力を全力にして、一定範囲に行き渡らせたら、それだけでその空間は妖怪や幽霊などが立ち入ることのできない聖域となる。

かつて俺が不動の呼び出した妖怪に対して使った固有結界【三千世界】は、その究極系と言えるだろう。中にいる間は妖力が減り続け、また極端に弱体化する空間。それこそ、悪霊とかであればすぐに消滅してしまうであろう固有結界である。

流石にそこまでのものがあるとは思わないが、やはり聖域と言うだけあってそれだけ浄化された場所だろうし、猶更妖怪の山の中にあるのは不思議である。事故とかで妖怪が消滅していてもおかしくない。

 

「聖域に耐性がある妖怪……って普通は存在しないよな」

「そうですねぇ、人からある程度善性のあるものとして見られていれば多少はあるかもしれませんが」

「いいことをする妖怪とかってことか?」

「はい。守り神とかそういう、例えば座敷童とかが当たると思います」

 

座敷童は、家の守り神と多くの場合考えられている。妖怪というのは諸説があってしかるべきなので、百パーセント善なるものとして見られていることは非常に少ないが、基本的にはいい妖怪と区別されているのであれば聖域にも耐えうるか。

 

「私は善なる部分なんて何もないのに聖域に耐えれちゃうんだから皮肉なものよね」

「式神っていうのはそういうもんだ」

 

俺たちの話を聞いていたルーミアが呟く。俺の式神というのは浄化の力を受けるので仕方のないことなのである。

 

「ああそっか、ルーミアさんたちも……じゃあじゃあ、定晴さんが浄化の力を流せば皆も聖域に入れるようになるんじゃないですか?!」

「残念ながら、式神以外のルートだとただ浄化するだけになるからだめだ。前に弱い力で萃香を殴ったら消えかけたことがある」

 

鬼としての性分なのか、萃香はたまに喧嘩を仕掛けてくることがある。一度、試しに浄化の力を込めた拳を打ち込んだところ、その部分から崩壊しかけていた。その場にいたあうんと霊夢のおかげでどうにかなったが、霊夢から怒られた経験がある。

浄化の強弱は変えれるが、浄化という根源である限り妖怪は皆消滅してしまうのだろう。

俺がそんなことを考えていたら、背後を飛んでいたさとりの笑い声が聞こえた。

 

「ふふ、定晴さんも霊夢さんから怒られることがあるんですね」

「さとりも怒られたことがあるのか?」

「定晴さんも知っての通り、私たちは一度異変を起こしていますので。後始末のために霊夢さんにも映姫さんにもこっぴどく」

「あれは酷かったー。私なんてほとんど関わってないのにー」

 

こいしの文句に同調して、こいしに抱きかかえられているお燐が唸った。お空はいまだにさとりの胸元で眠ったままだ。

霊夢の怒りは、基本的に途中から脱線をし始める。そして、その脱線に乗じて話を逸らせば何とかなることが多い。魔理沙なんて、霊夢に怒られたとき用マニュアルが家にあるなんて嘯いていた。

 

「マニュアル、読んでみたいですね」

「魔理沙に頼めば見せてくれるかもな」

 

と、話していたさとりが止まる。俺たちよりも、さらに先を見据えたまま動かなくなる。

 

「どうした、さとり」

「……これは、何かが」

 

さとりが呟く。そして、俺も知覚する。

振り返る。何も見えない。だが、何かがこちらに来ているのだと直感的に理解する。

 

「回避!」

 

俺の声が届くが早いか、全員がその場から飛びのいた。その中心、俺たちが浮いていた場所を、一本の柱のようなものが飛んでいく。

それはそのまままっすぐ森の方へと飛んでいき、消えていった。何やら特殊な力が宿っていたようだが、はて一体なんだったのだろうか。

 

「攻撃か?」

「どうでしょう。近くに誰かいるようには思えませんが」

 

いち早く異変に気が付いたさとりは、周囲には誰もいないと言う。さとりがぐるりと周囲を見渡すが、それで見つからないのであれば俺たちでも見つけることはできないだろう。

誰かの流れ弾なのだろうか。その割には、俺たちの中心を飛んで行った。気が付くのが遅ければ、誰かが直撃を受けていた可能性が高い。

 

「狙っていたのなら、もう少し飛んできそうだが」

「飛んできたのは聖域の方でしたよね」

 

早苗曰く、聖域はもうすぐそこにあるという。店はここからだと少しそれた場所にあるので、聖域を少しだけ掠めるように通るつもりだったようだが……

 

「通らない方が、いいかもしれませんね」

 

早苗の言葉に、俺たちは頷く。もしこれが警告などであれば、それを無視して突き進んで攻撃を受けると大変だ。

俺一人なら特に問題なく進むのだが、今日はフランやこいし、さとりたちがいる。守りながら進むようなことをわざわざする必要はない。多少遠回りになっても、安全に進んだ方がいい。

 

「お店はこっちです」

 

早苗の先導を再開する。どうやら聖域の上空は大丈夫だと思ってルート選択をしたみたいだけど……聖域、思ったよりも面倒な場所なのかもしれない。

 

………

 

「ここが、お店です」

 

辿り着いたのは、小さな小屋のような建物。しかし、そこにはしっかりと食事処と書かれており、お店であることは一目で分かる。

ここは聖域から徒歩で数分の距離にある店で、妖怪もあまり近づかないような場所なのだという。早苗も、この店自体は入るのは初めてのようだ。

 

「なんだか緊張するな」

「ちょっと定晴さん。緊張を思い浮かばないでください、伝わってくるんですから」

「そんな無茶な」

 

立地、そして先ほどの攻撃。無性に緊張してしまうのも無理はない話だろう。

さて、誰が最初に声をかけるのか……

 

「失礼しまーす」

「しまーす!」

 

そんな時に、先陣を切ってくれるのは妹二人組。フランとこいしが、元気よく扉を開けて店の中に入っていった。

 

「む、お客さんだべか」

 

その中には、何やら怪しい頭巾をかぶった、怪しい人物が立っていた。

 

やはり、食事処ではなかったのかもしれない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。