東方十能力   作:nite

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訛りに詳しくありません!(素振り)


四百八十四話 聖域の食事処

「和風だ~」

「聖域という名称とは裏腹って感じだな」

 

こいしがぐるりと店内を見渡す。

中は完全なる和風な作りとなっており、外の世界では最近少なくなってきている御座敷方式のテーブルだ。流石にこの人数で座ることはできないので、二つに分かれて座ることになった。地霊殿組と、その他というわかりやすい分け方だ。

出迎えには面食らったものの、ここはやはり食事処であり、気まぐれでやっている店なのだという。ここの店主は一見すると若い女性が一人だけ。

その身に宿っているのは紛れもなく妖力なのだが、それにしては

 

「んだば注文をしてくんろ」

 

今日営業していたのは、予約が入っていたからであり、その時間までは好きに食事していいという。

お品書きと書かれた一枚の紙には、シンプルな定食の名前が書かれていた。鮎御膳、野菜天麩羅、八目鰻……ここにもあるのか八目鰻。ミスティアの計画は順調に幻想郷に広がっているようである。

 

「この聖って書かれてるものはなんだ?」

 

俺はそんなお品書きの中に、いくつか括弧書きで聖と書かれているものを指摘する。値段に違いはなく、鮎御膳(聖)と書かれている。

すると店主は料理の準備を進めながらこちらを見ずに教えてくれた。

 

「ここは月人さ来る場所だかんね。穢れあるもん食わすわけにゃいかん」

「地上で穢れのない食事を提供していると?」

「んだ」

 

それは、随分と凄いことだ。なるほど、聖域という名にも納得である。

穢れというのは、月人曰く地上に必ずあるものだという。つまり、地上で何か食事を作れば必ず穢れがあり、通常であれば月人が食すには適さない。その身に穢れを取り入れることを非常に嫌う人種だからだ。

だが、それでは月人は地上にいる間食事をすることができない。そのために、この場所は存在しているようだ。

 

「妖怪には毒だから他のを選んでくんろ」

 

どうやら大抵の場合は穢れなしバージョンの料理があるみたいだ。どちらかというと、穢れなしの料理の種類の方が少ないようだ。どう頑張っても穢れを取り除けない食材とかがあるのかもしれない。

 

「定晴さん」

「ん?」

 

俺の隣に座った早苗が小声で話しかけてきた。店主に聞かせたくないことだろうか。

 

「思ったよりも普通の店ですね」

「ああ。月人専用というわけじゃないみたいだし、店主の気まぐれ店って感じだ」

「おまかせでとか言ったら怒られますかね」

「いいんじゃないか?そこまで気難しい店主でもなさそうだ」

 

頭巾をつけているせいで表情はあまり分からないが、声を聴いた感じ刺々しいイメージは受けない。おまかせで注文するのは、店主を信じている証でもあるし特に問題はないだろう。

先んじてこいしが注文をして、俺たちも次々に注文をする。一人でこの数の料理をするのは大変だろうけど、それは料亭を営むものの務めなので横やりはいれない。

待っている間に、聖域についてもう少し確認しておくか。

 

「フラン、聖域は近いけど、特に何も感じないか?」

「んー?大丈夫だよお兄様。えへへ」

 

ニコニコしながら言ってくれるフラン。こっちに座っている中だと浄化に対して耐性がないのがフランだけなので、何か変な症状は出ていないか心配だったけれど、見た限り問題はなさそうだ。

とはいえ、フランは少しばかり隠し事が得意な節があるので、心配かけまいと振舞っている可能性があるが……さとりたちの様子も問題なさそうだから心配無用か。フランに対しては、少しばかり過保護になってきているような気がする。

夢の中で一緒にいてくれた影響だろうか。

 

「定晴さん、思うことがあれば口にした方がいいですよ」

 

向かいのテーブルにいるさとりから声がかけられる。さとりはこちらを向いて座っているので、ちょうど俺たちの声を聴くことができる状態だ。

うるさいだろうから反対を向いたらいいと提案したのだが、むしろこっちの方が面白いと言って座っていた。知り合いの心を読むのは楽しいということだろうか。と思ったら、ニヤニヤしだしたので間違っていなさそうだ。

 

「思うことって、特に何もないけど」

「そうですか、いえ本人が深く考えていないのであればいいのですが」

 

さとりの言うことはよくわからない。俺の心を読んでいるけれど、俺が自覚できていないほど深い部分を読めるということは分かっている。なんなら、ある程度の深層心理すらも読めるようなので、警戒をしておかないといけない。

 

「定晴、そんな露骨に警戒しなくてもいいわよ」

「お兄様は心を読まれるのは苦手?」

「心を読まれるのはいいんだが、踏み込まれるとちょっとな」

 

今何を考えているのか、なんてのは別にどうでもいい。邪なことを考えているわけでもないし、基本的に嘘をつくこともないので。

しかし、俺の隠している部分まで踏み込まれた場合は少しばかり折檻しないといけないかもしれない。輝剣でべしり、もしくは浄化でべしりくらいはするかもしれないな。

 

「お兄様のこともっと知りたいんだけど、だめ?」

「言葉にしてやり取りをする分にはいいんだ。勝手に読むのが嫌いっていうだけで」

「ふふ、私は天敵ですか?」

「さとりはまだ境界が分かってるからいいさ」

 

これで性格も悪く、俺のことをペラペラと喋っていた場合は……ふむ、浄化結界の中に閉じ込めてそのまま消し去ってしまうか。覚妖怪っていうのは、その性質を心を読むことに偏らせているので戦闘能力はあまり高くない。

 

「なんだべ、覚妖怪かなんかか?」

「あ、えっと」

「別に心を読まれてもいいから気にしなさんな。ああ、でも月人にゃ使わんがいい」

「すみません、能力なので切るとかできなくて……」

「なら早いとこ食べて出てった方がいいべ。ほれ、完成じゃ」

 

雑談を聞きながら、なんという手際のよさだろうか。なにより、俺たちの料理がほぼほぼ同じタイミングで提供されたというのが非常に素晴らしい。

やはり、月人の対応をするほどのことだから、相当な技術を持っている凄腕の料理人のようである。

 

「美味しい……!」

「いやこれは中々凄いな」

 

味もさることながら、その技術が凄まじい。柔らかく煮つけにされた川魚はその臭みもなく口の中でとろけるし、漬物はその味がしっかりと最後まで残るのに後に引かない調整がされている。

なんというか、和食を作ることに対して天賦の才を持っているような、もしくはこの和食のためだけにすべてを費やしてきたような、そんな膳である。

 

「幻想郷にこんな店があったのね」

「うわぁ、これ外の世界だったら世界規模で話題になりますよ」

 

他の皆も大絶賛。店主も少し得意そうだ。

そうして料理に舌鼓を打ちながら食事をすることしばし、外が少しばかり騒がしくなってきたことに気が付く。よくよく注意してみると、周囲には何人かの気配がする。

 

「ありゃ、もう来ちまったべか」

「月のやつらか?」

「んだ。予定よりも随分早いべ」

 

彼女が俺たちに向かって早く出て行けというような視線を送る。

俺たちも出たいところではあるのだけど、フランやこいしはまだ食べているのだ。この状況なので食べ残しても文句は言われないと思うけれど、料理好きの俺も含めて食べ残していくというのは少々気になるところだ。

なんてことを考えている間に、扉が開く。中に俺たちがいるとは気づいていないようだ。

 

「ん」

「すまない、すぐに出て行く」

 

出入口で立ち止まったのは、白い翼が片方だけ生えている女性。こちらを見て驚いた表情をしたが、特に何も言わずカウンターの席に移動した。

俺が見たことのない月の民だが、月人は地上に対して大抵の場合悪い印象を持っている。俺たちが変な動きを見せた瞬間攻撃される可能性もあるし、とはいえ何も言われないのはどうすればいいのか分からなくて困る。

 

「……大丈夫みたいです。ひとまず、全部食べてしまってもいいようです」

「ナイスさとり」

 

しかし、こちらには一言も喋らずとも意思疎通ができる人物がいるのだ。さとりの言葉にこいしはふぅっと息を吐き食事を再開した。とはいえ、緊張しているからか先ほどのように楽しむことはできていないようだけど。

フランたちが食べ終わるまでの間、妙に静かな時間が続いたのであった。

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