東方十能力   作:nite

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四百八十五話 言葉の暴力

店の中に入ってきた月人は、随分と物静かだ。注文するときもお品書きを指さすだけで、今のところ店に入ってから一度も声を発していない。何か喋ること自体がやんごとなき立場の人物なのだろうか。

 

「……どうやら、喋ることがやんごとないのは間違ってなさそうですよ」

「そうなのか?」

「はい。口に出してしまうだけで運命が逆転してしまうようで……」

 

さとり曰く、それは彼女の能力に由来するものらしい。ただ事柄に対して言及してしまうだけで、その事象を逆転させてしまう能力らしい。非常に強力かつ、さとりと同じくオンオフができない能力のせいで、下手に喋ることができないのだと言う。

と、いうことをさとりがいることで知ることができるが、そうでなければ彼女のことを知るのは難しそうだ。筆談とかはできるのかもしれないが、それにしたって彼女の人柄を把握するのは難しい。

 

「月の民にも心を読める人がいるのだろうか」

 

彼女の日頃の生活難易度を考え、同情しようとしてやめた。ああいう類の人は、同情されるのを嫌うからな。俺がするべきは理解であり、憐憫ではない。

 

「定晴さん、いい判断です」

「どうも」

 

そうして彼女が料理を待っている間に、残っていた人たちの食事も終わった。

元々月の民が来る前に退店することを約束していたので、トラブルがあったにせよさっさと出て行った方がいいだろう。後半はあまり落ち着いて食事することはできなかったが、味は非常によかったし店内の雰囲気もよい。次は一人で来るとするかな。

 

「ありがとうございましたー」

 

ぱたぱたと出ていく早苗たち。少しだけ速足なのは、翼をもつ彼女以外にも月の民が周囲にいることを感じているからか。

狙われている気配はないものの、流石にこの状態で落ち着いていることもできないだろう。

 

「ひとまず離れましょ!」

 

周囲で待機している月の民たちはこちらに視線を寄越すが、攻撃をすることもないし敵意も感じない。本当に、ただ俺たちのことを見ているだけだ。

少なくとも、これだけの護衛がいるということは食事処の中で食事を待っている彼女が月人の中でも大層な身分の者であることが確定した。偉い人が幻想郷にまで降りてきて食事をする理由もよく分からないが……というかそもそもあまり月人が幻想郷に来る理由もわかってないな。機会があったら依姫たちに聞いてみるか。

 

「ふぅ、びっくりしました。よくさとりさんと定晴さんはあの中で会話できますね」

「別に月のやつらは怖くないし」

「あの方の心を見てましたので」

 

月の民の攻撃手段は把握しているし、無効化がきちんと使えることも既に確認済み。恐れる理由は何もない。

 

「ふふ、あの方たちからすると定晴さんの方が脅威かもしれませんね」

「酷い言いようだな」

 

何かトラウマでもあるのか、早苗は月の民に対して怯えている様子。ルーミアたちは平然としているが、店の中では彼女が入ってきたからずっと無口だったので警戒していたのかもしれない。

幻想郷に月の民が下りてくるようになってからしばらく経っているはずだが、その溝はいまだに深そうである。これでも昔は紫が月に攻め込むようなこともあったというのだから、進歩しているのは間違いないはずなのだが。

そうして守矢神社への帰り道、早苗が突如ひょんなことを言いだした。

 

「むむむ、私思ったんですけど、さとりさんって結構定晴さんと打ち解けてますね」

 

確かに比較的内向的なさとりにしては、俺とよく喋るとは思うけれど、しかし今の幻想郷であればさとりと普通に話すことができる奴なんてそこら中にいると思う。

と思いきや、論点はそこではないらしい。

 

「なんだか、定晴さんが私と話してる時よりも素な気がします」

「そうか?別に態度を変えてるつもりはないんだが……まあ、さとりに対して秘密主義なんてできるわけないし、多少は気軽かもしれないけどな」

「むむむー」

 

俺の返答が気に入らなかったのか、頬を膨らませて見るからに不機嫌ですというアピールをする早苗。

それに同調するように、こいしが言葉を付け加えた。

 

「定晴ってば、お姉ちゃんに対しては隠し事しないからちょっと素直なんだよ」

「いつもはあまり素直じゃないこと、私たちは知ってるんですよ」

「確かにそうね。式神の私にも隠し事はいっぱいだものね?」

 

すると、やいのやいのと騒ぎ出す女子たち。姦しいとはこのことか。

なんだか俺を責めるような雰囲気を感じると同時に、その点に関して言えば弁明の余地もなく俺が悪い。とはいえ、ここまで言われるとどうにもできず、思わずさとりに目を送る。

だが、その視線の動きすらも彼女たちには見えているらしい。

 

「あー!今お姉ちゃんに助けを求めた!」

「やっぱり私たちよりもさとりさんですか!あーあ、幼馴染の絆はどこに行ってしまったんでしょう」

 

こいしが目敏く叫び、早苗が同調する。というか早苗、お前との絆はほとんど幻想郷に来てからのものだろ。

 

「もうっ、お兄様をそんな風に責めちゃだめ!」

 

そこで声をあげるのは我らがフランドール・スカーレット。俺を庇うように手を広げる。少女に守られるとはこれ如何に……とも思うが、彼女は俺よりも強いので正しい構図である。

フランは皆を宥めるように言葉を並べていく、のだが。

 

「お兄様が私たちに隠し事をするのは私たちのことを思ってのことなんだよ!確かにすぐに自分で抱え込んじゃうし、あまり私たちのことを信用してくれないし、誰にも相談せずに物事を判断しちゃうけど!」

 

フランの言葉が俺の体に次々と突き刺さっていく。正直、今までの言葉のどれよりもフランの言葉が俺の体に突き刺さっている。

だが、俺を庇うように背を向けているので俺の表情など分かるはずもないフランは、さらに言葉を重ねていく。俺の表情が見えている早苗たちが、止めようと声をかけるが暴走妹は止まらない。

 

「お兄様は自分を顧みないからすぐに犠牲になっちゃうし、ずっと自分は警戒してるのに私たちを安心させようとしてくれるし、それでも最後までずっと気を張ってるからいっつも疲れてるし!」

「あの、フランさん、あの」

「なーにお兄様……お兄様!?顔色が悪いよ!」

「ああうん、言葉に打ちのめされていただけさ……」

 

もう、なんというか、心当たりがありすぎる言葉の数々である。先ほどさとりに言われた「過保護」という言葉が今更になって俺へと飛んでくる。

 

「えっと、帰りましょうか。うん」

「……そだね」

 

なんというか、周囲の視線が生暖かいものになる。

フランに慰められながら、俺は守矢神社へと戻るのであった。

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