東方十能力   作:nite

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四百八十六話 姉の暴走

守矢神社で早苗と別れた俺たちは、次なるこいしの目的地に向かうため太陽の花畑へと向かっていた。

フランは引き続き同行するようで、早苗も同行したがっていたがこの後予定があるとかで諦めて守矢神社に留まった。お土産をちょうだいとせがまれたけれど、お土産が手に入るような場所でもないのでどうしようもない。

 

「幽香いるかなー」

「こいしは幽香と仲がいいのか?」

「うん!押し花とかくれるんだー」

 

俺が幻想郷に来たばかりの頃、幽香はだいぶ恐れられている存在であったように思う。近づこうものなら、それだけで周囲の妖怪たちから警告され、幽香の嘘だか本当だか分からないような噂を聞かされる。

実際、最初花畑に来たときは幽香に攻撃をされかけたので嘘ではなかったのかもしれないけれど……

 

「幽香さんは恐ろしい妖怪ですか?」

「まさか。あれはだいぶ愉快の類だよ」

「幽香を愉快って評することができるのも凄いわね」

 

花のことになると短気というか、短絡的な部分も出てくるが、それも含めて妖怪としての在り方はだいぶ愉快だと思う。なんせ、花を求めて日本中をうろちょろしていたぐらいだ。これを愉快と言わずしてなんと言う。

そうして太陽の花畑に辿り着くと……そこには、紫色の粉が舞い踊っていた。そこら中に充満するように飛び、地面は紫色で染まっている。今の幻想郷はこんな紫の花粉でも飛ぶようになったのか?

 

「……あなたたち、離れなさい。これ毒よ」

 

ルーミアが前に出て、全員を牽制する。俺も前に出て触ってみると、確かに俺の浄化が反応をする。

浄化でどうにかなるのであれば俺たちに問題はないけれど、これをそう易々と払っていいものかは分からない。本当に毒性のある花粉であった場合、これから春になるにかけての植物の生育を阻害してしまう可能性もあるのだ。

 

「毒性だけ消えるとかないの?」

「毒性が何から出ているものかによるな。もし何か別の……花粉に毒をつけているような存在がいるなら、浄化したら花粉は残るけど、もし花粉自体が毒性を持った状態で放出されているとするなら、浄化したら花粉ごと消えちまうな」

 

浄化は悪いものをすべて消し去るという能力だ。その規模、範囲を俺が選択できるわけではない以上、花粉が残るかどうかは分からない。

この現象が今日だけというのであれば、今日は諦めて別日に来ればそれでいいだろうけど……と。

 

「待って!それは花粉じゃないの!」

 

空から大きな声と共に、幽香が降りてきた。焦った様子で、着地と同時に大きな風が起こる。そのせいで毒は大きく空へと巻き上げられ……と、宙に舞った毒を幽香がレーザーで薙ぎ払った。圧倒的熱量に焼かれ、毒はそのまま消えていく。

 

「花粉じゃないってことは、本当にただの毒ガスだと?」

「そうなの。定晴だけなら問題ないけど、みんなもいるなら大変ね。定晴、全部浄化しちゃっていいわよ」

「了解」

 

幽香から許可が出たので、花畑全体を覆っていた紫色の毒、そのすべてを浄化する。範囲が広いので、雑に広範囲に花畑に浄化の力がいきわたる様に……

 

「ふぎゃああっ!」

 

すると、花畑の中から何かが上に飛び出した。そのまま、あうあう言いながら地面を転がっている。

毒の浄化はあらかた終わったので、浄化の力を止めてその誰かに近付く。きっと毒をばらまいた犯人であろうが……

 

「もうっ、毒をばらまくのはやめさないって」

「ううぅ」

 

転がっていたのはメディスン・メランコリー。そういえば、この花畑には毒を操る能力を持つこの子が生活しているんだったな。

幽香の口ぶりからしても、毒を撒いたのはこの子で間違いないだろう。花畑に毒を撒くなんて、明らかに幽香の逆鱗に触れるような所業なのだが、恐れずにやるとは末恐ろしい子である。

とはいえ、思ったよりも幽香は怒っておらず、むしろ困ったような表情をしている。同意の上というわけではないようだが、何か事情がありそうだ。

 

「ふむ、ふむ。なるほど、寂しかったと」

 

後ろで毒から離れた位置からこちらを見守っていたさとりが前に出てきた。その目はじっとメディスンのことを見つめている。

そして、その一言で転げまわっていたメディスンの動きがピタリと止まる。それこそ、触れてほしくないところに触られたように。

 

「最近は何かするにしてもすぐ定晴さんのことばかりで、なんだか置いてかれてしまったように寂しく、それで構ってもらうために毒を……」

「うわあああああっ!」

「げふっ」

 

メディスンが飛び起き、さとりに頭突きを断行した。その拍子にさとりは後ろに吹き飛ぶ。

 

「お姉ちゃーん!」

 

一方さとりを吹き飛ばした張本人は、幽香に詰め寄るようにして捲し立てている。

メディスンの剣幕に幽香もたじたじ、吹き飛ばされたさとりのことを気にしている余裕もなさそうだ。さとりは未だに地面に倒れこんだままお燐に顔を舐められている。

 

「違うの別に寂しいとかじゃなくて!あいつが勝手に変なことを言ってるだけだから信じないでほしいっていうかそもそも何の根拠もない話を幽香が信じるわけないけどでも万が一もあるから」

「分かった。分かってるから、大丈夫よ」

「本当?!本当ね?!」

「本当よ。ほら、毒を片付けてらっしゃい」

「はーい」

 

幽香が宥め、メディスンはふわふわとまだ少しだけ残っている毒の回収に向かった。メディスンって重力が半分しか働いてないんじゃないかってくらいふわふわ動く時あるな。

 

「ごめんなさい貴方たち」

「誰も被害は受けてない……あー、毒での被害はなかったから安心してくれ」

 

後ろでこいしに介抱されているさとりは、正直藪蛇だったというか、自業自得な部分が強いように思うのでノーカン。

 

「げほっ、げほっ、酷いです。定晴さんはもう少し私のことを慮るのも大事だと思います」

「なら下手に突っつくのやめろよ」

「ちょっと面白かったのでつい」

 

本当にダメなラインというのは弁えているが、少し面白そうなレベルだと口に出していじってしまうさとり。今までも何度も同じような経験をしているだろうに、そこはまるで学習しない。

きっとこれも覚妖怪の修正の一つなんだろうと思う。こいしも、面白そうなことがあるとすぐに首を突っ込むし。

 

「えっと、それでそっちの子たちは?大丈夫だったかしら?」

「ええ。一応慣れてますから。それで、貴女が風見幽香さんですね。定晴さんから聞いていましたが、確かに面白い人ですね」

 

さとりの眼は今は幽香のことを見ている。一体どんな心の中を読んでいるのだろうか。

と、幽香がさとりの言葉に食いついた。

 

「定晴から聞いているですって!?なんて、なんて言ってたの?」

「え、えっと、信頼できる人で、恐れずともいい妖怪だと」

「他には!?」

「えっと……」

 

幽香がさとりに掴みかかる勢いで迫るものだから、流石のさとりも少し腰が引けている。

尚もぐいぐい行くものだから、さとりからヘルプの視線が送られる。幽香に対してやましいことを考えたことはないが、さとりから変なことを言われても困るので引きはがすとしよう。

 

「こら幽香」

「おっと、ごめんなさい。少し急いてしまったわ」

「定晴さんのことになるとちょっとおかしくなるっていうのも噂通りです」

「ちょっと待って定晴そんな風に私のことを」

「いえ、これはフランさんの評価で」

「ちょっと何言ってるの!」

 

やはり場をかき乱すさとり。フランすらも巻き込んでぐるぐるぐるぐる……そうして一騒ぎが終わったら、妙に皆が疲れていた。ルーミアやユズの心の中すらもほいほいと言い出すものだから、流石の二人も怒りだしてさとりへ攻撃。

現在、台風の目は近くの木に口封じをされたうえで縛り付けられている。その傍で、眠そうなお燐とお空がぼーっとさとりのことを眺めていた。

 

「ふぅ、こいしで慣れたと思っていたけど、本物の覚妖怪ってのはここまで場を引っ掻き回すのね」

「私とお姉ちゃんはもうあまり能力的に似てるところはないよ。お姉ちゃん、地上に来てちょっと高揚してるのかも」

 

ついにはこいしからも、問題児扱いをされるさとり。姉の面目なんて丸つぶれ、流石に今の言葉はさとりに刺さったのかさとりは項垂れている。

 

「まあいいわ。それで、何の用だったの?」

「えっと、幽香さんの紹介をしに来たんだけど……うーん、なんかお姉ちゃんがごめんね」

 

妹からこんな評価を受けて、姉のメンタルは今頃ボロボロだ。

いやまあ、全面的にさとりが悪いのだけど。俺の忠告も聞かずにもう一度藪蛇をつつくからである。

 

「幽香、毒片付けてきたよ!」

「あらそう。じゃあ家でお茶でも飲んでいきなさい。そうねぇ、定晴はまた今度一緒に飲みましょ」

「先約があるんじゃ仕方ない」

 

さとりが覚妖怪である以上、先ほどのさとりの言葉もまた真実なのであると分かっているのだろう。今日はメディスンのために時間を使ってあげるようだ。

まあ幽香の家は普通のサイズなので、この人数で詰め掛けるわけにもいかない。今日は本当にただの顔合わせである。

どうしてただの顔合わせでここまで疲れる必要があったのかは謎ではあるが。

 

「今日はもう帰ろっか」

「賛成よ」

 

こいしの一言と、ルーミアの賛同。

さとりを案内するという今日の予定は、本人の暴走で中断するのであった。

 

 

「フランちゃん明日も一緒に来る?」

「うーん。お兄様の心を読むならいいんだけど、私の心を読まれるのは」

「おい」

「確かに。定晴の心を読むならまだしも、勝手にフランちゃんの心を読むのはね」

「こら」

 

別に俺は気にしないというだけで、そんな俺ならいいけどみたいな評価は心外である。

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