東方十能力   作:nite

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四百八十七話 竹林入口

今日もさとりを幻想郷の案内に連れ出す……のだが、昨日とは違い、今日は地霊殿の一行以外だと俺しかいない。

ルーミアとユズが辞退し、フランも同行を望まず。なら俺もいいんじゃないかと思ったけど、こいしがどうしてもというので仕方なく俺だけは同行している。

 

「仕方なく、なんて言い方は可哀そうです」

「とはいえなぁ。本当に俺も来るつもりはなかったし」

「ごめんね定晴。でも、定晴とは一緒にいたかったから……」

 

どうやら、さとりと一緒にいさせること自体には申し訳なさがあるようだ。

ふむ、昨日の一件のせいで姉へのリスペクトみたいなのがなくなったように思える。もしかして、精神的に大人なのってもしかしてさとりよりも……

 

「それは違います。まだまだこいしは大人ぶってるだけで」

「えへへ、大丈夫だよお姉ちゃん。私がまだ子供なのは私が分かってるから」

 

……やはりこいしの方が大人なのでは?

とまあそんなことは置いといて、今日の目的地は迷いの竹林。どうやら永琳に対して心を読む能力が使えるのか確かめたいらしい。

とはいえ、昨日食事処で遭遇した羽の生えた月人に対して使えていたので、永琳にも変わらず使えるとは思うが……だが、永琳のことだから何かしら策を講じていてもおかしくはない。もしそれが汎用的な策であれば、さとりの常時発動し続ける能力に対しても何か用意ができるかもしれない。

 

「私は困ってないですよ?」

「できることが多い方が人生は面白いぞ。ほら、さとりもじゃんけんしたいだろ」

 

さとりはその能力の影響で、対人系のゲームのほとんどができない。カードゲームにせよ、手遊びにせよ、心が読めてしまうと楽しく遊べないゲームばかりだ。

雑談していても心が聞こえてしまうし、通りかかる人の心が聞こえてきたり、生きているだけで雑音ばかりの能力である。これを手軽に封じる方法があれば、さとりも暇つぶしの幅が広がるように思う。

それで外に出て他人と関わるようになるかどうかは、さとりの想い次第だ。

 

「おにーさん、さとり様の能力は妖怪の在り方なんだよ。簡単に消せたら苦労しないよ~」

「そりゃ分かってるさ。とはいえ、過去に無効化を使って一時的に心を読めなくすることができるのも確認済みだ。薬か何かで抑制するのもできそうだろ?」

 

今日はもこもこの服を着ているおかげか、猫の姿ではなく人の姿で歩いているお燐が言う。

覚妖怪から心を読むという要素を取り除くと、妖怪としての存在が保てなくなる……というのは、こいしの例があるのでそこまで心配はしていない。少なくとも、一時的に心を読めなくなってもそこまでの影響はないように思う。

外の世界では、周囲から聞こえてくる音を制限をかけたり、脳内をクリアにして静かにするような薬も存在している。永琳であれば、能力に制限をかけるようなものを作ることができても不思議ではない。

 

「それで、こいしは案内人を用意しておいたのか?」

 

竹林までやってきて、こいしに問う。

何度か竹林にやってきて、道順を覚えようと頑張ったものの、今のところ覚えられる気配がない。覚えたと思って試しに入ってみると、彷徨っているうちに鈴仙や妹紅に助けられるまで遭難するのがオチである。

こいしは意気揚々と

 

「ううん!行けると思う!」

「待てい」

 

竹林へと足を踏み出していこうとするこいしの肩を掴み止める。初心者含めて竹林に不用心に入るなど、自殺行為である。鈴仙の話だと、たまに竹林に迷い込んだ野良妖怪が餓死していることもあるというのだから、俺たちが骸になる可能性だってある。

 

「大丈夫だよ!なんとなく行ける気がする!」

「なんとなくで行けるのはてゐがいる時だけだ。妹紅の小屋に行こうな?」

 

てゐがいる場合は、その能力により幸運的に竹林を抜けることができる。だが、正直なところ今のメンバーは運がいいとは思えない。

 

「そうですね。貴方も含め、運がいい人はいないでしょう」

「なんと!さとり様、この幸せを運ぶ黒猫がいるじゃないですか!」

「残念ながら、黒猫は不幸の象徴だ」

 

ただ幻想郷を散歩するだけならば、こいしに任せて雑な珍道中をしても何も問題はないが、迷いの竹林は別だ。

無理に進もうとするこいしを静止し、なんとか説得して妹紅の小屋へと向かう。もしここに妹紅がいないなら……迷いの竹林観光は諦めるしかないだろう。

 

「妹紅さんという人は、この竹林の専門家なのですね」

「まあ竹林と言えば、っていう感じだな。実際、永遠亭に行く患者の案内もしているみたいだし、仕事みたいなもんじゃないか?」

「妹紅さんは人里でよく会うよ!慧音先生と仲がいいみたい」

 

俺が知る限り、妹紅の行動範囲は竹林周辺と人里周辺だ。即ち、妹紅が小屋にいなかったとしても探せば見つかる可能性はあるのだが……幻想郷で人探しはなんだかんだ難しいことが今までの生活が証明しているので、期待しない方がいいだろう。

妹紅の小屋に着くと、その窓から光が漏れていることに気が付いた。この小屋にいるのは五分五分だったが、今日は運よく滞在していたみたいだ。

小屋にこいしが突撃する。こういうとき、先陣切って突撃するにはこいしの役割である。フランやこいしなど、こういう時に突撃する役割というのは大体決まっているのである。

 

「やっほー!妹紅さん!」

 

こいしがガラガラと扉を横に引く。妹紅の小屋は一部屋の、真ん中に囲炉裏がある簡素な構造になっている。妹紅曰く、不老不死だから必要なものが少ないとのことだが……

しかし、中から出てきたのは予想外の声であった。

 

「あら、こいしじゃない。それに定晴さんと、覚妖怪?なんで地底から出てきてるのよ」

「霊夢!」

 

なんと、中にいたのは霊夢であった。寒そうに囲炉裏に近付き、もこもこマフラーを家の中だというのに巻きっぱなしである。

 

「なんでこんなところにいるんだ?」

「それはこっちのセリフなんだけど……私は妹紅待ちよ。ちょっと永遠亭に用があってね」

「私たちは観光中です。ええ、紫さんには内緒にしていただけると」

「ふーん、まあ自己責任なら私は特に気にしないわ」

 

霊夢が来たのは十分ほど前。どうやら、博麗神社に置いておいた薬がなくなってしまい、永遠亭で補充しなければいけないらしい。博麗神社を水那に任せ、霊夢はこうして竹林まで出向いたらしい。

 

「霊夢のことだから、こういう仕事は水那に任せるのかと」

「境内の掃除をするか、こっちに来るかの違いしかないわ。それに、水那にこういうの任せると……なんというか、私が狭量みたいじゃない」

 

そうして霊夢と駄弁りながらしばらく。

いつ戻ってくるかと囲炉裏で温まっていたが、意外にも妹紅はさらに十分ほどで戻ってきた。小さな小屋にやたらと人がいたので、戻ってきたときの妹紅は中々面白い表情をしていたが、ここでは割愛しておこう。

 

「こんな団体を永遠亭に案内することになるとは……」

「なんか悪いな、酒を飲もうとしてたのに」

「いいさ。ただ、帰りは鈴仙かてゐにお願いしてね」

 

戻ってきた妹紅は酒瓶を何本か持っていた。人里で頼み事のお礼として貰っていたようだが、俺たちがいたせいで酒を飲む機会が後回しになってしまった。

妹紅はからりと笑っているが、あまり酒を飲まない俺も知っているような銘柄だったから、相当いい酒だったようだ。

 

「ほう、人探しですか。子供が外に出ているのは心配ですよね」

「ん?ああ、覚妖怪か。こいしで慣れてて、心を読めるっていうの忘れかけてた」

「すみません。勝手に心を読んでしまって」

 

覚妖怪への関わり方、それはこいしが心配していたことでもあったのだが……今のところ、誰も彼も、さとりに対して気兼ねなく接している。心の中でどう思っているかは分からないが……いや、さとりには分かるから、やはり皆気軽に接しているのだろう。

妹紅も霊夢も、裏表のない性格をしている。だが、そんな人だけでなく咲夜やレミリアのような人も、さとりを前に忌避している様子はなかった。このまま何事もなく終われば……

 

「定晴さん、そんな風に考え事をするのは無粋ですよ」

「おっと悪いな」

 

背中ごしにさとりから話しかけられ、俺はなんとなく別のことを考えた。

そうだなぁ、今日の夕食は俺がさとりたちに作るのも悪くはないなぁ。昨日のあれで料理のアイデアも少し出てきたし……

 

「ほら、永遠亭に到着っと」

「よし突撃ー!」

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