クリスマスイブのパーティを控えた現在十二月の二十三日。
幻想郷では連日のように雪が積もりようになり、雪が降っていない日の方が珍しくなった。野良妖怪の多くは冬眠をするようになり、そうでない人々もあまり外を出歩くことはなくなった。外に出ても、氷の妖精か雪の妖怪か、またはその両方かである。
「紅魔館は暖かいのよね」
「レミリアたちがあまり寒さに強くないからな。パチュリーが断熱系の結界を使って部屋を暖かい状態で保つようにしているらしい」
「ならあまり防寒着は気にしなくていいかしら……」
咲夜曰く、レミリアは結構寒がりなようで、冬になると毎年それなりに準備をしているらしい。クリスマスパーティに来る人々も大抵寒いよりも暖かい方がいいということで、当日は結構暖かいと予想できる。
とはいえ、二人の持ち物であれば俺が幻空に片づけてもいいので、何かを持っていくにしても荷物にはならないだろう。
「そういえばご主人様、そんな便利な力があったわね。頼りにさせてもらうわ」
「でしたらもこもこなものを持って行ってもいいんでしょうか」
「ちょうどいい上着あったっけな」
幻想郷には外の世界ほど正確な天気予報は存在しない。しかし、なんだかんだそこらへんの妖怪や妖精の状態を見るとある程度確認できるので、数日くらいの天気予報であれば意外といい精度で予測できる。
俺の経験則による幻想郷予報だと、明日のクリスマスパーティ当日の天気は雨である。気温も随分と下がっているので、十中八九雪になるだろう。ホワイトクリスマスと言うと雰囲気がいいかもしれないが、幻想郷の雪が降る夜はだいぶ積もるので、場合によっては帰宅するのも難しくなる可能性がある。
そのために、宿泊しても問題ないような場所として紅魔館でパーティをするのであるが。
「主様、当日は料理担当ですか?」
「いや、紅魔館でやるもんだから咲夜が先に全部作ってしまうらしい。紅魔館の中に限れば咲夜とパチュリーの合作でほぼ無限に作りたての状態を保てるらしいからな」
「では最後まで一緒に?」
「そうだな。仕事はない予定だ」
俺を含め、こういう時に料理をする組が咲夜に気を使って助力を申し出たのだが、咲夜が断固として譲らなかった結果咲夜一人ですべての準備を終わらせてしまった。
他の宴会でならいざ知らず、紅魔館が会場である以上はメイド長としての矜持があるらしい。あまり無理に手伝うと、咲夜のプライドを傷つけることになるため、俺たちは致し方なく引き下がったわけだ。
「えへへ、そうですか……」
「あらあら、ユズもすっかり」
「ち、違いますよ!その、珍しいと思っただけで」
「ユズはあれからしら、弱い部分を見るとむしろ魅力に思うタイプね」
とはいえ、咲夜に全部仕事を任せると言われてただ甘んじるだけだと落ち着かないので、労いの品を用意している。クリスマスプレゼントとして渡してしまえば、咲夜のメイドとしてのプライドを損なうこともないだろう。
因みに俺はクリスマスプレゼントを別にしっかり用意している。プレゼント交換会なんてものもするということで、誰に渡ってもいいものを一つと、ユズとルーミアに対して個人的なプレゼントを用意した。
幻空の中にいれているので、当日までのお楽しみである。
「そういえば今回は妖怪の山の天狗たちとかも参加するらしいわよ」
「男性陣な。宴会以外じゃ珍しいよな」
「どうやらクリスマスに夢見てるやつとかいるみたい。早苗が苦笑いしてたわ」
宴会の時はなんだかんだ幻想郷中の酒好きが集まる影響で、俺以外の男性の妖怪というのも結構見るのだけど、こういったイベントごとで集まることはあまりない。今回のクリスマスパーティも、宴会というよりもパーティという雰囲気なので、いつものような酒をガバガバ飲みまくるような場所ではない。
だというのに男性妖怪たちが集まったのは……年越しを男独りで過ごしたくないという意地だとか。今更何の出会いを求めているのか分からないが、幻想郷でも夢見る男性というのはいるらしいのであった。
「香霖堂の店主も誘ったらしいじゃない」
「宴会じゃないからな。そこまで騒がしくはならないだろうと思って」
「それで彼が来るってのも珍しい話だけど」
「どうやら魔理沙との約束が別にあったらしくてな。魔理沙の誘いをどうするか悩んでいるところで俺が誘ったものだから、今回はとさ」
思い返すのは数年前のクリスマス。幻想郷に来たばかりの年のクリスマスパーティ。
あの時も紅魔館でパーティをして、その時の俺の知り合いとかが集まっていた。あのときはまだ十数人とかの規模で、ささやかだった記憶があるが……
「なに感慨深そうな顔してるのよ」
「……よく顔だけで分かるな」
「最近ご主人様が考え事をしている瞬間が分かるようになってきたわ」
と、雪が降っているはずの外から音が聞こえてきた。じゃかじゃかと鳴るその音は、サンタクロースとは程遠い幻樂団の音色。
窓の外を見れば、プリズムリバー三姉妹が音楽を奏でながら寒空を飛んでいるのが見えた。
「よくもまあこんな時に演奏できるわね。かじかんだりしないのかしら」
「明日パーティで演奏するらしいし、練習してるんじゃないか?」
「だとしても、あの子たちだって家があるでしょうに。わざわざ雪の中演奏するなんて、妖怪でも自殺行為よ」
遠くに消えていく幻樂団の音は、しかし、なんとなくベルのようにも聞こえなくもない。近くにいるときは程遠く感じたクリスマスの音色は、夜空に拡がることでその音を聖なる夜へと近づけていく。
降り積もっていく雪を眺めつつ、遠い音に少しばかり俺たちは意識を向けるのであった。