東方十能力   作:nite

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四百九十二話 特別な衣装

『お兄様、メリークリスマス!』

 

クリスマスイブの朝は、元気なフランの挨拶と共に訪れた。冬とは思えないほどの大きな声と共に俺の寝室の扉をガンガンと叩く。

勝手に誰かの部屋に入らないという良識は持ち合わせているのか、中に入ってくることはないが、それでも吸血鬼の腕力から繰り出されるノックの音は目覚ましには十分なものであった。

魔術で強化していなければ、今頃扉は木端微塵になっていただろう。ミキとか紫が扉をぶち破る系入室をするから予め強化をしておいたのだが、それが功を奏したわけだ。

 

『あれ、メリークリスマスって二十五日に言うこと?』

『クリスマスを祝う言葉だから今日でもいいんじゃないかしら。あけましておめでとうって言葉が一日以外にも使われるのと同じよ』

 

外から話し声が聞こえて、俺はゆっくりと体を起こす。

魔術により部屋は暖められているものの、やはり布団の中のぬくもりは特別なものがある。寝起きの良さに関わらず、冬の布団を一瞬で蹴飛ばして起き上がることができる人はそうそういないだろう。

 

『お兄様ー、起きてるー?』

「起きてるよ。すぐに行くから待ってろ」

『はーい』

 

なぜフランが家にいるのかは分からないが、フランのことだから待ちきれずに迎えに来たといったところだろう。最近のフランは咲夜という付き添いもなく一人で好き勝手行動することも多いので、慣れた光景である。

着替えてキッチンに行くと、既にユズが料理をしていて、フランが危なっかしくその手伝いをしていた。

 

「おはよう、ございます、主様」

「改めておはようお兄様!メリークリスマス!」

「はいはいメリークリスマスな。あれ、ルーミアはどうした?」

 

さっきまで俺の部屋の扉の前にいたはずだが、キッチンにもダイニングにもその姿はない。

フライパンをひっくり返していたユズが、窓の外を指さしながら言った。

 

「ルーミア、さんは、除雪作業、です」

 

窓の外を見ると、ルーミアが闇を使って家の前に積もっている雪を退かしていた。まるでブルドーザーのように大きく展開した闇を使ってぐいぐいと雪を押しのけていく。便利なものだなぁ。

どうやら眠っている間に随分と積もってしまったようで、このままでは明日には扉を開けることもできなくなっていただろう。家の前の道には炎の魔術でも仕込んでおく必要があるかもしれない。

 

「今年は雪が強いな」

「パチュリーが言ってたけど、今年はいつもよりもレティが騒がしいから雪が強いんだって。多分もう少ししたら霊夢が叩くんじゃないかな?」

 

幻想郷にはそれぞれの季節に応じた妖怪やら妖精やらがいるので、もし季節の影響が強く出過ぎた場合は霊夢がお仕置きをして調整を行う。

季節という自然現象に対して物理で解決するとは、中々に面白い解決方法であると思う。六月になっても飛び回る春告精を霊夢が吹き飛ばすのも、毎年の恒例行事である。

 

「フラン、パーティは早くとも夕方からだろ?紅魔館にいなくていいのか?」

「準備は咲夜がやっちゃった。妖精メイドもいるし、私が何かすることはないよー」

 

ユズが焼き上げた卵をさらに乗せていくフラン。こちらを見ているせいで手元が狂い、目玉焼きが床に落ちそうになったところを、ユズが慌てて皿で拾い上げた。

そのタイミングで雪かきを終えたルーミアが外から戻ってきた。頭に雪が残っており、外の寒さが一目でわかる。

 

「フラン、料理中はよそ見をしちゃだめよ」

「ごめんなさい……」

 

ルーミアが説教をしたところで、フランも含めて朝ごはんの時間。外では未だにしんしんと雪が降っている。

 

「パチュリーが頑張って、大広間をすっごく広くしてくれたんだー」

「今日って何人くらい来る予定なんだ?」

「さあ?お姉様なら知ってるんじゃないかな」

 

クリスマスパーティと銘打っているものの、その規模だけで見ると大宴会である。年越しの時も大宴会をする予定があるというのに、クリスマスにも大きな催しをして疲れないのかと思うのだが、幻想郷の住人は例え毎日宴会があっても欠かさず参加するというのだから、体力がすごいやつらしかいない。

今日は酔うことが目的ではない酒が用意されているので、鬼などの酒好きなやつらはこういうパーティでは満足できないのだろう。萃香は平然と参加するようであるが。

 

「ご馳走様!それじゃ私は行くね!」

 

朝ごはんを食べ終わると、フランはもふもふの防寒着を着た。もう行ってしまうらしい。

 

「フラン、何しに来たんだ?」

「お兄様へのモーニングコールだよ!私も着替えなきゃだから、またあとで会おうねー」

 

そうしてフランは飛んで行った。雪が降るほど曇っているから、吸血鬼たる彼女でも平然と外を出歩くことができるのだろうけど、それにしても軽い理由でここに来たんだな。

どうやらクリスマス用の衣装を準備しておいたようなので、パーティのときをを楽しみにしておこう。

 

「私たちも着替えちゃいましょうか」

「そうですね。時間があるうちに……」

 

どうやらフランに触発されて、二人も着替えてくるようだ。二人揃ってルーミアの部屋へと戻っていくので、俺はリビングで着替え待ち。

特別なプレゼントは用意しているが、衣装に関しては何も用意していない。倉庫を探せば、トナカイの角とかサンタの帽子くらいならあるだろうけど、それだけ身に着けてもなぁ……

なんてことを考えていると、突如として扉がノックされる。フランが何か忘れ物をしたのかと思い扉を開けると、そこにいるのはモフモフの尻尾を揺らした藍の姿。

 

「なんだ、珍しいな。何かあったのか?」

「はい、少々お願いが」

 

ひとまず外が寒いので中に招き入れる。藍は自分の尻尾を体に巻き付けてきたようで、尻尾にたくさん雪が積もっていたので払ってあげた。

暖かいお茶を出したとこで、藍が本題を切り出す。

 

「実は紫様からこのような書置きをいただいておりまして」

「紫から?」

 

紫はクリスマスパーティに参加する気満々で、当日になったら起こしてというメッセージも貰っている。藍がそれを知らないはずもなく、もう起きているのだろうと思ったのだけど……

 

「まだ寝ているのか?」

「そのことも含めて、そちらを見ていただきたいのです」

 

藍に促され、書置きを開く。そこには鉛筆で書かれた紫の文字で、藍と俺宛のメッセージが残っていた。というかほとんど俺宛というような内容であったが。

 

『クリスマスパーティ当日に私のことを起こすこと!でもあまり長く起きてられないから起こすのは八つ刻でお願いね。それと、起こすときは定晴にかっこいいタキシードを着て起こしに来てほしい!そのまま会場までエスコートしてくれると嬉しいんだけどなぁ~チラチラ』

 

書かれている文字そのままである。最後のチラチラというのはきちんと半角みたいに細く書かれているのが絶妙にうざったい。

 

「つまり、俺にタキシードを着ろと?」

「はい。既に衣装はご用意を……」

「待て待て、なぜ俺のサイズを知っている」

「紫様が事前に外の世界のオーダーメイドを頼んでいたようですよ」

 

そうして藍がスキマから取り出したのは一着のタキシード。見た感じ本当に俺のサイズぴったりに作っているようだ。

一般的な服とは違い、オーダーメイドとなるとスリーサイズなどをしっかりと決めて作るはずなので、紫は俺の体型を数値を含めてしっかり把握していることになるが……宇宙の計算も脳内でできるらしいし、意外と計算で答えを出すのもできるのかもしれない。

 

「式神の二人も着替えるし、フランも着替えるって言ってたんだけど、やっぱり着飾った方がいいか?」

「定晴さんはこういった催し物に不慣れですか?」

「外の世界じゃこういうのに招かれることはなかったからなぁ」

 

最近じゃあまり大規模なパーティっていうのは開かれないし、正装に着替えるような仕事はあまり多くなかった。探せばどっかにスーツくらいはあると思うけれど、俺自身あまり見合った服装というのは持っていない。

そういう意味では、タキシードをくれるっていうのはちょうどいいのかもしれない。着る機会なんてそうそうないだろうけれど、持っていないよりはマシだろう。

 

「今日のものは宴会ではないので、少しばかり着飾った方がよいかと」

「やっぱりそうか。ふむ……ひとまず着替えてみるか」

 

式神二人が着替えるのに俺が私服なのは、と思っていたところだったので今回は紫の言う通りにしてみる。起こしに行くかどうかは、着てから考えることにしよう。

タキシードを受け取り、改めて眺める。明らかに上等なものであり、触るだけでその布が非常に良いものであることが分かる。タキシードなんて着るのは初めてだが……

 

「着方は大丈夫ですか?」

「あー……まあ、なんとかなるだろう」

 

流石に女性の人に手伝ってくれとは言えなかった。

 

………

 

「これ、ちょっと気恥ずかしいな」

 

俺がなんとか着替えてリビングに戻ってくると、先にルーミアとユズが着替え終わっており、藍と駄弁っていた。俺が出てくることに気が付きルーミアがこちらを振り向くと……すぐさま顔を背ける。

 

「あ?悪い、何か間違ったか?」

「ち、ちが、そんな急にそういう恰好は、心臓に悪いというか……」

「非常によくお似合いです。紫様の望んだとおりといったところでしょうか」

 

ルーミアが身悶えている間に、藍がこちらに近付いて乱れている部分を整えてくれた。まだまだ精進が足りないな。

流石にワックスとかはかけていないが、髪もいつもと違って少しだけ整えている。姿見を見てみると、なんとも着慣れていない感というのが強く出ている。

 

「落ち着かん」

「でしょうね。ですが今日はひとまず慣れてください」

 

未だにルーミアが悶えているが、その間にユズがこちらに歩いてきてタキシードを触る。どうやらこの布が気になっているようだ。

 

「ああそうだ、ユズ、その服似合ってるぞ」

「へっ!?あ、あの、ありがとう、ございます……」

 

予想通り、ユズとルーミアが準備した衣装はサンタ服であった。ロングスカートのサンタといったところで、サンタというよりも赤いドレスに近いような気がする。

布がふわふわ生地だから、比較的暖かそうな見た目をしている。

 

「さて、夕方になったときに迎えに来ますので、それまでは失礼します」

「ああ……てかこんな早く着替える必要なかったか?」

「そうですね、時間になったときにまた着替えるということにしても……」

「待って!」

 

俺が私服に戻ろうとしたところ、ルーミアが大きな声を出した。因みに、サンタ服の大きさのためか、今のルーミアは大人モードである。

 

「その、あまり定晴はそういう恰好しないし、その、もっと見たいなぁとか」

「……仕方ない、今日はこの格好で過ごすよ」

「やった」

 

ルーミアが気に入ったようなので、今日だけはこの格好で過ごすことに。まあ一日くらいは我慢できるしいいだろう。流石に連日は着たいものでもないけれど。

ルーミアの言葉を聞き、藍がニコニコしながら家から出て行く。

 

「ルーミア、そんなにこの服がいいのか?」

「ええ、すごいドキドキするわ」

 

ルーミアの視線にむずがゆくなる。前まではこういうときにあまり気にせずいれたのだけど、今は正直変な思考みたいなのが湧き出てきて気持ち悪い。

そうして、どうにも落ち着かない空気の中、夕方まで家で待機することになった。

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