東方十能力   作:nite

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四百九十三話 クリスマスパーティ 上

四時くらいになってから、家に藍が戻ってきた。藍は服装こそいつものままだが、水晶のようなものがあしらわれた髪飾りをつけており、藍なりにオシャレをしているのが分かる。

 

「では定晴さんはスキマ経由で屋敷に……二人はどうしますか?」

「んー、先に紅魔館に行ってるわ」

 

そういうわけで、ルーミアとユズは一足先に紅魔館へ。外では雪が降っているのだが、ルーミアが闇を使って傘のようなものを作っていたので問題なさそうだった。つくづく便利な力である。

対して俺は、スキマを通って紫の屋敷へとやってきていた。何かしらの術式が張ってあるのか、それともこの土地の位置の関係か、屋敷には雪が降っておらず積もってもいなかった。

 

「こちらです」

 

藍の案内で屋敷の中を進む。この屋敷もまた空間が拡張されているようで、入り口付近はまるで迷路のようになっていた。明らかに座標的に同じ場所を取っているはずなのに全然別の場所だったりするので、ただただ空間が広くなっている以上のことが起こっているようだ。

そうして歩くこと一分ほど、入るなという張り紙が貼られた部屋の前へと辿り着いた。俺の目でも分かるほどに結界が何重にも張られており、何も考えずに入ればその瞬間死……いや、死よりも恐ろしいことが待っているだろう。

 

「では、紫様を起こしてあげてください」

「ん?この結界の解除とかないのか?」

 

特に何かするわけでもなく、俺を部屋の中へと促す藍に疑うような目を向ける。流石の俺も、紫の幾重もの結界を無傷で抜けられるほどの実力はないぞ。

だが、藍はまるでやれやれといった雰囲気で告げた。

 

「紫様曰く、どの結界もあなたには反応しないようです。紫様曰く、あなたならウェルカムとのことで」

「流石にこの屋敷と部屋に気軽に来れるような実力はないなぁ」

 

藍は部屋の外で待っているようで、俺は一人で部屋の中に入ることになった。どう見てもやばそうな結界を素通りするので、無駄に緊張してしまう。

紫は非常に正しい姿勢と整った呼吸で、部屋の中心の布団で眠っていた。俺が起こしにくることを疑っていないようで、布団の隣にはきれいに整えられた紫用のドレスが置かれていた。そのドレスもまた幾重もの結界により防御されているので、紫の本気度が伺える。

 

「起きろ、紫」

 

紫の体を揺すりながら声をかける。しかし、紫は呼吸を乱れもさせず眠り続けるばかり。

ふむ、もしかしたら簡単には起きないように自分自身にも何かしら妖術をかけているのかもしれない……と、ピコンという音と共に何やら小さなスキマが紫の枕元に開いた。そして、まるでプリンターのように自動的に一枚の紙が出てくる。

拾い上げて見てみると、そこには俺宛のメッセージが書かれていた。文頭に「定晴へ」と書かれていたので、俺がここに来た時に自動的に出てくるように設定されていたのだろう。

 

《眠りの姫は目覚めのキスを……》

 

途中で読むのをやめた。ついでに破っておいた。

正直紫相手なら、まあそこまで抵抗もないのだけど、それはそれとしてそういう面倒な願い方をするやつの願いを叶えてやる義理はない。

 

「浄化でもかけてやれば起きるか?」

 

試しに紫に向かって、浄化の力の残滓のようなものを流してやる。大妖怪にとっては何の影響もない程度のものだが、それはそれとして気になる力のはずだ。

少なくとも、妖怪であれば皆等しく目を覚ますはずのそれは、確かに紫に効果を示した。ずっと規則正しい寝息で眠っていた紫が身をよじったのである。そして、嫌がる様に首を横に振っている。

と、さらにピコンという音が鳴り、新しい紙がスキマからでてきた。

 

《定晴が悪いことをしようとするのは予想通り。でもね、私は本当にちゃんとした儀式をしないといけないという結界を自分自身の中にかけているんだから》

 

メモを放り投げた。もう読む必要はない。

要は、紫の中にある術式のせいで紫は起きないと言うことだ。わざわざ術式がある座標を教えてくれたのであれば、それを利用して俺の無効化を発動してしまえば……

 

「ん、んん……」

「はい、おはよう」

 

紫の中の術式だけを対象に無効化を発動させた。そうなれば、紫はただ眠っているだけの妖怪なので、普通に起こすことができる。

そうして起こされた紫は、なにやらムスっとしていた。

 

「ねえ、私はきちんと起こす手順を書いておいたわよね」

「ああ、おかげで術式の位置が分かった」

「手順書っていうのは従うためのものなのよ?それを……ねえ、そこに破り捨てられたメモと放り投げられたメモが見えるんだけど」

「参考っていうのは絶対順守じゃないからな。キスしてほしいならそれこそ正しい手順を踏むんだな」

 

不満そうな紫は、ひとしきり俺に文句を言ったあとスキマの中にドレスを持って入っていった。スキマを使えばいつでもどこでも更衣室になるというわけだ。

そうして数分、スキマから出てきたのは麗しいドレスを身に着けた紫。淡い紫色のロングドレスは華美ながらも派手な印象はなく、一つにまとめられた髪はいつもよりもお淑やかな雰囲気を与える。

 

「に、似合う……?」

「ああ、ばっちりだ」

 

恥じらうように体を揺らす紫に、少しばかりドキリとしてしまう。紫は胡散臭い雰囲気を出しているが日頃から美人であり、そんな彼女が本気でおめかしをしたのであれば、それは絶世と呼ばれても過剰ではない出来になるのは間違いないだろう。

紫が起きたのを確認したのか、いつの間にか外で待っていた藍は姿を消していた。藍がいないことを確認してから、紫がするりと俺の腕を掴み、そのままスキマを使って紅魔館の入り口へと移動した。入口では妖精メイドたちが慌ただしく飛び回っており、絶賛最後の準備をしているところなのだと分かった。

会場はこちらと書かれた張り紙は至る所に貼られており、何枚かは剥がれてしまったのか地面にも落ちていた。ここまで多いとむしろ分かりづらいけれど、これを貼ったのは妖精たちなのだろうか。

 

「行きましょ」

 

そうして腕を組みながら会場へと入る。上には大きなシャンデリアと、魔法の光が浮いており、いつもの何倍も大きなホールをすべて照らしている。そして、そんな光に照らされるのはたくさんの料理とクリスマスの飾りつけ。色んなところに置かれているテーブルにはそれぞれ違う料理が置かれており、今日のパーティは立食式らしい。

そして、前方に見えるのは大き目のステージ。わざわざ今日のために用意したようで、スポットライトのような設備も見える。何か話したりするときに使うのだろう。

中は既に騒がしくなっており、既に結構な人数が集まっていた。その多くは何かしらいつもよりも少しおめかしをしているようだ。ただ、萃香が自分の角の上にトナカイの角をつけているのはどうなのだろうと思う。角多すぎるぞ。

 

「わ、わぁ!紫さんも定晴さんもとっても素敵です!」

 

そんな中こちらに気が付き近づいてきたのは、白い袴のようなものを身に着けた妖夢。この衣装になっても装備は忘れぬようで、いつもの二振りが背中に背負われていた。

 

「あらぁ、紫は起きれたのねー?眠る前に言ってた準備は効果があったのかしらぁ」

「……ふんだ、あんなのなくてもいつか定晴からやってもらうもん」

 

妖夢につられてやってきたのは、これまた美しい着物を着ている幽々子。非常に美人で目を奪われる存在感があるが、残念かな、口元にケーキの食べかすらしきものが残っているのが悲しい。

俺の視線に気が付き、妖夢がすかさず幽々子の口元をハンカチで拭いた。そういう仕事も従者のやることなのか。

 

「そ、それにしても、そんな風に来たということはお二人は……」

「そうよ、私たちは「紫の気まぐれだ。気にしなくていい」……ちょっとー!」

 

多くは紫の冗談だと流すのでいいのだけど、妖夢は純粋なせいで紫のそういうでまかせを信じてしまうきらいがある。人を選んで冗談はすかさず訂正しなければ、あとで面倒なことになることは目に見えている。

 

「それにしても、幽々子、あなたそんな着物持ってたのね。いつも着てるあれが幽霊の標準装備かと思ってたわ」

「そうなのー。白玉楼の箪笥を見たら私のサイズにぴったりの着物が見つかってね。私も妖夢も見覚えがないから、妖忌が準備したものだと思うわぁ」

 

つまり、妖夢の祖父、幽々子の先代傍付きである彼が用意したものだろうと幽々子は言う。だが、それを聞いて紫は少し暗い顔をした。

だが、幽々子はそんな紫の表情に気づかず、そのまま近くの食事が置かれているテーブルへとふらふらと飛んで行った。妖夢がペコリと頭を下げてから急いで幽々子のあとについていくのは、妖夢の日頃の苦労というのが察せられる。

そうして幽々子が完全に離れた後、紫に話しかけた。

 

「紫、あの着物を知ってるのか?」

「あんな着物があるなんてことは本当に知らなかったんだけど……多分、あれは生前のものなの。幽々子ってあの若さでしょ?いいところのお嬢様だったし、きっと誰かがあの子のために用意したものね……」

 

紫は、幽々子がまだ生きていた頃から交友があったのだという。今の幽々子に生前の記憶はなく、また紫と交友があったことも知らないみたいだが、紫には思い当たる節があったのだろう。

 

「まあ、今幸せそうならいいわ。だって、あんなに似合ってるんですもの」

 

亡霊はどれだけ食べても体型が変わらない、ということを証明するつもりなのかまだパーティが本格的に始まる前だというのに幽々子が色々なものをつまみ食いしている。

妖夢がなんとか止めようとしているのだが、幽々子の食い意地が凄まじく力で押し負けている。日々の鍛錬で筋力もあるはずなのだが、それ以上の力を幽々子は有しているのか。恐ろしい話である。

紫は幽々子から視線を外すと、キョロキョロし始めた。誰かを探しているように見えるが。

 

「私が定晴と来たってことをもっと色んな人にアピールしたいわね」

「大人しくしとけ」

「こうやって外堀を埋めるものなのよ」

「なんの外堀だよ」

「分かってるくせに」

 

紫はターゲットを見つけたのか、とたとたと歩いていく。ふわりと風で靡く紫のドレスはなんとも見麗しい。

 

「どうよ、幽香。有言実行してやったわよ!」

「はいはい。そういうところで張り合おうとするのは昔から変わらないわねぇ」

 

自慢する相手に選んだのは、赤いドレスに身を包んでいる幽香。今日の幽香は髪をセットしており、ふんわりとした髪型をしていて、いつもとは違う印象を受ける。

幽香の近くにいたメディスンは、服装はいつもと同じだが、髪型は幽香と同じようにふんわりとした髪になっていた。幽香がセットしているのだろうか。

 

「よう、幽香」

「ええさだ……はる。ごきげんよう」

「今一瞬私の定晴に見惚れたわね」

「誰があんたのよ。定晴はまだ誰のものでもないでしょ」

 

姦しく幽香と紫が言い合う。紫と幽香もだいぶ長い付き合いなようで、そういう相手だと紫は比較的素の表情を見せて少女らしくなる。

幽香が言い争いだしたので、逃げてきたメディスンが俺の隣に移動してきた。幽香の様子を見て、呆れるような辟易するような表情をしている。

 

「幽香ったら、あなたが絡むとちょっと面倒くさくなるのやめられないのかしら」

「俺が何か言ったほうがいいか?」

「ううん。あれは本人の問題だから」

 

先日、幽香への不満から花畑に対して毒を撒き散らしたメディスンは、最終的に幽香へある程度の許容と諦めをすることで妥協したらしい。幽香の気持ちを変えることができないので、我慢と文句を日頃からすることで不満をため込まないようにしたようだ。

それはそれとして、やはり幽香がメディスンをほっといて騒いでいるのは見ていて不愉快なようで頬を膨らませている。幽香とメディスンの関係がこのままこじれてしまわなければいいけど。

 

「ふんだ。今に見てなさい。私が完璧なデートをするんだから」

「団子より花な幽香にできるかしら?定晴のことほっぽり出して好きなことしちゃうんじゃない?」

「私の中で花と定晴はほぼ平等よ。片方に傾倒することなんてないんだから」

 

幽香と紫の言い争いはまだ続いている。そして、続けば続くほどメディスンの機嫌が悪くなっていく。

そろそろ仲裁をした方がいいだろうか。だが俺のことで言い争っているのは聞いてて分かるので、正直少し介入しにくいというか、どちらの肩を持つとかもできないし……

 

「いいじゃない。妖怪同士の言い争いを人間がなんとかする必要はないわ」

 

俺が悩んでいると、後ろから話しかけてきたのは、いつもの巫女服で特に着飾った様子もない霊夢。大きなリボンも通気性のよい巫女服もいつも通りだ。まさかその服装で神社からここまで飛んできたのではあるまいな。

 

「ちょっと、なによ。ちゃんと防寒着くらい着てきたわよ」

「ああいや、気にするな。んで、これを放置しろと。このままだと弾幕勝負が始まりそうなんだが」

 

幻想郷において、話し合いや言い合いで決着がつかなかった場合、基本的に弾幕勝負により決着をつけることになる。

それ自体は別にいいのだが、弾幕というのはなんだかんだある程度の攻撃性があり、今のまま弾幕勝負をしてしまえば、折角のドレスがボロボロになってしまう可能性が高い。流石にそれは俺も見るに堪えないので、きちんとその前に止めるつもりではあるが。

 

「大丈夫でしょ。ドレスを着てるのはお互いに分かってるし、あなたの前でわざわざ戦ったりしないわ」

「そういうもんか」

「そういうものよ。それに、そろそろ……」

 

霊夢が視線をホールの前方に向ける。そこには、これまた真っ赤なドレスに身を包んだレミリアの姿があった。咲夜の補助によりマイクのテストをしているようで、そろそろ始まりの挨拶がなされそうだ。

 

「あれが始まれば落ち着くわよ。二人とも、そういうところはちゃんとしてるから」

 

どうやら霊夢は二人のことを信頼しているようだ。まあ俺もその点に関しては心配していない。二人とも、大妖怪たらんとする精神性を持ち合わせているからな。

 

『あー、マイクてすてす。よし、よく来たわね、騒がしい客人たち!』

 

レミリアの声がホール内に響く。マイクなんてどこで用意したのだろうか、香霖堂に置かれるほど外の世界で忘れ去られるようなものでもないだろうに。

 

『今日は美しいクリスマスイブ。あなたたちがどうしても騒ぎたいと言ったから、私の寛大な心で会場と食事を用意したわ。なので、きちんと私のことを褒めたたえておくこと』

「お姉様何もしてないじゃーん、咲夜のことを褒めるべきだよー」

『そこ、うるさい!主導したのは私なんだからいいじゃない』

 

ステージ裏からフランの声が聞こえ、何人かの笑い声があがる。

実際、フランの話だとこの会場のほとんどを咲夜が用意しているらしい。料理も飾りつけも、咲夜が仕事をしたおかげで完成したものであり、そういう意味では確かにレミリアはあまり仕事をしていない。

 

『んん……日頃からお祭り騒ぎしているあなたちじゃ物足りないかもしれないけれど、今日はパーティ。騒ぎすぎたら遠慮なくつまみ出すから覚悟しておきなさい。それじゃ、近場のグラスを持ちなさい』

 

どうやら流れで音頭もしてくれるらしい。さて、何か近くに飲み物は……

 

「定晴様、こちらをお使いください」

「ありがとう咲夜……うおっ、咲夜」

「はい。御用であればいつでもお呼びくださいね」

 

俺にグラスを渡し、そのまま消える咲夜。今日の咲夜は完全に仕事人モードのようだ。

折角のパーティなのだし皆が楽しくできればいいのだと思ったけれど……紅魔館が会場である以上、咲夜に肩の力を抜けっていうのも難しい話だろう。このパーティが終わった後に、咲夜のことをきちんと労ってあげないといけないな。

 

『良い夜を……メリークリスマス!』

「「「メリークリスマス!」」」

 

そうして、長い長い夜が始まる。

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