東方十能力   作:nite

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四百九十四話 クリスマスパーティ 中

咲夜から渡された飲み物はお酒ではなく、ピーチジュースだったようだ。音頭と共に飲み干して、さわやかな気分で紫の元へと戻る。

 

「落ち着いたか、紫」

「元々落ち着いてますー。幽香が嫉妬深いからよ」

「言ってなさい。まるで一歩先を進んでるみたいな言い方をしてる大妖怪さん」

 

落ち着いてはいるが、相手への嫌味は忘れない。だが、これもまた紫と幽香の適切な距離というものなのかもしれないな。

 

「定晴、レミリアたちに挨拶しに行きましょ」

「ああ、そうだな。またな、幽香」

「仕方ないわね。私とのデートも楽しみにしてるわよ」

 

そうして幽香はドレミーと共に人混みの中へと消えて行った。とはいえ、幽香の赤いドレスとその美貌は目を引くので、人混みの中にいてもそれなりに分かるけれど。

紫と共に、今日の主催であるレミリアへの挨拶へと向かう。宴会とかならまだしも、こうして大々的なパーティを場所を借りてやるというのであれば、最低限の挨拶はすべきだろう。スピーチでもレミリアが場所を貸したということを非常に強く強調してたからな。

 

「お疲れレミリア」

「来たわね定晴、そして賢者。私たちのパーティにようこそ」

 

改めて、レミリアは煌びやかな赤いドレスを着ていた。髪型を咲夜がセットしているようで、今日はいつもに比べて非常に大人っぽい印象を受ける。

それにしても本当に赤が好きなやつだな。赤いドレスに赤い紅魔館となれば、壁際に立つと同化してしまうのではなかろうか。色合いは幽香のドレスと同じなのに、レミリアに対してのみこう考えてしまうのは、日頃の印象というやつだろうか。

 

「何か失礼なこと考えてないかしら?」

「いや、何も」

 

と、レミリアの後ろからフランがパタパタと走ってきた。そしてそのままこちらに飛びついてこようとして、その直前に踏み止まり、優雅にカーテシーをする。

 

「ようこそいらっしゃいました、お兄様」

「淑女らしい所作じゃないか」

「咲夜に教えてもらったの!」

 

フランはというと、白いミニドレスを身に着けており、真っ赤なレミリアに比べるととても落ち着いた雰囲気である。スカートの部分には何重にもフリルがついており、フランの可愛らしさの部分が強く出ているように思える。

だが、足元はしっかりとヒールで着飾っており、全体的に見るとやはり大人っぽい印象を受ける。フランもまた、髪を咲夜にセットしてもらっているらしく、ふんわりとした髪型だ。

 

「淑女たるもの、一歩引いたところで挨拶をするのはいい心がけよ。今後ともそうするように」

「お姉様はちょっと前時代的だよ。お兄様は身内みたいなものだしね」

 

場の空気の影響か、いつもに比べて二人の言い合いも大人しい。ドレスを着た状態で言い争うのははしたないと分かっているのか、今日のレミリアは大人の余裕のようなものを感じることができる。

 

「そういえば、しっかり起きることができたのね賢者」

「ふふん、私が約束を違えるものですか。参加すると言ったのだから、しっかり参加させていただきますとも」

「俺が起こしたけどな」

「定晴が来なくても起きてましたー!定晴に起こしてもらいたかっただけですー!」

 

俺の言葉に、喚くように反論をする紫。眠っている様子は見させてもらったが、本当に紫が起きることができていたのかは甚だ疑問である。

なんせ春なんかは、紫がしっかり季節通りに起きれたことなどそうないわけで……

 

「私はクリスマスに起きれなくて、そのあとに数日泣いて過ごすのかと思っていたわ」

「ふんだ、私だって成長するんだから」

 

春、息巻いて起きたら既にクリスマスは遠く過ぎ、さめざめと自室で泣く紫の姿……容易に想像ができるというか、俺が起こさなければ本当にそうなっていた気さえしてくる。

紫はなんというか、そういう少しだけ不憫な星の下に生きているような気がするのだ。実のところ今までの実績からして、紫は別に不憫ではないのだけど、なぜか不憫属性があるような気がする。何の影響なのだろう。

 

「お兄様、プレゼントは持ってきた!?」

「ああ。交換会をやるって聞いたからな」

 

フランの声に、俺は幻空の中に入れているプレゼントボックスを思い出す。プレゼントっぽさを演出するために、余っていた小さな段ボールに入れてよく見るプレゼントボックスを作ってきたのだ。

とはいえ……パーティ会場の中にいるたくさんの人妖を見て思う。

 

「この人数で催し物って大変じゃないか?」

「それはきちんと考えてあるから大丈夫よ。それに、全員が全員持ってきてるわけじゃないわ」

「なんだ、必須なのかと」

「日頃がさつな妖怪が律儀に持ってくると思う?純粋にパーティを楽しみにしてる子と、人間組くらいしか用意してないと思うわよ」

 

となれば、交換会に参加する人数はそこまで多くはないか。どういう形式で行うかは分からないけれど、人数が多くなければそこまで大事にはならないか。

 

「あ、それと!」

 

フランが声をあげて、ステージ裏へと飛んでいく。数秒後、フランは箱を持ってこちらへと戻ってきた。ラッピングされていて、それがプレゼントであることがよくわかる。

 

「お兄様、プレゼント!」

「え?」

「個人的な、フランサンタさんからのプレゼントだよ!お兄様にはしっかり私の贈り物を受け取ってもらいたくて……」

 

もじもじしながら、フランは俺にプレゼントを渡した。まさか、プレゼント交換会とは別に用意されているとは思わなかったので、面を喰らうと同時に少し困ってしまう。

ルーミアとユズには用意しているのだが、それ以外には何も用意をしていなかった。返せるようなものが何も……

 

「フランからの贈り物なんだから、素直に受け取っておきなさい。一方的に贈られるってのも悪くないじゃない」

 

レミリアからの助言。確かに、フランの方が圧倒的に年上であり、そういう意味では大人が子供にプレゼントをするのとそう変わらないと考えることもできるが……なんとなく落ち着かない。

物でなくとも、何かしらお返しをしなくてはという気分になる。

 

「……それは今までのお兄様へのお礼だから、お兄様から返してもらうものなんてないんだよ」

「俺へのお礼?」

「うん。この数年が、今まで生きてきた中でも一番輝いてる日々だから、そのお礼なの」

 

俺がフランにしてあげたことなんて何も……

 

「いいじゃない。定晴ってば奉仕したがりなところがあるんだから、たまには単純に受け取りなさい。外の世界とは違って、ここじゃビジネスライクな関係なんてないんだから」

 

紫が呆然としている俺の手にあるプレゼントボックスを取り上げた。そして、包装を剥がすこともなく、見るだけでその中身を確認している。結界能力の応用だ。

 

「マフラーかしら。もしかして手作り?」

「う、うん。お兄様に使ってほしいなって」

「健気ねぇ、私にはできないアプローチだわ」

 

二人の後押しで、俺はひとまずプレゼントを幻空の中に片づけた。ひとまず今は受け取っておいて、また後日何かしらフランに贈り物をするとしよう。

 

「さて、他にも挨拶しなきゃだから、貴方たちもパーティに戻りなさい」

「お兄様、またねっ」

 

二人が歩いて近くにいた別の人たちに話しかけに行った。やはり、主催としてやらなくてはいけない仕事もあるのだろう。

 

「私たちも行きましょ。そろそろお腹が空いてきたわ」

「そうだな。こんなに料理があるんだから、幽々子に食べられる前に食べよう」

 

どうせ、最終的に幽々子がすべてを処理して何も残らないのだから、何を食べても問題はない。咲夜が用意したものであれば、味に関しても懸念点はない。

俺たちは、男性の天狗妖怪を叩いているレミリアを横目に、食事が並んでいるエリアへと戻ってきた。やはりというか、幽々子が未だにここに張り付いているようだ。

 

「えへへ」

「どうした、紫」

 

ふと、横から可愛らしい笑い声が聞こえた。それは紫の声であり、なんというか漏れ出たというような笑い方であった。

 

「その、貴方と一緒にこうしてパーティを巡れるのが嬉しくて。好きな人とこうしていられるってのは嬉しいものなのよ」

 

妖艶さはなりを潜め、まるで見た目相応の少女のように微笑む紫。ただ純粋にパーティを楽しんでいるその様子に、俺は少しだけドキリとする。

 

「さて、どうせ冬眠中に蓄えるだけだし、今日はチートデーよ」

「むしろ眠るだけなんだから食べない方がいいんじゃないのか?」

「眠っている間に私はベストコンディションに整えられるの。多少いっぱい食べたところで、春になったらスリムな私になってるわ」

 

なんて便利な体だ。妖怪らしいと言えば妖怪らしいのかもしれないが、紫の不思議な生態の一端を見たような気がする。スキマ妖怪なんて唯一無二すぎて、紫のことはまだまだ分からないことが多い。

 

「どれも串だとかなんだとかがあるのは、やっぱり仕事が丁寧よね」

 

並べられた料理を見て、紫がそう呟いた。

立食形式の場合でも、ビュッフェのように小皿に取り分けるタイプと、そのまま大皿から摘まむタイプの二種類があり、今回のパーティでは後者のタイプの食事となっている。

だが、どれも串であったり摘まみやすいように巻かれていたり、手を汚さずに食べることができるように作られていて、咲夜の仕事の出来が見えてくる。ステーキなんかをすべて一口サイズに切り爪楊枝を差すなんて、面倒なことこの上ない。

 

「お肉はジューシー、野菜は新鮮、魚はふんわり。しかもどれも出来立てみたいね」

「パチュリーが準備を手伝ったらしいから、魔法での補助だろうな」

「劣化に対する備えとなると魔法使いの真骨頂よね。私だって結界を使えばこれくらい簡単だけど」

「魔法使いと張り合うな」

 

俺も一口ステーキを食べてみると、確かに焼きたてのように熱々であり、噛むと中から肉汁が溢れてくるほどよい焼き加減。牛肉のようだけど、幻想郷でここまでのものが用意できるとは到底思えない。

だが、紫と藍が動いた様子はないので、外の世界の特別なお肉というわけでもなく、きっと調理方法の問題なのだろう。

 

「咲夜に料理を教えてもらうのもいいかもな」

「お褒めに預かり光栄です」

「うわっ、いつの間に」

 

先ほどと同じく、突然横に現れた咲夜。

 

「咲夜、疲れていないか?」

「いえ、ここまで来れば私は見回りだけの仕事ですので……」

「何を言う。そこらへんやつが捨てたゴミとか中身のなくなったグラスを回収してるくせに」

 

俺が先ほど乾杯のときに飲んだグラスも、今食べたステーキの串もいつの間にかなくなっていた。つまり、処理すべきものが出た瞬間に、咲夜が時間を止めて回収をしているのだ。

咲夜が時間を止めることをそこまで苦にしていないのはいいのだが、それではこのパーティ中気が休まることがない。

 

「いいのです、定晴様。これこそが私の仕事ですので」

「ふーん、たまには主に反逆したっていいんじゃないの?なんでもかんでも仕事をしていたら、いつか自分が潰れちゃうわよ。ちょっと特殊とはいえ、貴女は人間なのだから」

 

口の端にクリームをつけた紫がやってきて、咲夜に助言をする。クリームを取ってあげようとした次の瞬間、紫の口元の汚れはなくなっていた。

 

「いえ、この能力も私に与えられた仕事道具ですので。紫様が御憂慮することはありませんわ」

「仕事ばっかりしてると、人間らしさを失っちゃうわよ。最近は少しだけ感情的になってきたみたいだけど、それじゃまだまだね」

 

紫にしてみても、咲夜の仕事人間らしさには言いたいことがあるようで、心配というよりも忠告のようなことを言っている。

実際、咲夜がプライベートな時間を過ごしていることというのはなく、いつもメイド服を着ていて仕事中だ。紅魔館のメイドは大抵妖精メイドであり、咲夜が抜きんでて優秀なメイドであることは明白ではあるのだけど、それで咲夜にばかり仕事が集まってしまうのは管理者の怠慢であると思う。

 

「仕事をしているのは私だけではありません。門番の彼女も……眠らずに雪の中に立ってくれているわけですし」

「まあ紅魔館の内情だから私からは強く言わないけど、ちゃんと休暇は申請するのよ」

 

咲夜はペコリと頭を下げると、そのまま姿を消してしまった。また仕事へと戻ったのだろう。

 

「幻想郷で過労死なんてしてほしくないんだけど」

「従者って結構いるけど、皆大変そうだよな。労働組合を作った方がいいんじゃないか?」

「……考えておくわ」

 

幻想郷に住んでいる従者たちは、基本的に雇われではなく家族のように扱われている。実際、レミリアや幽々子、永琳など、他人のように従者に接している人はいない。

だが、それでも仕事量に関しては考慮せざるを得ないだろう。なんせ、咲夜に限らず妖夢や鈴仙、藍などがプレイべーとな時間を過ごしていることはそうそうないだろう。藍に関しては前に油揚げ料理を振舞ったことがあったが、それ以外じゃ基本的に式神としての立場をしっかりとしていたような気がする。

お燐のように自由な従者っていうのはあまりいないように思う。労働環境に難あり、である。

 

『真ん中で遊んでる鬼、そこをどきなさい。今から催し物をするんだから』

 

マイクの音が、レミリアの声が会場に響いた。それを聞いて、会場の中心にいた天狗たちと鬼が離れていく。

 

『さあ、まずはプレゼント交換会よ。用意してきた者は集合、そうじゃない人は適当に過ごしてなさい』

 

どうやら、大きなことが始まるようである。




調べたところ、赤いドレスは貴族が使い、紫色のドレスは最高級だったようです。レミリアの赤好きというのは吸血鬼以外にもこういう部分の影響があったりするんでしょうか
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