東方十能力   作:nite

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二章 第三次大戦
四百九十六話 狼煙


「いやだ!やだぁ!」

 

頭の中に溢れるほどの怒りと狂気をただ大妖怪としての理性で押しとどめる。いますぐにでも犯人を捕まえて殺してやりたいところを、冷静に。

 

「どきなさい。まずは治療よ。魔法使いたち、手伝いなさい」

 

体に縋り付いて離れない子供たちを引きはがし、急いで手術を行う。まだ死んでいない、いや死なないからこそ被弾したのか。

これが原因で死ぬことはない。だが、全くの無事に回復することができるかどうかは、今ここにいる私たちにかかっている。

 

「ねえ、なんで動かないのよ。ここで一番医療に長けているのは、私でも、魔法使いでもなく、貴女でしょ?」

「……」

 

背後の立つ彼女に対して声をかける。患者ができたのだから一番最初に動かないといけないはずなのに、その手は全く動こうとしない。

 

「それとも、これは計算通りなのかしら」

「それは違うわ。でも、私じゃどうにもできないことが分かってるから、私は動けないの」

 

幻想郷における医療の最高峰たる永遠亭、その主たる八意永琳は、寂寥と諦観を含んだ視線を彼に向けながら言う。

 

「今のは月のレーザーよ」

 

月、また月ね。最近は落ち着いてきていたというのに、ここに来てまた私の不快感を煽るようなことをする。いつだってそう、月は私たちのことを下に見ている。

 

「そんなことは分かってるわよ」

「月のレーザーによる傷は、月の技術でしか対処できない。私が持つ月の技術自体は一昔前のものだから、最近使われるレーザーを治せる知識を私は持ち合わせていないわ」

 

時代遅れめ、と八つ当たりしても仕方のないことを脳内で呟いてから、改めて血を流して地面に倒れ伏す私の愛しい人、定晴の容態を確認した。

体の中の位相はズレズレで、常に霊力やらなにやらが流れ出している状態。意識はなく、彼が常時発動しているはずの浄化や再生が作動している様子はない。発動するための霊力がないのか、それとも別の要因かは今の時点では分からない。

体内の位相のズレを私の能力で戻す……けれど、私が一つズレを戻すと別のところで位相がずれる。今の定晴は、複数の時空を体内だけで跨っている状態だ。今この幻想郷だけを見るならば、定晴と言う存在は一片程度しか残っていないだろう。

 

「永琳、何か知ってるなら教えなさい。私が月にまた侵攻することになる前に」

「……いいわ。ひとまず、人払いと部屋に運び……いや、その状態じゃ持ち上げるだけで身体が崩壊しちゃうわね。レミリア・スカーレット!パーティはおしまいよ!声をかけなさい!」

 

永琳が声を張り上げ、ハッとしたレミリアがマイクを手に取り会場に声を響かせた。

 

『申し訳ないけど、そういうわけだから。皆、落ち着いて帰宅なさい。定晴のことは私がしっかりと保護するから』

 

ざわざわと、今までの空気が嘘のようになった会場から少しずつ人がいなくなっていく。

だが、定晴との交友があった人々は中々その場を離れることができない。

 

「先日あんなことがあったばかりなのに、なぜこうなるんですかっ!」

「落ち着きなさい、早苗。そう簡単に死んでしまうような人ではないでしょう、定晴さんは」

「大丈夫、また魂はここにあるわ。それに、私がいてそう簡単に死なせるわけにはいかないもの」

「幽々子様、閻魔様を呼ぶべきでしょうか。これは非常事態と見れます」

「残念だけど、閻魔的に言うならこれもまた一つの摂理よ。一般的に不慮の事故と呼ばれるようなことだって、地獄からすれば一つの自然な死だもの」

「ぐすっ、ぐすっ、ううぅ……」

「フランちゃん、落ち着いて。大丈夫、定晴は大丈夫だから」

 

だめね、特に精神的に幼い子たちの情緒を抑えることが難しい。こいしはなんとかフランドールを宥めるように動いているけれど、その表情もしっかり涙目になっていて今にも泣きだしそうになっている。

どのみち現時点じゃこの子たちにできることはないから、悪いとは思うけどスキマの力で無理やり外に放り出してしまって……

 

「悪いが、少し見せてもらっていいかな」

「貴方、来てたのね」

「誘われてね。まさか誘った当の本人がこんなことになるとは思わなかったけどね」

 

人混みの中から現れたのは、いつもならこんなパーティなんかに現れることはない香霖堂の店主。定晴が倒れても、その冷静な雰囲気は崩れることはなく、眼鏡の奥の視線はしっかりと定晴の状態を見定めるように見開かれていた。

彼に医療の技術があったようには思えないけれど……現在求められているのは、医術よりも月の技術である。日頃から特殊なものを集めている彼ならば、あるいは……?

 

「おっと、残念だけど賢者様が求めているような知識を僕は持ち合わせていない」

「そう……なら、何が見れるの」

「ふむ、そうだね」

 

そうして霖之助は定晴の血だらけの胸元を触り始める。同性とはいえ血だらけの相手に躊躇いなく触ることができるあたり、彼もしっかり妖怪の血を引いているのだと謎の納得感を得る。

そうしてごそごそ触っていると、何やら一つの欠片を拾い上げた。

 

「何よそれ」

「僕も見るまでは分からなかったが……うん、これもしっかり道具のようだ」

 

見覚えのない石のようなもの。なぜそんなものを定晴が持っているかは分からないけれど、霖之助には何か確信めいたものがあったようだ。

 

「うん、見える」

 

そうして彼は手のひらの上で一度だけ欠片を転がした。

 

「名前はよく分からないが、用途は単純。狙いを定めるための的」

「的?」

「うん。いわゆる標準のようなものだ。これに向かって狙いを定めるというだけのものだ」

 

つまり、空からのレーザーはこれを狙って……?定晴が自分でそんなものを持ち歩くとは思えないから、いつの間にか誰かに持たされたということになるけれど……いつ?今日の定晴は私服じゃなくて今日渡したばかりの服を着ているので、少なくともこの会場に来てからのはず。

でも接触したのは幽々子や幽香、咲夜などの定晴のことを狙うとは思えない人たちばかり。弾幕勝負中は流石に定晴の荷物に紛れ込ますことなんてできないだろうし、一体いつの間に定晴がこれを手に入れていたのかが分からない。

 

「まあ入手経路はいいわ。それよりも月の目的よ。なぜ月が定晴のことを攻撃するの?少なくとも、月の姫は定晴と友好的な関係を作っていたのではなくて?」

 

定晴と月の間に何があったのか知らないけれど、依姫も豊姫も彼に対して悪い印象は抱いていなかったはず。だというのに……

 

「ひとまず、これは私に対する宣戦布告よ。月のやつら、誰に手を出したのか思い知らせてやる」

 

月の怪我は月でしか治せない、なら行ってやろうじゃないの。今回は月ロケットなんていらない、私が直接スキマを使って月へと扉を開いてやる。

冬眠の眠気なんて知ったこっちゃないわ。定晴を傷つけるなんて、幻想郷を傷つけることと同じくらい私の逆鱗に触れる行為だということを月には知らしめないといけないわね。

 

「藍、準備をするわ。どうせ対妖怪用の装備だってあるだろうし」

「紫様、それは……」

「当たり前じゃない。戦争よ」

 

月には後悔さえ生温い罰を与えなければいけないわね。

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