東方十能力   作:nite

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四百九十九話 月面

所変わって、ここは既に月面。紅魔館に集まった面子を、そのまままとめて転移させた。全員が全員時間通りに集まってくれるわけじゃないので、紅魔館にはスキマを開きっぱなし。

月の都の中に直接スキマを開きたかったのだけど、どうにも直通はできそうになかった。穢れを嫌うからか、都の中には能力を含めて妖力由来の技が使いづらいのよね。前は直接乗り込むのもギリギリできたんだけど、いつの間にやら繋がらなくなった。何かしら対策をしたのだろう。

 

「それじゃあ、正面から行くから陽動は任せたわよ」

「んー、別にそれはいいが、堂々と行く必要はないんじゃないの~?」

 

月面でもいつもと同じように酒を飲む萃香が、そうぼやいた。

今いる場所は、月の都の正門が正面に見える位置だ。ここから攻撃を仕掛けるとなると、月の都の兵士たちが続々と出てくるだろうし、私も入りづらくなるだろう。

とはいえ、相手は月なのだ。

 

「私がここに来てるのも既に感知してるでしょう。今更、私たち妖怪がこっそり行動できるような場所じゃないわよ」

「そういうもんかねぇ、まあ確かに、私も霧になりにくいけどさぁ」

「ほらほら、ちゃっちゃと行きなさい。奇襲する意味がなくなるわ」

 

ここには大妖怪が何人もいる。であれば、今更隠密なんてできるわけもなく、月の都では私たちに対応するために東奔西走している頃だろう。

完全に向こうが準備を整える前に攻撃をし、話し合いをしなければいけない。でなければ、対妖怪用の武装が出てきて私たちだけじゃ対処できなくなる。定晴は無効化でレーザーを消し飛ばしていたけれど、今の面子にそれができるような人はいない。

 

「よし、出撃!」

「おしっ、じゃあまずは私から行くぜえぇ!」

 

私の声と共に、勇儀が走り出した。近場に落ちていた体の五倍くらいはある岩石を軽々と持ち上げ、「せいっ!」という掛け声共に、全力で都に向かって岩石が飛んでいく。

まさか妖力も何もない遠距離攻撃が飛んでくるとは思わなかったのか、特に対処もされることなく都の正門に直撃。固く閉ざされていたはずの正門は、いとも容易く吹き飛んだ。

そして、壊れた扉の中からウサ耳を付けた兵士たちがあふれ出るように飛び出してくる。そこを、幽香のレーザーが薙ぎ払った。圧倒的熱量を持つレーザーを前に、兵士たちは面白いように吹き飛んでいく。

 

「あまり殺しちゃだめよ」

「ふん、定晴と同じくらいまでなら欠損しても大丈夫でしょ。首と体が残ってれば十分よ」

 

定晴が倒れ伏したとき、涙を流すことはなかった幽香。というか、さっさと帰ってしまった幽香。

どうやら今日のために妖力をため込んでいたらしく、今まで見たことがないくらいキレキレな動きで兵士たちを薙ぎ払っていく。貴女、そんなに早く動けたのね。

 

「ほら、さっさと行きなさい」

「ええ、お願いね」

 

私はスキマによる短距離転移を繰り返しながら、戦闘区域を切り抜ける。こうしないと、背後から飛んでくる攻撃に巻き込まれかねない。

私に気付き攻撃してくる兵士に対しては、適当にスキマの中に入っている色々を飛ばしておく。廃線の列車とかを適当にぶつけておけば防げないでしょ。

そうして兵士を吹き飛ばしつつ、私は月の都の中へと侵入した。私が月の都に入ったことは通知されているのか、どこに行けども兵士たちが追ってくるので、私はスキマに兵士たちを飲み込ませながら移動する。この戦いが終わったら出してあげるから、それまでは大人しくしてなさい。

月の都の図面に関しては前までの侵攻によってある程度把握している。一部建物が変わっているようだけど、月の都はそう簡単に変化しないので、大体は脳内にある地図通りに進むことができる。

兵士を合計で百人くらい飲み込んだ頃、月の都で最も大きな建物の前へとやってきた。この中に、月の最高権力者とかがいる。

 

「止まりなさい。何も言わずに攻撃だなんて、貴女らしくないわね」

 

その扉の前に立ちはだかる、一人の神もどき。その鋭い切っ先を私に向けながら問う。

だから、私も同じように問うのだ。

 

「それはこちらのセリフ。まさか幻想郷に攻撃を仕掛けるなんて、どういうつもりなの」

「……?何のことですか」

「ふふ、まさか知らされていないの?なら貴女には猶更用がないの」

 

依姫の体に神気が纏い始める。何の神を卸すつもりかは知らないけれど、誰であれ面倒なことになるのは間違いない。

だからこそ、私はしっかり対策をしているのだ。

 

「残念ながら、今回はそれはなしよ」

 

敢えての、肉薄。肉弾戦をしない私が、まさか突撃してくるとは思わなかったようで依姫の反応が一瞬遅れる。

だから、私は準備をしておいた一枚のお札を、依姫の体にたたきつけた。その瞬間、依姫の体がぐらつき、片膝をつく。

 

「神気との完全断絶。よく効くでしょ」

「くっ、ですが、この程度っ!」

 

大きく振るわれる剣から離れるために、私は大きく後ろに飛んだ。

依姫から神の気配は完全に消えている。即ち、月の都最強と名高い剣士は、一人の人間としての力にまでスケールダウンしたのだ。

とはいえ、それでもそこらへんの妖怪ならば片手間に排除できる実力。大妖怪であっても、場合によっては傷一つつけることもできず終わる可能性。私も、油断をしていては足を掬われる。

 

「理由が何であれ、これ以上は進めません!」

「上等よ。押し通るわ!」

 

………

 

「あらぁ、つまり、私に紫を騙せって言ってるのねぇ?」

「そうだ。いやまあ、あっちが月にいる間、ここまで紫たちが来ることなんざないと思うが」

 

冥界、白玉楼。

色々な事情により、紫から留守番を厳命された幽々子は、一人の怪我人を抱えた神を相手にしていた。

 

「幽々子様、大丈夫ですか?紫様にバレたら大変なことになるのでは……」

「ん~、もし私に彼への恋心があれば紫もキレてるでしょうけど、そうじゃないから大丈夫よ~。それに、バレなきゃ大丈夫なだけだもの」

「外の世界にはこんな言葉がある。バレなきゃ犯罪じゃない」

「それはだめなやつです!幽々子様、やめときましょうよ!」

「でもこの人の言い分も分かるじゃない。だって」

 

幽々子は、冥界からは見えない空を見上げ、その更に向こうで今戦っているはずの親友に想う。

 

「このままじゃ、本当に月がなくなっちゃうかもしれないもの」

「ぶっちゃけ、あまり選択肢はない。紫にビビッて月を消すか、多少紫に反逆してでも月を守るか」

「うぅぅぅ」

「妖夢、腹を括りなさい。ほら、最近よく彼への恩返しの方法をずっと考えてたじゃない。勿論、妖夢が身を捧げるという口実を失いたくないのであればそれでもいいのだけど……」

「そ、そんな口実考えていません!あくまで私は師と弟子という間柄をどう考慮するかを考えていただけでっ」

「ふふ、そんなのだから初心なのよ。妖夢はもう少し冷静に問答ができるようになりなさい」

 

そうして、幽々子はボロボロの怪我人を引き取る。優しく撫でると、身体を大きく抉る傷が手探りでも分かる。今は布で包まれているけれど、それを払えば見るも無残な体があるのだろう。

 

「俺は介入しないって言っちまったからな。幻想郷に残ってる面子で残りはなんとかしてくれ。方針は示したし」

「ええ、絶対になんとかするわ。それに、この子は幻想郷でも屈指の人気者よ。手伝ってくれる子はいっぱいいるわ」

「おし、じゃああとは任せたぞ。俺は……月の情勢でも観測しておくから」

 

そうして神は消え、残されたのは顔を真っ赤にしている妖夢と、ボロボロな定晴、そして優しい目で彼を見つめる幽々子。

 

「幽々子様、その、もしかして定晴さんのこと子供のように見てます?」

「あら、私からすれば妖夢も定晴も子供よ。まだまだ子供なのに、精一杯背伸びをしようとする小さな子供……ふふ、子供なんていたことはないけど、こんなにボロボロの姿を見ちゃうと、ちょっと母性のようなものを持っちゃうわね」

「はぁ、では幽々子様は定晴さんをお願いします。私は声をかけてきますので」

「いえ、私も行くわ。彼を連れて行きましょう。ここは遠すぎて、集まるのを待ってたら間に合わないかもしれないわ」

 

そうして、幽々子は優しく定晴を背負った。やはり、その目はとても優しく、まるで我が子を見つめるよう。

 

「いきましょ」

 

そうしてふわりと、二人は冥界を後にした。同時刻、月の一片が吹き飛んだ。

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