東方十能力   作:nite

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五百話 大妖怪の力

幻想郷における最強格と言えば誰だろうか。それはまあ、大妖怪であるのは前提として、さて誰の名が挙がるだろうか。

理不尽さで言えば、大抵が八雲紫の名を挙げる。戦いが始まる瞬間、スキマに飲み込まれる。大妖怪であれど、一度飲まれてしまえば脱出する術はなく、月の民だろうがなんだろうが、スキマ能力から逃れる方法はない。

力で言えばやはり鬼か。その腕力は人間が努力して手に入るようなものではなく、例え大妖怪であっても鬼との腕力勝負では勝ち目がない。その腕から振るわれる攻撃は、妖力が込められていなくても一撃で山を割るとされている。

そんな妖怪が、今、月面で戦いを繰り広げていた。それはもう、月のクレーターの数を二倍にするのだろうかと言われるほどの暴れっぷりで。

 

「そぉい!」

 

勇儀が一振り、ウサ耳ヘルメットを貫通しながら兵士たちが吹き飛んでいく。衝撃はそれでもなお止まらず、月の都の外壁の一部を吹き飛ばした。

腕力のみによって生み出される破壊力は、月の都が用意している妖怪用設備とあまりにも相性が悪い。勇儀自身から妖力を奪おうとも、その生命力により効果は薄く被害だけが広がっていく。

なんとかしようと、兵士が外壁の上からレーザー兵器を勇儀へと向けた。例え腕力があれども、質量のない攻撃を凌ぐことなどできず、倒せずともどこか遠いところに吹き飛ばすことはできるはずだと。そうしてチャージをし、いざ発射をしようとしたところで、

 

レーザー兵器が爆発し、兵士は月の都の向こう側へと吹き飛んでいく。

 

「チャージが遅いわよ」

 

幽香が上空から外壁に向かって傘を向けていた。そのまま、外壁上に並んでいる兵器たちをマスタースパークによって破壊していく。

兵士からの銃弾が幽香に向かって飛んでいくが、幽香はそれらをすべて傘だけではじき返す。そのまま傘を盾にするようにしながら移動し、さらに兵器を破壊していく。幽香としても別に皆殺しにするつもりはないので、あくまで狙うのは兵器のみだ。

だが、その狙いは月の都からすると迷惑極まりない。月の都とて、兵器の開発製造を行うのには多くのコストがかかるのだ。それらを破壊されてしまっては、再配備するのに時間がかかり兵士に被害が出る以上に面倒なことになる。

 

「あれを絶対にとめっ、んんっ!」

「だめよ。よそ見なんてしたら」

 

幽香に狙いを定めた兵士が一人、闇に沈む。

戦場の一画、そこには大きな暗闇が広がっていた。触れようとすれば飲み込まれ、近くにいても飲み込まれる。そして、その規模はゆっくりと少しずつ広がっている。

その中心にいるのは封印解除状態のルーミアだ。ただひたすらに、射程内にいる兵士たちを飲み込み続けているのだ。闇を完全に操り、兵士たちの意識を刈り取っていく。目の前で闇に飲まれた兵士たちを見て、他の兵士たちは戦意がなくなっていく。

今のルーミアは完全状態の大妖怪モード。風見幽香にも負けないほどの妖力を纏いながら、ただひたすらに月の土地を侵食していく。

ルーミアは怒っていた。自分の主を狙った月を、傷つけた月を許しはしないと。もしご主人様が死んでいたら月の都は皆殺しだった、と兵士を投げ捨てながら思う。今も、意識を奪ってるだけで四肢には何もしていないだけ慈悲深いと自分では思っている。

今のルーミアはとても敏く、また人に対する理解も深い。何をどうすれば効率よく兵士たちの戦意をなくし、無力化できるかをずっと考えていた。人を理解した大妖怪は、ただ強いだけの大妖怪よりもよっぽど驚異的で脅威的である。

 

「へぇ、おもしろいことするね」

「ただの暗闇なんだけど、意外とこれが皆は怖いのよ」

「音も遮断してるのによく言うよ。聞いたことあるよ、こういう音も光もない空間、人間はすぐに狂うって」

「だから実践してるの」

「ああこわいこわい」

 

ルーミアと緩やかに談笑するのは萃香。小人のように小さくなった萃香が、ルーミアの肩に乗りながら談笑をしていた。

その実、戦場の至るところにこの小さな萃香は現れていた。死角から突然現れ、兵士たちの武器を破壊しては散り散りに逃げていく。そして捕まえたとしても、まるで霧のように手の中から消えてしまう。まさに妖精のような存在だ。

これらはすべて萃香の能力により実現している。巨大化したり小さくなったり分裂したり霧になったり、まさになんでもありな鬼なのだ。技という点で言えば、萃香は勇儀よりもよっぽど恐ろしく技量でねじ伏せてくる。

 

「あなたって針妙丸と同じことできそうよね」

「腹の中にはいってとりゃあって?いやー、人の腹の中ってあまりいいものじゃないよ?」

「入ったことはあるのね……」

 

交わされるはただの雑談。しかし、その周囲では死屍累々の状況。

萃香がここにいるのはただ暇だったからである。他の妖怪たちは動き回り攻撃してまわるので、ほとんど動かず攻撃も闇任せなルーミアくらいしか雑談相手がいなかったのだ。

萃香は寂しいのがとても嫌いだ。例え戦いであったとしても、孤軍奮闘というよりは集団戦の方が好む。今回は紫の顔を立てて参加したけれど、怒りをぶつけるだけの戦いは鬼にとってそこまで名誉あるものではないのでやる気もあまりない。

だからこそ、こうして萃香は雑談しながら嫌がらせをしているのだ。嫌がらせは人のすることで、鬼は正々堂々と戦う……なんて、姿を霧に隠して攻撃なんて絡め手を使う萃香には響かない言葉である。

 

「でも正々堂々な勝負好きでしょ?」

「そりゃ勿論私もやれるなら正々堂々やりたいなって思うよ。でも今回は……うーん、あまりやる気が出ないかなぁ」

 

強い相手は紫がやってるみたいだし、今のところ出てくるのは兵士たちばかりで大妖怪の敵ではない。一応兵士長のような人はちらほらいるけれど、装備が少し違うだけでやはり大妖怪の敵ではない。

対妖怪用に、妖力を弱める装備をしているみたいだけど、残念ながら今回は前回までと違い大妖怪のみの少数精鋭だ。雑多な妖怪がいれば妨害にもなるだろうけど、大妖怪相手じゃ効果は薄い。

そういうわけで、火力と言う意味ではあまり大きな貢献ができない萃香は、紫の言われた通り時間稼ぎを主にしているのであった。時間稼ぎをする場合、敵を完全に無力化するのではなく助けられる状態、動ける状態にしておくと再行動するための準備をしようとするので完全に倒すよりも時間が稼げるということだ。

そんなことを勇儀とかが考えているわけないので、勇儀たちの周囲には普通に気絶したぼろぼろの兵士たちが転がっているわけだが。

 

「って、あれ、あれやばそー」

「どうしたの?」

「なんか物々しいやつが出てきたよ」

 

萃香の目は捉えた。外壁の上に現れる、無骨で巨大、どう見ても戦略級兵器な何かを。

幽香のレーザーが、他の兵器と同じようにそれを破壊しようと打ち崩す。しかし、戦略級兵器はまるで無傷で、その周辺にいる兵器の操縦士たちも全くの影響がない。なにやら特殊なバリアのようなものが展開しているようで、幽香のレーザーは何発撃っても弾かれてしまう。

 

「なら私に任せな!」

 

勇儀が地面をむんずと掴み、そのまま地面を引きはがすように持ち上げる。まるで新たな地面のような巨岩を勇儀は両手で兵器に向かって投げ飛ばす。

だが、巨岩は兵器に当たる前にバラバラに砕けてしまった。どうやら、このバリアは物理攻撃にもきちんと対処をしているようだ。

 

「あれはやばそう……ん!?」

 

戦略兵器がチャージのようなものを始めるが、皆が目を向けたのはさらに奥。月の都の中心で、大きな爆発と光の柱が立ち上る。

月の都に入った妖怪はただ一人。そして、ここにいないということは月の都の最大戦力もまたそこにいるということ。

 

「これ、結構まずいんじゃn」

 

戦場を歩き回っていた小さな萃香は、言葉を言い切る前に消し飛んだ。そして、凄まじいまでの痛覚がすべての個体にフィードバックする。

 

「いったーい!」

「ちょっと、どうしたのよ」

「あの兵器、やばい!」

 

萃香であれど目視できなかった速度で、戦略兵器のレーザーは放たれていた。

誰にも気づかれぬままに、そのレーザーは月の地表を焼き、その射線上にいた小さな萃香は全員防御もできずに消滅したのだ。

もし分裂しておらず本体があれを喰らえば……萃香の背筋が凍る。あれはだめだ、あれは妖怪を殺す兵器だ。

 

「絶対に当たらないで!」

 

萃香の大きな声が響く。だが、兵器を破壊することもできず、戦略兵器は第二射のためのチャージを開始する。

月面は、少しずつ混沌となる。

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