東方十能力   作:nite

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予約投稿失敗した場合、気づいたときに投稿しているから、私が日頃いつ執筆しているかバレるな……


五百三話 力を

「定晴さん、大丈夫なんでしょうか」

「完全に衰弱しきる前に終わらせないといけないわ。急いで博麗神社に向かいましょ」

 

守矢神社での吐血から、少し息が荒くなってきた定晴を背負って、二人は博麗神社を目指していた。血液はしっかりふき取ったが、その弱弱しい姿はなんとも痛ましい。

早苗はついて来ようとしていたが、神社を血みどろのままにしておくわけにもいかず、ひとまず掃除をしてから来ることになっている。だが、このままのペースであれば早苗が合流する前にすべてが終わっているだろう。

 

「……月、大丈夫でしょうか」

「表側からは分からないものね。月がなくなれば幻想郷にも影響が出るでしょうから、まだ大丈夫でしょうけど」

 

幻想郷には月が関連している物事も多く存在している。月に異変が発生すれば永遠亭の面々が反応するだろうし、それに伴って方々が騒ぎ出すはず。まだそうなっていないということは、まだ月は健在ということだ。

 

「でも、定晴さんを起こすことができたとして、どうやって紫さんたちを?」

「そりゃ割って入れば止まるでしょう。少なくとも、紫は目の前に定晴が現れればすぐに止まってくれるはずだわ」

 

流石の紫も月を破壊することなんてない、そんなことを考えるのを幽々子はやめた。

弱弱しく項垂れる定晴の姿を見て、幽々子ですら焦りを覚えたのだ。紫であれば、冷静さを失うことも想像にたやすい。それに……

 

「月じゃ治せないなんて、先にミキが教えてあげればよかったのに」

「あの人も悪いですよ。紫さんに説明してあげないんですから」

 

幽々子たちは、ミキからある話を聞いているのだ。即ち、月には件のレーザーの治癒法が用意されていない。

月の装備だというのに対抗策を用意していないなんて、と妖夢は思ったが、それだけ必殺の兵器でもあるのだろうとも考える。対抗策がこの世に存在しない兵器であれば、確かに必殺となるだろうと。

そもそも、定晴があのレーザーに耐えることができているのも奇跡に近いものだとミキは言っていた。先日の定晴に起こった異変がなければあのレーザーで死んでいただろうと。

 

「幽々子様、あの人はどこまで知っているでしょう」

「さあね。私も、神様の頭の中は分からないもの。でも、暴走状態の紫が月に治療法がないと知った時にどうなるかは納得できるわ」

 

加減を知らない紫は、月の都そのものに対しての攻撃をするかもしれない。憂さ晴らしなのか、敵討ちなのかは分からないけど、それくらいのことをしでかすと幽々子には確信があった。

昔から紫は愛するものに対してまっすぐで激情なのだ。かつて博麗神社が地震により破壊されたとき、主犯格の天人に対して珍しく殺意を迸らせたほどに。幻想郷の存続のためならば、次代の巫女を神隠しするほどに。

 

「今の紫の優先事項は幻想郷、次に定晴さんよ。幻想郷にも定晴さんにも影響が出ないことであれば、多少やりすぎてしまう可能性があるわ」

 

もし定晴と幻想郷のどちらかを選べと紫に迫ったら、きっと泣きながら幻想郷を選ぶでしょうと、幽々子の中で紫の優先順位を確定させていく。そんな中、月は何番目に入るだろうと考えると、どうしても雑多なものの中に入ってしまうのだ。

壊してしまっても問題ない存在、完全に消滅するとどうなるかは分からないけど、原型さえ留めていれば破壊してしまっても問題ないだろう物質。

 

「月の姫様が頑張っている間に私たちが定晴を起こす必要があるわ」

「紫さんも怒るでしょうね。まさか紫さんの対策への対策を先にミキさんが準備していたなんて」

「今回の紫は本気だった。そのまま衝突していたら確実に依姫さんが負けていたでしょうから仕方ないの。介入はしないけど、根回しはするなんて奔放な神よね」

 

今も紫が決着をつけていない理由、それはミキが先に依姫のことを助力するためのアイテムを渡していることに起因する。とはいえ、ミキが直接依姫に渡したわけではなく、あくまでこっそりと自然に依姫が手に入れるようにしたのだが……なんにせよ、しっかり対策していた紫がこのことを知ればミキのことを殺しに来るだろう。

 

「でも、ミキさんはそれで策は終わりって言ってたわねぇ、だからあとは私たちにかかってるってわけよ」

「最悪の場合月どころか……うぅ」

「あらあら、重く考えすぎないの。少なくとも、月がなくなる前に動くって言ってたでしょ?」

「でもあの人が動くってことは……」

「それはそれ、これはこれよ。私たちが成功しちゃえばいいんだから」

 

そうして二人は博麗神社へと辿り着く。境内には雪がたくさん積もったままで、流石の霊夢もこの積雪では掃除を諦め部屋の中でお茶を飲んでいた。

そんな霊夢と一緒にぼーっと外を眺めるこいし、そして雪の中をはしゃぎまわるあうん。今日の博麗神社にはこの三人しか来ていないらしい。

 

「あら?妖夢はともかく、亡霊までここに来るなんて珍しいわね。今日は宴会なんてないわよ」

「そんなこと分かってるわ。用事があるのはこっち」

 

そうして幽々子は背負っていた定晴を部屋の中に下ろす。ぼろぼろの、そして紫によってスキマに保護されているはずの定晴の姿を見て霊夢の視線が変わった。

 

「なんであんたが彼を連れてるの?紫はどうしたのよ」

「それは、まあ色々あったのよ」

「紫の怒りを知らないわけ?彼を連れ出すなんて、相手が誰であれ死ぬわよ」

 

月まで乗り込んじゃうくらいなんだから、と遠い空の向こうにいる紫を見るように霊夢は空を見上げた。

 

「……定晴、なんだか悪くなってる」

「それは私たちが今から頼むことと関係してるんだけど……」

 

定晴の容態を見て泣きそうになりながら呟くこいし。事件が起きて昨日の今日で、こいしの悲しみはまだ癒えてはいなかった。

そんな彼女たちに向けて幽々子が話す内容に、駆け回っていたあうんも足を止めて部屋の中へと戻ってくる。そうして一通り説明が終わったあと、霊夢が訝しみながら言った。

 

「ふーん、でも分からないわね。私たちの力を流して、こんなふうに血を吐くなら、そいつが言ってることは嘘なんじゃないの?これを機に消そうとしてるとか」

「そんなことないわ。これでも、人の嘘は結構見抜ける自信があるもの」

 

それに、幽々子の印象では、ミキは自由奔放ながら人のことを何かと助けようとするお人好しな面がある。それに、最近の夢関連の事件でもかかわっていたみたいだし、わざわざここで幽々子たちを騙す理由がない。

それに、曲がりなりにも紫が信用している相手。幽々子も信用しなくてはなるまい。

 

「それは妖力でもいいの?」

「ええ、問題ないはずよ。中身がなんであれ、幻想郷の力ならなんでもいいって彼は言ってたわ」

 

そうしてこいしは定晴に力を流し始めた。やはり血が流れるが、こいしは泣きながら流すのはやめなかった。これで助かるというのであれば、この悲しみは乗り越えなければいけないと。

そんなこいしの姿を見ながら、霊夢は呟く。

 

「幻想郷の力、ね」

 

その声を聞いたのは、隣で座っていたあうんだけであった。

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