東方十能力   作:nite

508 / 508
五百四話 敗北条件

「がっ」

「はぁ、本気の本気だったようですね。でも、この中には通しません」

 

地面に倒れるは幻想郷の賢者。対峙するは、衣服をボロボロにし、頭から血を流しつつもしっかりと両足で立つ月の姫。

最初は確かに神卸しの妨害はできていた。だが、それは紫の期待していた完全封印ではなく、神卸に時間がかかる程度の妨害だった。結果として、依姫は神卸しを完了させ、紫は万事休すとなったわけだ。

神卸が完了するまでの間に紫はスキマの中に依姫を封印するはずだった。例え遅延でしかなかったとしても、神卸が完了する前に決着がつく戦いのはずだった。

だが、どうしてスキマに入らない。まるで逃げるように風が流れるかのように、依姫はスキマを回避し続けた。

 

「はぁ、はぁ……こんなところで、終わるわけにはっ!」

「誰であれ、怒りっていうのは長くは持たないものです。アンガーマネジメントを知りませんか?」

「この怒り、例え千年経とうと忘れるものですかっ!」

 

妖怪は人間の寿命の何倍もの長さを生きる。その中で、ただ一人の人間と触れ合う時間など、全体からすれば些細な時間でしかない。

それでも、その想いがなくなることはない。それが愛であれ、憎悪であれ、怒りであれ。

 

「でも、あなたが言ってることについては気になりますね。月からのレーザーなんて、私は与り知らないのですが」

「ふんっ、自分の国のことなのに何も知らないのね」

 

依姫もまた、この戦いには巻き込まれた側だ。突如として妖怪が現れ襲撃してきたから、正当な理由で防衛を行っただけ。

相手の言うことに対して思うところはあれど、攻撃をしてきたのだから正当防衛を行うのは正しい行動である。殺さなければ、戦いのあとでも話を聞くことはできる。話を聞くなら、勝ったあとでも問題ない。

 

「……定晴さんが狙われたって本当ですか?」

「本当よ!それに、それが月のものっていうのは分かってるの。あなたたちのものは、独特な気配がするから」

 

それは地球にはないものだからか、月の言う穢れが含まれないものだからか。月で作られたものや月人は、分かる人には分かる気配を纏っている。

だからこそ、紅魔館で攻撃をされたとき、月のものであると紫や永琳はすぐに結論づけたのだ。散々月のものを見てきた二人だから、どこから攻撃されたのかすぐに判明したのである。

 

「……逃げたいなら逃げなさい、別に追いませんし」

「っ」

「これ以上何かするというのであれば、私も仕事に準じてあなたを捕縛します。妖力を完全に封じる檻であれば、さしものあなたでも逃げられないでしょう」

 

紫の結界を操る能力は規格外であり、物理的に紫を確保するなど不可能に近い。

それでも彼女が妖怪である限り、妖力という縛りの中にあるのは避けられない。今までも何度も妖怪と対峙し関わってきた月であれば、妖力を完全に封印する空間を作ることも可能なのであった。

 

「でもっ、でもっ!」

「その強い執着、実に妖怪らしいですね。そこまで抵抗するのであれば、私はあなたを拘束し……」

 

と、言葉は続かなかった。

依姫は咄嗟に剣を構え、神を卸そうとする。しかし、紫の妨害は未だに続いており、いつものようにはいかない。紫もまたスキマを開こうとして、妖力が限界を迎えていたのかスキマは十全には開かなかった。月の都の中という環境もまた、紫から能力を使う自由を与えなかったと言えるだろう。

結果として、二人はどちらも百パーセント対応することはできなかった。彼女たちのような存在であれば、それでも大抵のことであれば対処することができるはずであった。

だが、それは無慈悲にも、準備不足を吹き飛ばす。

 

「がっ」

「あぐっ」

 

閃光。そう呼ぶしかないような光が、二人の体を貫いた。

それは月の兵器の光であった。しかしそれは、紫のみならず依姫にも牙を剥き、両者の体を大きく吹き飛ばす。

 

「な、なにが」

 

紫よりも負っていた傷が少なかった依姫が、その頭を動かして周囲の状況を確認する。視界の向こう側に紫が倒れているのが見えるが、今は彼女のことを気遣っている余裕はない。

確認すべきは光の発生源。それはまるで二人の真上から降り注いだようにも見え、紫のことを攻撃する意図をもっていたのであればだいぶ遅きにあれど、意味はある。だが、その光は依姫をも攻撃したのだ。第二射を警戒せずにはいられない。

 

「は」

 

その頭上には、今なお依姫たちに標準を向けたまま浮いているレーザー砲の姿があった。何かに特攻のあるわけでもなく、ただ単純な火力をぶつけるだけのレーザー砲。

それは、攻撃範囲が広すぎるが故に、ほとんど日の目を浴びることのないはずのものであった。都の中で使うなどもってのほかである。それではまるで、自国内で核兵器を使用するがごとし。

 

「なぜっ」

 

確かに、()()()()()()()()()()()()()()()問題ないのかもしれない。だが、それにしたって……

 

「まずいっ」

 

兵器に光が収束し、第二射が発射される。依姫は回避することも能わず、ただ攻撃を耐えることしかできない。視界の先にいた紫のことなど、気にしている余裕はなかった。

数秒の間続くレーザー放射は、依姫の体を貫き、そのまま地面を抉る。いや、地面だけでなく周囲の建物や、依姫が守らんとした中央施設すらも砕いて崩壊させていく。

先ほど受けた攻撃は、あくまで試射でしかなく、本来の威力のニ十パーセント程度しかなかったのだろう。そうとしか思えないほど、先ほどの攻撃とは圧倒的に火力に違いがあった。

 

「あっ……がっ……」

 

依姫の意識が消える感覚がする。それは、体力が底を尽いたからか、それとも体自体が消えているのかも判断つかない。

熱いとも寒いとも思えぬ光の攻撃の圧力の中で、依姫の意識は闇の中へと落ちて行った。

 

………

 

その光は圧倒的であった。

 

宇宙から観測していれば、その光は月の都を丸々吹き飛ばしたようにも見えるだろう。トラック数台分の大きさしかない兵器の光が、それよりも何十倍も大きな都の八割を吹き飛ばしたのだ。

 

そして光が過ぎ去ったあと、そこには新たなクレーターが生まれていた。後世の名を、旧月の都跡クレーター。

 

一つの兵器が、一つの国とも言える都市を消し去った、大きな事件の顛末である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

幻想世界に誘われて【完結】(作者:鷹崎亜魅夜)(原作:東方Project)

 ある外界の高校生の少年は自分の世界について疑問を抱いていた。──何故かある時間を繰り返している。少年はその原因を探っていたが、断片的な事は思い出したがはっきりとはしない。そして、時間が繰り返される瞬間に奇妙な空間に落とされて……。▼※本編完結。現在、設定やら番外編などを投稿中。


総合評価:2724/評価:6.89/完結:267話/更新日時:2016年03月31日(木) 20:00 小説情報

東方人形誌(作者:サイドカー)(原作:東方Project)

ノリと勢いと思いつきによる、突発的な行動が多い大学生の青年は、留学する前夜に、国境ではなく別の何かの境界を越えてしまう。その先にあった「幻想郷」という場所で、彼は金髪碧眼の美少女、アリス・マーガトロイドと出会う。これは、気分屋で女好きで一途な人間と、純情でちょっとツンデレで一途な人形遣いが送る、そんなオハナシ。


総合評価:2704/評価:8.27/完結:90話/更新日時:2022年10月09日(日) 19:00 小説情報

華月麟の幻想記(作者:華月麟)(原作:東方Project)

現世での虐待に嫌気がさした少年▼自ら命を絶つが、目覚めるとそこは幻想郷と呼ばれる場所へ幻想入り…?▼波乱万丈な幻想郷生活!▼異変を通して成長する主人公!▼※ただの自己満足作品でございます▼※注意▼この物語には注意する点がいくつか▼・色んな作品から持ってこられたセリフや技▼・ネタの渋滞▼・突然のハーレム要素▼・物語が進むにつれ、なんでもありになる主人公▼・姿が…


総合評価:477/評価:6.17/完結:1036話/更新日時:2026年01月25日(日) 10:26 小説情報

華月麟の幻想記・Ⅱ(作者:華月麟)(原作:東方Project)

ビッグニューーーーース!!!▼あの〖華月麟の幻想記〗が、特にパワーアップもせずに(!?)帰って来たよ!▼日白残無との決着をつけ、平和な幻想郷を取り戻した華月麟達のその後を描く新たなストーリー。▼新たな出会いに新たな異変が彼らや幻想郷を巻き込む!▼もちろん前作に引き続き、激甘ハーレムも見る事が出来るぞ!▼※注意点▼・ネタの渋滞▼・突然の圧倒的ハーレム要素▼・な…


総合評価:52/評価:-.--/連載:122話/更新日時:2026年07月06日(月) 10:06 小説情報

受け入れ先は幻想郷(作者:無意識倶楽部)(原作:東方Project)

「幻想郷は全てを受け入れます」▼「じゃあ行こう!すぐ行こう!」(即決)▼遥か昔に作成した僅かなシリアスと適度なシリアルを極力詰め込んだ物語です。▼多大に修正し加筆しましたが誤字や文脈の手直しですので本文の内容は変動致しません。安心してお読み下さい。▼心の吐露↓▼http://twitter.com/@eduard_5_14▼


総合評価:181/評価:8/連載:53話/更新日時:2026年07月03日(金) 21:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>